<あらすじ>
昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも――。少年の回想と森本の調査に秘められた〈真相〉は、最後まで誰にも見破れない。技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。
(東京創元社公式HPより)
<感想>
【五声のリチェルカーレ】
五声というのは一つの犯罪を構成する要素を例えたもので、五人それぞれが別々の信念や行動に沿うことで結果ひとつの犯罪を奏でる様子を表現したものだが、はっきり言ってスゴイ。
これは構成が上手すぎ。
そして複雑に絡み合ったトリック(?)は流石。
驚愕の動機には本当に驚愕。
相当レベル高い。
複数回読み込むことは前提かも。
これをネタバレするのは難しい……。
是非、読んでもらいたい作品。
【シンリガクの実験】
ラスト1行にはこれまでにない驚きアリ。
こちらをネタバレ。
<あらすじネタバレ>
【五声のリチェルカーレ】
全編緻密な構成の上に成り立っている作品。
数行でネタバレはムリ……ということで今回は短編の「シンリガクの実験」を。
【短編「シンリガクの実験」】
クラスのリーダーである主人公。
彼はとある女子生徒と常に対立していた。
子どもならではの無邪気さと残酷さを併せ持つ彼は大人や他の子供たちを自分の思う通りに動かしていた。
そんな彼が唯一思い通りにならなかったのが彼女。
彼は彼女のことを油断ならない大敵だと思っていた。
ある日、彼の計画でとある教師を追い詰めることに。
当然、彼女は教師の側に立つ。
普段ならば、彼女も有効打をうてたのだろうが、この日は分が悪かった。
追い込まれ自滅していく彼女。
その様子を冷ややかに眺める主人公。
彼は思う。はて、こいつこんなに弱かったか、と。
そのとき、彼女の頬を涙が伝った。
それを見た彼の心にある変化が訪れた。
以降、好敵手を失った彼は飽きてしまったかのようにゲームをしなくなった。
一見、大勝利を収めたかに見える主人公。
14年後、彼女と主人公は結婚していた。
不覚にも主人公は14年前に彼女に心を奪われるという大敗北を喫していたのだった。
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