ネタバレあります、注意!!
登場人物一覧:
ガロム:ラクダ型の獣人、新聞記者。
アビー:オオカミ型の獣人、白い美人。
<あらすじ>
此処は人に代わり獣人が闊歩する世界。
オープンカフェに座り込みテーブルを前にくたびれたような表情を浮かべるガロムはラクダ型獣人の新聞記者。
だが、もうすぐ元新聞記者になろうとしていた。
彼は上司に命じられ「何故、肉食獣人は草食獣人を食べるのか」をテーマに記事をまとめるよう命じられていたのだ。
しかし、草食獣人であるガロムに肉食の気持ちが分かる筈もない。
今もPCを前に一行も進まず、行き詰ったガロムは嫌気がさして退職を考えていた。
「相席良いかしら?」
そんなガロムに声を掛けて来た女性が居た。
相手を一目見た瞬間、ガロムは心を奪われてしまう。
相手はオオカミ型獣人であった。
彼女の名はアビー、白い肌が眩しい美女だ。
もちろん、オオカミだけに肉食系だ。
彼女の美しさと、先程まで肉食獣人について考えていたこともあってドギマギするガロム。
しかし、アビーへの興味もあって肉食系の代表として取材を申し込むことに。
突然の取材依頼に驚くアビー。
だが、ガロムの顔を眺めてニッコリと微笑んだ。
OKのサインだ。
こうしてガロムは取材と称してアビーとデートを楽しむこととなった。
1人の女性としてのアビーの魅力にメロメロなガロム。
一方、アビーもそんなガロムに悪くない感情を抱いた様子。
食事を終えるとガロムをホテルに誘う。
だが、アビーは条件を付け加えることを忘れなかった。
そう、アビーはガロムを食べたいと申し出たのだ。
此の場合の食べるとは文字通りの意味だ。
普段なら即座に断ったであろうガロムだが、アビーに頷いてしまった。
こうして、2人はホテルの一室へ。
ベッドの上、アビーは寂しそうに表情を伏せながらガロムに告げる。
「これは食欲じゃないの」と。
アビーはガロムと1つになりたいらしい。
アビーの言葉に涙するガロムは彼女を抱き締めるが……。
数年後、ガロムは後輩にアビーとの想い出を語っていた。
あの夜、逡巡した後にアビーはおずおずと「ガロムの一部を食べたい」と言い換えた。
そんなアビーにガロムは喜んで左手を差し出したのだ。
アビーは敢然と左手を翳すガロムに寄り添うとゆったりと口を開いた。
そして、左手を呑み込んだ。
ガロムの昔語りに「嘘でしょ〜〜〜」と笑う後輩たち。
だが、ガロムはそっと左手を上げて見せる。
其処にあったのは義手であった。
後輩たちは言葉を失ってしまう。
今のガロムはまだ新聞記者だ。
あの一夜があって退職を思い留まったのだ。
今、思えばどうしてアビーの申し出に応じたのかは分からない。
だが、左手を失った代わりに新聞記者としてのモチベーションを得た。
ガロムは今も「何故、肉食獣人は草食獣人を食べるのか」を追い続けている―――エンド。
<感想>
短期集中連載「ビーストコンプレックス」の第3話「ラクダとオオカミ」です。
「大人のおとぎ話」とでも呼ぶべき上質の作品と感じました。
ライオンやコウモリなどのイメージに仮託しつつ、人と人との心の交流を見事に漫画化しています。
また、獣人はどちらかと言えば「内面が動物に表現されている」と考えた方が良いかもしれません。
今回は本作全体に続く「肉食獣人と草食獣人の関係性」との大テーマから「何故、肉食獣人は草食獣人を食べるのか」をテーマに物語が展開されました。
これは言わば「何故、人は人を殺すのか」や「何故、人は食材となる動物を殺して食べるのか」などと言った根源的な問いに近い。
其処には「動物としての本能」が眠っているのかもしれない。
また、本作はこれに男女の性差を加えて来た点が素晴らしい。
世に「異性の気持ちは分からない」と言います。
これまた先の根源的な問いと同じ永遠の謎でしょう。
アビーはまさに肉食系女子。
ガロムはくたびれたと言った言葉の似あうおじさんでした。
当然、ガロムにアビーの心は分からない。
だが、互いに惹かれ合うところがあり逢瀬を重ねた。
そして、アビーはガロムの前から消えた。
何故、アビーはガロムを食い殺さなかったのか?
それでいて彼を求めたのか?
アビーに魅入られたガロムは「女心について」の永遠の謎を突き付けられたのでしょう。
今回もかなり良かったです。
ちなみにあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読むべし!!
◆関連過去記事
・「ビーストコンプレックス」第1話「ライオンとコウモリ」(板垣巴留作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)
・「ビーストコンプレックス」第2話「トラとビーバー」(板垣巴留作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)