ネタバレです!!未読の方は注意!!
<あらすじ>

5つのリドルストーリーに秘められた物語
古書店アルバイトの芳光は、依頼を受け5つのリドルストーリーを探し始める。実はその著者は生前「アントワープの銃声」事件の被疑者だったことが明らかになり……。著者新境地の本格ミステリ。
(あらすじ・写真共に集英社公式HPより)
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。
(アマゾンより)
<感想>
構成が秀逸。
すべての断章がピタッと収まるところに収まるラスト。
隠された真実へのライトの当て方が上手い。
ここでどれだけ言葉を尽くしても無力な気がする……それだけの良作。
ネタバレでもあえてラストぼかしておきます。必読の一冊!!
<あらすじ>
古書店でアルバイトする菅生芳光にとある依頼が舞い込む。
依頼主は北里可南子。依頼内容は可南子の父が残したとされる5編のリドルストーリーを探し出すこと。
依頼に従って調査を始めた芳光。
やがて、「アントワープの銃声」事件の存在を知る。
「アントワープの銃声」事件はある夫が妻を銃で脅し首吊り自殺に見せかけ殺害したのではと疑惑が持たれている事件。
その夫こそ、依頼人・北里可南子の父だった。
四章まで集め終えた時、ある大きなトリックが芳光の眼に明らかになった。
それは四章それぞれの結末が「アントワープの銃声」に対する疑問の答えとなっていたこと。
但し、その答えは並べ替えることにより一章につき二つずつ存在していた。つまり、2パターンあるのだ。
「アントワープの銃声」で提起された疑問は以下の5つ。
@事件当夜、娘は起きていたか寝ていたか?
A銃が撃たれたのは妻が首を吊る前か後か?
B夫は妻に駆け寄れたか?
C妻は他殺か自殺か?
D夫婦の間に愛情は残されていたか?
ひとつの断章が一つの解答を為しており、普通に読めば次にようになる。(5つ目の断章はまだ発見されていない。そこにはDの解答が示されている筈だった)
事件当夜、娘は寝ていた。
銃が撃たれたのは首を吊る前。
夫は妻に駆け寄れた。
妻は自殺。
この場合、妻は自殺したことになる。
だが、これをもう一つの解釈に当てはめるとこうなる。
事件当夜、娘は起きていた。
銃が撃たれたのは首を吊った後。
夫は妻に駆け寄れなかった。
妻は他殺。
依頼人・可南子は幼少期の自分の記憶を訝しく思っていた。
可南子は母に必死ですがりつく記憶がうっすら残っていたのだ。
父に問い質しても否定するばかりだったと云う。
そして、残された最後の章。
芳光は可南子の身辺―――例えば家にあるのではと推測する。
後日、可南子から一通の手紙が届く。
その手紙には以下のようなことが書かれていた。
可南子は父が母を殺したとは思っていなかった。
仮に殺したとしても自分だけは許そうと思っていた。
それよりも、可南子が恐れたのは自分の記憶。
母にすがりついたあの記憶こそは母を死に追いやった記憶ではないか。
だが、今ははっきりと思い出せる。
あのとき、可南子がすがりついた相手は父だった。
父は母の自殺を発見し助けようとしたのだが、父母の不仲に心を痛めていた可南子は母の意志を父が妨害しようとしていると勘違いし、父を押し留めてしまったのだ。
可南子は綴る。父は可南子を恨んでいたのだろうか、と。
そして手紙には最後の一章を見つけたことも記されていた。
それによれば、最後の一章は可南子の家ではなく、父が最後に入院していた病院の看護師に処分を言い含めて預けていたらしい。
だが、看護師は処分して良い物とも思えず、かといって故人の遺志を裏切ることも出来ず保存していたのだそうだ。
その最後の一片に隠された可南子の父の想い―――夫婦に愛情は残されていたか?―――その結末は「氷に閉ざされており誰にもわからない」のだった。
◆米澤穂信先生のその他の著作に対するレビューはこちら。
・「インシテミル」(文藝春秋社)
・「儚い羊たちの祝宴」(新潮社)
[小市民シリーズ]
・「夏期限定トロピカルパフェ事件」(東京創元社)
[古典部シリーズ]
・「氷菓」(角川書店)
・「愚者のエンドロール」(角川書店)
・「クドリャフカの順番」(角川書店)
・「遠まわりする雛」(角川書店)
・「ふたりの距離の概算」(角川書店)
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