ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
最強の『このミス』大賞作家、書き下ろし4編!豪華作家陣で贈る、ミステリー・アンソロジー。
TBS系にて豪華ドラマ化!『このミステリーがすごい!ベストセラー作家からの挑戦状』
2014年12月29日(月)よる9時〜案内人:又吉 直樹(ピース)×樹木 希林
歴代大賞作家4名×映画監督の豪華コラボレーション!
(宝島社公式HPより)
<感想>
「岬洋介シリーズ」で知られる中山七里先生の短編です。
公式のあらすじにもある通り、2014年12月29日にTBS系にてドラマ放送が予定されています。
タイトル『残されたセンリツ』の意味とは「旋律」と「戦慄」のダブルミーニングなのでしょう。
「旋律」は玲渾身の演奏を。
「戦慄」は玲の執念を。
それぞれ示したもので、この2つが揃うことでピアニストとしてより高度な演奏が可能になる。
これにより玲は真由に自身の生き様を遺したのでしょう。
きっと、真由も壮絶なピアニスト人生を歩むことになりそうです。
ただ、ダイイングメッセージは流石に牽強付会気味。
ドラマ化を想定しているからこそ視覚的なインパクトを求めてのソレだったのだろうと思われるが、逆に本作の印象を散漫にしている。
テーマだけで十分だったと思うだけに、勿体ない。
本作の真価はあくまで先述のテーマにある。
そんな本作は「ミステリ的な内容よりはテーマに比重を置いた作品」と理解して読むべし。
ちなみに「岬洋介シリーズ」最新作『どこかでベートーヴェン』が『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』に掲載されています。
興味のある方はチェックすべし!!
それとネタバレあらすじについては、管理人によりかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには本作それ自体を読むこと!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
多岐川真由:玲の娘。ピアニスト。
多岐川玲:孤高のピアニスト、被害者。
美能忠邦:美能リサイクルの社長。玲のコンサートの後援者。
安住鷹久:マネージャー
瀧本:調律師
黒岩:音楽評論家
河原崎:刑事
名高いピアニストの多岐川玲がコンサート会場内にある自身の控室にて服毒死した。
自殺、他殺の両面が疑われたが、捜査担当者となった河原崎刑事は他殺として捜査を開始する。
死亡した玲の指が傍にあった楽譜の中で「スタッカート」の「S」を指していたことに注目し、それをダイイングメッセージと考えたのだ。
河原崎は関係者への事情聴取を行う。
まずはマネージャーの安住鷹久。
次いで、瀧本だ。
安住と瀧本は共に、最近の玲の演奏が不自然であったことを指摘。
だが、本日の演奏については文句なしの最高だったと感想を述べる。
さらに、だからこそ自殺は有り得ないと他殺説を推した。
これについては玲の娘である真由も同意見であった。
さらに真由は「(玲が)逃げる為に自殺をするようなタイプではない」と断言する。
続いて、玲と対立していた評論家の黒岩。
黒岩も最近の玲のピアノの異変については気付いていた。
黒岩によれば、玲のピアノは女性ながらも男性顔負けの力強い演奏が特徴。
その特徴が最近では弱々しくなっていたそうだ。
黒岩はこれを玲が練習を怠慢した為と考えていた。
だからこそ、最近は不仲になっていたらしい。
そして、コンサートの後援者で美能リサイクルの社長である美能忠邦。
美能リサイクルは過去に水銀中毒事故を起こしており、この責任を追及する訴訟が先頃終えたばかり。
結果としては美能リサイクル側の勝訴に終わっていた。
おそらく、この訴訟で下がった企業イメージを回復すべくコンサートの後援者となったのだろうと思われた。
河原崎は玲の人となりを知るにつれ、他殺説の想いを強くする。
そんな中、玲が使用した毒物を調べた河原崎は其処に特徴的な証拠を発見。
遂に犯人を逮捕する。
犯人は美能であった。
玲の体内から検出された毒物に美能リサイクルで使用していた薬剤の成分が混入していたのである。
これが動かぬ証拠となった。
さらに、もう1つ河原崎が美能を犯人とした根拠があった。
それは玲のダイイングメッセージである。
玲は楽譜の中で「スタッカート」の「S」を指差し事切れていた。
河原崎はそれを美能忠邦を示したものと解釈したのだ。
美能忠邦のイニシャルならば「M」か「T」である。
何故、「S」を指したのか?
これには理由が存在していた。
並んでいた「T」や「M」では瀧本の苗字や安住の名前・鷹久などが該当する恐れがあったからである。
其処で玲は「スポンサー」、すなわち後援者である美能を示す「S」を指したのだ。
逮捕された美能は動機について語り出す。
なんと、玲もまた美能リサイクルによる水銀中毒事件の被害者だったのだ。
だからこそ、最近の演奏が不自然になっていたのである。
玲は「これを世間に公表する」と美能を脅迫しスポンサーにしたらしい。
だが、これで終わる筈がないと考えた美能が口封じの為に毒殺したのである。
こうして美能が逮捕され事件は解決した。
しかし、河原崎には腑に落ちないことが残っていた。
玲は何故、美能を脅迫したのか?
玲は金銭的にも裕福であり、美能を脅迫する必要など無かったのである。
河原崎は真由を訪ね、仮説をぶつける。
玲にとって水銀中毒によりピアノが弾けなくなることは死と同じであった。
玲は自身を追い詰めた美能を恨んだことだろう。
だとすれば、世間に公表すると言った社会的な復讐ではなく、もっと直接的な復讐を図ったのではないか。
例えば、殺人者として葬るような……。
そう、玲が美能を脅迫したのは彼に自身を殺害させる為では無かったか。
そして、その罪を問う為にダイイングメッセージを遺したのだ。
これに真由は頷くでもなく薄く笑う。
結局、河原崎には真相を確認する術は無い。
一方、真由は河原崎の仮説を認めていた。
ピアノに生きた玲にとって、それを奪われることは耐え難いものだったのだろう。
だから、一世一代の演奏を見せた後に殺害されるように図った。
そんな玲の生き様は真由にピアニストとしての壮絶な覚悟を植え付けた。
真由は誓う「母のようなピアニストになる」と―――エンド。
2014年12月30日追記:
2014年12月29日にドラマ版が放送されました。
ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
・「このミステリーがすごい!〜ベストセラー作家からの挑戦状〜 天才小説家×一流映画監督がコラボした、一夜限りの豪華オムニバスドラマ!味わいの異なる4つの謎=各25分の濃密ミステリー!又吉×希林の他では見られないコントも!」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)
追記終わり
◆関連過去記事
・『カシオペアのエンドロール』(海堂尊著、宝島社刊『このミステリーがすごい!四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『黒いパンテル』(乾緑郎著、宝島社刊『このミステリーがすごい!四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『ダイヤモンドダスト』(安生正著、宝島社刊『このミステリーがすごい!四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
◆「中山七里先生」関連過去記事
【岬洋介シリーズ】
・『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『おやすみラフマニノフ』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『いつまでもショパン』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『いつまでもショパン』第1回(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』連載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第一話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.6』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第二話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.7』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『間奏曲(インテルメッツォ)』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2013年版』収録)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『要介護探偵の事件簿』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『静おばあちゃんにおまかせ』(中山七里著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)