ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
――想定外の事情で転居を迫られている谷。この部屋が買えれば全て解決?
(新潮社公式HPより)
<感想>
前々作『物件探偵 田町9分1DKの謎』(『小説新潮 2014年2月号』掲載)、前作『物件探偵 小岩20分一棟売りアパートの謎』(『小説新潮 2014年9月号』掲載)に続く『物件探偵』シリーズ第3弾です。
前作『物件探偵 小岩20分一棟売りアパートの謎』はネタバレ書評(レビュー)がありますね。
・『物件探偵 小岩20分一棟売りアパートの謎』(乾くるみ著、新潮社刊『小説新潮 2014年9月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
今回も、物件探偵・不動尊子が新たな謎に挑むことに。
その謎とは「谷に嫌がらせをしていた人物は誰か?」。
そう、「フーダニットもの」です。
尊子は全てを見抜いていたのでしょう。
だからこそ、無言のまま去らざるを得なかった。
その先に待つ結末を知る故に―――。
ただ、今回は前回『物件探偵 小岩20分一棟売りアパートの謎』に比べると些かサプライズが弱い印象。
とはいえ、此処までで興味を持った方は是非、本作それ自体を読むべし。
ちなみに、管理人の通う書店では女性作家の棚に並ぶ乾くるみ先生。
で・す・が、れっきとした男性です(これもある意味叙述か)!!
乾先生、市川尚吾名義で評論もされてます。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
谷:今回の主人公、9階の住人。
銀河:谷の息子。
新山:10階の住人。
瀬戸:谷の下の部屋(8階)に住む管理組合組合長夫婦。妻は保健所に勤務する。
マンションの9階に暮らす谷は引っ越しを考えていた。
それまでは1人暮らしを謳歌していた谷の身に、思わぬ事態が発生した為である。
なんと、別れた妻との間に出来た息子・銀河を引き取ることとなったのだ。
実は別れた妻とその再婚相手が焼死してしまい、銀河が残されてしまったのである。
銀河は20代の大人である。
本来ならば独立して暮らすべきなのだろうが、妻と生活していた際に5年ほど引き籠っていたらしい。
少しずつ社会に順応させて行くべきだろうと判断したのだ。
取り敢えず急ぎ引き取り共同生活を始めたものの、谷のマンションでは2人で暮らすには少し狭い。
其処で引越しも視野に置いていたのだが……。
そんなある日、谷は自宅があるマンションの10階が売り物件とされていることに気付いた。
これに谷は内心で快哉を叫んだ。
正直、9階での生活に不満は無い。
本来は銀河の居住スペースを確保できれば問題ないのである。
だから、あまり引越しに乗り気ではないのだ。
其処で谷は10階を購入し銀河に与えようと決めることに。
これならば、何かあってもすぐ近くなので大丈夫だろう。
これに銀河も「すぐ近くだから」と納得した。
谷はすぐに不動産会社を介して購入希望を申し込んだ。
ただし、購入者名義は谷ではなく銀河の名にしてある。
何故か?
実は谷が10階購入に前向きなのにはもう1つ理由があったのだ。
マンションの9階に暮らす谷だが、夜毎響く上階(10階)の足音に悩まされていたのだ。
10階からは常時コツコツと何か堅い物を引き摺るような音が続くのだ。
これが谷にとって不快であった。
これさえ無ければ本当に楽園のような物件なのに……。
谷は8階に住むマンションの管理組合組合長を務める瀬戸夫妻に依頼しオーナーへとクレームを入れたこともあったほどだ。
ちなみに、瀬戸夫妻はセレブ風な一家で奥さんは保健所に勤務しているそうである。
これで、あの不快な音ともおさらばだ―――谷は上機嫌だったが。
その谷を途端に不機嫌にする事件が発生したのは翌朝であった。
なんと、ベランダに鳥の死骸が投げ込まれるようになったのだ。
都合3回、偶然ではない。
明らかな嫌がらせである。
谷は10階の住人が犯人だと考え、購入さえ済めば……と耐えることに。
無事に購入手続きも終え、10階の住人が引っ越しする日がやって来た。
其処で初めて谷はあの音の正体を知ることに。
10階の住人は名を新山といい事故で義足生活を送っていた。
どうやら、あの何かを引き摺る音は義足の音だったのだ。
新山は都会暮らしに疲れたので田舎に引っ越しますと告げるとマンションを去った。
事情を知らなかったとはいえ、気まずい思いを抱えた谷。
とはいえ、これで嫌がらせも終わるだろうと10階の様子を窺う。
其処は谷が見ても大したものであった。
まさに「立つ鳥跡を濁さず」の手本のように綺麗に整理されていたのだ。
仲介した不動産業者も「これほど綺麗に部屋を使っていた人は珍しい。いやぁ、良い買い物されましたね」と太鼓判を押すほど。
流石に風呂やトイレのクリーニングこそ必要だが、数日あれば転居可能と判断されるほどのものだったのだ。
あの陰険な奴がこんな……と驚く谷。
そんな谷の前に不動尊子が現れる。
尊子は「此の部屋の利用者は澄んだ心の持ち主ですね」と断言。
これに反発する谷から事情を聞かされても、何やら眉を顰めるばかり。
そうこうしているうちに、尊子は消えてしまった。
とはいえ、現に頭痛の種は消えたのだと自身を鼓舞する谷だったが。
それから数日、未だ不快な足音は止まない。
原因は判明している―――10階に引っ越した銀河だ。
同じ階に暮らしていた際は気付かなかったが、銀河の歩き方は不快な音を立てるものだったのだ。
新山が転居したが、今度は銀河が不快な音を立て始めたのである。
これに閉口した谷はある事実に気付いた。
自分がこれだけ不快に思うということは、銀河と暮らしていた間にはすぐ下の階の瀬戸はどう思っていたか。
そして、嫌がらせの犯人に気付いた。
瀬戸だったのである。
瀬戸は保健所に勤務している。
鳥の死骸を入手することも容易い。
谷は楽園が崩壊して行く音を耳にした。
上からは相変わらず続く不快な足音。
下からは話し合いで解決を求めることなく、真っ先に陰険な報復を行う夫婦。
谷は改めて引越しを考え始めた―――エンド。
◆「乾くるみ先生」関連過去記事
【物件探偵シリーズ】
・『物件探偵 小岩20分一棟売りアパートの謎』(乾くるみ著、新潮社刊『小説新潮 2014年9月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【カラット探偵事務所シリーズ】
・『カラット探偵事務所の事件簿2』(乾くるみ著、PHP研究所刊)ネタバレ書評(レビュー)
【林四兄弟シリーズ】
・「六つの手掛り」(乾くるみ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・乾くるみ先生『イニシエーション・ラブ』(文藝春秋社刊)が映画化とのこと!!