2009年11月03日

名探偵に薔薇を(東京創元社)

「名探偵に薔薇を」城平 京(東京創元社刊)の批評(レビュー)です。ネタバレ含みます。お気をつけください。


本格の世界へようこそ!!

薔薇を1
「名探偵に薔薇を 表紙 薔薇の絵が美しいです」

薔薇を2
「名探偵に薔薇を 裏表紙 メルヘン小人地獄です。不穏当な文字が躍ってます。下の帯には錚々たるメンバーの名前が。もちろん当ブログで今後も取り上げていく予定です」

薔薇を3
「名探偵に薔薇を 目次 2部構成です」


城平 京:著 
東京創元社:刊
初版:1998年7月24日
ジャンル:本格ミステリ
備考:第8回鮎川哲也賞最終候補作品


内容紹介:
怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。
その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。
やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。
不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に?
第八回鮎川哲也賞最終候補作、文庫オリジナル刊行。
                        (公式HPより)

城平 京さんといえば「月刊少年ガンガン」にて連載されていた漫画「スパイラル 〜推理の絆〜」の原作者さんであります。
ロジック重視の作家さんですね。
では、早速、ネタバレ・批評(レビュー)から。

<1部 メルヘン小人地獄>
薔薇を4
「名探偵に薔薇を 1部 登場人物一覧」

親子3人と家政婦で、幸せに暮らす藤田家。
ある日、藤田克人の妻である藤田恵子が殺害される。
そして、公開された奇妙な童話「メルヘン小人地獄」。
そのおどろおどろしい内容と藤田恵子殺害の状況の合致に世間の注目が集まる。
恵子は話中のハンナと同じ殺害方法で殺されていたのだ。
そんな中、童話の作者であり、事件の犯人を名乗る鶴田という人物が表れる。
だが、彼には犯行当時留置所にいたという鉄壁のアリバイがあった。
鶴田は云う。
「もうひとり殺している」と。
殺害されたのは国見。
その殺害方法は話中のニコラスと同じだった。
警察は連続殺人である以上、鶴田にアリバイがある限り手が出ない。
とうとう、鶴田は藤田家に乗り込み克人を脅迫する。

「金を出せ、さもなくばフローラと同じ方法で鈴花を殺害する」

実は鶴田は過去に恵子の父と国見の二人によって「小人地獄」と呼ばれる用法用量を守れば無味無臭、自然死にしか見えず、解剖しない限り絶対に検出不可能、作用効果も不明という稀代の毒薬の実験台にされていたのだ。今回の事件はその復讐だという。自分を迫害したものはその一族郎党根絶やしにするというのだ。
打つ手もなく、窮地に陥る克人、鈴花。
そのとき、鈴花の家庭教師、三橋がある人物を連れてくる。
彼曰く、「最強の切り札にして名探偵」――その人物こそが瀬川みゆき。生まれながらにして名探偵の宿命を持つ女性だった。

ここから1部ネタバレです。注意!!

2、3の調査を経て鶴田と対決する瀬川。
そこで明かされる真実。
鶴田は国見の共犯者だった。
今回の計画はすべて国見が主導していたのだ。
「メルヘン小人地獄」も恵子殺害も国見。
国見の目的は稀代の毒薬「小人地獄」を宣伝し、販売すること。
そのための恐怖のキャンペーンだったのである。
それを鶴田が国見を殺し奪ったのだ。
真相が明かされ、鶴田は崩れ落ちた。
「メルヘン小人地獄」の本当の意味に気付かなかったためだ。
登場人物の名がハンナ(恩恵)=恵子、ニコラス(勝利)=克人、フローラ(花)=鈴花を表すことを。
国見の計画では克人を殺すつもりだったのである。

こうして、鈴花は救われた。瀬川は静かに去って行った。
鈴花に強烈な印象を残して…。


<2部 毒杯パズル>

薔薇を5
「名探偵に薔薇を 2部 登場人物」

あの藤田家で再び殺人事件が起こった。
被害者は山中。三橋の後に家庭教師になった人物である。
しかし、不可解な状況だった。
殺害に使われたのは藤田家に保管されていた「小人地獄」。
だが、その使用法が異常だった。
適量を守らず、とても口にできないほどの苦味が出る量を使用していたのだ。
今回、山中が死亡したのは彼女が無味覚症だったためで、常人ならば殺害は適わない筈だった。
この謎の殺人に藤田の会社に雇われていた三橋は再度、瀬川の出馬を願う。
真相は果たして――。

これ、「あとがき」にも記されていますが、2部の方が先だって出来ています。1部は2部のためにつくられたものです。
一応、2部についても下でネタバレあります。
ただし、ご自分で結末を楽しみたい方はこちらで販売されていますのでどうぞ↓






で、ここからは2部のネタバレです。それでも読むという方は下の「続きを読む」をクリックください。ここから完全ネタバレです。注意!!


名探偵のために事件はつくられる!!

すべては名探偵のために!!

この言葉がこの作品のすべてを表しているといっても過言ではありません。
殺人が起こってあの人と出会えた。
もう一度、会うためにはどうすればいいか?
もう一度、同じシチュエーションが起こればいい。
そう、振袖火事のお七のように。

瀬川という名探偵に会いたいがために殺人を犯した犯人。
そして、自分の存在、「名探偵」の業の深さに苦しむ瀬川。

このモチーフ自体は、過去に先行作がありますね。
たしか、法月倫太郎氏も短編で書いていた筈です。

本来、殺人足りえない事件の筈でした。
山中が無味覚症でなければ。
すべて上手くいく筈だったのです。
少女の計画は……。

もう、おわかりでしょうか。あえて犯人の名は明かしません。
その方がよい作品です。
他にも、瀬川の秘密。三橋の計画。犯人の行く末。
名探偵たる瀬川。
そのラストがどうなるのかは……作者に敬意を表して伏せさせていただきます。

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posted by 俺 at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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