『詩的私的ジャック』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。
ネタバレあります、注意!!<あらすじ>
那古野市内の大学施設で女子大生が立て続けに殺害された。犯行現場はすべて密室。そのうえ、被害者の肌には意味不明の傷痕が残されていた。捜査線上に上がったのはN大学工学部助教授、犀川創平が担任する学生だった。彼の作る曲の歌詞と事件が奇妙に類似していたのだ。
(公式HPより)
<感想>
「S&Mシリーズ」第4弾。
本作はまさに「S&Mシリーズ」版『ABC殺人事件』。
連続する凶行に潜む意味とは……この謎に犀川、萌絵が挑む。
ある種、事の発端は「文系」と「理系」の対立とでも言うべきものですね。
此の点が何とも印象的。
そして、そのトリックもさることながら、何より驚嘆すべきはその動機。
あれは俗に言う「何もかもリセットしたかった……」って奴ですね。
1つのミスすら許さない完璧主義。
これは研究者の純粋にも通じ、この意味では『冷たい密室と博士たち』にも共通するか。
・
『冷たい密室と博士たち』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)ちなみに「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
犀川創平:国立N大学建築学部の助教授。
西之園萌絵:犀川の恩師の娘にして犀川の教え子。犀川に好意を抱いている。
結城稔:犀川の生徒、歌手。
結城寛:稔の兄。研究者。
杉東千佳:寛の妻。研究者。
前川聡美:第1の被害者
相田素子:第2の被害者
篠崎敏治:稔の友人。
大学生・前川聡美が全裸で殺害された。
現場は密室、遺体には謎の傷が残されていたが……。
続いて、相田素子が全裸で殺害される。
これまた現場は密室、遺体には謎の傷が残されていた。
同様の手口が用いられていたことから、連続殺人と判断されたこの事件。
容疑者とされたのは犀川が指導していた結城稔であった。
稔は歌手、その歌詞が犯行内容とリンクしていたのだ。
こうして、捜査本部は稔に監視をつけることとなったのだが……。
稔には兄が居た。
その名は結城寛、彼は大学院で助手になろうとしていた。
そして、寛の妻・杉東千佳もまた研究者であった。
尾行されていた稔は、何故か兄嫁・千佳の研究室を訪れる。
と、少しして部屋から慌てた様子で飛び出して来た。
良く見れば、それは稔では無い。
稔と同じ服装の寛であった。
寛によれば中で千佳が殺害されていると言う。
慌てて駆け付けた捜査本部の刑事が目にしたものは寛の語った通り、これまでと同じく全裸で殺害された千佳であった。
寛によれば監視されていることを知った稔から身代わりを依頼されたのだと言う。
すなわち、寛の言に従えば監視していたのは寛だったことになるが……。
さらに、今回もこれまで同様に謎の傷が残されていたことから、犯人は姿を消した稔かと思われた。
ところが、当の稔までもが全裸の遺体で発見されることに。
しかも、謎の傷の正体が判明。
それは数字であった。
聡美が1、素子が2、稔が3、千佳が4である。
犯人が手柄を誇るように殺害順を示したものと思われた。
稔は既に殺害されており、犯人ではなくなる。
同時に、寛に鉄壁のアリバイが成立。
聡美殺害時は授業に出席、千佳殺害時には捜査本部の担当刑事から稔として監視されていことになるからである。
さらに、千佳殺害の現場からコンクリート試験体が盗み出されていたことも判明し……。
犀川はコンクリート試験体が盗み出されていたことを聞くや犯人を察する。
一方、萌絵はその殺害当日に学内フリマにて千佳とヒールを巡り揉めていた。
そのことに後悔する萌絵は必死に消えたコンクリート試験体の行方を追うことに。
ふと現場近くの駐車場を眺めた萌絵。
何やら車止めの数が多いようだが……まさか、コンクリート試験体が紛れ込んでる!?
この大発見に喜ぶ萌絵は迂闊にも犯人の接近に気付かず昏倒させられてしまう。
数時間後、目覚めた萌絵の前には寛が居た。
そう、犯人は寛だったのだ。
鉄壁のアリバイがある筈なのだが……。
寛はコンクリート試験体の中身を巡り、萌絵殺害を目論む。
しかし、犀川たちが駆け付け萌絵を救い出すのであった。
後日、犀川は寛のトリックについて明かした。
犀川によれば、寛の計画はほぼ完璧なものであったが3つだけ誤算が生じたらしい。
まずは前川聡美殺害。
この犯人は寛では無く、千佳であった。
だからこそ、寛に鉄壁のアリバイが生じたのだ。
帰宅後に千佳からこの事実を聞かされた寛は自身の進退に関わることに気付き偽装工作を行う。
それが例の密室と第一の被害者を示す「1」の数字。
さらに、此の時点で稔と千佳殺害までの計画を立てた。
寛は連続殺人を印象付けることで自身のアリバイを補強することを狙ったのだ。
機を窺うことにした寛。
直後、寛に第一の誤算が発生する。
相田素子が聡美殺害の件で脅迫して来たのだ。
寛は素子を計画に組み入れることにし、これを殺害した。
この際、密室を作り第二の被害者を示す「2」との数字を残した。
さて、いよいよ本命の犯行だ。
この日、寛は千佳を研究室に訪ね殺害した。
この際に「4」の数字を残した。
だが、千佳は第3の被害者である。
ところが、此処で第2の誤算が発生する。
その日に限って千佳はヒールを履いていたのだ。
大学のフリマで購入したものであった。
これは寛にとって思いも寄らないアクシデントであった。
ある事情により、ヒールを隠さなければならなくなった寛はコンクリート試験体に隠すことに。
隠した試験体は目の前の駐車場に車止めに偽装して転がして置く。
並行して、実際は密室作成に用いていないラジコンヘリも隠滅した。
その上で、稔に連絡を取り入替りを提案し了承を受ける。
尾行を連れてやって来た稔を隙を突き殺害すると、この衣服を奪い自分が着用した。
自分が着ていた服はぼろきれに偽装し現場に紛れ込ませた。
稔の遺体には「3」の数字を刻み、千佳との犯行順序が逆であるかのように偽装した。
その上で、あたかも初めて稔と千佳の遺体を発見したかのように騒いで見せたのだ。
稔到着から5分程度、さらに自身が稔の替え玉として尾行を引きつけていたとなればアリバイが成立する。
だが、実際は現場から離れられない。
だからこそ、ヒールの隠滅がハードルになったのである。
何故、ヒールを隠滅する必要があったのか。
何故なら、これまでの連続殺人の被害者は全裸だったからである。
千佳は普段、男物の靴を履いていた。
男物の靴ならば研究室内に紛れ込ますことも出来る。
しかし、ヒールはそうはいかない。
かといって、ヒールだけを残すのも不審を招くだろう。
苦肉の策として選んだのがコンクリート試験体の中に隠すことだったのである。
そして、これを回収するよりも早く萌絵に気付かれたのが最大の誤算であった。
さて、寛の動機はと言えば……これは犀川には興味も無い。
後日、稔の友人・篠崎敏治により明らかになった。
篠崎は寛を同性ながら一方的に愛しており、それ故に稔の友人になっていたのだ。
篠崎は愛する寛が助手となる為の資金に困っていることを知るとこれを救うべく金を用意し千佳に渡した。
ところが、千佳はこの出処を稔からだと思い込んだ。
千佳は稔を軽蔑しており、稔もまた千佳を苦手としていた。
だが、千佳は夫である寛の為に渋々、稔に頭を下げた。
これに嗜虐心を刺激された稔は彼女に衣服を交換するように迫る。
実は稔は聡美や素子との間でも同様の行動をゲームとして行っており、鼻持ちならない義姉への意趣返しのつもりだったらしい。
千佳はこれも一時の恥と応じた。
そして、その姿を目にし気を良くした稔から酒を勧められ飲んでしまった。
落ち着くまで稔の部屋で過ごした千佳。
その場には、篠崎や聡美たちも居たが何も無かったと言う。
その後、聡美たちと共に千佳は帰宅。
だが、普段から稔とソリの合わない千佳が、その仲間の聡美たちとも合う筈がない。
結果、喧嘩となり2人きりになったところでこれを殺害してしまったのだ。
寛に千佳はすべてを打ち明けた。
このとき、寛は何を思ったか―――篠崎には容易に想像がつくと言う。
寛は過ちを許さない男であった。
途中でミスを知れば一からやり直すタイプなのだそうだ。
寛は稔と千佳の不義を疑うと共に、汚点となる彼らを抹消することに決めたのである。
そして、それを成し遂げてしまったのだった―――エンド。
◆関連過去記事
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『すべてがFになる』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)・シリーズ第2弾。
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『有限と微小のパン』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)・
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