ネタバレあります!!未読の方はご注意ください!!
「さよならドビュッシー」(中山七里著、宝島社刊)とは―――
『このミステリーがすごい!』大賞 第8回(2010年)大賞受賞作
選考委員が大絶賛した話題の感動作!
行間から立ち上るドビュッシー「月の光」やショパン「エチュード 10-1」の美しい旋律。
ピアニストを目指す少女、殺人、そして驚愕のラスト!
ピアニストを目指す遥、16歳。両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女の人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身火傷の大怪我を負ってしまったのだ。それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する――。
※この作品はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。
単行本化にあたり、第8回『このミステリーがすごい!』大賞作品、中山七里『バイバイ、ドビュッシー』に加筆しました。
目次
T Tempestoso delirante テンペストーゾ デリランテ 〜嵐のように狂暴に〜
U Adagio sotto voce アダージオ ソツト ヴオーチエ 〜静かに声をひそめて〜
V Con duolo gemendo コン ドウオーロ ジエメンド 〜悲嘆に暮れて苦しげに〜
W Vivo altisonante ヴイーヴオ アルテイソナンテ 〜生き生きと高らかに響かせて〜
X Ardente pregando アルデン プレガンド 〜熱情をこめて祈るように〜
(あらすじ・写真共に公式HPより)
<感想>
音楽とミステリの融合が此処にある―――そんな作品だ。
ストーリー性は高い。
グイグイ読み進められた。
ライトな文章で読ませる技巧派の作品。
テクニックは高いと思う。
公式の惹句である物語的カタストロフ(最後の一撃)的なものは薄い。
作品のメイントリックはミステリ読みにとってはすぐ気付けるレベル。
ただし、その先入観を持って読むと一件目の殺人動機を見誤るだろう。
新本格ファンにとってはある理由(文中個体識別のルール違反)により難色を示されるかもしれないが、この物語の魅力はトリックにはない。そのストーリーテリングにある。
それは間違いない。
なにより物語の着地点が見事!!
“容姿ではなく中身が重要”であることを示してくれる。
そして、ドビュッシーに“暫し”の別れを告げる箇所は再起を思わせてジーンときた。
警察に拘留されるとしても、やがてまた音楽に戻って来ることを示しているのだろう。
タイトル「さよならドビュッシー」はここから来たのだ。
「告白」と比較すると同じ少年犯罪に対するスタンスが随分違うんだなぁと思わされることしきり。
まぁ、「告白」はやった方に悪意があったけど。
さて、「さよならドビュッシー」。
この作者の次回作ならば是非読んでみたいと思わせるイイ作品だと思う。
願わくは「さよなら」ではなく、再度、再再度の登場を期待したい。
2012年9月6日追記:
あれから2年半、中山七里先生により岬洋介はシリーズ化され再度、再再度と登場しています。
遂には本作『さよならドビュッシー』の映画化も決定。
2012年9月現在では、シリーズ最新作『いつまでもショパン』も連載中。
興味のある方はネタバレあらすじの後にある過去記事リンクよりどうぞ!!
追記終わり
<あらすじネタバレ>
ピアニストを目指す16歳の遥は祖父や従姉妹の少女・ルシアと共に火事に巻き込まれてしまう。
祖父とルシアは死亡。ひとり生き残った遥も大火傷を負い、容姿も判別できない姿に。
皮膚もただれ、筋肉も損傷してしまい、ピアニスト生命は絶望的と思われた。
それでも、遥はくじけなかった。
外科手術により遥の顔を鏡の中に見出せるようになった―――その直後からリハビリを開始。
それまで以上にピアノの訓練に打ち込んだ。
その甲斐あってか足に後遺症が残ったもののほとんど常人並みの回復を見せたのだ。
だが、ここから怪しげな事件が相次ぐように。
それにつれて遥の中の違和感はどんどん膨らんでいく。
それを察したような遥の母も様子が変だ。
それでも、遥はめげない。
コンクールに向けてピアニスト・岬のもとで猛特訓を積む遥。
そんなある日、遥の母が神社の階段から突き落とされる事件が発生。
遥の母はそのまま死んでしまう。
ショックを受け、悲嘆に暮れる遥。
それでも遥は止まらない。
コンクールへ向けて一直線に特訓を重ねる。
そして、ついにコンクール当日。
強力なライバル・下諏訪美鈴も登場する中で演奏を終えた遥。
控室へと戻った彼女の前に、岬が現われ事件の真相を語り出す―――。
ここから本当にネタバレです!!注意!!
岬が口にする真相は遥がもっともよく知る事実だった。
現在、遥を名乗る人物こそは焼死したとされるルシア。
火事当日、ルシアと遥はゲーム感覚でパジャマを交換していた。
そこへ意図せぬ火事。
遥とその祖父は焼死してしまい、ひとりルシアが残された。
遥の母は、ルシアが遥のパジャマを着ていたことと「娘に生きていて欲しい」という願望からルシアを娘だと思い込んでしまった。
ルシアは意識が回復したところ、自分が遥にされていることに気付いた。
ルシアは天涯孤独の身。寄る辺のなさも手伝ってそのまま遥を演じてしまう。
周囲の期待に応えるべく必死で遥を演じるルシア。
リハビリの努力を惜しまず、ピアノの猛特訓を積む。
すべては遥になりきる為だ。
だが、所詮は付け焼刃。
ルシアと遥ではあまりに違い過ぎた。
信仰上の理由から遥の好物・酢豚が食べられなかったり、左右の手を封じられていたルシア。
遥の体臭も加わって、遥の母に見破られてしまう。
「ルシアが遥たちを計画的に殺害し、成り済ました」と思い込んだ遥の母はルシアを激しく責めた。
その際、ルシアが誤って遥の母を階段下へ突き飛ばしてしまったのだ。
岬は生きているか死んでいるか判然としない状態の遥の母をそのまま放置した犯人は『放置したかった』のではなく『階段を下りられなかった為に放置するしかなかった』と推理。論理的に遥(実はルシア)が犯人だと辿り着いたのだった。
コンクール結果発表の時が近付く。
ルシアは「遥ではなくルシアである自分はこの場に居る権利がない」と嘆く。
だが、岬はそれを否定。「遥であれ、ルシアであれ、努力したからこそこのコンクールに参加できた」と力説。
そこへ、遥が優勝を受賞したとの放送が流れる。
審査員は語る。「あなたの演奏は非常に真に迫る素晴らしいものでした」と。
岬は「自分は演奏家だから、警察のことを詳しくは知らない。だが、DNAから直に君がルシアであることは露見するだろう。しかし、未成年でもあるし、故意ではなく過失ならば罪も軽いのでは」とした上で、「音楽には誰が誰かなんて関係ない。演奏した者とその演奏を聴いた者だけなんだ。そして、君は本物だ」と諭す。
その言葉を受けて自分を肯定するルシア。
警察にすべてを話す覚悟を決める。
そして、心の中で、ドビュッシーへ向けて暫しの別れを告げるのだった―――エンド。
このネタバレあらすじは、簡略化しているので本書の面白さを100分の1も伝えられているか不安。本書を読了することをオススメします。ちなみに感想は上の通り。
2012年9月6日追記:
“ルシア”を“ルチア”と表記しており、これを訂正いたしました。
たぶん、サンタ・ルチアとごっちゃになったのかなぁ……(言訳)。
コメントにて教えて頂いたちひろさん、ありがとうございます(^O^)/!!
追記終わり
◆「中山七里先生」関連過去記事
【岬洋介シリーズ】
・『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『おやすみラフマニノフ』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『いつまでもショパン』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『いつまでもショパン』第1回(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』連載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第一話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.6』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第二話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.7』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第三話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.8』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第四話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.9』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第五話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.10』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『どこかでベートーヴェン 第六話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.11』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『間奏曲(インテルメッツォ)』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2013年版』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『要介護探偵の事件簿』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【刑事犬養隼人シリーズ】
・『切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人』(中山七里著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『静おばあちゃんにおまかせ』(中山七里著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『残されたセンリツ』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『ポセイドンの罰』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ版】
・金曜ロードSHOW!特別ドラマ企画「さよならドビュッシー ピアニスト探偵 岬洋介 今をときめく豪華キャストで『このミステリーがすごい!』大賞受賞作をSPドラマに!衝撃の結末に誰もが驚愕する!!」(3月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・土曜ワイド劇場「切り裂きジャックの告白 〜刑事 犬養隼人〜 嘘を見抜く刑事VS甦る連続殺人鬼!?テレビ局を巻き込む劇場型犯罪!どんでん返しの帝王が挑む衝撃のラストとは!?」(4月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「このミステリーがすごい!〜ベストセラー作家からの挑戦状〜 天才小説家×一流映画監督がコラボした、一夜限りの豪華オムニバスドラマ!味わいの異なる4つの謎=各25分の濃密ミステリー!又吉×希林の他では見られないコントも!」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「このミステリーがすごい!2015〜大賞受賞豪華作家陣そろい踏み 新作小説を一挙映像化」(11月30日放送)ネタバレ批評(レビュー)
「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
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面白いですよね^^
1つ間違いなんですが、ルチアではなく
ルシアだと思います。
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
ああっ!!ルシアがルチアになってる!!
間違ってますね……。
どうやら、サンタ・ルチアと勘違いしたようです。
早速、訂正せねば。
ご指摘、感謝です(^O^)/!!
それにしても、本作『さよならドビュッシー』イイですよね。
本来なら切ない物語の筈なのに、ラストにきちんと救いが用意され爽やかな結末と再起を予感させている点が優れていると思います。
シリーズ続編もオススメです!!