2010年04月22日

「虚擬街頭漂流記」(寵物先生、ミスターベッツ著、玉田誠訳、文藝春秋社刊)

「虚擬街頭漂流記」(寵物先生、ミスターベッツ著、玉田誠訳、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります!!注意!!

<あらすじ>

虚擬街頭漂流記1

本格の新星、アジアから。第1回島田荘司推理小説賞受賞

大地震で寂れ果てた台北・西門町。かつての賑わいは仮想空間に移されたが、そこで恐るべき殺人が!? 最先端の本格ミステリ登場

ネット上に構築された仮想都市で殺人事件が起きた。だが、殺人が起った時間帯に仮想都市に存在した2人には完璧なアリバイがあった――。
SF的設定の中に仕組まれた高度なトリックと、結末に思わず涙する感動のストーリー。中国語による本格ミステリーを募(つの)った第1回島田荘司推理小説賞受賞作は、ミステリーシーンに新風を吹き込む傑作です。
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>
第1回島田荘司推理小説賞受賞作。
その名に恥じぬ本格の登場です!!

舞台設定で度肝を抜きつつ、トリックは手堅くまとめてあり面白い。
トリック自体に設定を活かしてあるのも好印象。

世界観自体は現実世界と仮想世界が交錯するという事で士郎正宗さんの「攻殻機動隊」や「ドットハック」シリーズに慣れ親しんでいれば割とすんなり受け容れ易い。

SF的設定に工夫を凝らしその上でロジックの網を張り巡らす―――というと西澤保彦さんを思い出しますがあちらが驚天動地のロジック(サプライズ重視)を駆使しているのに比べ、こちらは理路整然なロジック(美しい論理)を駆使しきれいに着地している点で甲乙つけがたい。

何よりこの小説全体に仕掛けられている試みには脱帽。
ラスト(11文字の言葉を口にする)まで読み進め、冒頭に戻ると……。
この観点で読むと新しい物語が見えて来る。
独立した人格を巡る物語が……。

必読の一冊!!

<ネタバレあらすじ>

「わたしがあなたのママよ」
彼女(主人公)がその人と出会ったのは運命だったのだろうか。
彼女は目の前に現われた女性に拾われ親娘となった。
それは彼女が18歳のとき、その人が30歳のとき。
たった12歳上の義母を世間に対し彼女はひた隠しに隠した。

時がたち、彼女はコンピューター技師(プログラマ)になった。
彼女の仕事は仮想空間上の街を管理・運営し、仮想世界の発展を見極め、それに貢献する技術を生み出すこと。
それは大きな実験だった。
同じ職場の大山と共に彼女は今日も仕事に励んでいた。
大山には愛娘を事件に巻き込まれ失うという悲しい過去があった―――。

その日も普段と変わらない―――筈だった。
最初に異変に気付いたのは大山だった。
仮想世界にログインした人数と実際に仮想世界中にて活動している人数とに1人分の差があったのだ。
仮想世界に参加している人間(本物の人間)は眼球の動きで判断される。その数が合わない。
なんらかのバグか、それとも―――。

彼女と大山は仮想世界にダイブする。
それぞれ別方向へ向かい、仮想世界をさまよい歩く二人。
大山が5分遅れたものの、一旦待ち合わせ場所で合流。
再び、異変を探し求めた。
そして見つけたものはある男の死体だった。

仮想世界での男の死因は撲殺だった。
そして、現実世界でも。
仮想世界での出来事が現実世界へとフィードバックされていたためだ。

つまり、被害者は現実社会にて殺害されたのではない。
仮想世界内で何者かに殺害されたのだ。

こうして特異なケースであるものの捜査が開始された。
捜査の結果、当時仮想世界内にダイブしていた人間には犯行は不可能であることがわかる。
だが、彼女は気付いてしまった。犯人が誰であるかを―――。

大山が犯行を認め拘束される。
被害者は大山の娘が事件に巻き込まれ殺害された折、凶行を目の前にしながら見殺しにした過去があった。
大山の動機はここにあると思われた。

しかし、彼女は大山が殺害犯ではないことを知っていた。
大山の真の動機にも検討がついた。
彼女は大山と対峙した。

大山は「娘の為に殺した」とうわ言のように繰り返した。
彼女は大山が異変に気付いた時点で被害者が殺害されていたことを指摘。原因調査の為、二人で仮想世界にダイブ後、大山が待ち合わせに遅れたことから、死体を動かし現場から目を逸らさせようとしていたと推理。大山が犯行を行った何者かを庇っていることを明かす。
大山は非常に動揺。
ついに「今も生きているあの娘の為に仕方が無かった」と認める。

大山の云う「今も生きている娘」とは大山が創造したAIのこと。
大山は娘を失った後、実の娘のように愛情を注いだAIをNPCとして仮想世界に住まわせていた。
その外見は生前の娘そっくり。
そこで人間のように生活させAIの少女と親娘として生きていた。
いつしか、少女(AI)は経験を積み人格を備えるようになっていた。
そして、あの事件の日―――。

被害者は少女を見て驚いた。
昔、見殺しにしてしまった少女にそっくりだったからだ。
少女は驚く男にきっとそれは姉のことだろうと話した。
大山から少女にそっくりな娘がいると聞いていたから。
男はそれを聞き過去の謝罪として自分を5発殴るように依頼した。
少女はそうしないと男が納得しないと察し、彼女なりの力で5発殴りつけることにした。
一発。男が黙った。二発。俯いたまま男の動きが止まった。三発。四発。五発。男はピクリとも動かなくなった。
少女の力は仮想空間で振るわれる人間の力を大幅に超えていたのだ。
やがて少女は人を殺してしまったことに気付き狼狽した。
そこへ大山が慌ててやってきた。
大山は一目見て「彼は気絶しただけだよ」と嘘をつくと善後策を巡らせた。
こうして大山は愛娘(少女)を救うために死体を現場から動かした―――。

真相は余りに現実離れしていた。
結局、大山自身が望んだこともあって少女のことは伏せられた上で大山が犯人とされた。

彼女(主人公)は何故、大山の動機が理解できたのか戸惑っていた。
彼女には大山に通ずるものがあったのかもしれない。
彼女は大山が庇い守ろうとしたものを気にかけ始めた―――。

少女はひとりで待っていた。
大山は拘束される直前に仕事と偽って少女に長い別れを告げていた。
同時に迎えが来ることも示唆していた。
ある日、ひとりの女性がやって来た。
まるで、昔から知っているような女性の様子に少女は尋ねた。
「あなたは誰なの?」
この問いに彼女は答えをひとつしか持ち合わせていなかった。
覚悟を決めて彼女は口を開いた。
「×××××××××××」
彼女の口から11文字の言葉が発せられた―――エンド。

注:11文字のヒントは感想を読むこと!!

「虚擬街頭漂流記」です!!
虚擬街頭漂流記



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posted by 俺 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
外国に行くのに少し長いフライトなので、1/18読売朝刊のエンターテイメント小説月評を見て、「完全なる首長竜の日」を読んでみようかとネットで検索しておりましたところ、こちらのブログに接しました。

「完全なる首長竜の日」の書評から、「虚擬街頭漂流記」の書評を拝見しました。どちらもネタばれありで興味深く書評を読んだ結果、この二冊の本はパスという結果になりました。

数多の書籍を読むには人生は短すぎ、時には読まなくても読んだ気になることも、お蔭様で必要なのです。二冊の書評を拝見していて、とても文章が上手だなあと感じました。これからも書評を期待しています。
Posted by 通りすがり at 2011年01月18日 19:14
Re:通りすがりさん

コメントありがとうございます(^O^)/。
管理人の“俺”です!!

「書評(レビュー)」に目を通して頂いたとのこと、大変嬉しく思います。
こうしてコメントを頂くと良い励みになります。

ちなみに管理人から「書評(レビュー)」について説明すると、「書評(レビュー)」は大きく「あらすじ」「感想」「ネタバレあらすじ」3つの順で構成されており、気になるタイトルがあって本格的な「ネタバレ」を避けたい場合は「感想」までに留めるとそのタイトルへの興味を持続することが出来るかと思います。
それと、「ネタバレあらすじ」はあくまで管理人の主観によるものなので実際の本を読んでみるとまた違った捉え方や感想が生まれることも多々あるようです。
既に読んだタイトルや、今後読むつもりのタイトルでも比較してみると面白いかも、です。

当ブログは今後もマイペースに続けて行こうと思っています。
今後とも宜しくお願い致します<(_ _)>。
Posted by 俺 at 2011年01月20日 01:02
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