2015年11月30日

『ナオミとカナコ』(奥田英朗著、幻冬舎刊)

『ナオミとカナコ』(奥田英朗著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

二人は運命を共にし、男を一人殺すことにした。
「わたしたちは親友で、共犯者」

復讐か、サバイバルか、自己実現か−−。
前代未聞の殺人劇が、今、動き始める。

望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美。
夫の酷い暴力に耐える専業主婦の加奈子。
三十歳を目前にして、受け入れがたい現実に追いつめられた二人が下した究極の選択……。
「いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那」

すべては、泥沼の日常を抜け出して、人生を取り戻すため。
わたしたちは、絶対に捕まらない−−。

ナオミとカナコの祈りにも似た決断に、やがて読者も二人の〈共犯者〉になる。
比類なき“奥田ワールド
(幻冬舎公式HPより)


<感想>

クライムサスペンス作品です。

外商の仕事に従事しながら意に沿わぬ仕事を続け日々に不満を募らせて行く直美。
結婚したものの夫・達郎からDVを受け続け不満を募らせる専業主婦・加奈子。
そんな2人が再会したことから、現状への不満が爆発し遂にはある行動に出ることに。

そんな2人の驚くべき行動は、当初こそ読者の眉を潜ませますがやがて読者を魅了して行くように。
そして何時しか読者も2人を応援し心情的な共犯者となるまでに至る……そんな作品です。
特に直美と加奈子の前に立ちはだかる達郎の妹・陽子に対しては何時しか敵役とすら認識してしまいかねないほど。

これはつまり、著者である奥田先生の視点が直美と加奈子側にあることを示している。
その筆は直美と加奈子に優しいのだ。

だが、直美と加奈子は追われる身。
当然、そのラストは些か不穏な物となっている。
一見、2人は自由を掴んだかに見える。
しかし、自由を掴んだとは明記されていないのだ。
あの直後に、黒服の男たちが現れて2人を拘束しても不思議ではない。
此の点で、現代版「明日に向かって撃て!」と言えるかもしれない。

なお、あらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読まれることをオススメ致します。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
直美:外商部に勤務する女性。
加奈子:夫・達郎にDVを受け続ける女性。
達郎:加奈子の夫。
陽子:達郎の妹。


外商部に勤務する直美は仕事が出来るにも関わらず、周囲から認められずその存在を軽んじられていた。
学生時代に望んだ未来と余りに乖離した現実に直美は押し潰されそうになっていた。

一方、夫・達郎と結婚し幸せを掴んだかに見えた加奈子。
だが、加奈子は達郎からDVを受けるようになってしまう。

そんな直美と加奈子が再会した。
2人は大学時代の同級生だったのだ。
学生時代を思い返し、現在の境遇について打ち明け合う2人は互いに思わぬ未来を歩いていることに苦笑を禁じ得ない。
だが、何処かで2人は共鳴していた。

数日後、直美は達郎に良く似た外国人を発見し一計を案じる。
達郎を殺害し人知れず処分すると、これに良く似た外国人を達郎を名乗らせ国外へ行かせるのだ。
これで書類上は達郎は帰国することなく国外に居続けることになる。
そうすれば達郎殺害は露見しない。
直美は加奈子と共謀し、達郎殺害計画を実行に移す。

達郎の死体を2人でトランクに詰めて運び出し処分し、偽物の達郎も国外へと無事に出発した。
こうして計画は成功したかに思われたが……。

思わぬ障害が立ち塞がることに。
達郎の妹・陽子だ。
達郎を愛する陽子は彼の失踪を疑い、興信所を用いて加奈子を調べ始めた。

陽子の執念は直美と加奈子を追い詰めていく。
陽子の行動により、達郎の失踪が疑問視され始めた。
警察までもが動き出し、遂に2人が達郎の死体を運び出したことまで防犯カメラ映像から突き止められてしまった。

進退窮した直美と加奈子は国外逃亡を目論む。
この動きを逸早く掴んだ陽子は興信所の職員と共に逃亡阻止を狙う。

しかし、直美と加奈子の行動力は陽子を上回った。
2人は陽子の追跡を振り切ると空港へと辿り着く。
彼女たちの自由はもうすぐ其処である―――エンド。

◆関連過去記事
『オリンピックの身代金』(奥田英朗著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

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「ナオミとカナコ」です!!
ナオミとカナコ



キンドル版「ナオミとカナコ」です!!
ナオミとカナコ

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『炎』(三浦しをん著、新潮社刊『天国旅行』収録)

『炎』(三浦しをん著、新潮社刊『天国旅行』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

愛の果ての、救いを求めて。40万部突破『きみはポラリス』に続く人生が愛おしくなる7つの物語。

現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意──。出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。すべての心に希望が灯る傑作短編集。
(新潮社公式HPより)


<感想>

本作『炎』は短編集『天国旅行』に収録された作品。

化粧オバケの中で唯一、亜利沙が認めた初音は「女王」でした。
そして「女王」は常に他者を従えるもの。

亜利沙は「女王」に声をかけられたことで高揚感を抱き、彼女に操られてしまいました。
結果、「女王」の罪を問うべく立木が起こした「炎」は、操られた亜利沙が風向きを変えてしまったことで、別の人物を焼くことに。
こうして2人の男が消え、亜利沙は存在を忘却され、焼け野原に残るのは超然と立つ「女王」のみ。
最終的な勝利者は「女王」でした。

もしかすると、木下が婚約したのもそんな「女王」を怖れて逃げようとした結果だったのかもしれません。

なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
亜利沙:目立たないことを自覚している女子生徒。
初音:悔しいながらも亜利沙が認めている同級生。
立木:亜利沙が憧れる先輩。
木下:社会科教師。


亜利沙は目立たないことを自覚している女子高生。
自分自身で自身の限界を弁え、それに沿って穏やかに生きている。
だが、ただ1つだけ譲れないことがあった。

それは密かに想いを寄せる先輩・立木を見守ることだ。
もちろん、恋が叶うなどとは思っていない。
その証拠に立木には初音と言う恋人が居る。

初音は亜利沙が「化粧オバケ」と呼ぶ面々のリーダーである。
「化粧オバケ」とは、派手なメイクを施し常に集団で行動しているグループだ。
亜利沙ははこれを快く思っていない。

だが、初音だけは異なっていた。
明らかにその他の面々とは一線を画しており、悠然と微笑むその姿は「女王」を思い起こさせた。
亜利沙は悔しいながらも立木が初音を選ぶ理由が何となく理解出来た。
美男美女のカップルは傍目にもお似合いに見えたのだ。

ところがある日のこと、立木が部活中に油を被って焼身自殺を遂げてしまう。
噂によれば、初音と何かあったらしい。
憧れの立木の死に動揺する亜利沙。

そんな亜利沙に初音が声をかけて来た。
立木の死の真相を調べよう、と。
初音に声をかけられたことに高揚感を抱いた亜利沙は行動を共にする。

初音は立木の家庭環境について明かす。
立木は母子家庭で育っており、初音は其処に原因があるのではないかと考えているようだ。

立木の自宅へ亜利沙を案内する初音。
留守だったこともあって上り込むと、押入れから立木の遺書らしき手紙を見つけ出す。

それには社会科教師の木下と立木の母が交際しており、木下が別の女性と婚約したことが原因で母がショックを受けてしまったと書かれていた。
さらに、これに抗議するべく死を選ぶとも。

翌日、登校した亜利沙は木下の婚約を確認し遺書が本物であると結論付けた。

直後に、学校の屋上で騒動が勃発。
なんと、初音が屋上から飛び降りようとしていたのだ。
止めようとする周囲に対し、初音は亜利沙を名指しし共に来るように誘う。
これに応じた亜利沙は屋上から地面を覗き込むことに。
下には木下が顔面蒼白で立っていた。

そして、初音は叫ぶ。
「罪人の罪を問う」と。
まるでこれに応じるように木下は跪き土下座を始めた。
ざわめく生徒たちの中、教職員が木下を引き摺る様に連れて行く……。
後日、木下は別の学校へ異動することとなった。

さらに数日が経過し、初音が恋人・立木の仇を取ったとの噂が出回り始めた。
初音の校内での地位は一層向上することとなった。

だが、この一件で亜利沙は初音の本性を見抜いた。

初音との友情を裏切ることになると考えた亜利沙は、立木の遺書について誰にも明かさなかったのだ。
噂の出処は初音本人しかあり得ない。
此処で亜利沙は気付いた。
すべて初音に誘導されていたことに。

立木の家とされる場所も別の場所だったとしたら?
立木の遺書も別人の手による物だったとしたら?
初音が自身を守り木下を追いやる為の工作に手を貸してしまったのだとしたら?

木下と交際していたのは立木の母ではなく初音だったのだ。
一方で、初音は立木とも交際していた。
二股交際だ。

だが、初音は立木を捨てたのだろう。
捨てられた立木は初音の行為を批判すべく焼身自殺を遂げた。

これに初音はたじろいだ。
そんな折、木下が初音を捨てて婚約することになった。

初音は木下をスケープゴートにすることで復讐を果たしつつ、自身の評価を上げる計画を立てた。
それがあの一連の冒険だ。
計画はすべて上手く行った。

最後に亜利沙が証人として初音の素晴らしさを周囲に吹聴する筈であったが、何故か噂にならない。
其処で初音自身が噂を流したのだろう。
これが全てであった。

あれ以来、初音は亜利沙に声をかけようともしない。
周囲からは亜利沙の存在すら忘れられようとしている。
そんな中、初音は今日も「化粧オバケ」たちの中で悠然と微笑んでいる―――エンド。

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「天国旅行 (新潮文庫)」です!!
天国旅行 (新潮文庫)



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