『クララ殺し』第2話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.72 AUGUST 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。
ネタバレあります、注意!!<あらすじ>
邪悪な者たちがうごめく「ホフマン宇宙」で調査を進めるビルこと井森。彼はクララを救えるのか? 連載第二回
(東京創元社公式HPより)
<感想>
小林泰三先生の新作長編『クララ殺し』が『ミステリーズ!』にて連載中です。
本作を読み進める上で重要なのは「モチーフの解明」と「地球世界とホフマン宇宙でのアーヴァタールとの相関関係」だ、と断言しつつ感想を述べて行きたく思います。
まず、「モチーフの解明」として「ホフマン宇宙」の真の意味が今回判明。
なんと、登場人物は『くるみ割り人形とねずみの王様』だけでは無かったのです。
すなわち、ホフマンが手掛けた多数の作品世界からキャラクターが登場。
さながら「スーパーホフマン大戦」の様相を示しつつあります。
『砂男』や『黄金の壺』や『マドモワゼル・ド・スキュデリ』からキャラクターが続々登場することに。
中でも注目は『砂男』。
ナターナエルの恋人もクララだったのです。
これは本作でも有効な設定で、作中でも地球世界のくららの口からナターナエルがクララを恋人だと思い込んでいることが明かされています。
此処でキーになりそうなのは「思い込み」。
そう、くららがある「思い込み」をしている可能性が浮上しています。
もしかすると、くららにアーヴァタールは存在しないのではないか。
例えば、2話でくららについて次の事が明らかに。
くららは車椅子が無くとも動けるらしい。
また、くららはアーヴァタールの記憶が途切れがち。
そして、もう1点特筆しておかねばならないがこれまた作中で明記された「アーヴァタールは地球世界のソレと必ずしも共通点を持つとは限らない」。
前作で言えば体型も全く異なれば、性別すら異なる場合がある。
だとすれば、本当に被害者とされている「クララ=露天くらら」がそもそも正しいのか?
確かに第1話の描写では車椅子の少女が「クララ」であり「露天くらら」だと受け取れるのだが……。
くららのアーヴァタールの記憶が途切れがちなのは「彼女が自動人形」であるのを指すのか、あるいは前回述べた「二重人格説」が真実味を増して来たのか?
また、「露天」がドイツ語の「鼠」を指すのではないかとのご指摘もコメントにて頂いており、此の点かなり示唆に富んでいると思われます。
それと、2話でのくららによれば「マリー」は「クララ宅の自動人形」なのだそう。
しかし、原典によれば「マリー」は主人公であり、言わば「マリー=クララ」な筈なのですが……。
あくまで、くららからの情報なので真偽のほどは不明ですが、これまた前回触れた「実はくるみ割り人形にはさまざまなバージョンが存在する」ことがポイントになりそうです。
そして、くららの死。
井森の場合はビルが生きていた為に死自体がリセットされました。
すなわち、落とし穴の血痕は井森の物ではない。
だとすれば、くららの物と考えられます。
もしも、あれがくららの血痕だとすればくららのアーヴァタールも死亡していると考えられます。
何しろ、アーヴァタールが生存していれば井森の死と同様にくららの死もリセットされ血痕自体も残らない筈なので。
有り得るとすれば、落とし穴の血痕が別人の物。
あるいは、くららの物だとすれば「アーヴァタールが死亡」または「そもそもくららにアーヴァタールが存在しない」可能性か。
後者の場合、ドロッセルマイアーがくららにアーヴァタールの存在を思い込ませていたのかも。
これならば、くららのアーヴァタールの記憶が断片的であることも説明出来ます。
前者はともかく後者ならばサプライズになりそう。
次いで、気になるのは「諸星」と「新藤礼津」のアーヴァタール。
同時に「スキュデリ」が地球世界の誰なのか?
まず、井森は彼がくららの為に探偵役を引き受けたことを知っていたことで、諸星がそれまでに「ホフマン宇宙」で出会った人物の中に居ると考えました。
また、「ドロッセルマイアー(地球での同人物)」と「クララ(地球での露天くらら)」と判断し消去法から「コッペリウス」「スパンツァーニ」「ナターナエル」「オリンピア」の誰かと考えた。
しかし、それこそ前作でのアリスたちのこともある以上、それ以外の可能性もあり得る。
そして、新藤礼津。
彼女がスキュデリなのか?
それとも……。
「スキュデリ=礼津」ではないとすれば、礼津のアーヴァタールはビルがドロッセルマイアーに落とし穴の件を報告した際にその場に居た人物に限られる……あるいは罠を仕掛けた張本人が素知らぬふりを決め込んでいるか、だ。
果たして、礼津のアーヴァタールは誰なのか?
そして、存在だけが匂わせられている諸星の妻や娘・千秋にも注目だ。
それと、ドロッセルマイアーは山車に乗っていた3人に対しクララ殺害時にアリバイありとしていましたが……あれもかなり恣意的な判断ですね。
それこそ、「くららのアーヴァタール(敢えてクララとはしない)」は山車に乗れなかったことが分かっているので地球世界と同じく落とし穴などで殺害すれば直接手を下す必要が無いワケだし。
少なくとも「くららのアーヴァタール」が殺害されていたとしてもその死因が断定出来なければアリバイは認定出来ない筈なのだが……。
どうも、作中のドロッセルマイアーは信用出来ないところがあるなぁ。
まさに謎に次ぐ謎が。
ああ、いろいろ気になる!!
3話も見逃せそうにありません!!
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
どちらかと言えば、かなりライトにしました。
本作はもっとヘヴィかつブラックです。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
【地球】
井森:『アリス殺し』から再登場。大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
露天くらら:アーヴァタールはクララらしいが……。
ドロッセルマイアー:工学部教授。本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」。
鼠:車中で焼死していた鼠。くららを襲った車に乗っていた。
諸星:くららの知人。千秋の父。
諸星の家内:諸星の妻。諸星とは別居中。
千秋:諸星の娘。くららの教え子。
新藤礼津:謎の女性。
【ホフマン宇宙】
蜥蜴のビル:『アリス殺し』から再登場。相変わらず場を掻き乱すことに。
クララ:ビルが出会った車椅子の少女。
ドロッセルマイアー:判事。
シュタールバウム:クララの父親。
フリッツ:クララの兄。
鼠:クララ殺しを図ったとして処刑された。
スパンツァーニ:ナターナエルの師匠。
ナターナエル:スパンツァーニの弟子。
オリンピア:スパンツァーニが作った自動人形。
コッペリウス:ドロッセルマイアーと犬猿の仲の判事。
マリー:クララの友人の1人。クララ宅の自動人形。
ピルリパート:クララの友人の1人。姫。
若ドロッセルマイアー:判事と同姓同名の別人。ピルリパートの恋人。
ゼルペンティーナ:クララの友人の1人。正体は蛇。
トゥルーテ:クララ宅の自動人形。
パンタローン:スキュデリの部下。
スキュデリ:ビルに協力を申し出る。
・前回はこちら。
『クララ殺し』第1話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.71 JUNE 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)此処は地球。
蜥蜴のビルをアーヴァタールとしている大学院生・井森は車椅子の少女・露天くららに助けを求められた。
何でも、彼女の命を狙う人物が居るらしい。
本来ならば接点のない2人であったが、ビルが「地球」、「アリス世界」に次ぐ第三の世界「ホフマン宇宙」に移動していたこともあって井森はこれに巻き込まれてしまうことに。
実は、露天くららにもアーヴァタールが存在しており、それが「ホフマン宇宙」でビルと出会っていたのである。
一方、当のビルはと言えば相変わらずのんびりした様子で「ホフマン宇宙」をうろうろしていた。
とはいえ、目的は存在している。
ビルが目指すのはドロッセルマイアーに教えられた弁護士・コッペリウスのもと。
ドロッセルマイアーはコッペリウスに助力を求めるように指示したのだ。
その道中、ビルが出会ったのはスパンツァーニとナターナエルの師弟。
気の良いナターナエルであったが、コッペリウスの名を聞くや豹変してしまう。
ナターナエルはコッペリウスを砂男と呼び、恐怖していたのである。
狼狽するナターナエルにスパンツァーニはオリンピアを差し出す。
少しだけ冷静さを取り戻したナターナエルはオリンピアを口説き始める。
これを目にして呆然とするビル。
オリンピアは自動人形だったからである。
スパンツァーニによれば、ナターナエルにオリンピアを人間の娘と思い込ませているらしい。
と、其処へコッペリウスが現れた。
早速、協力を求めるビルであったがコッペリウスはこれを拒否。
「どうしても協力させたいならドロッセルマイアーを呼んで来い」と威圧する。
どうやら、ドロッセルマイアーとコッペリウスは犬猿の仲のようだ。
これをドロッセルマイアーに報告するビル。
しかし、ドロッセルマイアーは特に意に介すこともない。
初めからあてにしていなかった様子である。
一方、地球世界では井森が捜査を進めていた。
とはいえ、井森は素人である。
出来ることと言えば状況確認くらいだ。
くららから例の車による襲撃時の状況を聞き出す井森。
井森は同時にクララの「ホフマン宇宙」での交遊関係について質問。
すると、クララに3人の友人が居ることが明らかに。
まずはマリー、クララ宅の自動人形だそうだ。
次いでピルリパート、彼女は姫だそうで若いドロッセルマイアーと恋仲にあるらしい。
そしてゼルペンティーナ、彼女は蛇なのだそうだ。
ところが、クララによれば彼女は相手を友人だと思っているが相手もまた彼女を友人だと思っているかは不明らしい。
どうやら、些か一方的な関係のようだ。
くららによれば「ホフマン宇宙」で祭に参加する際にクララだけが仲間外れにされたのだそうだ。
先程も3人で山車に乗っていたと言う。
と、不意にくららが驚きの声を上げた。
知り合いに出くわしたのだ。
その相手は諸星という男性。
くららの家庭教師先である千秋の父親らしい。
諸星は井森に目を留める。
仕方なく差し障りの無い範囲で事情説明した井森。
すると、相手は井森の想像以上の理解を示し何やら頷きつつその場を去って行った。
どうやら、彼もまた「ホフマン宇宙」の住人のようだ。
井森は既にある程度事情を理解していた様子から、ビルと出会ったスパンツァーニ、ナターナエル、コッペリウス、オリンピアの誰かだろうと考える。
そんな話を続けながら歩いていた井森たちだが直後に大事件が勃発。
なんと、何者かが用意した必殺の落とし穴に露天くららが嵌ってしまったのだ。
しかも、井森までもが共に落とし穴に嵌って死亡してしまった……。
再び、「ホフマン宇宙」。
くららと井森の死をドロッセルマイアーに伝えにやって来たビル。
しかし、居合わせたのはパンタローンとトゥルーテであった。
蜥蜴であるビルの言葉に取り合わなかったパンタローンたちだが、やって来たマドモアゼル・スキュデリはビルの言葉を試してみることに。
こうして、ドロッセルマイアーが呼び出された。
くららを護れなかったと知ったドロッセルマイアーは激怒するが何ら有効な手段を採用しようとしない。
この様子を傍で見ていたスキュデリはビルの協力者に名乗り出る。
再び、地球世界。
其処では井森が生き返っていた。
いや、その死自体がそもそも無かったことにされたのだ。
そう、アーヴァタールが生きていれば地球世界での死が無効となるアレだ。
井森の場合はビルが生きている限りは無事だ。
だが、ビルに何かあればその時点で井森は死を迎えるのである。
井森はリセットされたことを不思議に思いつつ、くららの安否を確かめようとする。
ところが、井森と異なりくららの姿は其処にない。
これを伝え聞いたドロッセルマイアーは考えられる仮説を2つほど井森に提示する。
1.くららも井森と同じく生き返ったが犯人に拘束されている。
2.「ホフマン宇宙」でクララが殺害されており、連動して地球世界でもくららが死亡した。遺体自体は犯人が持ち去った。
どうやら、「ホフマン宇宙」のクララも姿が無いようだ。
いずれにしろ、くららにとって芳しくない状況であることは間違いない。
井森はドロッセルマイアーから責任を追及され、再び調査に戻ることに。
落とし穴を確認した井森は其処に血痕を発見する。
そんな井森に声をかける女性が……彼女は自身を新藤礼津と名乗る。
警察に捜索願を出そうとする井森だが、礼津はこれを押し留めた。
場合によって井森自身が疑われかねないからだ。
困惑する井森に、礼津は協力者として名乗りを上げる。
どうやら、彼女もまた「ホフマン世界」にアーヴァタールを持つ者のようだ。
おそらく、ビルとドロッセルマイアーとの遣り取りを聞いていた誰かなのだろう。
こうして、2人での捜査が始まったのだが―――3話に続く。
◆「小林泰三先生」関連過去記事
【書籍関連】
・
『アリス殺し』(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)・
『クララ殺し』第1話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.71 JUNE 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)・
『愛玩』(小林泰三著、新潮社刊『小説新潮 2015年3月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)・
「ドッキリチューブ(『完全・犯罪』収録)」(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)【その他】
・
【2014年】「啓文堂書店文芸書大賞」が決定!!栄冠は小林泰三先生『アリス殺し』(東京創元社刊)に輝く!!