ネタバレあります!!未読の方は注意!!
<あらすじ>

ミステリ映画の巨匠と呼ばれる監督が手がける生放送ドラマ本番直前に探偵役の主演男優が誘拐され、このままドラマを続けなければ彼の命はないという犯行声明が届く。探偵不在のまま、今命がけのドラマが幕をあける!
(あらすじ・写真共に角川書店公式HPより)
<感想>
現実とドラマの2重構造で事件は進展していく。
両方に別解釈を与えるラストは見事。
とはいえ、これは小説より映画向きな作品だと思う。
その方が面白い。
<ネタバレ>
「小夜子事件」以降、ミステリ映画界から身を引いていた監督が復帰した。
監督は最新作の撮影にあたって熱狂的なファンや、監督に心酔する俳優たちを集めた。
こうして事態が動き始めた。
最新作は陸の孤島「孤立し閉鎖された館」内で起こる連続殺人事件をテーマにしたドラマだった。
実際に「館」へ移動し撮影を始める一行。
そんな中、監督が腹部を刺され死体で発見された。
その口内には脅迫文が残されていた。
そこには『主演俳優を誘拐した、このドラマを完成させねば全員を殺す』と記されていた。
実際に館内から姿を消した主演俳優。
犯人は「小夜子事件」の被害者か?
その後、「小夜子」に出演していた俳優たちが次々と殺害されていく。
果たして犯人は?
こうして、【ドラマとしての解決】と【現実に起こった事件の解決】が求められることになった。
トリックは「霧越邸殺人事件」の槍中さんと白須賀君のロジックを借りるなら「(容疑者の)網の中に初めから入らない」「網を絞る際に中から外へ逃げ出す」「網の中から出たことに乗じて犯行を犯す」のパターン。
【ドラマ版の解答】
真犯人による多重交換殺人だった。
AからB殺害を請け負う、BからC殺害を請け負う、CからD殺害を請け負う、DからA殺害を請け負う。
同時にAにはC殺害を依頼、BにはD殺害を依頼、CにはB殺害を依頼、DにはA殺害を依頼。
これにより、AがCを殺害、DがAを殺害、DをBが殺害、残ったBを真犯人が殺害しアリバイを作った。
加害者が次の被害者になったのだ。
つまり、「網の中から出たことに乗じて(この場合は計画的)犯行を犯す」パターン。
主人公により指摘された真犯人(あくまでドラマ上の犯人)は自殺する。
こうしてドラマは完成を見た。
だが、現実の事件の犯人はまだ分からない。
【実際(現実)の解答】
姿を消した主演俳優は等身大フィギュアの中から発見された。
もちろん、生きたままの状態で。
犯人は「網を絞る際に中から外へ逃げ出す」方法を取っていた。
誘拐されたふりをして姿を隠し、最初の犯行前から姿を消していた主演俳優がその後の犯行を行っていたのだ。
そしてその主演俳優に殺人実行を示唆した人物こそ最初の被害者である監督だった。
監督は「小夜子事件」の被害者に対し罪の意識を感じていた。それに加え「小夜子」以来作品に恵まれなかったこともあった。両方を解消するべくこの驚くべきドラマのシナリオを描き、贖罪も果たす今回の計画をたてた。
死者として「網の中に初めから入らない」方法だったのだ。
見事、監督の要望に応えたことで主演俳優は自首。ここに「ミステリー・ドラマ」は終わりを告げた。
後日、監督の腹部に2つの刺し傷があったことがわかる。
そして、主人公はなぜフィギュアの中に人が居ると知っていたのか?
実は、監督は主人公に自身の殺害を依頼していた。
断り切れなかった主人公は監督を刺した。
だが、どうしても思いきれず傷は致命傷たりえなかった。
その際、フィギュアの秘密を知ったのだった。
その秘密は誰の目に触れることなく消えて行くのだろう―――エンド。
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