2016年04月05日

『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)

『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

天下りなどの人事問題に真っ正面から取り組んで、選考委員の激賞を浴びた松本清張賞受賞作ほかテレビドラマ化されたD県警シリーズ

警察一家の要となる人事担当の二渡真治は、天下り先ポストに固執する大物OBの説得にあたる。にべもなく撥ねつけられた二渡が周囲を探るうち、ある未解決事件が浮かび上がってきた……。「まったく新しい警察小説の誕生!」と選考委員の激賞を浴びた第5回松本清張賞受賞作を表題作とするD県警シリーズ第1弾。解説・北上次郎
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

横山秀夫先生による「D県警シリーズ」第1弾。
「D県警シリーズ」は架空の「D県警」を舞台に其処で働く人々が関わる事件とその真相を描いたシリーズ作品。
シリーズ既刊には『陰の季節』の他に『顔 FACE』『64』が存在しており、共通の世界観を保持しています。
また、未収録作品として『刑事の勲章』も存在しています。
いずれも視点人物が異なるものの、二渡が共通して登場している点がポイントです。

『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『64』(横山秀夫著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

本作『陰の季節』は短編集となっており表題作『陰の季節』の他に『地の声』『黒い線』『鞄』など合わせて4作が収録されている。
特に表題作でもある本作『陰の季節』は第5回松本清張賞受賞作となっています。

ちなみに『陰の季節』は「何故、尾坂部が退任しないのか?」に基づく「ホワイダニット」作品。
その陰に潜む事情と残酷な結末は必読です!!
また、「傍聞き」が意外な効果を示しているのもポイントです。

なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:

二渡真治:警務部警務課に所属する警視
尾坂部:元刑事部長、現在は産業廃棄物不法投棄監視センター専務理事
前島:刑事課長、二渡とは親友の間柄
恵:尾坂部の娘
青木:尾坂部の運転手


二渡真治は警務部警務課の警視、同期の中では出世頭だ。

そんな二渡の頭を悩ませる事態が出来した。
なんと、3年の約束で「産業廃棄物不法投棄監視センター専務理事」の職に送り出した尾坂部が約束の期間を過ぎても居座る素振りを見せたのである。
既に後任が決まっている。
今更、「嫌だ」はあり得ない事態であった。

尾坂部は叩き上げで刑事部長にまでのし上がったD県警の伝説。
また、それに相応しいキャリアの持ち主でもあった。
これまでに未解決となったのは暴行事件ともう1つ、僅かに2件のみだ。

その尾坂部が輝かしいキャリアの最期に自ら汚点を残そうとしている。
尾坂部の娘・恵の結婚も近くに控えており、新婦の父として今になってその座を惜しんだのか?
だが、二渡にはどうしてもそうは思えなかった……。

尾坂部の狙いを把握すべく「産業廃棄物不法投棄監視センター」を訪れた二渡。
ところが、当の尾坂部は留守であった。
何でも尾坂部は此処半年ほど頻繁にセンターの車で出かけるようになったらしい。
壁を見れば周辺地図と共に実際に足を運んだと思われる場所にチェックが入っていた。
それは市内を縦横無尽に走っていた。

異動はすぐ其処に迫っており猶予は殆どない。
焦る二渡は何とか尾坂部へ接触しようと試みるが、尾坂部の態度は冷ややかなものである。

一縷の望みを抱いて尾坂部を良く知る前島に助言を求める二渡。
前島は二渡の同期にして現刑事課長、尾坂部とは元上司と部下の関係にあたる。
上手く行けば何かのヒントが得られるはずであった。

二渡の来訪に驚きつつも、これに応じた前島。
尾坂部の人柄について問うと「犯人は現場に戻らない」を信条にしていたらしい。
通説では「犯人はその後の捜査が気になって現場に戻る」とされているが、実際は全く逆なのだそうだ。
事実、尾坂部はこの信条に基づき伝説とまで称される存在となったのである。

結局、確たる情報を得られなかった二渡。
だが、尾坂部の未解決事件の被害者に、彼の娘・恵の名を目にしてある可能性を思い至る。

もしかして、尾坂部は嫁ぐ娘の為にこの事件を解決しようとしているのではないか?
だが、尾坂部は車を運転出来ない。
其処でセンターの運転手である青木に協力を求め、密かに捜査を続けているのではないか……。

翌日、二渡は思い切ってこの疑惑を尾坂部へぶつけてみた。
尾坂部は二渡に青木の車に同乗するよう促すと、彼を前に暴行事件について語るよう迫る。
戸惑いながらも二渡はこれに応じた。
緊迫した雰囲気を察したのか青木の咽喉が大きく鳴る、気のせいか青木の白髪頭が細かく震えているようだ。
そんな2人を嘲笑うかのように尾坂部は二渡の推測が的中していることを認めた。
ただし、それには予想外の続きがあった。

なんと「既に目星を付けている」と述べたのだ。
しかも「犯人の遺留品として髪の毛があり、逮捕も直だ」と断言したのである。

そんな話を聞いていなかった二渡は大混乱。
慌てて前島に確認してみることに。
すると、前島はさらに意外な返答を寄越す。

前島によれば「確かにあった。だが、今はもうない」のだそうだ。
現場から採取されたのはたったの1本。
しかも、犯人の血液型を特定すべく粉砕してしまったので存在しないらしい。
また、その髪は白髪だったと言う。

それから数ヵ月が経過した。
結局、尾坂部は退任しなかった。
代わりに、後任に目されていた人物が辞退することで事態は解決を迎えた。
おそらく尾坂部が直接、後任と話を付けたのだと思われた。

そんなある日のこと、二渡はある新聞記事を目にして驚愕する。
其処には青木が自殺したと書かれていた。
この瞬間、二渡の中で全ての点が線で繋がった。

二渡は尾坂部のもとを訪れると真相を語り出した。

尾坂部が解決できなかった暴行事件。
すなわち、恵を襲った犯人は青木だったのだ。
偶然にも運転手としてやって来た青木と出会った尾坂部は彼の髪色から犯人ではないかと疑惑を抱いた。
さらに、意図的に青木が現場付近を避けて運転していたことに気付き、確信した。
「犯人は現場に戻らない」とのアレである。
しかし、証拠がない。
其処で尾坂部は青木に現場付近を走るように命じ、その様子をじっと窺っていたのだ。
何時か青木が精神的に屈し自白することに期待しながら。
だが、青木が自白するよりも早く任期切れが迫ってしまった。
だからこそ、尾坂部は居座ることに決めたのだ。
ところが、二渡が真相に迫ったことで計画を変更し、大胆な勝負に出た。
ありもしない証拠をあると述べ、より積極的に青木に圧力をかけたのだ。
結果、青木は耐え切れなくなり自殺したのであった―――エンド。

◆関連過去記事
【横山秀夫先生著作記事】
『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『64』(横山秀夫著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【ドラマ関連】
土曜ドラマ「64(ロクヨン)」第1話「窓」(4月18日、4月24日)ネタバレ批評(レビュー)

土曜ドラマ「64(ロクヨン)」第2話「声」(4月25日、5月1日)ネタバレ批評(レビュー)

土曜ドラマ「64(ロクヨン)」第3話「首」(5月2日、5月8日放送)ネタバレ批評(レビュー)

土曜ドラマ「64(ロクヨン)」第4話「顔」(5月9日、5月15日放送)ネタバレ批評(レビュー)

水曜ミステリー9「横山秀夫特別企画 永遠の時効 謎の数列29、41、51は無意識の自白調書!2つの完全犯罪とオンナの嘘を暴く逆転の取り調べ!」(6月25日放送)ネタバレ批評(レビュー)

日曜洋画劇場「特別企画 臨場 劇場版 話題作!!テレビ初放送 大ヒットドラマ遂に映画化!!型破り検視官倉石が挑む最大の事件」(6月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)

【その他】
横山秀夫先生、前橋でのトークショーにて小説観を語る!!

横山秀夫先生7年ぶりの新作『64』、文藝春秋社より2012年10月27日発売決定!!

【速報】横山秀夫先生『臨場』が映画化決定!!キャストはドラマ版と同じ!!

「横山秀夫サスペンス」DVD-BOX、2010年10月27日発売!!

横山秀夫先生『64』(文藝春秋社刊)が続々実写化!!まずは2015年4月に連続ドラマ化、次いで2016年に映画化とのこと!!

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