2009年12月26日

容疑者Xの献身(文春文庫版)&映画版

今回は「容疑者Xの献身」(東野圭吾著、文春文庫刊)のネタバレ批評(レビュー)です。フジテレビにて「ドラマレジェンド」12月29日(火)21:00から地上波発放送になる映画版のネタバレもアリます!!

エゴと愛の境界線はどこに?

容疑者Xの献身1
「容疑者Xの献身 表紙 黒い背景に赤い薔薇」

容疑者Xの献身2
「容疑者Xの献身 裏表紙」

容疑者Xの献身3
「容疑者Xの献身 東野圭吾氏の湯川シリーズ長編です」

では、あらすじネタバレを。

花岡靖子は弁当屋「べんてん亭」で働きながら娘・美里と暮らしていた。
そこへ元夫・富樫がやってくる。
富樫は靖子の2度目の夫、美里と血の繋がりは無い。
富樫は靖子のみか美里まで食い物にしようとしていた。
その態度にキレた美里が富樫を殴りつけ、騒動の果てに靖子も加わり富樫を殺害してしまう。
ここで、隣の部屋に住む数学教師の石神が事態を聞き付けやって来る。
だが、彼は警察を呼ぶどころか率先して死体の隠蔽に協力する。
そんな彼の態度に感謝しながらも、恐れる靖子。
「すべて、私に任せてください」そう語る石神―――。

数日後、事件が発覚。
死体が河川敷で発見されたのだ。
顔は潰され、身元は不明。
だが、近くに乗り捨ててあった自転車から被害者と同じ指紋が採取。
そこからカプセルホテルまで辿り着き、被害者は富樫であることが判明。
靖子、美里の存在も浮上する。
が、彼女たちには鉄壁のアリバイがあった。

一方、石神は捜査陣にバレないように靖子、美里に指示を与え続ける。
そんな折、草薙は石神あての郵便物から石神が同じ帝都大学出身者であることを知る。
湯川にその話をしたところ、彼も石神を知っていた。
湯川によれば石神は「天才」だと云う。
通称「だるまの石神」。
過去、学問領域は異なるもの石神は湯川同様に学者を目指していたのだ。
こうして、湯川も事件に関わることに。

石神と会った湯川は彼の様子から疑念を抱く。
ついに真相を突き止める湯川。
だが、真相は余りに悲劇的なものだった。


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過去―――。
学者としての生を捨て、生きる意味を見失い、悶々とただ日々を過ごしていた石神。
ついに自殺を思い立った彼は自室で首を吊ろうとする。
そこへ突然の訪問者が。
それこそ隣室へ引越しの挨拶に来た花岡親子だった。
彼女たちにこの世の美しさを感じた石神は生きることに決めた。
彼女たちの為に生きる石神。
今回、彼が行ったことはもうひとつ死体を作り、それを富樫に見せかけることだった。
事前に人(技師と呼ばれていた人間)を雇い、富樫の宿泊したカプセルホテルに泊らせ指紋や毛髪を残させる。現場へ向かう自転車にも同じく指紋を残させた上でその人物を殺害。死体から意図的に検出させた指紋により、死体を富樫と誤認させたのだ。
河川敷の死体の実際の殺害時刻は富樫より後。
その時刻に靖子、美里にアリバイがあれば……。
そうすれば、捜査陣はアリバイに執着する限りそこから抜け出せない。
だが、湯川は石神の行為に気付いてしまった。

窮した石神は事前に用意しておいた最後の手段をとる。
自分がすべての罪を被って自首することに。
死体はひとつ、犯人もひとり。
自分が罪を被れば靖子は富樫殺害では裁かれえない。
幸い靖子には新しい交際相手もいる。
「幸せになれるはずだ」それが石神の結論だった。

これに対し、湯川は遂に靖子に石神の行為を告げる。
驚愕し、畏れ慄く靖子。
石神の想いを受け、逃げ延びるべきか―――。
悩む靖子に一本の電話が。
それは、娘・美里の自殺未遂の報だった。
ここに靖子は崩れ落ちた。
警察に出頭する靖子。
自分の行為が破れたことを知り、絶叫する石神。
「せめて、泣かせてやれ」それを見守るしか出来ない湯川。

エンド。

<映画版>
映画版は原作にほぼ忠実に作られていますが以下の点が違います。
・映画版オリジナル要素
「原作に出ない内海がいる」
「オープニング、湯川のクルーザー実験を追加」
「べんてん亭がみさとに変更」
「富樫殺害時の凶器が違う」
「石神との雪中登山シーンを追加」
「ラストシーン」
「エンディング、富樫らしい死体が海中から発見されるシーン」


<感想>
石神は劇中では捜査陣相手に「アリバイトリック」に見せかけた「死体交換トリック」を仕掛ける。
同時に読者に対しても同様のトリックを仕掛けてくるわけです。
読者は神の視点で「倒叙モノ」の解答(富樫殺害犯は靖子&美里)を知っているはずなのに、捜査陣がそこに触れないことをやきもきしながら読み進めるわけです。
ある程度、読み進めるうちに“アレ?”と違和感を抱き、どこかで「そういえば日付って出てたっけ?」とトリックの正体に気付くわけですが、ここでの「やられた感」が凄い。
気付いた時には石神の驚くべき行動(トリックの為にさらに人を殺す)の秘密も明らかになるわけで、ショックを受けたままの無防備な心に石神の献身がするりと染み込んでくる。
読者は石神に感情移入してしまう。
石神の見返りを求めない愛に没入してしまう、のだが……。
読後、落ち着けば石神の愛とはエゴだったのかと考えさせられる。
一度、感情移入した石神に批判的な目を向けるようになる。
以上のように、ミステリとしてより小説としての完成度が高い。
後世に残すべき名作のひとつと思います。


<追記>
原作自体、出版当時「本格か否か?」で論争が起こったという本作。
二階堂黎人氏が「これ(容疑者X)は、作者が推理の手がかりを意図的に伏せて書いており本格に相応しくない」としたのに対し、多くの批評家がその説を批判。笠井潔氏は「そんな問題ではない」と一蹴した上で、ミステリーズ15号(2006年)において、新たに「(容疑者Xが)探偵小説の精神的核心部分において形骸化」していることに注目し、作者・東野氏を論難した。
笠井氏の説によれば(おそらく)「容疑者Xは本格ではあるが、数学的推理に拘り過ぎており、(作者が意図的に)現象学的推理(勘?)を軽んじている」という指摘だと思う。要は「本格は現象学的推理により支えられるべきものだ=容疑者Xにはその成分が含まれている以上、本格だ。ただし本格成分の含有量は低い」ということかと。
それが当時、本格ミステリの極北のように評されたことに結びついて指摘されたのかなと。
正直、管理人には難易度が高すぎる論説で理解が追いつきませんでした。一度、笠井氏の評論をご覧になってみては。


笠井氏の「容疑者X」評が載っている「探偵小説は『セカイ』と遭遇した」です。興味のある方はどうぞ!!
探偵小説は「セカイ」と遭遇した





「容疑者Xの献身」です。あなたなりの感想が生まれるかも。
容疑者Xの献身 (文春文庫)





・映画版「容疑者Xの献身」(シネマトゥデイさん)
http://www.cinematoday.jp/movie/T0006070

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