我孫子武丸さんといえば次回の「探偵Xからの挑戦状!」で「記憶のアリバイ」を担当された作家さんです。そこで、当ブログでは我孫子武丸さんの傾向と対策を把握するためにその処女作である「8の殺人」を取り上げます。
これを読めば次回探偵X!「記憶のアリバイ」については楽勝……かも!?

「8の殺人 表紙 シンプルな表紙、それでいて8の字がおどろおどろしさを醸し出しています」

「8の殺人 裏表紙 8の字屋敷との文字が見えますが……」
8の殺人DATA
我孫子武丸:著
講談社:刊
初版:1992年3月
ジャンル:ミステリ
備考:新本格の一翼を担う我孫子武丸氏の処女作。
内容:
大胆なトリックで本格ミステリーファンをうならせた傑作長編。
建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた、
通称“8の字屋敷”で起きたボウガンによる連続殺人。
最初の犠牲者は鍵を掛け人が寝ていた部屋から撃たれ、
2人目は密室のドアの内側に磔に。
速水警部補が推理マニアの弟、妹とともにその難解な謎に挑戦する、
デビュー作にして傑作の誉れ高い長編ミステリー。
(講談社公式HPより)
では、早速ページをめくってみましょう!!
ここからネタバレになります。それでも良い方は、下の「続きを読む」をクリックしてください。

「8の殺人 目次 なかなか意味深な文字が躍ってます」

「8の殺人 館ものにはつきものの平面図。これがないと始まりません」

「8の殺人 登場人物一覧 誰が犯人だ?」
登場人物一覧からもセンスが見えてきませんか?
長男なのに恭三、次男が慎二、長女がいちおだったり、
蜂須賀(はちすか)さんのお宅で8の字屋敷だったり、我孫子武丸さん流のエスプリが効いています。このセンス、管理人大好きです。
もともと我孫子さんは硬柔両面を兼ね備えているものが多くて油断できません。この「8の殺人」もその読みやすさとは裏腹に中身はどっぷり本格にハマっている作品。「殺戮にいたる病」と「人形シリーズ(妹尾睦月シリーズ)」を読み比べてみてもそれは歴然。「あっちを書いた同じ人間がこっちも書いたの…」と吃驚すること請け合い。
ジョン・ディクスン・カーについても触れられてるし、ミステリマニアにも、初心者にもとっつきやすいと思う。
で、ここからネタバレ(「殺戮にいたる病」についても触れています未読の方は注意!!)。
犯人は自己顕示欲の強いあの人。劇中、容疑者筆頭のあの人です。
一度、疑わせておいて……。
あえて、名前はあげません。
たぶん、8の殺人を読めばすぐにこの意味がわかるでしょう。
で、トリックはこの館ならではの鏡の使い方がヒント。
これも、本書「8の殺人」を見れば割と早期にわかる。
なぜ、管理人が上記2点をさらっと流しているかというと、
この「8の殺人」の本当のテーマ、面白さは以下に集約されると思うから。
「この作品は犯人当てよりもその動機の方が特異的」
でもって、その動機というのが、
「自分の考え出したトリックを実行したいがために行う犯罪」
この発想。
「必要があってトリックを思いついた」のではなくて、「トリックを思いついたから必要に駆られた」こと。
この本末転倒させてるところが管理人にとっては面白かった。
ここらへんの発想の逆転は「殺戮にいたる病」にもあって、あちらは「叙述ミステリ」(この言葉は割と不便、必ず身構えてしまうから)として、息子と父親を読者に誤認させてるんだけど、あれも逆転。
8の殺人についてはここまでにして。
ここから、教訓をば。
我孫子武丸さんは発想の逆転を利用した作品が多いと管理人は思う。
中かと思えば外。右かと思えば左。
今回「記憶のアリバイ」もその系統かもしれない。
他に管理人が印象に残っているのは速水兄弟の別作品で述べられていた「困難は分割せよ」。
つまり密室内で人が刺殺されていた場合、なぜ、密室内で刺殺されていたかを考えるのではなく、密室と刺殺を分割してそれぞれの発生状況を分析、処理するというもの(例が上手くないが……)。
これもいわば発想の逆転。「二つ同時に起こったから意味があるのではなく、現象として個別に処理することでそれぞれを意味づける」これも今回の傾向かも。
で、今回のまとめ。
実は、一番の見所は不死身の木下君かもしれない……「8の殺人」。
これが、お気に召せば「0の殺人」、「メビウスの殺人」も是非。
その次は「人形シリーズ」だ!!
追伸:当ブログでは「記憶の殺人」を第1回配信から追う予定です。
乞うご期待!!実は一番主張したいのはコレだったりする(笑)!!
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