2015年12月19日

『水晶の数珠』(東野圭吾著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー 2016』掲載)

『水晶の数珠』(東野圭吾著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

今年も来ました!!
『宝石 ザ ミステリー』に東野圭吾先生の読切短編が掲載です。

今回の短編は『水晶の数珠』。

アメリカで俳優を目指す度会直樹。
そんな直樹と不仲になっている父・真一郎の心の交流を不思議なアイテム「水晶の数珠」を通じて描きます。

父は子のことを思っていた。
そして、子もまたそんな父の想いを受けて前へ進む。
良いですね、王道です。

ちなみに、絶大な効果を誇る「水晶の数珠」の力ですが意外と限定されそうです。
特に、結果が出るまでに時間がかかる経営には向かないだろうなぁ……。
何しろ、あくまで1日で結果が出ることにしか使えないので。
その点、直樹の祖父の使い方こそが適切な気がする。
真一郎は心の支えとしてのみ使ったのかもしれませんね。
とはいえ、使いどころを誤らなければその効果は抜群な筈。

ちなみに、ネタバレあらすじはかなり改変を加えています。
本作を楽しむには本作それ自体をご覧頂くことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
度会直樹:主人公、アメリカで俳優を目指している
度会真一郎:直樹の父、巨大企業の経営者


度会直樹はアメリカで俳優を目指す青年。
ある日、日本に居る姉から巨大企業を率いる父・真一郎が余命幾許も無い状態であることを知らされる。
姉は直樹の誕生日が近いことを理由に帰国を促して来た。

これを渋る直樹。
実は直樹は真一郎の後継者の座を蹴って夢を追っていた。
真一郎はそんな直樹を批判し絶縁状態にあったのだ。

だが、直樹は夢に挫けつつあった。
幾多のオーディションを重ねても一向に芽が出なかったからである。
ちょうど姉に帰国を促された日に行われるオーディションが最後の希望だったのだ。

迷いを抱えた直樹だが、オーディションの日が少しずれていたことから姉の言葉に従い帰国することに。
空港を出てJRに乗り込んだ直樹、其処に真一郎から電話が入る。
真一郎は直樹を夢に破れた負け犬と罵り、売り言葉に買い言葉で腹を立てた直樹はその場で引き換えし再びアメリカに戻った。

ただ、直樹には幾つかの謎が残された。
説教をするならば目の前ですれば良かったものを、どうして電話で済ませようとしたのか?
そもそも、直樹の電話番号を真一郎は知らない筈なのだが……。

それから三週間後、真一郎がこの世を去り直樹は再び帰国した。
直樹を出迎えた親戚は一様に彼を励ます。
度会家には代々伝わる秘伝の「水晶の数珠」があり、これを用いることで不可能を可能に出来るらしい。
直樹の祖父は「水晶の数珠」で相場で莫大な富を築いたのだそうだ。
真一郎もまるで何かを確信したかのように要所要所で勝負に出て悉く勝ちを収めていた。

その「水晶の数珠」を真一郎亡き今、直樹が相続することとなったのだ。
真一郎の遺書を目にした直樹、其処には「水晶の数珠」と共にその使用法が記されていた。

それによると「水晶の数珠」は「使用者一人につき一生に一度、一日だけ過去に戻ることを可能にする数珠」なのだそうだ。
使用者が死亡し、次の使用者の手に渡ることで使用回数は復活する。

直樹の祖父が相場で財を成したのも、相場の結果を確認し前日に戻ることで大儲けを可能にしたのだ。
真一郎もこれがあるからこそ大胆な勝負に出られたのだ。
だが、真一郎によれば幸いなことにごく最近まで使うことが無かったらしい。

半信半疑ながらも「水晶の数珠」を相続した直樹。
だが、直樹の心は乱れていた。
例のオーディションは結局上手く行かなかったのだ。
果たして父の後を継ぐべきか、引き続き夢を追うべきか……。
とりあえず、アメリカに戻ることにした直樹は帰路の駅である騒ぎに遭遇する。

なんでも三週間ほど前に小型飛行機が墜落する事故があり、駅が不通になる事故が起こっていたそうだ。
これが解消されるのに一週間を費やしていたらしい。

此処で直樹は先の疑問の答えを見出した。
直樹を怒らせると知りつつ行われた急な電話での説教。
何故か知られていた電話番号。
つい最近まで使用されなかった「水晶の数珠」。
全てが繋がったのだ。

おそらく真一郎は既に直樹と会っていたのだ。
本来ならば、その場で和解し直樹が電話番号を教えたに違いない。
だが、オーディションの為に渡米しようとしたところで事故によりこれが叶わなくなった。
真一郎はそれを知っていた。
其処で「水晶の数珠」を用いて1日前に戻ると、オーディションを受けさせるべく敢えて引き返すように誘導したに違いない。

これを悟った直樹は亡き真一郎の後押しを受けて夢を追うことを決意する―――エンド。

◆関連過去記事
【東野圭吾先生原作ドラマ関連】
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金曜プレステージ「東野圭吾・3週連続スペシャル第三弾!“回廊亭殺人事件” 最愛の恋人を殺され復讐の鬼と化した女…整形で顔を変え巨額遺産をめぐり欲望渦巻く一族に潜入!愛を奪った犯人は誰なのか?」(6月24日放送)ネタバレ批評(レビュー)

金曜プレステージ 東野圭吾スペシャル 探偵倶楽部「大ヒット原作ドラマ化!名探偵最強コンビ誕生!大物社長突然の失踪に隠されたセレブ一族の醜い骨肉の争い…消える死体…驚愕密室トリックを暴け!」(10月22日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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「新参者」(TBS、2010年)

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【その他】
米国版「容疑者Xの献身」発売される!!タイトルは「The Devotion of Suspect X」!!

韓国版『白夜行』遂に上陸!!2012年1月7日(土)日本公開!!

東野圭吾先生「人気作品ランキング」中間結果発表!!

東野圭吾先生が中国でブームに!?

東野圭吾先生「容疑者Xの献身」が上海で舞台化!!

東野圭吾先生原作『浪花少年探偵団シリーズ』(講談社刊)がTBS系月曜20時枠にてドラマ化決定!!

「エドガー賞 最優秀小説(作品)賞」受賞作発表、モー・ヘイダー『Gone(ゴーン)』に!!

東野圭吾先生原作の映画版『麒麟の翼』『夜明けの街で』『さまよう刃』が台湾にて2012年4月20日より公開!!

東野圭吾先生『容疑者Xの献身』がエドガー賞候補に!!気になる結果は2012年4月26日!!でも、何故2012年の今なのか、知りたいと思いませんか!?

東野圭吾先生『プラチナデータ』(幻冬舎刊)が映画化!!公開は2013年を予定!!

フジテレビ系列木曜劇場にて東野圭吾先生原作作品を続々ドラマ化!!その名も「東野圭吾ミステリーズ」!!

東野圭吾先生『○笑小説』シリーズから3本の短編が実写ドラマ化!!

シネマトゥデイさんが“東野圭吾”先生の秘密に迫りました!!

映画「秘密」に海外版があった!?その名は「秘密 THE SECRET」

『ガリレオ』再度ドラマ化!!2013年4月期より月9ドラマに!!

韓国版『容疑者Xの献身』こと『容疑者X 天才数学者のアリバイ』が2013年4月20日より日本公開とのこと!!

東野圭吾先生『さまよう刃』が韓国にて映画化!!

『ガリレオ』スピンオフドラマ制作決定!!その名は『タガーリン(仮)』!!

東野圭吾先生、加賀シリーズ最新作(第10弾)発売決定!!タイトルは『祈りの幕が下りる時』とのこと!!

『新参者』『赤い指』『麒麟の翼』に続くTBS版第4の「加賀シリーズ」実写ドラマ化判明!!2014年1月放送予定は『眠りの森』か!?

東野圭吾先生『白銀ジャック』(実業之日本社刊)がドラマ化されるとのこと!!

東野圭吾先生『天空の蜂』(講談社刊)が映画化されるとのこと!!

講談社刊『イブニング』にて東野圭吾先生『天空の蜂』が猫田ゆかり先生によりコミカライズ!!2月10日発売の5号より連載開始!!

【2015年3月】東野圭吾先生新作タイトル発表!!その名は『ラプラスの魔女』(角川書店刊)、2015年5月15日発売予定!!

東野圭吾先生『ラプラスの魔女』スピンオフが本編発売前に早くも登場!!『あの風に向かって翔べ』は『小説野性時代 2015年6月号』(角川書店刊)に掲載とのこと!!

東野圭吾先生『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が中国にて映画化とのこと!!

「宝石 ザ ミステリー 2016」です!!
宝石 ザ ミステリー 2016



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『夏は溺殺。月の頃はさらなり』(深水黎一郎著、講談社刊『メフィスト 2015vol3』掲載)

『夏は溺殺。月の頃はさらなり』(深水黎一郎著、講談社刊『メフィスト 2015vol3』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、未読の方は注意!!

<感想>

深水黎一郎先生による「倒叙ミステリ」です。
まさに「倒叙」の醍醐味とも言える「完璧と思われる犯行の何処にミスがあったのか?」が見所です。
此の点で本作はかなり秀逸と言えます。
なにしろ、犯人が軽んじていた点こそが彼の足もとを掬うこととなるのですから。
あの下りを目にしたときには「おおっ!!」と驚嘆したほど。

そんな本作ですが、タイトルは『枕草子』の「夏は夜」の一文をもじったもの。
当然、「春」、「秋」、「冬」も存在する筈で、既にあります「秋」が。

『秋は刺殺。夕陽のさして血の端いと近うなりたるに』(深水黎一郎著、講談社刊『メフィスト 2015vol2』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

すなわち、本作はそのシリーズ第2弾となります。

さらに『2016 本格ミステリ ベスト10』(原書房刊)では「四季」を描くことが予告されています。
つまり、4編の連作集となることが判明。
これは何時か来る単行本が楽しみなことに!!

でもって、本作には『花窗玻璃 シャガールの黙示著』などに登場した著者のレギュラーキャラである海埜刑事も登場。
ファンは読むべし!!

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味を持たれた方は本作それ自体をきちんと読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

秋森は龍也に殺意を抱いていた。
龍也に片思いの相手である真悠子を奪われたからである。

龍也は人の可能性を熱く語る熱血漢。
真悠子によれば龍也のそんなところが好きらしい。
だが、秋森にとってそれは単純な奴としか呼べなかった。

だからこそ、秋森は龍也を殺害し真悠子を取り戻すことを決めた。
殺害方法は決まっている、2人の共通の趣味である釣りを利用するのだ。

秋森は龍也を夜釣りに誘い出すと、自身が所有するプレハブ小屋へ招き入れた。
未だに自身に降りかかることを知らない龍也は今日も人の可能性について語りつつ団子を頬張っていた。

そんな龍也の姿に苛立ちを覚えた秋森は早々にナイフを抜くと龍也へ突き付けた。
身動き出来ない龍也の両手を素早く結ぶと、その身体を床に転がす。
もはや、龍也に勝ち目はない。

秋森は成功を確信しつつ、奥から海水がなみなみと注がれたクーラーボックスを持ち出して来た。
中身はこれから龍也を遺棄する海域の水だ。
これならば水から犯行を特定されることはない。

秋森は縛られた龍也の顔をクーラーボックスの中へと強引に沈めた。
激しく抵抗する龍也、その口内から吐瀉物が漏れ出た。
先程、口にしていた団子のようだ。
足掻く龍也を嘲りつつ、秋森は渾身の力で止めを刺す。
やがて、龍也はぐったりとし動かなくなった。

秋森は龍也の死を確認すると、クーラーボックスの水を近くに捨てた。
そして1人でほくそ笑む、これで凶器の始末も完璧だ、と。

続いて、龍也の死体をボートに積むと沖合へと乗り出した。
周囲に人の目は無い。
これまた完璧だ。

やがて、目的のポイントに辿り着いた秋森は龍也の遺体を遺棄するや悠々と釣りを開始する。
龍也と釣りをしていたと証言するには、これもまた重要なことであった。
さて、それなりに釣れただろうか。

秋森はボートを陸へ戻すと、近くの派出所に駆け込んだ。
そして告げる、龍也が海に落ちた、と。

数日後、龍也の遺体が沖合で発見された。
その身体には多数の傷があり、縛った手首の痕跡ももはや見抜けない。

さらに秋森は「龍也と沖合で釣りをしていたところ龍也がバランスを崩して落ちた」と証言していた。
「溺れながら助けを求める龍也をどうしても救えなかった」とも。
秋森は悲劇の当事者となった、これを崩せるような証拠も秋森が考える限り無い。

そして傷心の真悠子に近付き、その信頼を勝ち得ることにも成功した。
まさに計画通りである。
此処まで一片の隙もないように秋森には思われた。

ところが、そんな秋森のもとを刑事が訪ねて来たのだ。
その刑事は自身を海埜と名乗った。
しかし、秋森の対処はこれまでと変わらない。
それで乗り切れる筈であった。

そんな秋森の思惑をあっさりと海埜は乗り越えて来る。
龍也のライフジャケットから始まった追及は遂に秋森の犯行の核心へと斬り込んだ。

海埜は「乾性溺死」との言葉を口にしたのだ。
それは肺が水に満たされる前に窒息死したことを示す。

そんな馬鹿なと動揺する秋森。
龍也の死因はクーラーボックス内の海水によるものだった筈なのだ。

これに海埜は意外な答えを口にした。
龍也は食べていた団子を咽喉に詰まらせていたのだ。

さらに海埜は畳みかける。
龍也が咽喉に団子を詰まらせていたのならば溺れた際に助けを呼ぶことなど出来はしない。

「そう言えば、記憶違いだったかも……」
必死に考えを巡らせ逃げ延びようと試みる秋森。

しかし、海埜の手にはまだカードが残されていた。
龍也の体内から彼自身の吐瀉物が検出されたのだ。
これが何を意味するか?

本当に龍也が広い海で溺れたのならば吐瀉物は漏れ出た瞬間に流されてしまっている筈だ。
これを呑み込むことが出来たのは狭い何処かで窒息させられたからしかあり得ない。
例えば、クーラーボックスような。

そして、海埜はプレハブ小屋付近から龍也の物と思われる吐瀉物を含む水溜りを発見していた。
これは既に鑑識で照合済みである。

もはや逃げ場を失ったことを悟った秋森。
龍也が団子を詰まらせたことが彼自身の最期の抵抗だったと気付く。
それは龍也が普段から口にしていた通り、人間の可能性を意味する行動だ。
なるほど、秋森も今なら龍也の口癖を理解出来そうであった―――エンド。

◆関連過去記事
【大癋見警部の事件簿シリーズ】
『ある音楽評論家の、註釈の多い死(※1)』(深水黎一郎著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー 2014冬』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『大癋見(おおべしみ)警部の事件簿』(深水黎一郎著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『現場の見取り図 大癋見警部の事件簿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(深水黎一郎著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『大癋見警部の事件簿(番外編)』(深水黎一郎著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー2』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『大癋見警部の事件簿 青森キリストの墓殺人事件』(深水黎一郎著、光文社刊『ジャーロ』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
『ミステリー・アリーナ』(深水黎一郎著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)

『秋は刺殺。夕陽のさして血の端いと近うなりたるに』(深水黎一郎著、講談社刊『メフィスト 2015vol2』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『人間の尊厳と八〇〇メートル(ザ・ベストミステリーズ2011収録)』(深水黎一郎著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『完全犯罪あるいは善人の見えない牙』(深水黎一郎著、東京創元社刊『人間の尊厳と八〇〇メートル』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『特別警戒態勢』(深水黎一郎著、東京創元社刊『人間の尊厳と八〇〇メートル』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『蜜月旅行 LUNE DE MIEL』(深水黎一郎著、東京創元社刊『人間の尊厳と八〇〇メートル』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『最後のトリック』(深水黎一郎著、河出書房新社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『五声のリチェルカーレ』(深水黎一郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『夏は溺殺。月の頃はさらなり』が掲載された「メフィスト 2015 VOL.3 (講談社ノベルス)」です!!
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