ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
ついに指摘された「真犯人」の正体。現実と夢の世界を跨いだ「失踪・殺人」事件の真相とは。堂々の最終回!
(東京創元社公式HPより)
<感想>
小林泰三先生の新作長編『クララ殺し』が『ミステリーズ!』にて連載中です。
今回はその最終話(第6話)。
遂に事件は解決。
タイトル『クララ殺し』の意味は「クララが被害者」ではなく「クララによる殺害」を意味していたようです。
そして、やはり新藤礼都はこのポジションだったのか……。
礼都と言えば『密室・殺人』、『自らの伝言』、『更新世の殺人』に登場し、時に犯人、時に探偵と様々な役割を演じて来ましたが、今回はあの位置に。
一方、同じく『密室・殺人』、『大きな森の小さな密室』、『路上に放置されたパン屑の研究』などに登場するレギュラーキャラ・岡崎徳三郎こそが探偵ポジションに。
ホフマン宇宙のあの人でした。
とはいえ、偽ドロッセルマイアーの正体があの人のアーヴァタールだったのには驚いた。
こうなるとコッペリウスが地球世界の誰だったのかが気になりますね。
また、ラストのアレは「蒸着」と「スナークの合言葉」から『アリス殺し』の世界へ繋がることを意味するものか。
だとすれば、本作『クララ殺し』は『アリス殺し』の前日譚だったことになるなぁ……。
「赤の王」が登場する第三弾(『アリス殺し』後の世界)が登場し、「ホフマン宇宙」すなわち『クララ殺し』へと繋がれば三部作で円環が完成しそうだ。
もちろん、今度は西条とか丸鋸博士とかがゲストだね。
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
どちらかと言えば、かなりライトにしました。
本作はもっとヘヴィかつブラックです。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
【地球】
井森:『アリス殺し』から再登場。大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
露天くらら:アーヴァタールはクララらしいが……。
ドロッセルマイアー:工学部教授。本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」。
鼠:車中で焼死していた鼠。くららを襲った車に乗っていた。
諸星:くららの知人。千秋の父。
諸星の家内:諸星の妻。諸星とは別居中。
千秋:諸星の娘。くららの教え子。
新藤礼都:殺人者。『密室・殺人』、『自らの伝言』、『更新世の殺人』に登場。
岡崎徳三郎:探偵。『密室・殺人』、『大きな森の小さな密室』、『路上に放置されたパン屑の研究』に登場。
【ホフマン宇宙】
蜥蜴のビル:『アリス殺し』から再登場。相変わらず場を掻き乱すことに。
クララ:ビルが出会った車椅子の少女。
ドロッセルマイアー:判事。
シュタールバウム:クララの父親。
フリッツ:クララの兄。
鼠:クララ殺しを図ったとして処刑された。
スパンツァーニ:ナターナエルの師匠。
ナターナエル:スパンツァーニの弟子。
オリンピア:スパンツァーニが作った自動人形。
コッペリウス:ドロッセルマイアーと犬猿の仲の弁護士。
マリー:クララの友人の1人。クララ宅の自動人形。
ピルリパート:クララの友人の1人。姫。
若ドロッセルマイアー:判事と同姓同名の別人。ピルリパートの恋人。
ゼルペンティーナ:クララの友人の1人。正体は蛇。
トゥルーテ:クララ宅の自動人形。
パンタローン:スキュデリの部下。
スキュデリ:ビルに協力を申し出る。
ロータル:クララの兄……の記憶を植え付けられている。
・前回はこちら。
『クララ殺し』第5話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
「ホフマン宇宙」の「マリー」こそ「地球世界」の「くらら」であった。
スキュデリの指摘に動揺するドロッセルマイアー。
一方、スキュデリはこれがどう言った結果に繋がるか語り出す。
そもそも「ホフマン宇宙」で「マリー」、「地球世界」で「くらら」の遺体が発見された。
その上で「くらら」がホフマン宇宙での「クララ」であるとの前提があったからこそ、「クララ」に加えて「マリー」が殺害されたと考えられていたのだ。
だが、「マリー」が「くらら」であれば被害者は1人しかいないことになる。
さらに何やら顔色を変えるドロッセルマイアー。
スキュデリはそんなドロッセルマイアーの狼狽を窺いつつ、次なる攻め手を見せる。
どうして、マリーとドロッセルマイアーがこんな芝居を打つ必要があったかを問題視したのだ。
この成り済ましを成立させるにはドロッセルマイアーの協力は不可欠だ。
当然、ドロッセルマイアーは事情を知っていることになる。
苦虫を噛み潰した表情を浮かべるドロッセルマイアーは渋々と言った様子で「コッペリウスとゲームをしただけだ」と語り出した。
なんと、ドロッセルマイアーはコッペリウスと共謀し、周辺の人物の幻想を調整すると「マリー」と「クララ」を入替えたのだ。
その上で、本人たちがコレに気付いたら協力しどちらが勝つかを楽しんでいたらしい。
その狙いは当たった。
ドロッセルマイアーのもとにマリー(元はクララ)が現れ、立場を奪ったクララへの復讐に協力するよう依頼されたのだ。
その復讐計画に必要だったのが偽のドロッセルマイアー。
依頼を受けた「ホフマン宇宙」のドロッセルマイアーはマリーの要望通り「地球世界」で彼に似た人物を募集し偽のドロッセルマイアーを用意したのである。
其処には井森、いや井森を通じて探偵役を騙す意図があった。
マリーとドロッセルマイアーは「ホフマン宇宙」と「地球世界」のアーヴァタールの容姿が似通う物と井森に思い込ませようとしていたのである。
これにより、「地球世界」の「くらら」が「ホフマン宇宙」の「クララ」であると思い込ませようとしたのだ。
その狙いはアリバイ作りにあった。
くらら(マリー)はクララを騙り、祭の様子を口にすることで祭時点までは生きていたように偽装するつもりだったのだ。
さらに、ホフマン宇宙のクララの死に連動し地球世界で落とし穴で死亡したと偽装した。
くららの本体はマリーなのだから、地球世界で落とし穴に落ちても井森同様にその死自体がリセットされていたのだ。
落とし穴の血痕はくらら自身が残した物だろう。
だが、マリーの思いも寄らぬ展開が待ち構えていた。
クララに返り討ちにあってしまったのだ。
そもそも、被害者がマリー1人ならばクララは何処に居るのか!?
実は、クララもまた真相に気付きドロッセルマイアーの助力を仰いでマリー殺害を目論んだのだ。
募集に応じた偽のドロッセルマイアーこそ、クララのリンク先であった。
クララはドロッセルマイアーの募集を目にし、不審を抱き計画に勘付いたのだ。
其処で偽のドロッセルマイアーとしてマリーの計画を全て知ることとなった。
此の時、クララはマリーの計画を利用し殺害を決意したのだ。
あの日、マリーはクララを殺害しようと近付いたが逆に罠を仕掛けられたことを知った。
クララが待ち構えていたのだ。
クララはマリーに「毒針を刺した、土下座すれば解毒剤を与える」と告げた。
これを信じたマリーはその場で土下座し瓶に入った液体を飲み干した。
ところが、それこそ毒薬だったのだ。
こうして、マリーは絶命してしまった。
同時に地球世界のくららも死亡したのであった。
では、当のクララは何処に消えたのか!?
スキュデリはマリーとクララが入替っていたように、別の誰かとクララが入替っていると告げる。
その人物……いや機械人形こそオリンピアであった。
クララが入替れり可能な人物は限られている。
少なくともクララが成り済ましても問題が生じないのは人形でありゼンマイが切れれば動けなくなるオリンピアしかいない。
しかも、オリンピアはスキュデリの聴取の際にマリーが死亡したと口にしていた。
あの時点ではマリーの遺体が発見されていないにも関わらず!!
すなわち、オリンピアこそクララである動かぬ証拠なのだ。
告発された偽オリンピアことクララ。
本物のオリンピアはゼンマイが切れて地下室に眠っているらしい。
これを聞かされたスパンツァーニが激怒する。
何故なら、クララだと知らなかった彼は偽のオリンピアに調整を施してしまっていたのだ。
もはや、人間に戻ることは出来ないのである。
今度はクララがパニックに陥る番であった。
あくまで一時的なものだった筈のオリンピアとしての生がスパンツァーニによって一生に変えられてしまったのだ。
そんなクララを面白がるドロッセルマイアーとコッペリウス。
2人はクララに近付くと彼女を分解してしまった。
その中からは多数の機械部品が零れ落ちて行く。
再構成を謳うドロッセルマイアーたちは辛うじてクララの形だけを取り繕うのだが……。
そして地球世界。
其処ではクララのアーヴァタールこと「偽ドロッセルマイアー」が急に倒れ込んで入院していた。
意識不明の重体で回復の見込みは無いらしい。
どうやら、クララ本体の異常に連動してしまったようだ。
マリーは死亡し、クララも思わぬ形で罪を償った。
だが、1人だけほぼ無傷の者が居る。
そう、本物のドロッセルマイアーとその地球世界のアーヴァタールに当たる人物だ。
ドロッセルマイアーはスキュデリにより吊し上げられたが、アーヴァタールは全くの無傷である。
そんな中、井森は礼都と出会った。
井森は礼都こそがドロッセルマイアーであると断言する。
これを悪びれもせず認める礼都、その姿は何時の間にかホフマン宇宙の彼と重なっていた。
井森は礼都の罪を問おうとするのだが……礼都は「絶対に捕まえられない」と自信を見せる。
何故なら、罪が無いからだ。
現に直接手を下した井森は生きている。
井森は落とし穴に嵌った以外で合計3回殺されていた。
最初に殺したのは礼都(ドロッセルマイアー)だ。
くらら(マリー)に井森を気絶させるよう依頼されていた為らしい。
だが、まどろっこしいので撲殺してしまったと言う。
2度目に落とし穴にメモを見つけた際に殺したのはくらら(マリー)である。
クララの様子に不審を抱いていたくららは念の為にメモを残したが、成功するかもしれない計画実行前に確認されることを避ける為に井森を殺害した。
3度目にメモを拾った際に殺したのは偽ドロッセルマイアー(クララ)である。
もちろん、メモの内容から真相が露見することを怖れた為だ。
つまり、井森は3人から命を狙われていたことになるワケだが結果として生きている。
だからこそ、礼都らに罪を問えないのだ。
愕然とする井森に高笑いを上げる礼都。
彼女は過去にも罪を犯しながら逃げ果せたのだそうだ(『密室・殺人』、『自らの伝言』を参照)。
それも、殺人であり、1件や2件ではないらしい。
「なるほど、なるほど」
と、此処にタイミングを計ったように岡崎徳三郎がやって来た。
岡崎を目にするなり、呻き声を上げる礼都。
先程までの余裕は何処へやら、一目散に逃げ出そうとする。
だが、これを岡崎が阻止。
岡崎は井森へと向き直るとニヤリと微笑み「此処から先は任せるように」と告げる。
井森は気付いた、彼こそがスキュデリであることに。
過去、礼都は岡崎により犯行を看破され罪に問われたが裁判で無罪に持ち込んでいた。
これは岡崎にとって痛恨事だったと言う。
しかし、礼都は油断から岡崎の前で余罪があることを認めてしまったのだ。
岡崎は礼都の罪を追及して見せると宣言、礼都は顔色を変えて悲鳴を上げる。
礼都にとって岡崎は天敵だったのである。
狼狽し続ける礼都、じわじわと追い詰める岡崎を置いて井森は外へ出た。
と、そんな井森に声を掛けて来る女性が……。
何でも「蒸着」の権利を借りたいらしい。
井森は大切なことを思い出し彼女に語りかける。
「ブージャムは?」
「スナークだった」
こうして井森は世界の境界を越えた―――エンド(『アリス殺し』に続く?)。
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