2010年03月01日

「叫びと祈り」(梓崎優著、東京創元社刊)

「叫びと祈り」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ批評(レビュー)です!!

ネタバレあります!!未読の方は注意!!

<あらすじ>

叫びと祈り1

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇……ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。綾辻行人、有栖川有栖、辻真先三選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作!

■収録作品
「砂漠を走る船の道」
「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」
「凍れるルーシー」
「叫び」
「祈り」
(あらすじ・写真共に公式HPより)


<感想>
希望と絶望とで綴られた短編集。
全編通じて、環境や思想が変われば人命が軽んじられてしまうことがあるというスタンス。
そんな中で人命を重視し続ける主人公―――というテーマが貫かれています。
所変われば品変わる。
異文化コミュニケーションはこんなにも難しいのか、と思わせられること請け合いです。
特に「叫び」はそれが顕著。
初読時は絶句しました。
それぞれの感想は下記。

「砂漠を走る船の道」(希望)
第五回ミステリーズ!新人賞受賞作。
動機が意外性ナンバーワン。
全編中で一番の出来。
動物と心を通わせるラストシーンは感動。

「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」(希望)
サクラの種明かしが秀逸。
ラストの白い服と白い風車は……描写として必要。
あれをもって二人の気持ちを決定づけるものです。

「凍れるルーシー」(絶望)
思想の暴走を描いた短編。
あえて信仰ではない。
歪な恐怖が読後も残る。

「叫び」(絶望)
これが一番衝撃的。
思想や信条の及ぼす影響、個々人や集団の育む世界観の帰結を表現している。
因習、風俗を上手く活かしてあった。
「砂漠を走る船の道」の次に出来がいい。

「祈り」(希望)
「叫び」などの絶望を受けて紡がれる物語。
信念が折れた斉木は周囲の手を借りて再生の道を歩き出す。
「砂漠を走る船の道」が異種間コミュニケーションを描いたならば、こちらは同族間のコミュニケーション(信頼)を描く。
清々しい感動が与えられるだろう。
ラストでアシュリーのその後が語られており、希望を残している。

作者の梓崎優さんは期待大の作家さんです!!
東京創元社さんもプッシュして下さっている(受賞から刊行までの期間が短い)ようなので、早めに続編が読めるかな。
次作も斉木シリーズでお願いします!!

2011年1月25日追記
梓崎先生の短編「スプリング・ハズ・カム」ネタバレ書評(レビュー)追加しました。

「スプリング・ハズ・カム(放課後探偵団収録)」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)リンクよりどうぞ!!

<あらすじネタバレ>
◆「砂漠を走る船の道」

サハラ砂漠を行く砂漠の民―――長と3人の男たちと多くのラクダ。
彼らの目的は高値で取引される塩だった。
その旅路に同行するジャーナリスト斉木。
彼はジャーナリストである以前に旅人の気風を備えていた。

塩を運ぶ途上、長が突然の毒の風(自然災害)によって命を落とす。
そこから始まる連続殺人。ナイフにより同行者が殺害されていく。
ついに1VS1で犯人と対峙した斉木。
犯人の動機に思い当たる。

砂漠の道を知る長を失った以上、塩場への道は失われてしまう。
それは砂漠の民にとって死活問題だった。
道標を残しておく必要に駆られた男が取った行動―――それが“死体を道標”にすることだった。
犯人は荷物でもラクダでもなく人を選び殺害し、目印として残した。
最後のひとりとなった斉木を犯人の凶刃が襲う。
そんな斉木を助けたのは長が連れていた子ラクダだった。
道なき道を子ラクダの背に乗せられ駆け出す斉木。
「ラクダは船に過ぎない」―――そう語っていた犯人だったが斉木は思う。
(船は船頭がいなければ動かない。だが、ラクダは己の意志で動くのだ)
そして、子ラクダには長の知る道がはっきりと視えているのだった……。

◆「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」
二人の男女が居た。
男性はスペイン人、女性は日本人。
育った環境の違いから悲しい別れを体験した二人。
やがて、巡り会うことは出来るのか?

サクラという名前がミスリードを誘っている。
ラストの彼女が消えた理由が、男が涙を流しており彼女の白い服と白い風車が保護色の効果を発揮したから……というのはちょっと。でも、描写としては必要かもしれない。
ハッピーエンドだから良し。

◆「凍れるルーシー」
死して伝説となった聖女を列聖することになったその日。
生ける聖女である修道院長が姿を消した。
その場に居た斉木は修道院のしきたり(時間の概念が外部と違う)に目を向け、とある修道女の犯罪を告発する。

彼女は死せる聖女に信仰を捧げていた。
死せる聖女の死体が存在しないかったことがすべての発端。
このままでは列聖できない。
そのために棺に身を潜め、死体のふりをして誤魔化した。
だが、そこでアクシデントが発生。
礼拝堂に籠ってしまった司祭の眼をくらます為に“聖女の死体は腐らない”との説に基づいて“生ける聖女”修道院長を殺害し、“死せる聖女”の遺骸に見せかけようとしたのだった。
ラストが怖い。

◆「叫び」
死病の蔓延した村。
生き残りは僅かに5人。
この村には特殊な風習があり、『子供を優遇し、年長者を絶対的に敬い崇める』というものだった。
そんな中、生き残った村人が次々と殺害されていく。
斉木とアシュリーは殺人者を突きとめようとするが……。

まさに“断絶”や“隔絶”といった言葉が相応しい一編。
『子供を優遇し、年長者を絶対的に敬い崇める』は『子供(未来)を優遇し、年長者(現在の生存者=勝利者)を敬う』という意味。
死病に冒され、『子供=未来』が失われた村では絶対にして唯一のルールとなった『年長者=長い間、生存している勝利者』。
生き残った5人が現在の栄光を掴む為(他の4人を殺し、村内で唯一の勝利者たらんとした)に争うことは運命だったのだろうか。
ちなみに、斉木とアシュリーは部外者だったので相手にされていなかった。

◆「祈り」
私の前には森崎という男が居た。
森崎は自らを旅人と名乗り、旅人に相応しい物語を私に語って聞かせる。
それは、サハラ砂漠の光景だったり、スペインの風車の丘の風景だったり、ロシアの修道院の物語だった。
私にとってはいずれも初めて聞く物語……だが、どこか心がざわめく。
やがて自らの在り様に思いを馳せた時、そこから浮かび上がって来た記憶は?

これまでの絶望の旅(凍れるルーシー、叫び)を経て心が折れた斉木が希望の思い出(砂漠を走る船の道、白い巨人)を受けて再起する!!

3月5日追記:アマゾンさんにて「叫びと祈り」特集が組まれています。
絶賛の内容です。興味のある方は下記商品リンクよりどうぞ。

「叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)」です!!
叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)



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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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各国で起こる事件
Excerpt: 小説「叫びと祈り」を読みました。 著者は 梓崎 優 世界中を飛び回るジャーナリストの斉木が不可思議な事件に遭遇する 5つの短編集 5つとも どれもタイプの違うミステリーで なかなか面白い 事件..
Weblog: 笑う学生の生活
Tracked: 2011-12-09 18:57
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