ネタバレあります!!未読の方は注意!!
<あらすじ>
海と山に囲まれた、風光明媚な街、蝦蟇倉(ルビ:がまくら)。この街ではなぜか年間平均十五件もの不可能犯罪が起こるという。マンション、レストラン、港に神社、美術館。卒業間近の大学生、春休みを迎えた高校生、会食中の社会人、休日を過ごす教師。舞台も人も選ばずに、事件はいつでも起こっている――。様々な不可思議に包まれた街・蝦蟇倉へようこそ!
今注目の作家たちが、全員で作り上げた架空の街を舞台に描く、超豪華競作アンソロジー第二弾。
■収録作品
秋月涼介「消えた左腕事件」
北山猛邦「さくら炎上」
越谷オサム「観客席からの眺め」
桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」
村崎友「密室の本」
米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」
(東京創元社HPより)
<感想>
「蝦蟇倉市事件」アンソロジー第2弾。
なぜか複数作で構成が被りまくっている。
これは「蝦蟇倉市事件1」よりもマズイ気が……。
ここから完全ネタバレです!!
米澤穂信先生の作品「ナイフを失われた思い出の中に」を除いた全てが主人公(「消えた左腕事件」、「さくら炎上(最後の1件のみ)」、「観客席からの眺め」、「毒入りローストビーフ事件」)あるいは主人公に近しい人物=準主人公(「密室の本」)が犯人という構成。被ってる。
テーマが「意外な動機」パターンも被りが多い。
「蝦蟇倉市事件1」のように1作ならアリかと思うがこれは……。
さらに、「消えた左腕事件」と「密室の本」は終わり方までほぼ一緒。
舞台設定も「消えた左腕事件」と「観客席からの眺め」が相反しているような気も……。
うーん、厳しいか。
◆秋月涼介「消えた左腕事件」
殺し屋の話。
好きな人は好きそう。
ラストが「密室の本」と近い。
◆北山猛邦「さくら炎上」
情緒的、観念的なストーリー。
「蝦蟇倉市事件2」で2番目に印象に残った作品。高評価。
内容は主人公と親友二人が織りなす物語で、他者の介在する余地はない……が、そこが物語を盛り上げている。
破滅的なラストは切ない。
テーマは意外な動機。
伏線はあるのだが、幾分突拍子無いかも……。
人物像が見えてこなかったことが原因か。
同一キャラクターによる短編集か長編向きの題材?
◆越谷オサム「観客席からの眺め」
思想的なのかな。難しい……。
◆桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」
シュレディンガーの猫を取り扱っているが、効果は薄い。
モチーフはタイトル通り「毒入りチョコレート事件」かな?
犯人がわからないままなのは面白かった。
◆村崎友「密室の本」
トリックは気温と意外な動機。
特徴は、名探偵がミスを犯した点。
ラストが「消えた左腕事件」と近い。
◆米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」
「蝦蟇倉市事件2」で一番面白かった。高評価。
人体に例える意味と多少救われるラストが良かった。
◆「蝦蟇倉市事件1」ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
<ネタバレあらすじ>
◆秋月涼介「消えた左腕事件」
被害者は義手。
ラストは「探偵さん危なーい」な話。
◆北山猛邦「さくら炎上」
進級を間近に控えた春休み。
主人公には成績優秀なクラスメートの親友がたった1人いた。
二人は互いにかけがえのない存在。
そんなある日、主人公は親友が恋人らしき男性と歩いているのを目撃。
駄目だと分かっていながらもその跡を尾行する。
そこで目撃したのは、親友の殺人現場だった。
慌てて、死体を隠す主人公。
だが数日後、死体は発見されてしまう。
埋めた筈なのに誰が、何故?
その後も親友は次々と殺人を犯していく。
その度に死体を隠す主人公だが、やはり元に戻されてしまう。
誰かが親友を告発しようとしているのか?
主人公にとって親友は無二の存在。彼女なしでは生きられない。
絶対に守り通さねば。
3人目の被害者まで身許が明らかになった。
次は4番目。親友を問い詰める主人公。
そこで明らかになった事実。
死体を元に戻したのは当の親友だった。
彼女には死体を早期に発見してもらわねばならない理由があったのだ。
主人公たちが通う高校は成績順にクラス分けがなされている。
主人公と親友の間には46人分の順位差があった。
このままでは、別々のクラスにされてしまうと危惧した友人は計算した上で43人分の差ならば同じクラスになれると判断。
間に存在する3人を殺害したのだった。
そしてもう1人保険の為に殺そうとしている。
それと察した主人公は親友の代わりに自らが手を下す。
こうして共犯となった二人。
被害者のライターから燃え広がる炎を抜け、二人で夜の闇へと逃げ出すのだった。
◆越谷オサム「観客席からの眺め」
主人公が猟奇殺人者の犯行に見せかけて殺人を行う話。
難しい。
◆桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」
3人の目の前でローストビーフを口にした被害者。
そのまま死んでしまう。
3人にはそれぞれ動機も方法もあった。
結局、誰が犯人でもありならば、同時に誰が犯人でもあり得ないワケで……無かったことにしちゃおっかという話。
◆村崎友「密室の本」
名探偵の為に犯行は行われるのだよ!!的な話。
「ミステリ通信 創刊号」でも過去に書評したあの作品とテーマは同じです。とはいえ、あちらの方が完成度は上。(あの作品とはこちら)
状況:被害者が密室で殺された。大量にあった筈の本も消えている。何故だ?
Q:大量の本が消えたのは何故か?
A:最初から本は無かった。
Q:じゃぁ、なんで本の収納された襖が開かなかったの?
A:空調を使って襖を膨張させ、開かないようにした。隙間に一列だけ本を積み、見た目も誤魔化した。結果、大量の蔵書がそこにあるように錯覚した。
Q:誰が殺したの?
A:(名探偵によれば)自殺。
Q:それ、ホント?
A:正確にはウソ。真相は「犯人は殺害後、普通に鍵をかけ外へ出た。第一発見者のふりをして現場へ戻り、鍵を置いた」。
Q:真犯人の動機は?
A:名探偵に挑戦し、事件簿に名前を残したかったから。
◆米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」
本作については下記記事をどうぞ!!
・『ナイフを失われた思い出の中に』(米澤穂信著、東京創元社刊『街角で謎が待っている がまくら市事件』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・蝦蟇倉(がまくら)市地図が載る「蝦蟇倉(がまくら)市事件特設サイト」はこちら(外部サイトに繋がります)。
http://www.tsogen.co.jp/gamakura/
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