2016年03月22日

「ビーストコンプレックス」第3話「ラクダとオオカミ」(板垣巴留作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「ビーストコンプレックス」第3話「ラクダとオオカミ」(板垣巴留作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

登場人物一覧:
ガロム:ラクダ型の獣人、新聞記者。
アビー:オオカミ型の獣人、白い美人。

<あらすじ>

此処は人に代わり獣人が闊歩する世界。

オープンカフェに座り込みテーブルを前にくたびれたような表情を浮かべるガロムはラクダ型獣人の新聞記者。
だが、もうすぐ元新聞記者になろうとしていた。

彼は上司に命じられ「何故、肉食獣人は草食獣人を食べるのか」をテーマに記事をまとめるよう命じられていたのだ。
しかし、草食獣人であるガロムに肉食の気持ちが分かる筈もない。
今もPCを前に一行も進まず、行き詰ったガロムは嫌気がさして退職を考えていた。

「相席良いかしら?」

そんなガロムに声を掛けて来た女性が居た。
相手を一目見た瞬間、ガロムは心を奪われてしまう。

相手はオオカミ型獣人であった。
彼女の名はアビー、白い肌が眩しい美女だ。
もちろん、オオカミだけに肉食系だ。

彼女の美しさと、先程まで肉食獣人について考えていたこともあってドギマギするガロム。
しかし、アビーへの興味もあって肉食系の代表として取材を申し込むことに。

突然の取材依頼に驚くアビー。
だが、ガロムの顔を眺めてニッコリと微笑んだ。
OKのサインだ。

こうしてガロムは取材と称してアビーとデートを楽しむこととなった。
1人の女性としてのアビーの魅力にメロメロなガロム。

一方、アビーもそんなガロムに悪くない感情を抱いた様子。
食事を終えるとガロムをホテルに誘う。

だが、アビーは条件を付け加えることを忘れなかった。
そう、アビーはガロムを食べたいと申し出たのだ。
此の場合の食べるとは文字通りの意味だ。

普段なら即座に断ったであろうガロムだが、アビーに頷いてしまった。
こうして、2人はホテルの一室へ。

ベッドの上、アビーは寂しそうに表情を伏せながらガロムに告げる。
「これは食欲じゃないの」と。
アビーはガロムと1つになりたいらしい。
アビーの言葉に涙するガロムは彼女を抱き締めるが……。

数年後、ガロムは後輩にアビーとの想い出を語っていた。
あの夜、逡巡した後にアビーはおずおずと「ガロムの一部を食べたい」と言い換えた。
そんなアビーにガロムは喜んで左手を差し出したのだ。
アビーは敢然と左手を翳すガロムに寄り添うとゆったりと口を開いた。
そして、左手を呑み込んだ。

ガロムの昔語りに「嘘でしょ〜〜〜」と笑う後輩たち。
だが、ガロムはそっと左手を上げて見せる。
其処にあったのは義手であった。
後輩たちは言葉を失ってしまう。

今のガロムはまだ新聞記者だ。
あの一夜があって退職を思い留まったのだ。
今、思えばどうしてアビーの申し出に応じたのかは分からない。
だが、左手を失った代わりに新聞記者としてのモチベーションを得た。

ガロムは今も「何故、肉食獣人は草食獣人を食べるのか」を追い続けている―――エンド。

<感想>

短期集中連載「ビーストコンプレックス」の第3話「ラクダとオオカミ」です。

「大人のおとぎ話」とでも呼ぶべき上質の作品と感じました。
ライオンやコウモリなどのイメージに仮託しつつ、人と人との心の交流を見事に漫画化しています。
また、獣人はどちらかと言えば「内面が動物に表現されている」と考えた方が良いかもしれません。

今回は本作全体に続く「肉食獣人と草食獣人の関係性」との大テーマから「何故、肉食獣人は草食獣人を食べるのか」をテーマに物語が展開されました。

これは言わば「何故、人は人を殺すのか」や「何故、人は食材となる動物を殺して食べるのか」などと言った根源的な問いに近い。
其処には「動物としての本能」が眠っているのかもしれない。

また、本作はこれに男女の性差を加えて来た点が素晴らしい。

世に「異性の気持ちは分からない」と言います。
これまた先の根源的な問いと同じ永遠の謎でしょう。

アビーはまさに肉食系女子。
ガロムはくたびれたと言った言葉の似あうおじさんでした。
当然、ガロムにアビーの心は分からない。
だが、互いに惹かれ合うところがあり逢瀬を重ねた。
そして、アビーはガロムの前から消えた。
何故、アビーはガロムを食い殺さなかったのか?
それでいて彼を求めたのか?
アビーに魅入られたガロムは「女心について」の永遠の謎を突き付けられたのでしょう。

今回もかなり良かったです。

ちなみにあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読むべし!!

◆関連過去記事
「ビーストコンプレックス」第1話「ライオンとコウモリ」(板垣巴留作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「ビーストコンプレックス」第2話「トラとビーバー」(板垣巴留作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

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『喪失の儀礼』(松本清張著、新潮社刊)

『喪失の儀礼』(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

手首の動脈を切って、湯の中で徐々に脱血させ、死亡させるという異常な殺人方法。医師と製薬界の荒廃した連繋と意外な愛憎関係がもたらした連続殺人事件を描く本格推理長編。

製薬会社と癒着している医学界の現状を批判した東京都下の大学病院の医局員住田友吉が、名古屋のホテルで他殺死体となって発見された。その殺人方法は、手首の動脈を切って、湯の中で徐々に脱血させ、死亡させるという異常なものであった。2ヵ月後、ほぼ同じ方法によって開業医が……。医師と製薬界の荒廃した連繋と意外な愛憎関係がもたらした連続殺人事件を描く本格推理長編。
(新潮社公式HPより)


<感想>

本作は医療のたらい回しを逸早く取り上げた作品。
この問題、今も取り上げられるほどでまさに松本清張先生の感覚の鋭さを示した作品と言えます。
同時に社会派ミステリの面目躍如とも言えるでしょう。

ただ、時代の影響が色濃い為か、それ以外の細部―――特に展開にかなり恣意的な点があります。
とはいえ、決して作品の先見性は色褪せないでしょう。

ちなみにネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
須田:刑事
住田:大学病院の医師
香原:香原医院の医院長
小池:製薬会社の社員
ユーリ:赤毛の女
萩原和枝:住田から俳句を評価されていた高齢女性
雄一:和枝の長男、脊椎カリエスにより病床に臥している
美奈子:雄一の妻
修二:和枝の次男、故人
青柳:???


青柳を名乗り製薬会社と医学界の癒着を告発記事にしていた大学病院の医師・住田が何者かに殺害された。
捜査に乗り出した須田は容疑者として、告発記事を書かれた製薬会社の社員・小池を疑う。

また一方で、住田の趣味が俳句であったと知る。
住田が特に評価していたと言う高齢女性・萩原和枝に注目した須田。
和枝には2人の子供が居た。

1人は長男・雄一。
脊椎カリエスを患っており、病床に臥している。
そんな雄一には1年前に結婚した妻・美奈子が居る。
近所の評判によれば美奈子は献身的に介護しているそうだ。

もう1人は次男・修二。
こちらは数年前に事故死を遂げていた。
轢き逃げだそうで犯人は未だに捕まっていない。

小池を疑いつつも決め手を欠く須田。
矢先、香原医院の医院長・香原が小池と同じ方法にて殺害されてしまう。

同一犯の犯行と思われたが、謎の赤毛女性の目撃証言が浮上。
容疑はこちらへシフトすることに。

この謎の女性が小池と交流のあったユーリではないかとの疑惑が浮かぶ。
しかし、ユーリには住田も香原も知らないと主張する。

これに須田は小池がユーリを囮にして誰かを庇っているのではないかと考えるように。
直後、当の小池までもが殺害されてしまう。
須田は小池が共謀者に殺害されたと考える。

事件を振り返った須田は住田と香原が共に医師であることに注目。
犯人の動機が其処にあると調べ始めた。

すると、事故死した修二がこれに関わっていることを突き止める。
事故直後、救急搬送された修二は2つの病院で受け入れ拒否されていたのだ。
もう30分早ければ救うことも出来たかもしれない状態だったらしい。
この拒否を行ったのが住田と香原だったのである。

須田は和枝と雄一たちが小池と共謀し修二の復讐を行ったのではないかと考える。
だが、和枝は高齢で雄一は動けない。
いずれも犯行は難しいだろう。
しかも、小池は住田殺害についての動機はあるが香原殺害には動機が無い。

悩む須田だが、小池が庇っていた赤毛の女性について思い当たる。
もしかして、美奈子は修二の元恋人では無かったか。
だとすれば、美奈子は復讐の為に小池と男女関係を結び、これを仲間にしたのではないか。
その上で口封じに殺害したのではないか……。

つまり、今回の犯行は萩原一家3人による共謀だったのだ。

それから数日後、須田はある記事を目にし衝撃を受ける。
美奈子が雄一と心中を図ったのだ。
記事では介護に疲れてのこととされていた。
また、和枝も自殺を遂げてしまう。

その真の意味を知る須田はそっと目を閉じるのであった―――エンド。

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【その他】
・『眼の壁』から出題がありました。
「ミステリーキューブ 名作ミステリーを凝縮▽華麗なトリックを見破り密室から脱出せよ!▽松本清張が仕掛けたわなに挑戦だ」(8月20日放送)ネタバレ批評(レビュー)

【特報】松本清張先生、未収録短編発見さる!!その名も『女に憑かれた男』!!

【2015年】松本清張先生『女に憑かれた男』に続く未収録短編作品見つかる!!その名は『渓流』とのこと!!

「喪失の儀礼 (新潮文庫 ま 1-38)」です!!
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