記念すべき小説批評(レビュー)第1回目はこちら。
「アヒルと鴨のコインロッカー表紙 どことなく哀愁を漂わせています」
「アヒルと鴨のコインロッカー裏表紙」
「帯―映画情報が載っています。神様を閉じ込めに行かないか?の一文がこの作品を象徴しています」
伊坂幸太郎:著
東京創元社:刊
初版:2006年12月22日
ジャンル:青春ミステリ
備考:第25回吉川英治文学新人賞受賞作品
[内容紹介]
引っ越してきたアパートで出会ったのは、
悪魔めいた印象の長身の青年。
初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。
彼の標的は――たった1冊の広辞苑!?
そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、
なぜか僕は決行の夜、
モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!
注目の気鋭が放つ清冽な傑作。解説=松浦正人
(東京創元社HPより)
≪レビュー≫注意:ネタバレ含みます。
2007年映画にもなったことで有名な本作。
登場人物は主に以下の6名。
椎名 現在篇の主人公(一応…読み進めるうちに別のある人物が主人公っぽくなる)
河崎 主人公(椎名・琴美)が出会うことになる人物。現在篇における悪魔めいた長身の美青年は彼。
琴美 過去篇の主人公。麗子の経営するペットショップの店員。
ドルジ ブータン人留学生。
麗子 琴美の勤めるペットショップの店長。
江尻 本屋の店員
えーと、お話は過去(2年前)と現在が交錯して進みます。
つまり、過去のある人物が現在のある人物にすり替わっていることこそが本作におけるミステリ的な意味でのテーマ。
でも、どちらかというと青春ミステリの名の通りストーリー全体の雰囲気を味わうのが正しい楽しみ方だと思う。小道具を通じて空気を感じてください。
以下、ストーリー。
大学に進学した椎名は河崎というひとりの男と出会い、江尻の勤める本屋襲撃に誘われる。狙いは一冊の広辞苑。なし崩し的に決行してしまった後、河崎の抱く不思議な空気に惹かれ、彼に対する興味を強くする。彼のことをもっと知りたい椎名は河崎のことを調べていくうちに河崎のことを知る麗子と出会い、そこからいろいろと突き止めていくことになるのだが…。反面、2年前(過去篇)では連続動物虐待(虐殺)事件が発生。これに麗子のペットショップに勤める琴美、河崎、ドルジの3人が関わり、琴美の正義感から犯人グループを追い詰めようとしていた。しかし、結果として、その正義感は報われず、琴美は逃走しようとした犯人グループの車に接触、命を落としてしまうのであった。
さらにネタバレの度合いが強くなります。それでも読む方は続きを読むをクリックして下さい。
どことなく全編に流れる無力感、焦燥感に先の見えない不安を煽られながらも、ボブ・ディランを通じて与えられる希望のラスト(それも、ほんのわずかだが…)に多少、ホッとさせらるような切ないようななんとも表現しがたい気持ちにさせられる――そんな作品。
{受賞歴等}
*第2位「このミステリーがすごい! 2005年版」国内編ベスト10
*第3位 2004年(第1回)本屋大賞
*第4位「週刊文春」2004年ミステリーベスト10/国内部門
*映画『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年/中村義洋監督)原作
↓東京創元社様の入口です。興味があればぜひ。
ここから、完全にネタバレ。
過去篇のドルジこそが現在篇の河崎。過去の河崎は物語開始時点で死亡(病気を苦にした自殺)している。過去篇にあったように琴美はペット虐待犯グループによりすでに死亡(事故)しており、ドルジは椎名に協力させるために河崎の名を借りていた(日本人の方が近づきやすく、心理的な壁に関してもクリアしやすくなると判断&今は亡き河崎の立案計画を実行するにあたって河崎に見守ってもらいたかった)。本屋襲撃の動機は琴美の復讐だった。実は、江尻こそがペット虐待犯の生き残り(全3人のメンバーのうち、2名は琴美の事故で死亡していた)であり、当初、現在の河崎=ドルジは本屋襲撃をかけることで椎名には内緒で江尻を殺害するつもりだった。だが、この計画はとどめをさせなかったことから急遽変更。ドルジ自身が多少のアレンジを加え、江尻を生きたまま鳥葬にする形で完成を迎えた。しかし、最終的には江尻は警察に保護されており、失敗に終わる。ラスト、彼らにとっての「神様」を閉じ込め、椎名と駅で別れた後のドルジについては想像するしかない。
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