2015年12月05日

「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」第51話「霊感少年と黄多川礼の事情」(木々津克久作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」第51話「霊感少年と黄多川礼の事情」(木々津克久作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

第51話登場人物一覧:
赤木蛍:主人公。今年の春から「聖マルス学園」に特待生として進学した。
圭一:蛍の兄。正義感の強い警官だったが失踪。幽霊となって戻って来た。

緑川楓:蛍のクラスメート。実は少女探偵であった。
真島慎一:蛍の幼馴染。彼女に恋心を抱いている。9話から登場。

黄多川礼:「聖マルス学園」の女子生徒。実は武闘派。
清水宗徳:「聖マルス学園」の男子生徒。霊能力者を名乗る。
礼の伯父:武術師範。原因不明の体調不良により入院中。

これまでの登場人物については過去記事リンクの後に記載しています。

<ネタバレあらすじ>

〜〜〜これまでのあらすじ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

高校生になった赤木蛍は行方不明となっていた兄・圭一と思わぬ形で再会を果たすことに。
なんと、圭一が幽霊として蛍のもとに戻って来たのだ。
しかも、圭一は悪意が関わる事件を察知し悪意を消滅させる能力を手に入れていた。
だが、圭一は現世に介入することが出来ない。
これでは折角の力も無意味である。
其処で圭一から協力を求められた蛍は、兄妹で力を合わせ1人でも多くの人を助けるべく動き出すことに。

・前回までのあらすじはこちら。
「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」第50話「捏造怪談2」(木々津克久作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

いつもの登校風景があった。
道端を歩く蛍と圭一、そんな蛍に背後からやって来た礼が声をかける。
次いで自然な流れで礼の視線が蛍の隣に向かう、其処に居るのは圭一だ。

少し何かに戸惑う様子の礼。
だが、特に礼は圭一に触れることなく笑顔を取り戻す。

最近はこれが毎朝のように繰り返されていた。
此の時、蛍はいつもドキッとするのだ。
もしかして、礼には圭一が見えているのではないか?
だが、礼は圭一に触れる様子はない。
人当たり良さそうに見える礼の正体と勘の良さを知るだけに蛍は気が気では無い。

と、登校した蛍に楓が声をかけて来た。
ある調査に協力して欲しいらしい。

それは「聖マルス学園」内に存在する霊能力者のこと。
今朝方になって電車事故が起こったのだが、その生徒がツイッター上で事故を予言していたと言うのだ。
楓は生徒が事故を仕組んだのではないかと疑っているようだ。
まさか、予言成就の為に犯罪に手を染めるなんて……疑問を抱く蛍。

数時間後、体育の授業でのこと。
もちろん、其処には蛍、楓、礼の姿がある。
本日も授業内容は柔道のようで蛍に組手を挑む礼。
とはいえ、礼の正体を知る蛍は逃げの一手だ。

「ちぇっ、少しは楽しめそうだったのに……」
心底悔しがる礼だが次の獲物に目を付ける、楓だ。
数分後、楓の悲鳴が柔道場に響いた―――。

横たわりピクリとも動かない楓をよそに休憩する蛍と礼。
いや、蛍の表情は心なしか引きつっているようだ。

そんな蛍に礼は彼女の伯父が原因不明の急病で入院していることを語る。
礼によれば伯父の身体には黒い塊が見えるらしい。
ところが、誰もそれに気付かないと言う。
其処で学園内で評判の霊能力者に助けを求めようと考えているらしい。
すなわち、例の事故を言い当てた予言者のことだ。

楓から調査協力を受けていたこともあって同行を申し出る蛍。
そんな蛍に感謝する礼。
一方、楓は未だ床に伏し微動だにしない……。

放課後、ツイッターで予言を行った生徒・清水宗徳を訪ねた蛍と礼。
清水によれば彼は毎日のようにツイッターで予言を行っているそうだ。
ふと何かに気付いた蛍は清水のアカウントを調べ始める。

当の清水は礼の伯父の容態を聞くや「次男の祟りだ」と断言する。
これを聞いて「どうすれば回復するか」について問う礼。
ところが、その隣の蛍が笑い出した。

清水がペテンだと見破ったのだ。
蛍は清水のトリックについて語り出した。

清水はそれと知らせず予め数十にわたるアカウントを用意していたのだ。
当たれば「あのアカウントのアレは自分の予言だ」と主張し、外せば黙っていれば良い。
これを繰り返し予言者を名乗ったのである。

加えて、その内容にもトリックがあった。
あくまで予言とも解釈可能な曖昧な表現で呟きを重ねたのだ。
例えば今回の場合だと「電車は避けた方が吉」などと言った具合だ。
これならば、必ずしも電車事故を示しているワケではない。
また、具体的な事故の内容を示しているワケでもないから通常の事故でも遅延事故でも通用する。

つまり「予言が先で結果が出る」のではなく「結果に合せて予言が選択されていた」のだ。
蛍に見破られた清水はソレがトリックであることを認めた。
何より、清水が圭一を目視出来なかったことが蛍にペテンを確信させる決め手だったのは言うまでもない。

こうして礼を救った蛍。
だが、まだ事件は解決していない。
蛍は彼女の伯父についても調べようと入院先へ。

礼の伯父を一目見た蛍は驚愕する。
確かにその身体には黒い塊が付着している。
だが、蛍が驚いたのはその塊に浮かび上がった顔である。
それは「十二人委員」によって殺害された人々であった。

礼の伯父は武術師範らしい。
もしかすると、礼の伯父は武術師範として警察に関わっているのではないか。
だとすれば、彼も「十二人委員」のメンバーなのか―――次話に続く。

ネタバレあらすじはまとめ易いように展開などをかなり改変してます。
気になる詳細は「週刊少年チャンピオン」本誌で確認せよ!!

<感想>

「名探偵マーニー」から3ヶ月……我らが木々津克久先生が「週刊少年チャンピオン」に還って来た!!
というワケで、その新作「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」です。
1巻、2巻、3巻、4巻に続き、早くも5巻が発売!!

さて、その51話。
サブタイは「霊感少年と黄多川礼の事情」。

今回は、43話「緑川楓の冒険」に続き、蛍周辺に現れた「十二人委員」の影についてのエピソードとなっています。

「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」第43話「緑川楓の冒険」(木々津克久作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

やはり、色つきの5人(赤木蛍、緑川楓、桃園霧子、黄多川礼、青葉)がコレと対抗しそう。
もしかすると、蛍にとっての圭一、礼にとっての伯父のように5人それぞれ何らかの形で関与している可能性もあるのか?

とはいえ、気になるのは礼の伯父の立場。
とりあえず、考えられそうな可能性は次の3つ。

1.礼の伯父は「十二人委員」のメンバーであり、被害者から報復を受けている。
2.礼の伯父は「十二人委員」のメンバーではないが、「十二人委員」に恨まれ悪意を差し向けられた。
3.礼の伯父は「十二人委員」のメンバーであるが、メンバー内で争いがあり悪意を差し向けられた。

2とか3だと「十二人委員」が「悪意」を自在に操ることが出来ることになるが果たして!?

また気になるのは「圭一に霊感があり、生前から事前予知が可能だったらしい」こと。
これに、これまでのエピソードにて語られていたポイントを重ねてみよう。

まず、「フックマン」と「怪物のセオリー」により「人と悪意のコンビ」が描かれた。
続いて、「ザ・ボディーガード」と「鬼のいる村」により「黒幕が個人ではなく集合意志である」ことも描かれた。
もしかすると「十二人委員」も「集合意志」であり「人と悪意のコンビ」なのではないか。
だからこそ、生前から霊感に鋭かった圭一がその存在に気付き捜査をすることとなった。
だが、圭一は察知は出来るが当時は対抗手段を持ち得なかった為に敗れたのではないか。
其処で妹である蛍の力を借りて戦いを挑むこととなるのか?
いろいろ気になりますね。

ちなみに、今回のトリックはあるマジックに通じますね。
例えば、トランプの1枚を聴衆の1人に選ばせておき、マジシャンがこれを予知していたと別の場所から同じ柄と数字のカードを取り出すマジック。
あの場合も聴衆から柄と数字を聞いた後に「実は……」とおもむろに隠していたカードを取り出すのですが、事前に複数のカードを複数の場所に隠しておくことで、どのパターンにも対応出来るようになっています。
今回の場合は「トランプの代わりにツイッター」、「別の場所の代わりにアカウント」となっています。

また、これを本作と同じようにアレンジしたトリックに東野圭吾先生「ガリレオシリーズ」の一編『攪乱す』(文藝春秋社刊『ガリレオの苦悩』収録)もありますね。
このトリックの特徴として「当たった後に主張する」ことが挙げられます。
今回の51話ではこれがツイッター上で適用されていたことがポイントでした。

『ガリレオの苦悩』(東野圭吾著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「ガリレオ」第9話「攪乱す(みだす) 狙われた湯川!!悪魔の手の恐怖実験」(6月10日放送)ネタバレ批評(レビュー)

やっぱり、本作は面白い!!
次回にも注目です!!

木々津克久先生といえば「フランケン・ふらん―OCTOPUS―」が『拡張幻想 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編、東京創元社刊)に掲載されています。
こちらも注目。

木々津克久先生が「週刊少年チャンピオン」本誌に帰還する!!2012年8月16日より探偵物語「名探偵マーニー」連載開始!!

さて、作者である木々津克久先生と言えば、管理人にとっては「週刊少年チャンピオン」本誌での「ヘレンesp」の作家さんとのイメージ。

「ヘレンesp」は、盲目のヘレンがその特別な力(ESP能力)を駆使し、愛犬や叔父さんたちに見守られながら同年代の友人や幽霊など様々なものと交流する物語。

衝突したり理解し合えなかったりと苦難がヘレンを襲うものの、その都度ヘレンの純粋な心で相手に向き合い相手との心の壁を乗り越えていくさまは、心に響きました。
確かにあらすじだけ聞くとよくある展開かと思うものの、本作は不思議な“熱”と“説得力”を持っており、透明感のある淡い絵柄も加え、なかなかの名作といえるでしょう。

既に連載自体は終了していますが、こちらもオススメです。

◆「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」関連過去記事
「兄妹〜少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿〜」(木々津克久作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)第1話から第50話までネタバレ批評(レビュー)まとめ

◆関連過去記事
「名探偵マーニー」(木々津克久作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)まとめ

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これまでの登場人物一覧:
赤木蛍:主人公。今年の春から「聖マルス学園」に特待生として進学した。
圭一:蛍の兄。正義感の強い警官だったが失踪。幽霊となって戻って来た。

獣を連れた男(10人と1匹の獣):圭一の死に関わる人物。獣は殺意のことらしい。
PND(疑われざる者):静香によれば圭一が追っていた謎の人物らしい。獣を連れた男と同一人物なのか?
十二人委員会:警察内部に存在する犯罪者を私的制裁する組織、メンバーは12人居るらしい。
フード男:「十二人委員」の1人。展望台から多くの犯罪者を抹殺した。

死神:黒い影の男の正体。「桐島静香の秘密」「謎の桃園」「騙された死神」「母の父」に登場。

【赤木家とその周辺】
蛍の父:赤木興業の社長。
赤木真知恵:蛍の母。バーのような店を経営している様子。
節:蛍の妹。
和也:蛍の弟。

紀理香:真知恵の姉、長女。
陽香:真知恵の姉、次女。
おじいちゃん:真知恵の父、蛍にとっては母方の祖父。44話で死去。

謎の少年:蛍の初恋相手らしい。11話に登場。
真島慎一:蛍の幼馴染。彼女に恋心を抱いている。9話から登場。

【聖マルス学園関係者】
緑川楓:蛍のクラスメート。実は少女探偵であった。
桃園霧子:「聖マルス学園」2年生とされる謎の令嬢。「謎の桃園」「崖の下の呪い家」「恋する桃園」「オバケの出る公園」に登場。
青葉:「聖マルス学園」2年生女子、学園1の天才。
黄多川礼:「聖マルス学園」の女子生徒。実は武闘派。

志田りか:聖マルス学園の生徒。2話から登場。
塞田康平:蛍のクラスの担任教師。割とミーハーらしい。
見場創太:3話ラストに登場した怪しい男。学園の生徒であった。
校長:聖マルス学園の校長。
教頭:聖マルス学園の教頭。
千葉:鐘楼登頂に挑み謎の転落死を遂げた男子学生。
沼代:22話ラストで鐘楼登頂に挑んでいた男子学生。
5人の成功者:過去に鐘楼に登頂することに成功した面々。
五島:5人の成功者の1人だが……。
東条春道:霧子の幼馴染、人気者。
創さん:「聖マルス学園」の成績優秀者。
野間:「聖マルス学園」の成績優秀者。
郷里良子:「聖マルス学園」の女子生徒。「ザ・ボディーガード」に登場。
垣木:「聖マルス学園」の女子生徒。柔道部の猛者だが……。「ザ・ボディーガード」に登場。
清水宗徳:「聖マルス学園」の男子生徒。霊能力者を名乗る。

【警察関係者】
緑川宗達:楓の祖父。推理能力に長けた名刑事として有名らしい。
逸見:楓の知人の刑事。
桐島静香:圭一の同期であるキャリア。現在は警察署長に。
大島:南具署の刑事。
光芝:圭一と静香の同期。
久毛山:圭一と静香の同期。
紅梅:圭一と静香の同期。
二階堂:警部。白い服の男。静香に想いを寄せていたらしい。
山本巡査長:在りし日の圭一の上司。今は田舎の派出所に勤務している。
蓮宮:県警の担当者。
礼の伯父:武術師範。原因不明の体調不良により入院中。

【その他】
志田高志:りかの兄。りかにストーカーしているとのことだが……。
実山:赤木興業を担当している会計士。
貝塚俊雄:実山会計士事務所の職員。比較的若手。
役丸みつえ:実山会計士事務所の職員。紅一点。
三島:実山会計士事務所の職員。太目。
丸木田:実山会計士事務所の職員。ダンディ。
麻依:貝塚の元婚約者。
緑川宗達:楓の祖父。推理能力に長けた名刑事として有名らしい。
末為良則:12話で遺体で発見される。場津間高校の教師であった。
逸見:楓の知人の刑事。
葉森了:場津間高校の学生。末為の教え子。
葉森美和:蛍が廃病院で出会った女性。了の母で入院していた毛羽病院で落命していた。
間岩:米城警察病院の看護師。
怪物:人中に居ようとも誰も興味を向けない怪物。
大人しい人間:怪物に付き添う不可思議な人影。
栗山将秋:怪物たちが暮らしている部屋の契約者。
三ツ矢:誘拐事件の被害者とされる子供の母親。
満島:節の担任教師。
鏡二郎:呪いの家の過去の所有者。
円卓:「占いの館」の占い師の1人、「ジュエル」を名乗っていた。「緑川楓の誤算」に登場。
蝶野:「占いの館」の占い師の1人、「カラスアゲハ」を名乗っていた。「緑川楓の誤算」に登場。
丹下七郎:携帯ショップの店員、35歳。「騙された死神」に登場。
真利奈:七郎の姪。「騙された死神」に登場。
能美功次:「城町西学園」の成績優秀者。「フックマン」を抱えている。
能美一郎:過去に町止小学校襲撃殺傷事件を引き起こした犯人、当時37歳であった。
三橋:能美一郎と親しかった男性。
赤沼茂樹:工学部の院生、ミステリーマニア。
広重将美:赤沼の同期、テレビで一躍大ブレイクを遂げた著名人。
奥宮サキ:墓地で殺害された被害女性。
荒井忠良:サキと交際していた男性、姿を消している。
君近良雄:サキと交際していた男性、姿を消している。

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『平凡』(角田光代著、新潮社刊『平凡』収録)

『平凡』(角田光代著、新潮社刊『平凡』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

つい想像してしまう。もしかしたら、私の人生、ぜんぜん違ったんじゃないかって――。

もし、あの人と別れていなければ。結婚していなければ。子どもが出来ていなければ。仕事を辞めていなければ。仕事を辞めていれば……。もしかしたら私の「もう一つの人生」があったのかな。どこに行ったって絶対、選ばなかった方のことを想像してしまう。あなたもきっと思い当たるはず、6人の「もしかしたら」を描く作品集。
(新潮社公式HPより)


<感想>

本作『平凡』は同名短編集に収録された作品。
「平凡」との言葉を通じて「幸せ」の本当の意味を問いかけています。

「平凡」とは「その人にとって幸せ」であること。
其処には「ずば抜けて良いこと」も「ずば抜けて悪いこと」も無い代わりに「平穏」がある。

逆に「非日常」は「ずば抜けて良いこと」もあるが「ずば抜けて悪いこと」もある。
それが続くことは刺激的ではあるが「平凡」からも「平穏」からも遠くなるでしょう。

例えば「非日常」の代表には「冠婚葬祭」がある。
其処には「祝事(結婚)」もあるが「弔事(葬儀)」もある。
「非日常」とはかくも極端なのです。

また、誰しもが「ずば抜けて良いこと」が続くよう願いますが、これはかなり難しい。
だが、「平凡」な日々を続けることは決して不可能ではない。

本作では紀美子と春花を通じて此の点が描かれていました。

紀美子にとって春花は著名な料理研究家として「非日常」に生きる存在。
だが、松井のことを気にしつつもツイッターでファンと接していたように、春花にとってはそれこそが「普通」であり「平凡」であった。
また、そんな春花だからこそ、紀美子はラストで彼女のそんな日々が続くよう「平凡」を祈ることが出来た。

一方で、春花にとって紀美子は学生時代の恋を成就させるとの「非日常」を達成した存在でもあるワケで。
だが、紀美子にとってのそれは「平凡」に過ぎない。

こうして見ると互いに互いが「非日常」でありながら、本人にとっては「平凡」である。
いわゆる「隣の芝生は〜〜〜」というヤツですね。

そして、紀美子は春花を通じて自身が夫と共に生きる今の「平凡」の大切さを知った。
異なる道を歩もうとも、紀美子も春花も互いに互いの「平凡」を生きていたのです。

なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
紀美子:主婦、春花の友人。
春花:料理研究家、紀美子の友人。
松井大介:焼死を遂げた人物。


紀美子にとって春花は非日常の象徴となっていた。
そんな春花が彼女を訪ねてやって来ると言う。
紀美子は大きな期待に胸を弾ませていた。

紀美子と春花は高校時代の同級生。
当時、多くの時間を共に過ごし、互いに夢について語り合いもした。
もちろん、恋もした。
その結果は意外な物となったが……。

それが今は片や平凡な主婦、片や著名な料理研究家として知られていた。
子供の居ない紀美子は日々、夫の世話に明け暮れパートに勤しんでは四苦八苦している。
一方、春花はテレビに出演し続け華やかな世界で脚光を浴びている。
共に郷里を出たにも関わらず、この差は何なのだろうか?

紀美子は春花にコンプレックスを抱かざるを得なかった。
だが、その反面で強く誇りにも思っていたのである。
春花は紀美子にとって感情を強く揺さぶる存在であり、平凡な日常を忘れさせてくれる存在だったのだ。

ところが、ようやく再会した春花は紀美子そっちのけで「松井大介」についてしか話そうとしない。

松井大介は数日前に火事で焼死を遂げた男性である。
妻子も巻き込まれたらしく、こちらは入院していた。
どうやら、春花は報道で松井の死を知り、彼女の知る人物と同じかどうか確認したいらしい。

紀美子に松井の妻子の入院先へ向かうよう依頼する春花。
そんな春花に不満を抱きつつも素直に従う紀美子。

さて、いざ病院に辿り着いたところで紀美子は「顔を知られている春花では不都合があるだろうから、代わり確認して来る」と提案する。
これに何やらスマホを触りつつ礼を述べる春花。

だが、紀美子の狙いは別にあった。
松井に拘る春花が面白くない紀美子、最初から調べるつもりはさらさらない。
少し売店で時間を潰して戻ると「違う人みたい」と嘘を吐く。

そんなこととは知らない春花は深く安堵の溜息を吐くと、ようやく事情を語り始めた。
春花は松井を呪ったのだと言う。

数年前、恋に破れ故郷を出た春花は新たな恋を見つけた。
それが松井であった。
しかし、結婚を望む春花に対し松井は拒否し続けた。
結果、春花が切り出して松井と別れた。

ところが、それから暫くして春花は松井が別の女性と結婚したとの報を耳にすることに。
春花は激怒した。
あれほど頑なに自身との結婚を拒否しておきながら、他の女性とはあっさり結婚したことが許せなかったのだ。

其処で春花は松井を「平凡であれ」と呪った。
しかし、彼の死までは望んでいなかったのだ。
だから、もしも松井が本当に死亡したとしたら……と気がかりになったのだと言う。

これを聞いて紀美子は春花も自分と同じだったのだと気付いた。
あれほど脚光を浴びている春花も1人の女性なのだ、と。
また、春花の呪いが、実は松井に「平凡ながらも生きて居て欲しい」との祈りであることも。

紀美子は春花と共に過ごした高校時代を改めて思い出した。
2人は同じ人物に恋をした、当時の教育実習性の男性だ。
2人は互いに抜け駆けしない約束を交わした。
だが、紀美子は先に相手に告白し交際することとなった。
教育実習生に恋人が出来たと知った春花は傷心し街を去った。

もしも、立場が逆であったならどうなっていたのだろうか?
紀美子は思う。
ちなみに、その教育実習生こそ今の紀美子の夫である。
2人の間には子供が出来ない。

春花に対しての様々な想いが氷解した紀美子。
そんな紀美子に対し、春花は「戻らなきゃ」と告げる。
春花には次の仕事が待っているらしい、その合間を縫っての行動だったのだ。

別れを惜しみ、改めての再会を約す2人。
紀美子はコンプレックスを克服し、素直に春花の「平凡」を祈り送り出す。

ふと、春花のツイッターで「旧友と再会なう」と呟かれていないか気になった紀美子。
覗いてみると春花らしくレシピが呟かれていた。
しかも、その時間はあの病院での待ち時間だったのである。
何やら嬉しくなった紀美子はツイートの内容を何度となく繰り返すのであった―――エンド。

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「平凡」です!!
平凡



キンドル版「平凡」です!!
平凡

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