2010年04月20日

「球形の荒野」(松本清張著、文藝春秋社刊)

「球形の荒野」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

<あらすじ>
国際謀略で存在を消された外交官の、娘への愛

終戦工作で自分の存在を消した外交官の、娘への絶ちがたい情愛──帰還した戦争の「亡霊」が暴き出す人間の内面にひそむ悪と闇

上巻

球形の荒野・上巻

芦村節子は旅で訪れた奈良・唐招提寺の芳名帳に、外交官だった叔父・野上顕一郎の筆跡を見た。大戦末期に某中立国で亡くなった野上は独特な筆跡の持ち主で、記された名前こそ違うものの、よもや……? という思いが節子の胸をよぎる。節子の身内は誰も取り合わないが、野上の娘の恋人・添田彰一は、ある疑念をいだくのだった。

下巻

球形の荒野・下巻

新聞記者・添田彰一は、恋人・野上久美子の父の生存を確かめるため、ひそかに調査を始める。口を閉ざす当時の関係者、京都のホテルでの発砲騒ぎ……次々と起きる不可解な事件にはいったい何が隠されているのか? 停戦工作の裏事情と一外交官の肉親への絶ちがたい情愛が交錯する国際謀略ミステリーの傑作! 解説・半藤一利
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>
家族の愛情を軸に歴史的な大事件の内幕(真相)を絡めた本作。
上下巻に渡る内容は圧巻。
野上に関わる真相自体は割と早期に検討がつくかも。
とはいえ、本作の要点はそこだけではなく野上の決断とその身に振りかかった事象そのもの。
ストーリーテリングの妙に酔うべき作品。

ちなみに「球形の荒野」のモチーフについて、文教大学教授・竹内修司さんによれば「第二のダレス事件」と呼ばれるものがそれにあたるのではないかと指摘されています(下記にリンクあります)。

「球形の荒野」自体は1975年に既に映画として映像化されています。
キャストは次の通り。
役者名(役名)
芦田伸介(野上顕一郎)
乙羽信子(野上孝子)
島田陽子(野上久美子)
竹脇無我(添田彰一)
山形勲(滝良精)
岡田英次(村尾芳正)
藤岡琢也(伊東忠介)
笠智衆(福竜寺住職)
田宮二郎(ナレーター)
(順不同、敬称略)


2010年11月27日追記金曜プレステージ 文化庁芸術祭参加作品 松本清張2夜連続SP球形の荒野・前編「連続殺人の裏に隠された昭和史の光と影〜奈良古寺に残る亡霊の筆跡!」(11月26日放送)ネタバレ批評(レビュー)追加しました。リンクよりどうぞ!!

2010年11月28日追記土曜プレミアム 松本清張2夜連続SP球形の荒野・後編「昭和39年東京オリンピック開催日にすべての謎は明かされる!刑事も涙した戦争で引き裂かれた父娘の結末」(11月27日放送)ネタバレ批評(レビュー)追加しました。リンクよりどうぞ!!

<ネタバレあらすじ>
第二次大戦末期、外交官として活躍した野上顕一郎の死亡通知がその妻と娘のもとに届いた。

それから16年後、芦村節子は奈良・唐招提寺の芳名帳に死亡した筈の野上の筆跡を見出すことに。

そこから亡き父の謎を解き明かそうとする野上の娘・久美子とその恋人・添田彰一の旅が始まる。

野上は生前、とある大きな工作に関わっていたらしいことが判明。
そんな中、伊東という男が首を絞められ殺害される。
久美子の過去にはとある画伯が殺害されており、きな臭い匂いが立ち込め始める。
さらに、久美子が出会った謎のフランス人女性。
導かれるようにして泊ったホテルでは村尾という男性が銃撃される。
次いで、筒井屋の主人が伊東と同じ場所で殺害されてしまう。
次々と起こる出来事、その背景には何があるのか?

久美子との結婚を決意した添田彰一はついにすべてを知る男、滝から真相を聞くことに。
そこには驚愕の事実が。

伊東殺害の犯人は筒井屋の主人だった。
筒井屋の主人の正体は野上の元秘書官だった門田。
門田は野上の同志だった。
伊東は芳名帳から野上が生存していると睨み、門田を詰問。
野上の所在を知っており、追い詰められた門田は伊東を「野上のもとへ案内する」と誘き出し殺害。
だが、筒井屋に潜伏し門田を監視していた栄吉(伊東の所属する組織の仲間)により組織に捕まり、伊東の仇として処刑されたのだった。

なぜ、伊東の組織が野上を追うのか?
そこには第二次大戦末期の事情が隠されていた。

当時、野上はこのまま戦争を続けても日本は勝てないと考え、総玉砕するよりは余力を残した降伏の道を模索し、滝や村尾の協力を得て連合国に情報を売り渡したのだった。
結果、戦争は早期終結の道を辿ることになる。

当然、最期まで戦争続行を訴え続けた一派にとっては面白くない。
野上を売国奴として批難し、追い続けた。
野上は死亡したことにして身を隠していたが、故郷に残した妻子が気にかかり滝や村尾ら同志の力を借りたびたび帰国。
久美子たちを見守り続けた。
それと知られずに久美子に近付きたい野上は、画伯の協力を得て久美子をモデルに絵を描いてもらった上で、画伯宅の下働きとして久美子を見守った。
が、これも組織に嗅ぎ付けられて破綻。
画伯は事故として殺害され、野上は久美子の肖像画を手に姿を消した。

時が経ち、フランス国籍を入手した野上はこれを最期の帰国と位置づけ来日。
だが、懐かしさから芳名帳に記帳してしまったのが間違いだった。
それを姪の芦村節子に見咎められることに。
このため伊東に帰国を知られ、結果、門田が伊東を殺害し、門田もまた殺害されることになった。

村尾の事件は野上を匿う者への警告と共にあわよくば炙り出そうとしたものだった。

すべてを滝から聞き出した添田彰一は滝の勧めに従い、真相を久美子に伏せたまま、時間つぶしと称して観音岬へと送りだす。

そこにはあのフランス人女性がいた。
彼女は夫と連れ立って来日中だと云う。
夫を紹介される久美子。
意外なことに夫は日本人男性だった。
父親と同い年ぐらいの男性に親近感を抱く久美子。
フランス人女性はいつの間にか姿を消し、二人だけがその場に残される。
岬へと進む久美子たち。
流暢な日本語を使う男性は久美子に対してとても優しい。
「ひとつお願いを聞いてくれないか?」
そう告げた男性の願いは日本の童謡を久美子と共に合唱することだった。
応じる久美子。
「ななつのこ」の歌声と共に久美子は思う―――これは、幼い頃に両親と歌った歌だと―――エンド。

◆関連外部リンク(外部サイトに繋がります)
・文藝春秋社「自著を語る」より「幻の終戦工作 ピース・フィーラーズ 1945夏」について語った「世界史を動かした四十日」
http://www.bunshun.co.jp/jicho/40days/40days.htm

・映画版「球形の荒野」(1975年)(Goo映画情報)
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD20033/index.html

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posted by 俺 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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