2010年02月06日

「インシテミル」(米澤穂信著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「インシテミル」(米澤穂信著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。未読の方は注意!!

映画化が決まり話題の「インシテミル」。過去記事はこちら

◆「インシテミル」とは―――

インシテミル1

<あらすじ>
結城理久彦は、車がほしかった。須和名祥子は、「滞って」いた。 オカネが欲しいふたりは、時給11万2000円也の怪しげな実験モニターに応募。こうして集まった12人の被験者たちは、館の地階に7日間、閉じ込められることに。 さて。あとはご想像どおりミステリーの定法に則って、ひとり、またひとりと謎の死を遂げていくわけです、が……。 「屈折」を描かせたら当代随一の著者だけに、普通で終わるはずはありません。とにかくひねくれ、異様なほどに鮮烈で、無類に面白いミステリーになりました。
(写真・あらすじともに公式HPより)


まず、感想から。

<感想>

ほぼあらすじ通り無類に面白い。
主催者=作者、モニター=作中登場人物、観賞者=読者という捉え方が出来る作品。
ロジックはちょっとアレ?と思うところもあるが、それすらこの作品の持ち味。
云わば、米澤先生版「館モノ」。
この手のタイプだと矢野龍王先生の作品が浮かびますが、あちらは従来の館モノのルールに則った(トリックが似た既存作がある)直球勝負なのに対し、こちらは設定にもうひとひねり加えた印象。
米澤先生のライトな筆致と濃い内容(「僧正殺人事件」とか「本陣殺人事件」とか触れられている)が見事に調和しており、ミステリ者にもライトノベル派にも充分楽しめる。
最後にちらっと「明鏡庭」なる語句が出て来ているので続編制作も可能か?
とはいえ、本作は本作で完結しており、またその方が面白いと管理人は思う。
ある意味、ミステリビギナーにもオススメ。
この雰囲気が正確に再現できるならば映画化は大正解かも。

では、お待ちかね(?)のネタバレ書評(レビュー)です。
未読の方は注意!!

ここからネタバレです!!

大学生の結城。彼は喉から手が出るほど車が欲しかった。
そんな折、求人情報誌を探すお嬢様・須和名に出会い、その縁で怪しいバイトを発見。
時給11万2千円のうたい文句に誘われ、この怪しげなバイトに参加してしまう。
そのバイトとは「暗鬼館」で7日を過ごすというもの。
「暗鬼館」に辿り着いた結城。館内では彼以外の11人の参加者が待っていた―――岩井、安東、関水、大迫、渕、若菜、須和名たちである。

まるでどこかのミステリに出てくるような気味の悪い館に威圧される一堂。
拍車をかけるように、館内では1人につき1つ凶器を持つ(結城は火かき棒、岩井はクロスボウ、関水は薬瓶に入ったニコチン、若菜の空気銃、渕のゴルフクラブ、他に縄、手斧など)ことが許され、「人を1人殺せばアルバイト料ボーナス3倍、探偵役は2倍、助手役は1.5倍、被害者は1.2倍、ただし、犯人はばれた時点で拘束室に送られる。探偵役は推理を外せば減額ペナルティ」などというルールまで課せられる。
極めつけはガーディアンというロボットの存在。夜間外出を禁止したそれは、もし3回ルールを破れば参加者を容赦なく殺害するという。

最初は呑気に構えていた参加者たちも徐々にこの異様な空気に気持ちが悪くなっていく。

クローズドサークル……その言葉が頭を過ったのは決してミステリ者だったからではなかろう。

案の定、3日目に1人目の被害者が出る。
被害者は10の棺桶が横たわる霊安室にて散弾銃で撃ち殺されていた。
なぜ?どうして?銃器は空気銃以外存在しなかった筈。

続いて怯えきった岩井がボウガンで殺人を犯し、拘束室送りに。

不安が募り、忽ち険悪な雰囲気に陥る参加者たち。
大迫の提案で自衛策に出るが、当の大迫を含んだ2人が霊安室に仕掛けられた吊り天井により圧死する。
吊り天井?これまた12人の誰の凶器でもなかった筈で、さらに混乱の極みに。

引き続いて、誤解から若菜が暴走、一人を道連れに自殺してしまう―――結果、若菜自身を含む2人の犠牲者が出ることに。
これで、合計6人の死者が。

探偵役を気取った安東だが一向に結論が出ない。
とうとう主催者の態度(参加者を馬鹿にする)に苛立ちを覚えた助手役の結城が第一の事件の真相を推理する。
結城によれば、第一の事件は殺人ではなく自殺。
被害者は残る11人に殺し合いをさせるために主催者が送り込んだ自殺志願者だった。
その証拠に自殺用の毒薬が発見される。
さらに散弾銃は誰の武器でもなく、ガーディアンの装備品だった。
意図的に夜間外出禁止のルールを破り自殺したのだ。
全ては主催者側へのせめての面当て―――そう結論づけた結城。

しかし、この推理が結城を危地に。

探偵役ボーナスを逃した安東が結城を敵視。
新たな助手役に関水を選び、大迫たち2人を殺害した犯人を結城だと指摘したのだ。

実はこのゲーム、推理が真実かどうかは関係ない。
その場の多数決で結城は拘束室送りにされる。
反対したのは結城を除けば須和名だけだった……。

拘束室では岩井が結城を待っていた。

「俺は人を1人殺している、怖くはないのか?」
そう尋ねる岩井にそれを否定する結城。
岩井は殺そうとして殺したのではないというのだ。
岩井の殺人は過失だった。
恐怖にさいなまれた岩井が誤ってボウガンの引き金を引いてしまった。不幸な事故。まさにそうだった。

実は結城は岩井のことを知っていた。
岩井はミステリ研究会の出身者。岩井自身は知らないが結城は後輩で書記を務める関係だった。

クローズドサークルの危険性を知らなさすぎる―――そう、口にする岩井。全滅の可能性もあるんだぞ―――あのアガサ・クリスティーの作品を例にあげる岩井。
しばし、岩井のミステリ講釈に付き合う結城だが、やがてあることに気付く。それは大迫たちを殺した犯人の正体だった―――急がなければ、もうひとり死ぬことになると云う結城。

拘束室の外では、探偵役としてご満悦の安東と関水たちが居た。
カードキーのルールから脱出路を発見した一行。
一路脱出口へと向かう。
出口前まで辿り着く。
安心したのも束の間、不意に関水が新たな探偵役として「推理」を口にし始める。

その頃、結城は真犯人のトリックに気付いていた。
真犯人が使ったトリック、それは凶器の偽造だった。
吊り天井を凶器として持ちながら別の凶器を申告した者がいる。
もちろん、ルール上は1人1つ。つまり、ニセの凶器を申告した者が居たのだ。
他の11人に比べ明らかにオーバースペックな凶器―――ニコチンこそが偽造された凶器。
すなわち、化粧水の瓶をニコチンの瓶だと申告した関水こそが犯人だったのだ。
関水の動機は10億という大金。犯人ボーナス×2や探偵ボーナスを加算すれば9億7千万円近くにはなる、が、10億には届かない。だから、関水は10億を得る為に被害者ボーナスをこれに加算しようと云うのだ。自らが被害者になることで。
そのとき、拘束室の扉が開いた……。

関水は全てを告白し終えた。
安東の推理を誘導し結城を捕まえさせ時間を稼ぎ、最後に探偵役を自らこなし、自らの罪を告発することで一気に10億を狙った。
だが、脱出路を発見されてしまい、わずかに時間が不足した。
結果、10億には届かない。
関水の言葉に呆然とする一堂。

そこへ駆け付ける結城たち。
「10億なければ他のたくさんの人が死ぬ」被害者ボーナスを狙う関水を止めるべく、自らの取り分を差し出す結城。探偵ボーナス1回があり、4千万にはなる筈と説得する。
とりあえず、結城の説得を受け入れる関水。
「なぜ、2人だったのか?もっと殺せば確実だったのでは?」との問いに「2人を殺すだけで精神的に精一杯だった」と答える関水。その眼には後悔の念が浮かんでいた。
一方、須和名は今回の活躍を受けて結城をいたく気に入った様子。

結城たちが拘束室から出てこられたのは、関水たちが脱出口まで辿り着いた時、自動的に拘束室のロックが解除される仕組みのためだった。
脱出は全員で。主催者側の配慮だったのだろうか?
ともかく、こうして悪夢は終わりを告げた。

エピローグ……生き残ったそれぞれのその後を話そう。

日常に戻り、館でのことを“なかったこと”にする渕のような者もいれば、安東のように、己の能力の限界を理解できずに、他者を貶めるに留まった者も居る。
岩井は人をひとり殺してしまった罪の意識に苛まれ、その因果に取り込まれようとしていた。
関水は10億の入手を確認するとナイフを手に姿を消した。その刃は彼女自身へと向けられるのだろうか。
須和名は、面白くも無い現状と関水以上の大金=「滞り」を打開すべく新たな主催者たらんとしていた。

そして結城のもとに一通の手紙が届く。
差し出し人は須和名。そこには新たなステージ「明鏡庭」の名が記されていた。招待状である。

エンド。

2月19日追記:タイトルの「インシテミル」。その意味を考えてみました。

1、英訳「THE INCITE MILL」から「(感情を)刺激する場所(生産所)」説。
「INCITE」が「刺激(激励、扇動)する言動や誘因」
「MILL」が「工場」なので。

2、「(ミステリに)淫してみる」つまり「ミステリに耽る」の語呂合わせ。

3、「因して観る」=「起因して観る」つまり「参加者全員がある原因に起因して殺人を行い、それを主催者が観る」の略。

3辺りは相当苦しいかな。他にもいろいろ考えられそうですね。

2010年10月追記

映画版についての評判および伝聞ながらネタバレ批評(レビュー)まとめてみました。
リンクよりどうぞ!!

公開された「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」ネット上での評判は!?&ネタバレ批評(レビュー)

◆米澤穂信先生のその他の著作に対するレビューはこちら。

「儚い羊たちの祝宴」(新潮社)ネタバレ書評(レビュー)

「追想五断章」(集英社)ネタバレ書評(レビュー)

「折れた竜骨」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)

オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)

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【その他】
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posted by 俺 at 12:00| Comment(2) | TrackBack(3) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
映画版インシテミルを観たのですが、原作とはかなり違うんですね。驚きました。
とても詳細かつ読み応えのある感想文でその違いがとても分かりやすかったです。
またお邪魔させていただきます。
Posted by まりも at 2010年10月25日 17:33
Re:まりもさん

はじめまして!!
コメントありがとうございます(^O^)/。
管理人の“俺”です。

映画版いかがでしたか?
管理人が調べた感じでもだいぶ原作とは違っていたようです。
映画版の感想についても記事にしているので良ければご覧ください。

褒めて頂けて感謝です。
ブログ続投の励みになります。
Posted by 俺 at 2010年10月25日 23:07
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