2010年03月02日

「七回死んだ男」(西澤保彦著、講談社刊)

「七回死んだ男」(西澤保彦著、講談社刊)ネタバレ批評(レビュー)です!!

ネタバレあります!!未読の方は注意!!

<あらすじ>

七回死んだ男1

同一人物が連続死!恐るべき殺人の環
殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む少年探偵

どうしても殺人が防げない!?不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎(ふちがみれいじろう)老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは!時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。
(あらすじ・写真共に公式HPより)


<感想>
映画化したら名作になるであろう作品その1。
あのトリックは視覚的に充分耐えうると思う。
設定もSFだし。
ちなみに映画化したら名作になるであろう作品その2は同作者の「人格転移の殺人」。

ともかくその特異な設定で本作は成功している。
最後のまとめも面白いし、安心してオススメ出来る作品。

何より、祖父殺しがメインと思わせて最後の大仕掛けが待っていることが大きい。

<目次>
・とりあえず事件のさわりだけでも
・主人公は設定を説明する
・登場人物たちが一堂に会す
・不穏な空気はさらに高まる
・そして事件は起きる
・やっぱり事件は起きる
・しつこく事件は起きる
・まだまだ事件は起きる
・それでも事件は起きる
・嫌でも事件は起きる
・事件は最後にあがく
・そして誰も死ななかったりする
・事件は逆襲する
・螺旋を抜ける時
・時の螺旋は終わらない

<ネタバレあらすじ>
同じ日を9回繰り返す「反復落とし穴」。
その力を持つ主人公・久太郎。
その特異な力は久太郎自身もいつ起こるかわからない。
能力というよりは体質といってしまってよい力だった。。

正月になり、新年会の為に祖父宅へ集まった親戚たち。
すべては祖父の遺産の為であった。
大企業の社長である渕上零治郎老人こそ久太郎の祖父。
その後継を巡って鎬を削る親戚たち。
渕上家ではある特殊なしきたりがあった。
高齢の祖父が個々人を判別する為にそれぞれ色のついたトレーナーを着込むのだ。
そのトレーナーの色に対応する色紙を使って毎年遺産の後継者を決めては、遺書を新たに起こしていた。

1月2日
酒の好きな祖父に誘われた久太郎は一緒に酒盛りをすることに。
些か過ごしてしまう。
その日の晩、車に乗って家への帰路につく久太郎。

翌朝、目が覚めるとそこはまだ祖父の家だった。
さては「反復落とし穴」が始まったなと察した久太郎。
どうせリセットされるのだからと大胆になり、憧れの女性・友理に告白する。
返事が保留されドキドキしつつのんびり構えていた所、祖父が死体で発見されることに。
どうも何者かに殺害されたらしい形跡が残されていた。
それによれば友理が殺害したことになるが……。

これまでの「反復落とし穴」で云えばオリジナルの第1周「1月2日」をなぞらえる筈で全くのイレギュラーな出来事だった。
久太郎は混乱しながらも祖父の死を食い止めるべく2周目に挑戦する。

だが、またも祖父は死亡。
3、4、5、6、7周目と何回チャレンジしても祖父は死亡。
しかも、その度に犯人は親戚の誰かという状態。
疲れ果てた久太郎は二度寝の夢を見てしまう。

8周目、ついに真相が明らかに。
祖父は自然死だった。
反復する(次の日が無い)為、司法解剖の結果がわからなかったのだ。
去年の遺書(友理が相続人)が有効になることを恐れた親戚がその度に友理による殺人に見せかけていたらしい。

9周目、これまでの知識と経験をもと(祖父の飲酒が死亡原因)に祖父に禁酒を迫る久太郎。ついにはこれに成功。無事、翌日を迎えることになる。

祖父の死を回避したことに安堵する久太郎。
そこへ友理から食事のお誘いが。
喜び勇んで出かける久太郎。
とはいえ、告白した過去は「反復落とし穴」での出来事。
リセットされている筈だったが……友理はそれを覚えていた!!
慌てふためく久太郎。
日付を確認するが今日は1月4日だった!!
昨日まで1月2日を9回繰り返していた筈。
ワケもわからず「反復落とし穴」について説明してしまう。
それをあっさり信じる友理。
友理によれば合理的に解釈しうる理由があるらしい。

友理によれば久太郎は1月2日ではなく、1月3日を9回繰り返していた。
つまり「反復落とし穴」が始まったと確信した1周目は1月2日ではなく1月3日だったのだ。
だが、1月2日に家へと帰った筈の久太郎が何故、1月3日に祖父の家に居たのか?
強かに酔っていた久太郎、人事不省に陥り記憶が曖昧だった。
帰る直前に祖父に呼びとめられそのままもう一泊してしまったらしい。
滞在中は全員が色つきトレーナーを着るという祖父のルールも手伝って1月3日だと気付かなかった。
それで1月3日も1月2日と同じ状況が繰り返されたのだ。

それだと1日分、反復した回数が少ないのではと疑念に思う久太郎。
これまた友理は解答を持っていた。
途中、二度寝をしたと思い込んでいた久太郎。
二度寝ではなく、寝ぼけたまま階段から足を滑らせ死亡してしまっていた。つまり、はっきりと周回を認識する間もなく一日中死んでいた。
日を跨ぎリセットされた為、この日のことは無かったこととされたのだ。

正直、この解釈が正しいかどうか久太郎には関係ない。
この特異体質を理解した上で聡明な解釈を示してくれた友理。
その友理は久太郎の告白にイエスと返事をくれた。
これ以上のことがあろうか。久太郎は幸せに包まれていた。

この物語には後日談がある。
祖父の遺産相続問題が再燃したのだ。
久太郎と友理は遺産に興味が無い。
だが、親族間のゴタゴタに巻き込まれるのは時間の問題だった……。
もしも、その日に限って「反復落とし穴」に嵌まってしまったら……。
果たして久太郎はどうなってしまうのであろうか?

エンド。

「七回死んだ男」です!!
七回死んだ男 (講談社文庫)



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posted by 俺 at 12:00| Comment(2) | TrackBack(1) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
Posted by 藍色 at 2010年03月27日 00:38
Re:藍色さん

こんばんわ。
トラックバック確認致しました。
返事が遅くなりましたが、ありがとうございます。
こうして人と人がネットワークで繋がるって面白いですよね。

西澤保彦先生は管理人も大好きなのでトラックバックして下さると嬉しいです。
時間があれば、「完全無欠の名探偵」や「解体諸因」、「人格転移の殺人」、「殺意が集う夜」等、少しずつ批評(レビュー)しておければなぁと考えております。

最近、管理人自身が忙しく更新が疎かになっておりますが、今後とも当「ミステリ通信 創刊号」を宜しくお願い致します<(_ _)>。

Posted by 俺 at 2010年03月30日 01:00
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七回死んだ男 西澤保彦
Excerpt: 幾度も繰り返される殺人。殺されるのは渕上零治郎。 認識できるのは孫の久太郎だけ。 時間の反復落とし穴に嵌まり込んだ久太郎が、 祖父の...
Weblog: 粋な提案
Tracked: 2010-03-26 02:03
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