2016年04月20日

「実は私は」第156話「藍澤渚と藍澤渚A」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第156話「藍澤渚と藍澤渚A」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

登場人物一覧は本記事下部に移動しました。

<あらすじ>

〜〜〜これまでのあらすじ〜〜〜〜

「アナザル」こと「絶対に秘密を守れない男」黒峰朝陽は憧れのヒロイン・白神葉子の秘密を知ってしまった。
その秘密とは「白神葉子がハーフの吸血鬼である」こと。
朝陽は葉子の為に、この秘密を守らねばならない―――。
取り巻く人々を相手に、朝陽は秘密を守り抜くことが出来るのか?

矢先、実は宇宙人であった委員長・渚、狼男で肉食系女子な獅穂、悪魔っ娘の茜、未来人の凛、幼馴染のみかん、天使の華恋も加わって……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

朝陽と渚の前に現れた箱女、彼女は自らを10年後の渚自身と名乗る。
思わぬことに狼狽した現在の渚はスコップを手に挑みかかるのだが……あっさりと蹴散らされてしまう。

力の差は歴然であった。
愕然とする渚、これを助けようと朝陽が飛び出す。
にも関わらず朝陽に近付く未来の渚、その手が朝陽へと向けられ頬を撫でる。

「若〜〜〜い」
それが未来の渚の朝陽に向けた第一声であった。
次いで、未来の渚は行きがけの駄賃とばかりにキスを迫る。
その様子はまるでみかんのようだ。

慌てて阻止する現在の渚。
これに対し、未来の渚は葉子、獅穂とそれぞれを思い起こさせるような行動を繰り返す。

突拍子の無い未来渚の行動に翻弄され続ける現在の渚は主導権を取り戻すべく来訪の目的を問い質す。
すると、未来の渚は「宿泊先に困って……」と今度は涼のような言葉を洩らす。

未来渚を放置も出来ず、自宅へ連れ帰った現在渚は彼女が嘘を吐いていると指摘する。
さらに「スペース・カグヤを演目に加えるよう指示したのは貴様か?」と問う現在渚。
未来渚は静かに頷く。

「では、これもお前か?」
「いや、それは違う」

現在渚の手に握られていたのは1枚の辞令。
其処には、渚の活動が認められ地球との間に交渉を行うことになったと記されていた。
その為に地球に詳しい渚に母星へ帰還せよ、とも。

「確かにこれは私が望んだことだった。だが、私はどうした良いのだ!?教えてくれ」
現在渚は涙ながらに未来渚に訴える―――157話に続く。

充実の「実は私は」が読めるのは「週刊少年チャンピオン」だけ。
本誌で確認せよ!!

<感想>

「週刊少年チャンピオン」にて「さくらDISCORD」を連載されていた増田英二先生の新作。
「さくらDISCORD」は未読の管理人ですが、1話を読んで注目している作品です。
コミックス1巻に続き2巻、3巻、4巻、5巻、6巻、7巻、8巻、9巻、10巻、11巻、12巻、13巻、14巻、15巻も重版出来とのことで目出度い。さらに16巻も発売。
そして、本作かなり面白い!!

2015年7月にはアニメ化も果たしており、シーズン2製作の報が待たれます。

【第EXTRA話】アニメ版「実は私は」スタッフさんとキャストさんの一部を明らかにされよう!

また、本作が遂に舞台化とのこと。
こちらも注目です!!

増田英二先生「実は私は」が舞台化とのこと!!

その156話。
サブタイは「藍澤渚と藍澤渚A」。

どうやら、箱女の正体は渚で確定の様子。
とはいえ、今回だけでもみかん、葉子、獅穂、涼を思い起こさせる行動を取っています。
もしかすると、皆の想いを託されて過去へやって来た……的な展開もあるのかも。

ただ、どちらにせよ今回のエピソードで渚の朝陽への想いに決着が付きそうな印象です。
これまでのサブタイは「紅本先生とさくらさん」、「岡田奏と朱美みかん」などカップル成立の際は2人の名が併記されていました。
そして明里はさくらを選び、岡はみかんを選んだ。

今回は「藍澤渚と藍澤渚」、つまり渚自身と向き合うことになるのでしょう。
また、渚は愛ではなく自身の夢=地球と母星の架け橋になることを選びそうな気もします。
だからこそ、朝陽ではなく渚の名が並んでいるのではないでしょうか。

また、ギャグからシリアスの緩急は今回も面白かった。

うむ、今回も充実した回ですな。
多くは語るまい、とりあえず読め!!

そう言えば、上でもお伝えした通りコミックス15巻も発売。
表紙は1巻の葉子、2巻の渚、3巻の獅穂、4巻の茜、5巻のフクちゃんとみかん、6巻の凛、7巻の明里さんに続き、8巻が銀華恋、9巻が渚とみかんのコンビ、10巻が1周回って葉子、11巻は獅穂と凛コンビ、12巻は緑苑坂弓と桐子の夫婦コンビ、13巻は桃地結香、14巻は水奈川咲と葉子に!!
そして15巻は獅穂たち三人娘に!!ああ、嶋よ……。
こうなると16巻は「明里とさくら」か「明里、茜、華恋」かなぁ。
と思いきや16巻表紙は「ウェディングドレス姿の明里」に、一瞬誰だか戸惑うほどの変身ぶりを見せる表紙となっていますね。
どうやら、17巻は「みかんと岡」か「みかん単独」になりそうか。

ちなみに、上記のあらすじは本作の魅力を伝えられるよう改変を加えてまとめていますが、その面白さを伝えきれていません。
やっぱり、あの絵とコマ割りなどのテンポあっての本作。
是非、「週刊少年チャンピオン」本誌を読んで欲しい。

もう1度繰り返しましょう。
本作に興味を持たれた方には、是非、「週刊少年チャンピオン」本誌を捜して読んで欲しい。
最近の「週刊少年チャンピオン」は本作など本当に粒揃いでクオリティが高い作品が多い。
注目の雑誌の1つと言えるでしょう。

◆関連過去記事
「実は私は」第1話から第150話まで(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)まとめ

「実は私は」第151話「焼き芋を作ろう!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第152話「血を吸おう!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第153話「紅本茜」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第154話「勘違いしよう!!」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

「実は私は」第155話「藍澤渚と藍澤渚@」(増田英二作、秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)ネタバレ批評(レビュー)

登場人物一覧:
黒峰朝陽:主人公、通称「アナザル」。
白神葉子:朝陽の意中の人物。ある秘密が……。
紫々戸獅狼:葉子の幼馴染。彼もまたある秘密を……。
紫々戸獅穂:葉子の幼馴染。彼女もまたある秘密を……。

藍澤渚:クラス委員長。彼女にも秘密が……。
藍澤涼:渚の兄、意外な形で登場することに……。
紅本茜:紅本の親族らしい。彼女にも秘密が……。
紅本明里:教師。彼女にも秘密が……。
黄龍院凛:33話より登場した謎の少女。彼女にも秘密が!?
黄龍丸:凛が駆るドラゴン。52話にて意外な正体が明らかに。

朱美みかん:朝陽の幼馴染。新聞部所属。通称「外道クイーン(オレンジ)」。
岡田:朝陽の友人の1人。通称・岡。眼鏡が特徴。割と友人想いの様子。146話にてフルネームが「岡田奏」と判明。
嶋田:朝陽の友人の1人。通称・嶋。軽い。124話にてフルネームが「嶋田結太」と判明。
桜田:朝陽の友人の1人。通称・サクラ。渋い。
フクちゃん:「福の神見習い」を名乗る眼鏡。
フクの介:フクちゃんの先輩。やはり眼鏡。
フク太郎:フクちゃんとフクの介の先輩。やはり眼鏡。
フク蔵:フクちゃんとフクの介とフク太郎の先輩。やはり眼鏡。
手崎:文字通り茜の手先な料理教室のシェフ。

朝陽の父:朝陽の家族。22話に初登場。
朝陽の母:朝陽の家族。22話に初登場。
黒峰鳴:朝陽の妹。22話、28話、48話に登場。48話にて名前と顔が判明。92話で高校に進学。
白神源二郎:吸血鬼。額に十字傷を抱く巨人。39話にて名前が判明。
白神桐子:葉子の母で人間。和服の美女。38話にて名前が判明。
銀華恋:茜に続く第2のツノツキ……の筈だったが。58話から登場。

緑苑坂弓:朝陽たちの副担任、実は源二郎。92話から登場。
桃地結香:忍者少女、92話(実際は105話)から登場。ある秘密が……。
黄龍院閃:鳴、結香のクラスメートの男子。瓶底眼鏡に腰の日本刀がトレードマーク。132話で苗字が判明。
水奈川咲:結香、閃、鳴のクラスメート。109話から登場。ある秘密が……。
箱入り娘:114話終盤に登場した謎の人物!?
白雪:茜の前任の諸晴高校校長、153話に名前が登場。

稲葉:葉子のクラスメイト。
松本:葉子のクラスメイト。
佐々木:葉子のクラスメイト。彼氏と別れたばかり。

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「僕のヤバイ妻」1話「妻殺しを計画した不倫夫、妻を誘拐される!?」(4月19日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「僕のヤバイ妻」1話「妻殺しを計画した不倫夫、妻を誘拐される!?」(4月19日放送)ネタバレ批評(レビュー)です!!

<あらすじ>

望月幸平(伊藤英明)は、資産家で才色兼備な真理亜(木村佳乃)と結婚、義両親の遺産を元手に夢だったカフェをオープンし、誰もがうらやむ生活を送っていた。しかし実際は家庭に息苦しさを感じ、ビジネスパートナーで愛人の北里杏南(相武紗季)と真理亜の殺害を企てるほど妻への愛情は冷めきっていた。

ある日の朝、幸平はカフェを立て直すため真理亜に追加融資を頼むが保留されてしまう。それを聞いた杏南は「覚悟を決めて」と毒を渡し、真理亜殺害をそそのかす。意を決した幸平は、震える手で“夫婦の思い出のワイン”に毒を混入し帰宅。しかし、「2億円用意しろ。警察に連絡したら妻を殺す」というメッセージを残し、妻は何者かに誘拐されていた――。

幸平は警察に通報し、刑事の相馬誠一郎(佐藤隆太)と矢吹豊(浅香航大)がやって来る。
しかし翌朝、向かいに住む噂好きの鯨井有希(キムラ緑子)・和樹(高橋一生)夫婦の家のポストに、警察に通報したことを知った犯人から、「妻は死んだ」というメッセージと“血の付いた真理亜の爪”が届く。真理亜の死を覚悟した一同とは裏腹に、自らの手を汚さず望みがかなった幸平だけは、一人ほくそ笑むのだった。

しかし相馬は幸平が夫婦間で金の貸し借りがあったことなどから、幸平に疑いの目を向け始める。焦った幸平は元・義兄で興信所を経営する横路正道(宮迫博之)に相談、事件当夜にいた不審な男・緒方彰吾(眞島秀和)の正体を知る。そこで緒方から真理亜の思いもよらない一面を聞いた幸平は、猛烈な罪の意識にさいなまれていく。そんな矢先、幸平の車から真理亜の血痕が検出され、ついに幸平は重要参考人として連行されることに。幸平が混乱していると、そこへ犯人から1枚のDVDが届いて――!?

一方、とあるバーではこの誘拐事件のニュースに耳を傾ける男(佐々木蔵之介)の姿があった――。
(公式HPより)


では、続きから(一部、重複アリ)……

望月幸平は資産家の妻・真理亜と結婚、彼女の資産を背景にカフェオーナーとなった。
甲斐甲斐しく望月を支える真理亜の献身もあって傍目には人も羨む生活を送っていた望月。

だが、その心はかなり冷え込んでいた。
望月は真理亜に不満を抱き北里杏南と不倫、それどころか遺産目当てに真理亜殺害を目論んでいた。

そんなある日、望月は杏南と共謀し真理亜殺害計画を実行に移す。
望月は真理亜が口にするであろう想い出のワインに毒を混入してしまったのである。

ところが、毒が真理亜の口に入る前に本人が姿を消してしまった。
しかも、「2億円用意しろ。通報すれば真理亜を殺す」と誘拐を仄めかすメッセージが残されていたのである。

望月は驚きながらも警察に通報、刑事の相馬誠一郎や矢吹豊らが捜査に乗り出した。
手を汚すことなく真理亜を排除出来るかも……ほくそ笑む望月。

その翌日、そんな望月の期待に応えるように望月家の向かいに暮らす鯨井和樹、有希夫妻のもとに「真理亜は死んだ」とのメッセージが届く。
しかも、メッセージには「血の付いた真理亜の爪」が添えられていた。
真理亜の死を確信した望月は心の中で快哉を叫ぶのだが……此処から事態は思わぬ方向に転がり始めた。

なんと、相馬は望月の犯行を疑い始めたのだ。
こうなると、実際に犯行を計画していただけに望月は分が悪い。
焦った望月は元・義兄で興信所を経営する横路正道に助けを求める。

一方、真理亜の後輩・緒方彰吾から彼女が望月の不倫を知っていたとの事実を教えられることに。
しかも、それでも真理亜は望月への愛を口にしていたのだそうだ。
これを聞かされた望月は強い罪の意識を抱き、真理亜を邪見にしていたことを後悔し始める。

矢先、望月の車から身に覚えのない真理亜の血痕が検出。
望月は有力容疑者にされてしまう。

そんな中、誘拐犯から1枚のDVDが届けられ事態はまたも意外な方向に。
其処には真理亜の生存が告げられていたのだ。
真理亜を失いたくないと考え始めた望月は誘拐犯の要求に従い身代金を用意。
指示通り受渡しに成功する。

だが、真理亜は戻って来ず、周囲から望月への妻殺害疑惑は深まるばかり。
追い詰められた望月は自殺を図ろうとして、相馬に助けられる。

しかも、相馬は朗報を携えていた。
なんと、真理亜が保護されたと言うのだ。
喜ぶ望月であったが、当の真理亜は何処か冷ややかな笑いを浮かべていた。

同じ頃、木暮のバーに2億円が入ったケースが届く。
其処には真理亜のメモが添えられていた。
果たして、この意味とは―――2話へ続く。

<感想>

連続ドラマ「僕のヤバイ妻」第1話です。
原作なしオリジナル作品。

一見したところ、1話の範囲内では2014年に映画化されたギリアン・フリン『ゴーン・ガール』(小学館刊)が思い起こされました。
とはいえ、本作は此処からどうなるかが見所か。

真理亜の自作自演は間違いないとして、誰と誰が真理亜に協力しているのか。
また、何処から何処までが真理亜の計確通りなのか。
そもそも望月から真理亜への殺意も彼女のコントロール下のものなのか、それとも殺意を持たれたからこそ思い切った行動に出たのか?
望月と真理亜が結婚したこと自体も真理亜の作為ではなかったか?
この辺りがポイントになりそうです。
何しろ、タイトルが「ヤバイ妻」だけにひょっとすると「最初から最後まで真理亜の掌の上」なんてこともあり得るかも!?

2話にも注目ですね。

ちなみに『ゴーン・ガール』については映画版のウィキペディアに詳しいので興味のある方はチェックされたし。

和製『ゴーン・ガール』との噂!?「僕のヤバイ妻」は2016年4月19日(火)21時から放送予定!!

キンドル版「ゴーン・ガール 上」です!!
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2016年04月19日

『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)

『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心動かされる「傍聞き」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。巧妙な伏線と人間ドラマを見事に融合させた4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞!
(双葉社公式HPより)


<感想>

長岡弘樹先生の短編集『傍聞き』収録の一編です。
短編集『傍聞き』には他に『迷走』『899』『迷い箱』の3編が収録されています。
また表題作である本作は2008年の「日本推理作家協会賞 短編部門」受賞作でもあります。

タイトルでもある「傍聞き」とは「本人が誰かから直接聞いた情報は信じられなくとも、第三者同士で交わされた情報を耳にした場合は信じてしまうこと」。
これが読み進めるうちに思わぬ形で表出化する点がポイントです。

「菜月の絵葉書」と「横崎の恫喝」と2つの啓子へのメッセージ。
それが共に「傍聞き」と化した時、大きなサプライズが訪れることでしょう。

ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変を加えているので、興味のある方は本作それ自体をご覧になるべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
羽角啓子:盗犯係の女性刑事
羽角菜月:啓子の娘
羽角フサノ:羽角家の裏に住む老女、啓子と同姓だが血縁関係はない
横崎:窃盗犯
斉藤:留置係


羽角啓子は盗犯係の女性刑事である。
夫を亡くし、娘の菜月と2人で暮らしている。

ある日のこと、管轄内で発生した殺人事件の捜査に駆り出された啓子は疲れ果てて帰宅の途に就いていた。
ところが、家の周辺に人だかりが出来ているではないか。

しかも、その中に見知った顔があることに啓子は気付いていた。
つまり、事件が起こったのだ。

まさか、菜月の身に何か!?
驚く啓子であったが、事件が起こったのは自宅の裏に住む独り暮らしの老女・羽角フサノ宅であった。
どうやら、窃盗事件のようだ。

ちなみに、同じ羽角姓ではあるが啓子とフサノに血縁は無い。
あくまで近所同士の間柄である。
だが、菜月は独りで暮らすフサノを何かと気にかけていた。
それだけに啓子はフサノへの事件の影響が心配でならなかった。
最近は独居老人の自殺や孤独死が増えている、ショックを受けたフサノが思い切った行動に出ないとも限らないからだ。

大丈夫だろうかと思いつつ、見知った顔に声をかける啓子。
すると相手はフサノの無事を伝えて来た。
その一方で啓子にとってさらに不安に駆られる事実を告げて来る。

事件の直前に目の下に大きな傷のある男が目撃されたらしい。
啓子の脳裏に浮かぶのは横崎だ。
横崎は窃盗の常習犯で啓子が逮捕した男であった。
先日になって刑期を終えたばかりの筈だった。
もしかしてお礼参りにやって来て家を間違えたのだろうか。
啓子の不安は大きくなるばかりであった。
菜月に注意するよう伝えなければ……と考える啓子。

そんな啓子の気がかりの種はまだある。
当の菜月のことだ。
菜月にはある奇妙な癖があったのだ。

菜月は啓子と喧嘩をすると啓子への文句を記した葉書を送るのである。
例えば、何かをやっていないとか。
あるいは逆に、干渉し過ぎだとか。
これを回りくどく自宅あてにポストへ葉書を投函して送り届けるのだ。
ところが、同じ苗字なこともあってフサノのもとに届くこともざらであった。
流石にこれは恥ずかしい、止めるように何度も口を酸っぱく叱っても一向に改善されないのであった。

その夜も、半ば諦めつつ啓子は菜月へ注意を怠らなかった。
此の時、啓子はふと「傍聞き」について菜月に語って聞かせた。
「傍聞き」とは「本人が誰かから直接聞いた情報は信じられなくとも、第三者同士で交わされた情報を耳にした場合は信じてしまうこと」だ。
もちろん、横崎のことも注意したのは言うまでもない。

それから数日が経過した。

殺人事件の捜査は啓子を始め多くの捜査員が駆け回っていたが未だ進まずに居た。
結果、啓子は残業を重ねることとなった。

一方、菜月からの葉書が時を同じくして再開した。
内容は「窃盗犯ばかり追っていないで家のこともしてよね」とのもの。
しかも、届けられたのはフサノ宅であった。
何よりも啓子が辛かったのは、絵葉書の為に宛名面にこのメッセージが書かれていたことだ。
これではフサノの目に留まったことは確実だろう。
啓子としては顔から火が出るほど恥ずかしいことであった。
しかし、菜月の葉書攻勢は続いたのである。

同じ頃、フサノ宅の窃盗犯らしき男が逮捕されたとの報が啓子に届いた。
何でも男が啓子に会いたがっていると言う。
まさか……と思いつつも面会に訪れた啓子は相手が横崎であると確認するや不安に襲われた。
やはり、お礼参りだったのか!?

ところが、横崎は留置係の斉藤を背中にしつつニヤニヤ笑いを浮かべている。
警戒する啓子に、横崎はフサノ宅の窃盗は別人の犯行であると語り出した。
しかも、証拠が出たらしく直に捕まるのだそうだ。
すぐに此処から出てやると繰り返す横崎に、啓子は恐怖心を抱くことに。

さらに数日が経過し、真犯人が逮捕されたことで横崎の言葉が実現することになった。
自由になった横崎との対決を視野に入れる啓子。
だが、そんな啓子の決意よりも先に横崎がやって来た。

しかし、その様子はあの時とは全く違っていた。
何処か腰が低いのだ。
拍子抜けする啓子に横崎は謝罪する。
全ては真犯人を捕まえる為の芝居だった、と。
横崎は啓子ではなく別の人物に話しかけていたのだ。

横崎の狙いは「窃盗犯に繋がる証拠が出ており逃げられないこと」を啓子との会話の中で窃盗犯自身に聞かせ、出頭させることであった。
それこそ「傍聞き」、真犯人は斉藤であった。

犯行当日、横崎は斉藤の窃盗現場を目撃してしまった。
証言により被疑者となってしまったところ、何と犯人がすぐ其処に居るではないか。
驚いた横崎は啓子を利用することで状況を打開したのである。

此の時、啓子はもう1つの「傍聞き」に気付いた。

その夜、帰宅した啓子は菜月が行った「傍聞き」について指摘する。
それは絵葉書の宛名面に書かれたメッセージだ。

一見すると啓子への非難の言葉に見えるソレ。
だが、実際は別の意味を抱えていた。

「窃盗犯ばかり追っていないで家のこともしてよね」
これは啓子たちが実際は殺人事件を追っていたにも関わらず、窃盗事件を追っていることを示している。

菜月は啓子へ絵葉書を送っているように見せて、実はフサノへメッセージを届けていたのだ。
被害者となったフサノに「家事が疎かになってしまうほど、皆が真剣に捜査しています」と伝えていたのだ。
そうすることでフサノを励ましていたのだ。
もちろん、絵葉書を用いたのも確実にフサノの目に届くように仕組む為だろう。

それほど、菜月はフサノを心配していたのだ。
啓子は親として菜月を誇らしく思うのであった―――エンド。

「傍聞き (双葉文庫)」です!!
傍聞き (双葉文庫)

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