<あらすじ>

第43回メフィスト賞受賞作
「喪われた恋の色を見る覚悟はあるか?」――上遠野浩平
見えすぎてしまう彼女が挑む謎は殺意の赤と邪悪の黒が混じった、世にも“凶”なる感覚の迷宮。
女性を殺し、焼却する猟奇犯罪が続く地方都市――。幼なじみを殺され、跡追い自殺を図った高校生・甘祢山紫郎(あまねさんしろう)は、“共感覚”を持つ美少女探偵・音宮美夜と出会い、ともに捜査に乗り出した。少女の特殊能力で、殺人鬼を追い詰められるのか?2人を待ち受ける“凶感覚”の世界とは?
(あらすじ・写真共に講談社公式HPより)
<感想>
「キョウカンカク(あえて片仮名、理由は後述)」を持つ美少女・音宮美夜と愛する幼馴染を殺害され“とある目的”を胸に秘めた高校生・甘祢山紫郎の物語。
文章力は高い。
共感覚を上手くモチーフに取り込みつつ、それで終わってない所は流石。
トリックは大仕掛けと云うよりは「小技を積み重ねて一本!!」という感じ。
タイトル「キョウカンカク」が片仮名である理由は「共感覚」であり「狂感覚」だから。そして最後に出てくる「驚感覚」。
美夜は共感覚を持つがゆえにあるモノを失ってしまった。
ぜひ続編が読みたくなる一冊。
ちなみに「共感覚」は実際に存在するそうです。
下記に2冊ほど取り扱った本を載せているので参考にされては。
2010年8月9日:シリーズ続編「闇ツキチルドレン」ネタバレ書評(レビュー)追加しました。
・「闇ツキチルドレン」(天祢涼著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
<あらすじネタバレ>
猟奇連続殺人事件が発生。
1番目と2番目の被害者はそれぞれ、生ゴミ捨て場、酒樽の中など一種異常な状況下で見つかる。しかも、それぞれ遺体を焼却処分にしてあるという念のいれようだった。
犯人はファントムと名乗っていた。
猟奇異常者なのか―――巷が騒然とする中も犯人は一向に捕まらない。
そんな中、高校生・甘祢山紫郎は愛する幼馴染を3番目の被害者として永遠に失ってしまう。
幼馴染の後を追おうとした彼の前に現われたのは1人の美少女。
名は音宮美夜。
彼女は人にはない特殊能力―――共感覚の持ち主だった。
共感覚とは人間の持つ五感がそれぞれ連結した状態を云い、例えば美夜の場合は音を聞いて(聴覚)その音が含む意味を色にして視ること(視覚)が出来ると云う。
つまり、美夜は人の話を聞くことで相手がどんな人間か、何を考えているかある程度わかると云うのだ。
山紫郎はとある目的を胸に秘め、美夜と共に犯人捜しをすることに。
早速、共感覚により美夜が目をつけたのは神崎玲という心療内科医。
彼は山紫郎の顔見知りだった。
「神崎が犯人ではありえない」と否定する山紫郎。
事実、4件目・彩子の犯行時、神崎には鉄壁のアリバイがあった。
さらに、神崎は猟奇殺人者としての思考を持ち合わせていないことも判明。
動機も存在しないことから別の犯人が居ると思われた。
ついに、美夜を街に派遣した依頼人こそが“ファントム”ではないかと疑う山紫郎。
5件目の被害者と思われる死体が海に浮かぶ。
これにある確信を得た美夜はとある作戦を実行に移す。
動き出す神崎。美夜を拘束し6番目の被害者にしようとする。
そこへ助けに現われる山紫郎だが、美夜を人質にとられ手も足も出ない。
神崎は美夜を自分好みに調理しようと黒い液体をかけ続ける。
美夜を眺め、「違うな……」と呟く神崎。
共感覚者である美夜の力に興味を示し、美夜の眼を覗き込む。
山紫郎にはわけがわからないその行動を美夜が解き明かしていく。
神崎も実は共感覚の持ち主だった。
ただし、美夜とは違い、視たもの(視覚)の味(味覚)を楽しめる能力。
神崎は食べずして味のわかるカニバリズム(食人)を行っていたのだ。
今までの被害者の特徴は何だったか。
1番目の被害者は生ゴミの中に。
2番目の被害者は酒樽の中に。
5番目の被害者は海の中に。
それはつまり―――。
1番目はレモンを含んだ生ごみの中に。
2番目はもちろん酒の中に。
5番目は塩の中に。
すべてが調味料と関連していた。
神崎は美味しく頂く為に被害者を調理していたのだ。
ただし、神崎は視て楽しむので被害者に欠損は生じない。
そこで、共感覚者だとばれないように使用した調味料を死体の遺棄場所の特徴で上書きしていたのだ。
そして、今、美夜にかけられている黒い液体は即ち醤油。
神崎にとっては3番目と4番目は食事の為の殺人ではなかったことが捜査を混乱させていた。
イレギュラーとでもいうべき殺人だったのだ。
3件目の犯行は正体を知られた口封じをかねていた。
4件目の彩子は“PSYCO”というハンドルネームでサイトを運営しており、心療内科医の神崎に自らの自殺願望を見抜かれ利用された―――自殺だった。
共感覚者の神崎にとって殺人は食事程度の認識しかない。
当然、異常性は持ち合わせない。
自らの犯行を誇らしげに認める神崎……だが、徐々に様子がおかしくなる。
神崎は拘束された美夜の眼を見続けていたが、唐突に断末魔の悲鳴を上げ、悶え苦しみ出したのだ。
今度こそわけのわからない山紫郎。
その目の前で拘束を解きスルリと立ち上がる美夜。
山紫郎に向けて意外な言葉を口にする。
「あなたの望み通り殺してあげる」と。
山紫郎はある決意を胸に秘めていた―――それは幼馴染を殺害した“ファントム”をその手で殺すこと。その為に美夜に従ったのだ。
だが、その想いは美夜の能力により見抜かれていた。
美夜には切り札があった。「共感覚」にして「狂感覚」。
美夜の裸眼を直接見続けることは五感を直接連結される苦しみを味わう。脳の処理速度が感覚に追いつかずオーバーヒートするのだ。やがて、対象者は心臓を鷲掴みにされたような感覚を味わい、脳卒中や心臓発作で死亡する。
美夜の依頼人は“ファントム”の死を希望していた。
神崎は「狂感覚」により死に至ろうとしていたのだ。
美夜の眼を見てしまった山紫郎は束の間亡き幼馴染の幻影を視る。
その姿に幼馴染みが何を望んでいたか察した山紫郎は美夜を命がけで止める。
思わぬ横やりに驚く美夜だが、山紫郎は引かない。
根負けした美夜は依頼人の意志に背き、神崎を見逃す。
神崎は山紫郎に伴われ自首することになるが、精神的に壊れていた。
事件が解決し、美夜と山紫郎の別れの日。
山紫郎が何故自殺を考えていたかを明かす。
山紫郎と幼馴染の二人は交際していたが、互いの心がわからずギクシャクしていた。
そんなある日、山紫郎に非通知でかかってきた電話。
すぐに彼女だと察した山紫郎だが、あえて電話に出なかった。
ヤキモキさせたいとの軽い気持ちからの行動―――それが取り返しのつかぬ結果を招く―――。
その日のことである。彼女が神崎の手にかかり3番目の被害者となったのは。
山紫郎はそのことを後悔し、償おうとしていた。
だが幻視の中で彼女がそれを望んでいないと知り、むしろそのような行為を望む彼女ではなかったと思いだすことにより前を向いて生きていけるようになったと美夜に告げる。
美夜は寂しげに笑うだけで何も答えない。
山紫郎の謝意を背に、その場を立ち去る美夜。
電車の中、胸の内で彼女は呟く―――それこそ「驚感覚」だわ、と。
エンド。
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