2015年02月18日

「相棒season13」第16話「鮎川教授最後の授業・解決篇」(2月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「相棒season13」第16話「鮎川教授最後の授業・解決篇」(2月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)です!!

日本で100番目に早い(たぶん)、「相棒season13」第16話「鮎川教授最後の授業・解決篇」(2月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)。

<ネタバレあらすじ>

右京(水谷豊)と美彌子(仲間由紀恵)は大学時代の恩師・鮎川(清水綋治)の古希の祝いに参加し彼の手で監禁されてしまった。

・前回はこちら。
「相棒season13」第15話「鮎川教授最後の授業」(2月11日放送)ネタバレ批評(レビュー)

米沢経由で急を聞いた甲斐(成宮寛貴)たちは鮎川宅に駆け付けるが、其処はもぬけの殻だった。
舞台は別の場所だったのである。
手掛かりを求めて鮎川邸を調べた甲斐たちは、鮎川が御堂黎子(石野真子)なる女性と生活していたことを突き止める。

その頃、悦子(真飛聖)は産婦人科医から「深刻な状況である」と宣告されていた。
詳細な検査が必要であると勧められた悦子は不安に苛まれることに。

と、其処に峯秋(石坂浩二)から電話が。
どうやら、今朝方に電話して来た甲斐の様子がいつもと異なることに違和感を抱いたらしい。
峯秋と落ち合った悦子は自身の妊娠を告白。
峯秋は朗報に顔を綻ばせるのだが……その目の前で悦子が急に倒れてしまう。

同じ頃、監禁されている右京たち。
解答提出のタイムリミットが刻一刻と迫る中、右京は状況把握に勤しむ。

まずは黎子の身許を確認する右京。
そんな右京に黎子は自身を「家政婦だ」と明かす。
なんでも、2年ほど前にネット上で鮎川と知り合い家政婦として雇われることになったらしい。

一方、右京を探す甲斐に峯秋から電話が入っていた。
峯秋は悦子が御茶ノ水の山楽病院に向かったことを教える。
これを聞いた甲斐は悦子を気にかけるのだが……敢えて捜査を続けることに。

甲斐たちは鮎川が所有する車のGPS情報を確認。
さらに、右京が救助を求めた際の携帯の基地局の位置から近隣に鮎川が所有する別邸があると判断。
鮎川名義では存在しなかったが、御堂黎子名義にて存在することを確認し急行する。

一方、右京たちにタイムリミットが到来していた。
右京と美彌子は解答を鮎川に提出することに。

これを一目見た鮎川はニヤリと笑う。
「殺すとはどういうことか、法的正義と法的責任まで言及している。短い間にも関わらず素晴らしい」
右京と美彌子の解答に称賛を与える鮎川。
面々は「助かった」と息を吐くのだが……これは些か早かった。

鮎川は解答の完成度の高さを認めつつ「それでもこれでは及第点とは言えない」と否定したのだ。
さらに、鮎川に捧げる犠牲者を誰か1人選べと迫る。

同じ頃、甲斐たちが御堂黎子名義の別宅に辿り着いた。
米沢が右京顔負けの鍵開けの名人芸を披露し、邸内へ突入する。

同時刻、犠牲者の提示を求める鮎川に対し全員が挙手していた。
明らかな時間稼ぎである。

鮎川は狙いを看破すると黎子へ銃口を向ける。
どうやら、標的を黎子に絞ったようだ。
途端、黎子が隠し持っていた小銃を抜いた。

そして発砲音。

甲斐たちが踏み込んだ其処には射殺された鮎川と小銃を構えた黎子、呆然と立ち尽くす右京たちが居た。

数十分後、鮎川の遺体が回収されていた。
小銃は鮎川が生前に護身用として黎子に渡したものらしい。
黎子の行動は正当防衛とされたが……。

右京と美彌子は事の結末に疑問を抱いていた。
そもそも、黎子が鮎川邸で家政婦となっていた理由は何なのか?

右京たちは鮎川邸の書斎へ。
其処には相変わらず青酸カリやテトロドトキシンが並んでいる。

此処で右京が鮎川の机の引き出しに収納されていたアルバムに目を留めた。
注目したのは2013年1月の写真である。
其処には書斎が写っているが毒物は並んでいない。
すなわち、2年前までは毒物は存在しなかったことになる。
毒物は黎子が家政婦としてやって来て後に用意されたことになる。

角田課長から御堂黎子が御堂家の実子ではなく養女であるとの情報がもたらされた。
御堂家を訪れた右京たち。
黎子の義弟によれば、黎子の母は御堂佳子といい黎子を出産後に亡くなっているらしい。
佳子は未婚の母だったそうだが……。

一方、検査の為に病院を訪れていた悦子は入院するよう医師から宣告されていた。

その夜、悦子入院の報を受けた甲斐は彼女のもとへ。
其処で悦子が急性骨髄性白血病を患っていることを知らされ衝撃を受ける。
悦子の病状に後ろ髪を引かれる甲斐だが、捜査を続けることに。

捜査により、御堂佳子が東大の卒業生であることが判明。
また、佳子と鮎川教授が肩を寄せ合う写真を発見する。
どうやら、鮎川と佳子は恋仲だったらしい。

どうも、黎子が鮎川の家政婦となったことには意味があるようだ。
甲斐と美彌子が黎子周辺、右京が鮎川周辺を調べることとなった。

十数分後、美彌子が黎子の取調べを行っていた。
それによれば鮎川邸の書斎の掃除は黎子の担当らしいが……。

右京はと言えばOBから「鮎川が佳子を捨てた」との情報を得ていた。
どうやら何か事情があったようだが……。
ところが、2年前には鮎川がこの行為を後悔し「万死に値する罪だ」と述べていたらしい。

「どうやら、我々は大きな勘違いをしていたようです」
右京はある結論に辿り着く。

翌日、鮎川が死亡した別邸に右京たちと黎子の姿があった。

まず、鮎川が黎子の父親であることが明かされた。
鮎川と黎子の髪の毛のDNAが合致したのだ。

次いで、右京は黎子が鮎川を父と知りつつ近付いたと指摘する。
これを認める黎子。
だからこそ、家政婦として傍に居たのだ。

鮎川はネットを通じて黎子が連絡を寄越したことに驚いた。
それまで忘れていた佳子とその子供の記憶が「御堂」との苗字から甦ったのだ。
鮎川は確認すべく黎子と直接会い、彼女が自身の娘だと確認した。
少しでも娘と共に居たい鮎川は黎子を家政婦として雇い入れた。

いずれは黎子から父娘の名乗りを上げて来ると思っていた鮎川。
ところが、当の黎子にその様子はない。

「鮎川に殺されかけたんです」
黎子は打ち明ける。

佳子の妊娠を知った鮎川は堕胎を迫ったそうである。
佳子はそんな鮎川に失望し彼と別れた。
危く黎子は鮎川に殺されるところだったのだ。

其処で、黎子は今になって仇を討とうと決めた。
鮎川が動物たちを殺していると知り、その気持ちは殺意にまで昇華した。

この黎子の殺意を鮎川は敏感に察知した。
鮎川は書斎に毒物を収集し始めた。
書斎の掃除は黎子の担当である。
黎子ならばいつでも毒物を持ち出すことが出来る。
さらには、小銃まで与えた。
これらの意味するところは1つ、鮎川は黎子に復讐を果たすよう背中を押したのだ。

しかし、何時まで経っても黎子は復讐に乗り出さない。
業を煮やした鮎川は右京たちを監禁し、黎子が復讐し易い環境を整えたのであった。
すなわち、すべて鮎川の意志だったのだ。

此処で右京が1つの問いを投げかける。
今回の一件、果たして本当に正当防衛だったのか。

鮎川を撃ったとき、黎子に殺意は無かったのか。
黎子は常に小銃を所持していた。
鮎川への殺意を常に懐に抱いていたのだ。

右京は黎子に止めの一言を突き付ける。

「あなたは此処で撃たなければ殺されると思いましたか?それとも此処で撃てば殺せると思いましたか?」
それは殺意の有無を問うもの。

これに黎子は「殺意はありました……」と認めることに。

右京はさらに黎子を追い討つ。
「何故、人を殺してはいけないのか?それに解はありません。ですが、殺人という罪には罰が付随するのです」と。

こうして、黎子は殺人罪に問われることとなった。
親子相克の結末は何とも悲壮なものとなったのである。

その夜、独りとなった美彌子は娘へ電話を入れる。
無性に声が聞きたくなったのだ。

同じ頃、花の里では右京が甲斐に「黎子に必要なのは罪の意識を認識する事だ」と語って聞かせていた。

翌朝、病院へ悦子を訪ねた甲斐は彼女を支えることを約束する。

一方、庁舎では右京が美彌子と擦れ違いざまに声をかけていた。
美彌子が鮎川の書斎で毒物に気付いたことが事件解決の手掛かりになったと礼を述べたのだ。

これに眉根を寄せる美彌子。
美彌子には事件解決においてある疑問が残されていたのである。

「杉下さん……あれは一種の暗示だったのではありませんか?」

おそらく、発砲寸前の黎子自身には殺意があるともないとも言えない状態だったに違いない。
だが、右京が追及したことで黎子は殺意があったと思い込んでしまったのではないだろうか。

美彌子はそう述べたのだ。
これに「さぁ……どうでしょう」と応じる右京。

交錯する2人の視線が中空で激しく火花を散らす……。
やがて先に視線を逸らしたのは美彌子であった。

口元に薄く笑いを浮かべると美彌子は右京に背中を向けて歩き出す。
これに右京も軽く笑うと逆方向に歩み出した。

右京と美彌子、2人の関係は如何なるものなのであろうか―――第16話了。

<感想>

シーズン13第16話。
脚本は輿水泰弘さん。

サブタイトルは「鮎川教授最後の授業・解決篇」。
前後編の後編です。

前編はこちら。

「相棒season13」第15話「鮎川教授最後の授業」(2月11日放送)ネタバレ批評(レビュー)

なかなかに衝撃的な後編となりました。
前編にて書斎の毒薬の存在について触れ推理を組み立てましたが、こういった形になろうとは想像してませんでした。
鮎川教授主導で黎子に関するものとは思っていましたが、なるほど……。

そんな後編は前編から引き続いての2点と新たな1点が描かれました。

それが「右京監禁」と「悦子の病気」。
そして、「右京と美彌子の関係」ですね。

まず、「右京監禁」について。
これは鮎川による緩慢なる自殺でした。

とはいえ、鮎川はどこまでも業が深いなぁ……。
過去には娘を殺そうとし、今は娘を父殺しの殺人者に仕立て上げた。
仮に鮎川の計画通り正当防衛だろうとも、公的に人を殺した事実は拭えないし、黎子自身には父を殺した罪の意識が残るだろうし。

そもそも、黎子が2年も復讐を躊躇っていた時点で復讐が本気ではないことは分かっていた筈。
あれは、あくまで「父親を求めての行動」が素直に表現出来なかったに過ぎない。

父である鮎川に会いたい。
だが、素直には認められない。
だから「殺す」との口実でこれに近付いた。
本気なら2年もかけずに殺していたでしょう。
それほど嫌いな相手と2年も暮らす筈がない。

だから鮎川側から歩み寄りさせすれば、父娘としてぎこちなくとも上手く行った筈なのだ。
それを鮎川は父親としての努力を怠り、娘を人殺しにしてしまった。
これを業が深いと言わずして何と言おうか。

ところが、右京はこの罪を問わず踊らされた筈の黎子の罪を問うのである。
「杉下の正義は暴走するよ」
亡き小野田の言葉ですが、まさに今回これが出たか。

視聴中、殺意の有無について問う右京に「誘導してるじゃん!!」と多くの視聴者がツッコミを入れられたことと思いますが、美彌子の指摘はまさにその通り。
それを受けた右京の反応で、右京自身にもその認識があることが判明しています。

とすると……今回の事件は鮎川と右京の師弟による黎子を殺人犯に仕立てるリレーみたいに思えて来た。
なんだか本当にメルカトル鮎っぽくなってきたぞ……。
これなら、招待状はゴミ箱の中だった方が平和的に解決したんだろうなぁ……。

続いて「悦子の病気」。
これは「急性骨髄性白血病」と判明。
すなわち、ドナーが必要な病気です。
前編での予想通り、甲斐卒業へ向けての布石となりそうですね。
この病気の治療の為に悦子に付き添い海外へ……といった形での卒業になりそうです。
こうなると峯秋の去就にも注目が集まります。
なお、甲斐卒業について詳細は次の記事からどうぞ。

【至急報】3代目相棒・甲斐享が「相棒season13」にて卒業とのこと。

そして「右京と美彌子の関係」。

今のところ、敵とも味方とも言えない曖昧な関係ですね。
たまたま共闘した今回でしたが、ラストにて美彌子が右京のスタンスにズバリと異議を述べました。
あれは、やはり一時的な共闘関係に過ぎないとの意思表示なのか。
ある意味、かなり魅力的に描かれているだけに2人の関係の今後が気になります。
どちらかと言えば、美彌子は右京たちと対決するキャラだと思っていたのですが……。

とはいえ、怒涛のseason13終盤を迎えています。
右京は、甲斐は、悦子は、峯秋は、美彌子はどうなるのか!?
おそらく最終話にてこの答えが示されることでしょう。
この際、我々視聴者は鮎川教授よろしく「うむ、素晴らしい」と賛辞を述べるのか、それとも「及第点とは言えないなぁ……」とニヒルに微笑むのか。
いずれになるか……注目です!!

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『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央著、文藝春秋社刊)

『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

粋なおばあちゃん探偵が解く、「日常の謎」

北関東のとある街で、コーヒー豆と和食器の店を営むおばあちゃんが、店で聞いた話から、街で起こった小さな謎を解決するミステリー

宮部みゆきさんら、選考委員が絶賛してオール讀物推理小説新人賞を受賞した吉永南央さんのデビュー作が待望の文庫化。主人公は、観音さまが見下ろす街で、コーヒー豆と和食器の店を営む気丈なおばあさん、杉浦草。無料のコーヒーを目当てに訪れる常連たちとの会話がきっかけで、街で起きた小さな事件の存在に気づく「日常の謎」系ミステリ。「老い」と「家族」を正面に据えたその筆は、淹れ立てのコーヒーのように深みと滋味を湛えています。(YI)
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ第1弾です。
2015年1月現在時点で、同シリーズには他に『その日まで』『名もなき花の』『糸切り』の3作が存在する。
すなわち、本作『萩を揺らす雨』を加えた4作が既刊というワケだ。

そんな本シリーズは「和食器と珈琲の店・小蔵屋」を営む老婦人・杉浦草を中心とした日常の謎もの。
過去に辛い経験を負ったことで痛みを知る草の視点から綴られる物語は、時に悲哀、時に励まし、時に驚きとして読者に向けられます。
また、端正な文章に支えられた静かな物語は読む者の心を癒すかもしれません。

ただ、個人的に「琴線に触れるには些か訴求力に欠ける」との印象が拭えませんでした。
もう1つ何かあればなぁ……。
なので、手放しでオススメとは言えないかも。
しかし、これは読み手の嗜好の差でしょう。
きっと、読み手によって心動かされる方も居る筈です。
その力は秘めていると思います。

今回は中でも『紅雲町のお草』、『クワバラ、クワバラ』、表題作『萩を揺らす雨』の3編をネタバレ書評(レビュー)。
但し、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
特に『萩を揺らす雨』は設定こそ原作通りですが、展開をまとめ易いように構成を大幅に変えました。
興味を持たれた方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

・『紅雲町のお草』

杉浦草は紅雲町に住む76歳の老婦人である。
彼女は「小蔵屋」という名の「和食器」と「珈琲専門店」を兼ねた店を営んでいる。
草の人柄と「コーヒーの試飲一杯まで」とのサービスにより、ちょっとした町の憩いの場になっている。

当然、紅雲町のさまざまな噂が草の耳に入る。
それは突拍子もないことだったり、何でも無さそうな些細なことだったりする。
だが、たまに草はその中に重大な情報を見出すことがある。

この日もそうであった。
2人連れの女子高生がお化けについて話をしていたのである。
それによると、ある団地で助けを求めるように窓に差し出された手を目撃したらしい。

これを聞いた草は咄嗟に「助けなければ」と思った。
草は彼女たちが話をしていた団地へ向かう。

該当する窓を調べたところ、住人は小宮山と言うらしい。
それから、草の小宮山家に関する噂話の収集が始まった。

小宮山家には4人が生活しているらしい。
まず、主である小宮山。彼は医者だそうだ。
続いて、小宮山の後妻。
そして、小宮山の後妻の連れ子。
最後に、小宮山の実母。

草は小宮山の実母が虐待を受けているのではないかと考える。

ところが、小宮山家の隣家の住人によれば虐待を受けているのは後妻の連れ子の方らしい。
噂はあくまで噂に過ぎない。
事実とは異なるかもしれないし、仮に事実でも既に解決した問題かもしれない。
だが、草は傍観者になることだけは出来なかった。

実は彼女は20代の折に夫と離婚しており、その際に夫に預けた息子・良一を彼が3歳の時に事故で亡くしていたのだ。
もしも、夫に預けずに自分が育てて居たら……こんなことにはならなかったのではないか。
以来、草は良一の冥福を祈る毎日を送っていたのである。

そんな草にとって「かもしれない」で小宮山の息子を見捨てることは出来なかった。
草は夜中にも関わらず団地へ向かい、小宮山の息子を助けようと決意した。

こっそりと窓を割り、中の様子を確認しようとする草。
だが、素人の草には人知れず窓を割ることすら一苦労だ。

ところが、其処で怪しげな男と出くわす。
どうやら、下見をしていた泥棒のようだ。
草は意を決し男を2万円で買収、彼に部屋の中を確認して貰うことに。

男は流石、プロである。
草があれほど苦労した窓をあっさりと破ると中へ侵入する。

それから数分ほど経過したであろうか。
この間、草にとっては何十分と感じられた。

やがて、男が侵入した窓からではなく玄関から戻って来た。
しかも、肩にはぐったりとした少年を抱えている。
小宮山の息子である。虐待は事実だったのだ。

翌日、草はちょっとしたヒーローとなった。
なにしろ、小宮山の息子を救ったのだから。

草の予想通り小宮山の息子は小宮山から虐待を受けていた。
母親は夫を怖れ黙認、その姑も血の繋がりの無い孫である為に見て見ぬフリを決め込んでいたのだ。
小宮山の息子はもう少しで死にかねないほど衰弱していたと言う。

あの後、草は小宮山の息子を保護すると通報した。
駆け付けた警官に、草は「泥棒と出くわしたのだが、相手が此の坊主を助けてやれと渡して来た」と小宮山の息子について供述した。
泥棒については「暗くて良く分からなかった」としか述べていない。

それから1ヶ月が経過した。
草の前にはあのときの男が居た。
実はあの時、報酬の2万円を1ヶ月後に手渡す約束をしていたのだ。

男は「あれで助けたことになるのかなぁ……」とぼやく。
もちろん、小宮山の息子のことだ。

小宮山の息子は保護されると入院、少しずつだが回復していると言う。
だが、虐待の件により家族に波乱が巻き起こっているようだ。
今後、彼がどうなるかは不透明である。

これに草は「それでも……」と断ずる。
草の目には亡き良一が映っていた―――エンド。

・『クワバラ、クワバラ』

今日も「小蔵屋」にて伝票を整理していた草は未だ支払が行われていないものを発見した。
それは宮内なる男性の還暦祝い、贈り主は桑原秀子となっていた。
これを目にした草は「クワバラ、クワバラ」と心の中で呟く。

秀子と草は小学校の同級生であった。
だが、秀子は草の何が気に喰わないのか徹底的に嫌がらせを繰り返した。
草はこれに秀子の姓である桑原をもじり「クワバラ、クワバラ」といつも呟いていた。

そして、草が「小蔵屋」を改装しようと古民家を買い取った際のことである。
草は秀子と数十年ぶりに再会した。
秀子は相変わらずで草は此処でも大変に手を焼かされた。
秀子の姉・松子の執成しがなければ古民家を買い取ることは出来なかったであろう。

だが、この際の騒動で草は秀子が父親からの愛情を求めていたにも関わらず得られなかったことを知った。
草は少し秀子に同情した。

其処から、さらに数年経過しての今度の未払いである。
秀子は資産家の家に嫁いでおり、夫を亡くしたものの裕福な生活を送っている筈だった。

草は桑原家へと電話を入れてみた。
応対に出たのは秀子の嫁・エミである。

エミによれば、秀子は宮内と交際しており、これに反対した息子と衝突し家を出てしまったと言う。
草は秀子の立ち回り先として、古民家が元あった場所を思い浮かべるが……。

数時間後、草は自身の推測が当たっていたことを確認出来た。
其処に秀子が居たのである。
彼女にとって、此処は思い出の地だったのだろう。

草を目にした秀子は皮肉に笑う。
実は秀子の居場所の心当たりを彼女の息子と宮内に伝えたのだが、両方から断られてしまったのである。

秀子の息子は「放っておけばよい」と断言。
宮内は「周囲に反対されてまで付き合いたくはないし、そもそも其処までの間柄ではない」と言い切っていた。

秀子は宮内への恋に破れたにも関わらず気丈に振る舞う。
これに草は昔馴染みとして支えるのであった―――エンド。

・『萩を揺らす雨』

その日、草は何時に無くめかし込んでいた。
これから会う相手が草にとっては些か特別な相手だった為である。

その名は―――大谷。
草の幼馴染にして高名な代議士に婿入りし自身も代議士となった男。
そして……草の初恋の人である。

もちろん、大谷は草のそんな気持ちを知らない。
だから、大谷はこれまでにも彼の愛人・鈴子への対応を草に依頼して来ていた。

草が大谷と鈴子の間に立ってもう数十年経つ。
だが、未だにこの関係に慣れない草なのであった。

大谷のもとを訪れた草。
大谷は「鈴子が死んだ」と告げる。
どうやら、病死らしい。

十数年前、鈴子は大谷との間に子供を為した。
鈴子はこれに狼狽した。
大谷には正式な妻子が居る、そして社会的地位もある。
彼を脅かしてはならないと決断した鈴子は大谷の子供を抱えた状態で染谷のもとへ嫁に行った。

当時、大谷はこれを嫌がり、母子2人で生きて行けるよう世話を見るからと何度となく鈴子に翻意を迫った。
しかし、鈴子はこれを頑として受け入れなかった。

次いで、大谷は鈴子の倫理観に訴えた。
染谷はお腹の子供が大谷の子であることを知らない。
自身の子だと思い込んでいるのである。
そんな不義理が許されるのか、と。

だが、それを言うならそもそも妻子ある大谷との不倫の果ての子である。
出発点からして不義理であった。

この間、草は大谷と鈴子との仲を飛び回った。
だが結局、鈴子は初志を貫徹し染谷と結婚し清史という男の子を産んだ。

それから十年後、染谷は病死。
最後まで大谷の子供だとは知らなかったそうだ。

以来、鈴子は清史を2人で生きていた。
そんな鈴子が病死した。
其処で、大谷は清史を引き取りたいと草に依頼したのだ。
草から清史に打診して欲しいらしい。

惚れた弱味でこれを引き受けた草は清史のもとへ。
途中に立ち寄った喫茶店近くの川原で携帯電話を拾うことに。
これは草が交番に届けるべく預かることとなった。

さらに、若者同士の殴り合いの喧嘩に遭遇する。
この片方の当事者こそが清史であった。
相手は草の姿を目にするや脱兎の如く逃亡する。

清史は今時の若者に成長していた。
喧嘩の相手は「タカヒロ」らしいが詳しいことを明かそうとしない。

これを家へ連れて行ったところ、其処には小田なる男が待っていた。
と、草が拾った携帯が鳴り始めた。
この音を耳にした途端に小田の態度が急変。
草から鞄を奪い去ってしまう……。

清史によれば小田の狙いは携帯だったらしい。
奇しくも、清史が捨てた携帯を草が拾ってしまったのだ。
だが、草は携帯を肌身離さず持っており無事であった。

とりあえず、草に帰るよう促す清史。
そんな清史のもとを厳つい男が2人訪ねて来る。

何やら、清史が想像を絶する事態に巻き込まれているのではないかと考えた草。
今更、帰ることは出来ないと真相を清史に問い詰める。

その翌日、草は小田をホテルのロビーに呼び出した。
鞄を取り戻す為である。

これに小田は素直に応じ、代わりに草は携帯を手渡す。
同時にタカヒロも駆け付けて来た。

直後のことだ。
ロビー内に例の厳つい男を筆頭に集団が現れた。
彼らは小田とタカヒロを拘束すると連れて行く。
彼らは刑事だったのだ……。

実は、小田とタカヒロは薬物のバイヤーであった。
あの携帯は顧客リストが登録されたまさに金の卵。

ある日、金に困ったタカヒロは小田を裏切り携帯を持ち去った。
おそらく金に換えるつもりだったのだろう。
その途中、逃亡先に清史のもとへ立ち寄ったのだそうだ。
タカヒロは清史の高校時代の陸上部の先輩だったのだ。

清史はタカヒロの行動を聞き反対したが、聞き入れられなかった。
其処で携帯を川原に捨てたのた。
ところが、これを草が拾い、タカヒロを追って来た小田と遭遇したのであった。

清史はタカヒロを救う為に警察に通報したのである。
だが、連行されるタカヒロの姿に清史は大粒の涙を流す。
実は、清史とタカヒロは同性愛の相手だったのだ。
愛する相手を告発せざるを得なかった清史に、草は深い同情を寄せると共にしっかりと育ったと感心するのであった。

結局、清史は大谷の提案には乗らなかった。
これを報告された大谷は、ただ「そうか……」とだけ呟いた。
さらに、草が持ち返った鈴子の骨を口に含み呑み込むのであった。
これでずっと一緒だとでも言うように―――エンド。

◆関連過去記事
特集ドラマ「紅雲町珈琲屋こよみ ヒロインは76歳!優しく、甘く、ほろ苦く〜人生はコーヒーのように」(4月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

シリーズ第1弾「萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)」です!!
萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)





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シリーズ第2弾「その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)」です!!
その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)





こちらはキンドル版「その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ」です!!
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シリーズ第3弾「名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)」です!!
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シリーズ第4弾「糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ」です!!
糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ





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『いなくなった私へ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)

『いなくなった私へ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

2015年 第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作
現役東大生 堂々デビュー!!

なるほど、そういうことだったのか!と思わず膝を打ち、それまでに抱いていた違和感がきれいに解消される快感。――大森 望(解説より)

人気絶頂のミュージシャン・梨乃は目を覚ますと、誰にも自分と認識されなくなっていた。さらに自身の自殺報道を目にした梨乃は自らの死の真相、そして蘇った理由を探りはじめるが……。

第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作品です。人気絶頂のシンガーソングライター・上条梨乃は、目を覚ますと渋谷のゴミ捨て場にいた。素顔をさらしているのに周囲の人間は上条梨乃だと認識せず、さらにビルの電光掲示板には、梨乃が自殺したというニュースが流れていた……。不可解な状況に困惑する梨乃だが、そんな中、大学生の優斗だけが梨乃の存在に気づく。梨乃と同じ境遇にあった少年、樹とも出会い、梨乃は優斗らの助けを借り、かつて所属していた芸能事務所でアルバイトをしながら、事件の真相を探っていく。
(宝島社公式HPより)


<感想>

第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作。
受賞時タイトルは『夢のトビラは泉の中に』であった。

第13回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『女王はかえらない』に輝く!!

なお、同回の大賞受賞作は降田天先生『女王はかえらない』、優秀賞には神家正成先生『深山の桜』である。

『女王はかえらない』(降田天著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

さて、本作であるが。

冒頭から登場する「謎の泉の物語」と交互に語られる「梨乃とその死に纏わる謎」。
果たして、この2つは如何なる関係にあるのか―――そんな物語。

一読して、筆力と構成力の高さが目を惹く。
それほど、全体のバランスが巧みに仕上げられている。
謎も魅力的だし、この世界観さえ許せればかなり楽しめる作品だと思う。

何より本作は物語が進展するにつれて謎が様々な姿に変化することが魅力だろう。

まず、冒頭にて「意識を取り戻した梨乃は自身を梨乃だと思いつつ、周囲に梨乃と認識されない」との謎にぶつかる。
次いで「梨乃が死亡したとの情報を知る」に至り「梨乃を名乗る主人公の状態がどうなっているのか」との謎に転ずる。

此の時点で大半の読者は、タイトル『いなくなった私へ』との関連から「梨乃を名乗る主人公が実は梨乃では無く梨乃だと思い込んでいる別人である」との解を頭に思い浮かべることだろう。
おそらく、ミステリの熟達者であればあるほどこの解に飛び付く筈だ。
だが、此処で「謎の泉の物語」が重要となるのだ。
そう、本作の解は其処には無い。

次いで梨乃が優斗や樹たちと出会うことで「何故、彼らは梨乃を梨乃と認識出来るのか」との謎に変化する。
其処から「梨乃が自身の死を受け入れる」ことで、今度は「梨乃がどうして死亡したのか」がクローズアップされる。

そして、終盤怒涛のサプライズラッシュである。
これには熟練のミステリ者もノックアウトされてしまうことだろう。
その中で本作の謎が「何故、優斗は梨乃を梨乃と認識出来たのか」に戻り、遂には「梨乃自身」ではなく「優斗の側」にこそ最大の謎が仕掛けられていたことに気付くのである。

言わば最初から魅力的な謎を提示されていながら、最大の謎が何処にあるのかが伏せられている作品なのだ。
これが巧みな展開により見事なサプライズへと昇華されている。

さらに、ミステリ以外のエンタメ作品としての側面も重要だろう。
この作品、梨乃の成長物語であり、梨乃が「アイデンティティー」を確立する物語なのだ。

梨乃は殺害されることでアイデンティティーを喪失した。
目を覚ました梨乃は新たなアイデンティティーを手にするべく奮闘するのだが、最終的に失われたアイデンティティーは再度得られることはなく、過去のアイデンティティーと訣別した上でまた別の新たなアイデンティティーを獲得するに至るワケだ。
これが前述した謎と上手く絡んでいる点が素晴らしい。

タイトル『いなくなった私へ』。
それは、いなくなった過去の私に対する現在の私からのメッセージなのである。

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
かな〜〜〜り、バッサリ省略したり改変している(泉の謎に迫る手記、梨乃の母や美容師の実加、優斗の父や姉、十文字や美波関連)ので興味をお持ちの方は本作をお読みになることをオススメします。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
上条梨乃:主人公。人気絶頂のシンガーソングライターであったが謎の死を遂げる。
優斗:梨乃を梨乃と認識出来る男性。
実加:梨乃の親友。
樹:梨乃と同じ境遇の少年。
美波:梨乃が在籍していた芸能プロダクションに所属するタレント。梨乃の先輩。
十文字:梨乃が在籍していた芸能プロダクションに所属するタレント。


上条梨乃は売れっ子のシンガーソングライターである。
おそらく日本中でも彼女の顔を知らない者はそういないであろうほどの売れっ子。

そんなある日、梨乃は渋谷のゴミ捨て場で目を覚ます。
酔っ払って寝入ってしまったのだろうか……。
その周囲には多くの人が行きかっている。
もしも、梨乃だとバレてこんな醜態をスクープされてはたまらない。
取り繕おうとする梨乃だが、周囲はそんな彼女を目にしつつも特に何の反応も示さない。
どうやら、誰も梨乃だと気付かないようなのだ。

違和感を覚えつつ、身体の汚れを払いながら歩き出す梨乃。
すると、行き違ったカップルから信じられない言葉を耳にする。
なんと、梨乃が自宅マンションから飛び降り自殺したと言うのだ。

そんな馬鹿な……当の梨乃が此処に居るではないか!!

驚き慌てた梨乃は周囲の人々に「自分が誰か」と問いかける。
だが、誰も梨乃を梨乃と言い当てられる人物は居ない。

そんな中、たった1人だけ梨乃の正体を言い当てられる人物が現れた。
その名は優斗。
優斗は梨乃から事情を聞くと、その境遇に同情し彼女を助けるべく協力することを約束する。

こうして共に行動することとなった梨乃と優斗。
手始めに梨乃のマンションへと向かったところ、確かに梨乃の死が事実であると判明する。
さらに、最後に梨乃と出会ったと証言する宅配業者の男性による証言がもとで、その死が自殺であったと結論付けられたことも知ることに。

これに梨乃は強いショックを受ける。
何しろ、当の梨乃には自殺する理由も無ければ、自殺した記憶も無いのだ。

だが、その帰路に新たな出会いを果たすこととなった。
身寄りのない少年・樹と出会ったのだ。

しかも、樹もまた梨乃と同じ状況下にあった。
樹は車の轢き逃げに遭い死亡。
だが、気付けばこうして生き返っていたと言う。
ところが、樹の母親も含めて誰も彼を樹だと認識してくれないらしい。

樹を1人にはしておけない。
梨乃と優斗は樹を加えた3人でこの不可思議な事態の真相解明に挑むことに。

まずは、梨乃の周辺を調べるべく梨乃が所属していたプロダクションへ。
梨乃は親友である実加を名乗り、プロダクションでアルバイトとして働き始める。

そんな梨乃に近付く1つの影。
それはプロダクションに所属するタレント・十文字であった。
十文字は実加に梨乃の面影を見出し、彼女に惹かれたのだ。

ところが、これを不愉快に思う影があった。
それが、これまたプロダクションの先輩である美波である。
美波は梨乃への憎悪を募らせる。

そして、事件が起こった。
梨乃が消えたのである。

梨乃に何が起こったのか……必死に考える優斗の脳裏にある光景が浮かび上がる。
優斗は樹と共に其処へ向かうことに。

その頃、梨乃は美波の手により囚われていた。
其処はカルト教団のアジトである。
彼らは「輪廻の泉」を名乗り、彼らの間に伝わる泉の水を肌身離さず持ち歩くことで幸せになれると信じていた。
美波はその信奉者の1人だったのだ。
さらに、彼らは信奉者同士の連帯感が強かった。
1人の信奉者の邪魔になる者は教団全体で排除するのである。

美波は十文字を愛していた。
ところが、十文字が実加(実は梨乃)に惹かれたことを許せなかったのである。

美波は実加が梨乃であるとは知らずに、過去にも同様の行動を繰り返していたことを明かす。
そう、十文字が梨乃に惹かれた為に梨乃を殺害していたのだ。
梨乃が自殺とされた最大の要因である宅配業者の男性も美波の仲間だった。

そうして美波は今また梨乃を殺害しようと目論む。
毒薬を注射された梨乃は意識を失うことに……。

改めて目覚めた梨乃。
其処は天界……ではなく病室のベッドの上であった。

危機一髪、優斗が通報し警察が駆け付けたことで梨乃は助け出されたのだ。
美波と仲間たちは全て逮捕されたらしい。
梨乃殺害についても再捜査が行われるようだ。
これで真相が明らかになるだろう。
梨乃は優斗に心より感謝する。

だが、同時に1つの謎が生じた。
何故、優斗は梨乃の居場所が分かったのか?

これに少し時間を欲しいと頼み込む優斗。
その表情は沈痛さに溢れていた。

数日後、梨乃と樹の前に優斗が戻って来た。
優斗は彼自身も気付いていなかった事実を打ち明ける。

実は優斗自身も梨乃や樹同様に一度死亡した身だったのだ。
梨乃と同じ境遇だったからこそ、誰1人気付けなかった梨乃に気付くことが出来たのだ。

優斗の場合は地方からの上京直後に殺害された為に彼を良く知る人物と出会う機会が無くその死に気付かなかったらしい。
上京してからは新たな人間関係ばかりだったことも気付かなかった理由のようだ。

だが今回、梨乃に危機が及ぶことになり必死に記憶を探った結果、自身の死の光景を思い出した。
優斗自身もまた「輪廻の泉」に関係して殺害されていたのだ。
だから、梨乃の居場所を知ることが出来たのであった。

自身が既に1度死亡している―――それは大変な恐怖であったが、優斗は古い友人に会うべく帰郷した。
其処で、友人たちから優斗が梨乃や樹のように認識されないことを確認したのであった。

そして、梨乃、樹、優斗に起こったこの不思議な現象。
その正体こそ「輪廻の泉」にあった。
梨乃と優斗だけではなく、樹もまた「輪廻の泉」の関係者に轢き殺されていたのである。
どうやら、信奉者が所持する泉の水に本人の意志に関係の無い不慮の死を遂げた者を別の人物として生き返らせる力があったのだろう。

梨乃は泉の水が新たなチャンスを与えるものだと考え、この生を精一杯生き抜くことを誓うのであった―――エンド。

◆「このミステリーがすごい!」関連過去記事
【第12回】
『女王はかえらない』(降田天著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【第11回】
『生存者ゼロ』(安生正著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【第10回】
『弁護士探偵物語 天使の分け前』(法坂一広著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『僕はお父さんを訴えます』(友井羊著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』(矢樹純著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『保健室の先生は迷探偵!?』(篠原昌裕著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(岡崎琢磨著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『公開処刑人 森のくまさん』(堀内公太郎著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【第9回】
「完全なる首長竜の日」(乾緑郎著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「ラブ・ケミストリー」(喜多喜久著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「ある少女にまつわる殺人の告白」(佐藤青南著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【第8回】
「さよならドビュッシー」(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『死亡フラグが立ちました!』(七尾与史著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【第7回】
「臨床真理」(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
第13回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『女王はかえらない』に輝く!!

第12回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官(仮)』と『一千兆円の身代金(仮)』の2作に!!

第11回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『生存者ゼロ(仮)』に!!

第10回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は「懲戒弁護士」に

第9回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は「完全なる首長竜の日」に

2012年(2011年発売)ミステリ書籍ランキングまとめ!!

2011年ミステリ書籍ランキングまとめ!!

2010年ミステリ書籍ランキングまとめ!!

優秀賞受賞作『いなくなった私へ』です!!
いなくなった私へ





同じく優秀賞受賞作『深山の桜』です!!
深山の桜





『女王はかえらない (「このミス」大賞シリーズ)』です!!
女王はかえらない (「このミス」大賞シリーズ)





◆「このミステリーがすごい!」関連書籍はこちら。
posted by 俺 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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