2014年10月11日

「実は私は」第83話「誤解を解こう!!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第83話「誤解を解こう!!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

登場人物一覧は本記事下部に移動しました。

<あらすじ>

〜〜〜これまでのあらすじ〜〜〜〜

「アナザル」こと「絶対に秘密を守れない男」黒峰朝陽は憧れのヒロイン・白神葉子の秘密を知ってしまった。
その秘密とは「白神葉子がハーフの吸血鬼である」こと。
朝陽は葉子の為に、この秘密を守らねばならない―――。
取り巻く人々を相手に、朝陽は秘密を守り抜くことが出来るのか?

矢先、実は宇宙人であった委員長・渚、狼男で肉食系女子な獅穂、悪魔っ娘の茜、未来人の凛、幼馴染のみかん、天使の華恋も加わって……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

葉子が沈み込んで居た。
そんな葉子を必死に励まそうとする獅穂。
しかし、それはどうにも効果が出ていなかった。

葉子が沈み込んだ原因。
それは学校でのある噂であった。
なんと「朝陽と渚が交際しているらしい」のだ。
どうやら、修学旅行中のキス騒動(81話「止めよう!」参照)が噂の発端のようだが……。

「実は私は」第81話「止めよう!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

もちろん、我々読者はそれが全くのデマカセに過ぎないことを知っている。
それは朝陽の性格を知る獅穂も同じ。
だが……葉子は違う。
葉子は朝陽と渚が両想いだと未だに思い込んでいるのだ。

なんとか立ち直らせようとする獅穂。
と、その耳にさらなる朝陽の噂が飛び込んで来る。

曰く「いやいや、俺が聞いたところだと幼馴染の朱美みかんと付き合っているらしい」
曰く「ええええっ、そうなの?俺は獅穂さんと交際してるって聞いた」
曰く「ああ、それ俺も聞いた。だけど、本当はほら、あの剣を持った後輩(凛のことだ)とも付き合ってるらしいぜ」
曰く「どうやら全員と交際してて、しかも貢がせてるらしいぜ」

「「「「何だよ、ソレ!?あいつ、大人しそうな顔してとんでもないことしてんのな!!」」」」

噂は尾鰭と背鰭どころか、羽まで生やして拡大していた……。
これを聞く葉子はどんどんと沈み込んで行く。
慌てる獅穂だが、どうしようもない。

一方、この状況下に苛立ちを隠せない人物が居た。
誰あろう、当の朝陽である。
朝陽はこの事態に至った責任者に詰め寄る。

責任者の名は―――嶋と岡だ。
噂により渚が傷付くことを怖れた朝陽は岡と嶋に噂を消してくれるように依頼した。
しかし、頼んだ相手が悪かった。

2人はよりセンセーショナルな噂で上書きすることを画策。
それが他の相手の名前を挙げること。
ただし、朝陽への嫉妬交りでの工作だった為に思った以上の効果を現したのである。

だが、嶋と岡に「してやったり」との会心の笑みは浮かばない。
それは朝陽も同様である。
何故なら、彼ら3人はその噂により命の危機に曝されていたのだ。

良識派の筆頭である桜がこれを聞き付け「そんな奴だったなんて……粛清するしか」とばかりに、鬼の形相を浮かべ彼らを追っているのだ。
その迫力はもはや明里に匹敵していた。
「あいつ凄ぇな」感想を洩らす岡にもいつもの余裕はない。
朝陽たちは敵に回すべきではない相手を敵に回してしまったのである。

息を潜めて桜をやり過ごす朝陽。
しかし、何時までも手をこまねいているワケにはいかない。
十中八九、葉子は誤解しているに違いないのだ。
その誤解を一刻も早く解かねばならない。
故に、朝陽は焦りを募らせていた。

頼んだからとは言え、元はと言えばこいつらの所為だ……。
深く深く、嶋と岡に依頼した過去の自分の浅慮を反省する朝陽。
それがつい口をついて出た。

「此処に嶋が居ますよ〜〜〜(大音量&桜に対し笑顔で手を振る)」

とはいえ、桜の粛清対象には朝陽までもが含まれている可能性がある。
慌てて逃げ出す朝陽、チクられたと知り共に逃げ出す嶋と岡。
たちまち、鬼の形相を浮かべた桜が身を翻して追って来る。

なんだ、なんだと騒ぎを聞き付け集まる周囲の視線。
その中にみかんも居た。

何時の間にやら並走しているみかん。
「お困りみたいね、助けてあげようか?」
この囁きに朝陽は乗った。

ふと見れば嶋と岡が消えていた。
そして、背後で上がる2人分の悲鳴。
何が起こったかは想像に難くない。
どうやら、みかんが2人を桜に差し出したようだ。

さらに、みかんは「衝撃、黒峰朝陽の本命は朱美みかんだった!!」との号外を配り出す。
どうやら、みかんもまたこの機に乗じて既成事実を狙っているようだ。
「それだと嶋たちと変わらないだろ?」と追及する朝陽。
しかし、みかんはしれっと「いや、違うわよ。何しろ本人の同意を得ているもの」と胸を張る。

こうして、騒動はさらに拡大。
其処へ騒ぎを聞きつけた獅穂も乱入する。
「私こそが黒峰君の……」
当然、こうなれば凛も乱入だ。

朝陽に加え、みかん、獅穂、凛の登場に「やはり、噂は……」とどよめく生徒たち。
さらに止めが刺されることに。

「これ今月分です」
なんと、面白がった茜が札束を手に参戦して来たのだ。

「ああ、やっぱり」
これを目にした周囲は朝陽の人格に疑問符をつけることを確定してしまう。
しかも「まさか、嘘だと思ってたのに……」粛清を終えた桜も駆け付け、一波乱を迎えることに。

万事休す―――頭を抱える朝陽の目の前に煙の壁が立ち込める。
煙に隠れて手を引かれた朝陽はその場を脱出することに。

茜は「思ったより早く奴が来たか……」と何やら呟くのだが……。

朝陽が連れ出された先は校舎裏。
相手は……渚であった。
どうやら、渚はこの噂の原因と推移を正確に把握しており朝陽を助けようとしたらしい。

迷惑をかけたことを朝陽に謝罪する渚。
朝陽同様に葉子の性格を良く知る渚は「早く誤解を解かねば大変なことになる」と指摘するが……。

其処に葉子がやって来てしまった。
当然、葉子は朝陽と渚2人きりの状況を重ねて誤解してしまう。
何と言うタイミングの悪さ……慌てた朝陽は真相を伝えようとするが。

「2人ともおめでとう。幸せにね」
葉子は聞く耳を持たず、笑顔で一方的に告げると去ってしまう。

ショックのあまり腰砕けになる朝陽と、これを支える渚。
その様子にさらに誤解を深める葉子。

走り去る葉子は目に涙を浮かべつつ「自分の所為だ」と繰り返す。
渚の告白を応援した葉子―――とはいえ、内心では「2人が上手く行かないように」と考えていたらしい。
葉子は「その罰が当たったんだ」と激しく泣き出す―――84話に続く。

充実の「実は私は」が読めるのは「週刊少年チャンピオン」だけ。
本誌で確認せよ!!

<感想>

「週刊少年チャンピオン」にて「さくらDISCORD」を連載されていた増田英二先生の新作。
「さくらDISCORD」は未読の管理人ですが、1話を読んで注目している作品です。
コミックス1巻に続き2巻、3巻、4巻、5巻、6巻、7巻も重版出来とのことで、目出度い。
さらに、8巻も発売。
そして、本作かなり面白い!!

その83話。

一歩進んだかと思えば二歩下がる葉子と朝陽の仲。
2人の間で確たる信頼関係が育まれつつあったと思っていただけに、今回の早合点は辛いなぁ……。
おそらく、葉子にとって朝陽が大切な人である故に起こった擦れ違いなんだと思うんだけど。

さらに、葉子が冒頭の噂としてすら取り沙汰されない影の薄いヒロインであることも再確認。
これには……涙を禁じ得ない。

果たして、此処からどう朝陽は誤解を解くのか!?
これは本人ではどうにもならないだろうから、周囲の面々の力を借りずにはいられないだろうなぁ。
特に渚にとっては辛いことだが、渚本人から真実を伝えることは重要になるだろう。

それにしても、葉子の場合は渚やみかんと違って朝陽から距離を取ろうとすることで、逆に朝陽の心を引き寄せてるんだよなぁ。
これこそ、恋の駆け引きなのだろうか。

でもって、茜の台詞も気になるね。
あれは渚を指しているのか、それとも別の誰かを指しているのか?
あのときの茜は割とシリアス顔だったから遊びを中断されたことに対してでも無さそうだから、渚を指してなのかが不明なんだよなぁ。

そして、みかん、獅穂、茜の大ゴマ3連発には笑いを禁じ得なかった。
あれと冒頭の噂のくだりが今回のツボでしたね。

ちなみに、これをいつも通りに「恋愛三国志」に当て嵌めると……(いや、そもそも当て嵌める必要が無いとのツッコミは禁止で)。

まずは前提から。

朝陽の心という「天の時」を得た「魏」の葉子。
幼馴染ポジションという「地の利」を得た「呉」のみかん。
茜の協力をスイーツで取り付け「人の和」を得た「蜀」の渚。

この「三国志」となっています。

奇しくも修学旅行が「赤壁大戦」となったか。
「呉」のみかんと同盟した「蜀」の渚が覇権(朝陽)に向けて一大アプローチを敢行。
これにより「魏」の葉子が半ば自滅の形で撤退を強いられた状況。
「赤壁大戦」での「魏」の敗因は「火攻め」以外にも「風土病による撤退」説も根強いとのことですが、葉子の場合もソレか。

魏が慣れない南方での戦闘に風土病を患ったように。
葉子もまた慣れない恋のフィールドで疑心暗鬼の病を患ったのでしょう。

そして「赤壁大戦」の後は「荊州争奪戦」が控えている筈。
となると、まずは「蜀」こと渚の大躍進になるのか……。
まさか傷心の朝陽を励ますうちに的な展開だったりする?
さぁ、これからどう動くのか。

うむ、今回も充実した回ですな。
多くは語るまい、とりあえず読め!!

そう言えば、上でもお伝えした通りコミックス8巻が発売。
表紙は1巻の葉子、2巻の渚、3巻の獅穂、4巻の茜、5巻のフクちゃんとみかん、6巻の凛、7巻の明里さんに続き、銀華恋。
うむ、此処までは予想通り。
こうなると9巻は、9巻は……誰だ!?

ちなみに、上記のあらすじは本作の魅力を伝えられるよう改変を加えてまとめていますが、その面白さを伝えきれていません。
やっぱり、あの絵とコマ割りなどのテンポあっての本作。
是非、「週刊少年チャンピオン」本誌を読んで欲しい。

もう1度繰り返しましょう。
本作に興味を持たれた方には、是非、「週刊少年チャンピオン」本誌を捜して読んで欲しい。
最近の「週刊少年チャンピオン」は本作など本当に粒揃いでクオリティが高い作品が多い。
注目の雑誌の1つと言えるでしょう。

◆関連過去記事
「実は私は」第1話から第80話まで(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)まとめ

「実は私は」第81話「止めよう!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第82話「白状させよう!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

登場人物一覧:
黒峰朝陽:主人公、通称「アナザル」。
白神葉子:朝陽の意中の人物。ある秘密が……。
紫々戸獅狼:葉子の幼馴染。彼もまたある秘密を……。
紫々戸獅穂:葉子の幼馴染。彼女もまたある秘密を……。

藍澤渚:クラス委員長。彼女にも秘密が……。
藍澤涼:渚の兄、意外な形で登場することに……。
紅本茜:紅本の親族らしい。彼女にも秘密が……。
紅本明里:教師。彼女にも秘密が……。
黄龍院凛:33話より登場した謎の少女。彼女にも秘密が!?
黄龍丸:凛が駆るドラゴン。52話にて意外な正体が明らかに。

朱美みかん:朝陽の幼馴染。新聞部所属。通称「外道クイーン(オレンジ)」。
岡田:朝陽の友人の1人。通称・岡。眼鏡が特徴。割と友人想いの様子。
嶋田:朝陽の友人の1人。通称・嶋。軽い。
桜田:朝陽の友人の1人。通称・サクラ。渋い。
フクちゃん:「福の神見習い」を名乗る眼鏡。
フクの介:フクちゃんの先輩。やはり眼鏡。
フク太郎:フクちゃんとフクの介の先輩。やはり眼鏡。
フク蔵:フクちゃんとフクの介とフク太郎の先輩。やはり眼鏡。
手崎:文字通り茜の手先な料理教室のシェフ。

朝陽の父:朝陽の家族。22話に初登場。
朝陽の母:朝陽の家族。22話に初登場。
黒峰鳴:朝陽の妹。22話、28話、48話に登場。48話にて名前と顔が判明。
白神源二郎:吸血鬼。額に十字傷を抱く巨人。39話にて名前が判明。
白神桐子:葉子の母で人間。和服の美女。38話にて名前が判明。
銀華恋:茜に続く第2のツノツキ……の筈だったが。58話から登場。

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「私と小百合」(福島鉄平作、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』掲載)ネタバレ批評(レビュー)

「私と小百合」(福島鉄平作、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』掲載)ネタバレ批評(レビュー)です。

集英社刊『週刊ヤングジャンプ』に特別読切として掲載されていた本作。
読んでみたところ、何と言うのでしょうか、こう……琴線に触れるものがありました。
こうなれば、管理人が語るしかないでしょう!!

琴線に触れたもの、その正体については感想にて熱く語ってます。
と、その前に、本作における一人称視点でのネタバレあらすじにチャレンジしてみました。
ちなみに本作は「私小説」テイストの作品。
それ故に、大筋こそ忠実ですが敢えて一人称にアレンジしてます。
こちらに目を通してみて世界観に共感された方は、是非、本作それ自体にも目を通してみて下さい。
また、既に本作を読んでいる方はこのアレンジに注目頂くことで、どの点が管理人の琴線に触れたのかも分かるのではないでしょうか。

まるで、私小説のような本作。
決して見逃すなかれ!!

というワケで、ネタバレ批評(レビュー)です。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
僕(福島マコト):福島家の長男。2人の姉に苛められて育った気弱な男子生徒。
坂東:僕が苦手とする同級生の男子生徒。筋骨隆々の偉丈夫。
小百合:僕が女装した姿。儚げな美少女。

此処はとある田舎に存在する地方都市。
其処では大正時代そのままに羽織袴で生活が行われていた。

そんな町で僕・福島マコトは裕福な家の長男として生まれた。
ただ、長男と言えど上に姉が2人居る。
この姉がなかなかに勝気な人で自身の主張を譲らない。
共に育つうちに僕は卑屈にならざるを得なくなってしまったんだ。
そんな僕に、いつしか2人の姉は女装させて楽しむようになった。
素材が良いのだろうね。
正直、女装した僕は姉2人よりも美しい自信がある。
とはいえ、それを素直に喜ぶワケもない。
だから、僕は2人の姉が大の苦手だ。

苦手と言えば、僕が通う学校にも苦手な者が居る。
筋骨隆々、偉丈夫を体現したかのような男―――坂東だ。
僕は細面で小柄だからまさに対照的な存在。
坂東は性格面でも対照的で卑屈な僕に対し堂々としている。
まさに、僕を陰とすれば彼は陽だろうね。
だから、僕は坂東の顔をまともに見た事が無い。
それほど彼が苦手だった。

そんなある日、僕は今日も自宅で姉2人の玩具にされていた。
ひとしきり遊ばれた後、飽きたのだろうか……放置された。
今日は特に入念に弄ばれたようだ。
服だけではなく、化粧まで施されている。

たぶん、そのときの僕はどうかしていたんだと思う。
(いつになったら終わるんだろう……)
僕はぼんやりとそんなことを考えながら、縁側に足を運んでしまったのだ。
縁側は道に面していた、外からは丸見えなのに。

そして外を歩いていた奴―――坂東と目が合ったんだ。
もしも、女装のことを周囲に言いふらされたら一貫の終わりだ。
マズイ……僕は思わず硬直した。

そんな僕に坂東は頬を赤らめたのさ。
戸惑う僕に坂東は静かに頭を下げると体躯に似合わずいそいそとした足取りでその場を去って行った。
何が何やら分からなかった僕だけど、どうやら坂東が僕に気付かなかったことだけは理解出来た。
ほっと胸を撫で下ろしていたんだけど……。

その翌日、坂東が学校で声をかけて来たんだ。
まさか、と思ったね。
ところが、坂東は僕にこう聞いて来たんだ。
「昨日、君の家に少女が居ただろう?あれは誰だい」ってね。

此処で僕はピンと来た。
坂東が僕に一目惚れしたんだってね。
これに僕は大きな自信を得たんだ。
僕は咄嗟にこう言ったよ。
「あれは僕の従兄弟の小百合だよ、都会から遊びに来てるんだ」とね。

案の定、坂東は「小百合さん、小百合さん」と口をもごもごさせると何やら目を細めたんだ。
僕はこれは面白いと思った。

だから、翌日から僕は小百合に変装しては坂東が居る弓道場に足を運んだ。
おや、言ってなかったかな?
坂東は弓道部に所属しているんだ。
聞くところによると、かなりの腕だそうだよ。

坂東は僕を見ると驚いたように呆けていたね。
あれは傑作だった。
何なら見せたいぐらいだよ。

そして、慌てて取り繕うように弓を射始めたんだ。
でも、坂東は心の平静を欠いたのか、まったく当てることが出来ない。
これまた僕を楽しませたね。
こうして、その日の坂東は最後まで彼らしさを発揮することなく終わったんだ。

僕はこれに味を占めて、毎日足繁く弓道場に坂東を訪ねるようになった。
ところが、最初の頃は動揺していた坂東もいつしか微動だにしなくなった。
慣れてしまったんだろうか……不安に駆られた僕は坂東を振り向かせるべくさらに女装に力を入れることにした。

可愛らしい服を集めた。
化粧道具も揃えた。
技術ももちろん磨いたさ。
ところが、坂東は全く動じなくなってしまったんだ。

そうこうしているうちに、僕の女装が父親にバレてしまった。
父親は烈火の如く怒ったよ。
危く勘当されるほどだった。
でも、例の姉2人が責任を感じて必死に執成してくれたので今回ばかりは許されることになったんだ。

まぁ、これがちょうど良い機会だろう。
僕は女装から訣別することにした。

それから数日、意外なことが起こったんだ。
坂東が日に日に精彩を欠いて行ったのさ。
もう小百合は居ないのにね。
あんなにしょぼくれた坂東を見たのは、後にも先にもあのときが最後だ。
それに比例して坂東の弓も精度を欠いて行った。

同時に、それまで黙っていた弓道部の連中が坂東を貶し始めるのを耳にした。
あいつらも坂東に不満を抱いていたんだね。
畏怖している内は黙っていたんだけど、最近の坂東に対する反動なのか……まぁ、出るわ出るわ坂東への不満ばかり。
あれは全く見ていられなかったね。

そのうちに「坂東はもう駄目だ」とまで言われ始めた。
何でも昇段試験を控えているらしい。
そのギリギリでこの状態だから……ということなんだろう。

誰も彼もに見放され、焦りからか何かを探し求めるように周囲を見回す坂東。
そのとき、僕はまた気付いたんだ。
坂東が探しているのは他でもない小百合であることに。
何時の間にか、坂東は小百合に見られることで集中出来るようになってたんだね。

これに気付いた僕は「誰かが彼を応援してやらねば」と義憤に駆られたんだ。
だとすれば、もちろん小百合の出番さ。
でも、考えて欲しい……僕は父と約束したんだ。
もう2度と女装はしない、と。
この約束を破れば勘当されかねない。

けれど、今此処で動かないと駄目な気がした。
昇段試験の日、僕は姉の服と化粧道具を黙って拝借すると小百合になった。
そして、昇段試験会場に駆け付けたんだ。

それまで青白かった坂東の顔が、此の僕を見るなり上気して行くさまは見物だったね。
まさに坂東は活き活きとし始めたんだ。
それからのことは多くを語るまい。
僕は声が枯れるほど坂東を応援し、坂東はそれに応えてくれた。
嬉しかったね。

ただ、その夜、僕は父親にこっぴどく叱りつけられたんだけどね。
約束通り勘当だ!!とまで宣言されたんだけど、此処でも姉2人が必死に説得してくれて事無きを得た。
あれに懲りたのか、以来、姉たちは僕に女装を強要することは無くなった。

そう言えば坂東だけど、あれから何度か彼は小百合について僕に尋ねて来た。
その度に僕は曖昧に答えたものさ。
彼は知らないけど、小百合とはもう永遠に会えないだろう。
でも、彼は彼なりに何処か嬉しそうだった。

そして、僕もようやくそんな坂東の顔を真正面から見ることが出来るようになったんだ―――エンド。

<感想>

本作は僕の成長物語。
如何にしてコンプレックスから脱却したかが描かれる。

僕が苦手とするあいつも実は部内で浮いていたことにより、僕だけじゃないと仲間意識を持つことが出来た。
これこそがコンプレックスを脱却出来た理由。
つまり、完璧と思えた相手に思わぬ瑕疵があり其処に親近感を抱くことでようやく対等になれたのです。

とはいえ、本作の肝はそれだけに非ず。
何と言っても、大正ロマンを舞台に描かれた倒錯的な関係性にある。

姉2人よりも美しい僕、どの男よりも男らしい坂東。
そんな坂東が僕と知らずに僕に恋する。
そして、僕はそんな坂東を心の中で密かに嘲笑し、卑しいプライドを満足させていた。
だが、坂東は何処までも本気だった。
それを知った僕は坂東を傷付けないように振る舞い、彼を応援するようになる。

まさにこの「僕の手弱女ぶり」と「坂東の益荒男ぶり」こそが良い。
序盤から中盤にかけて丹念に描かれたアンバランスな関係が、このラストに収束する構成こそが素晴らしいのだ。

私小説をコミカライズしたらこんな感じになるんだろうな……と思わせる空気感や、これを後押しする絵柄なども奏功し非常に完成度の高い作品に感じました。
このタッチで夏目漱石『こころ』をコミカライズしたら凄いことになりそうだなと思ったりもする。
それくらい良かった。

『週刊ヤングジャンプ』は連載はもちろん、読切もレベルが高いと確認出来た作品ですね。

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【遂に最終回】「へ〜せいポリスメン!!」最終話「どっちっスか!」(稲葉そーへー著、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』連載)ネタバレ批評(レビュー)

今週(2012年4月5日)の「へ〜せいポリスメン!!」(稲葉そーへー著、集英社刊ヤングジャンプ連載)がかなり面白かったのでネタバレ批評(レビュー)

福島鉄平先生の作品と言えばこちらも。
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キンドル版最終巻「サムライうさぎ 8 (ジャンプコミックスDIGITAL)」です!!
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