ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
文化祭で賑わう校内で奇妙な連続盗難事件が発生。犯人が盗んだものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。事件を解決して古典部の知名度を上げようと盛り上がる仲間達に後押しされて、奉太郎はこの謎に挑むはめに!
古典部を襲う“最悪”のトラブル!
文化祭で起きた連続盗難事件の謎を解け!青春ミステリ〈古典部〉シリーズ第3弾!!
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!!盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに・・・・・・。大人気〈古典部〉シリーズ第3弾!
(角川書店公式HPより)
<感想>
古典部シリーズの一冊。
古典部は作品内時系列順に「氷菓」「愚者のエンドロール」「クドリャフカの順番」「遠まわりする雛」が刊行されている。
最新作は「ふたりの距離の概算」。
古典部シリーズは登場人物それぞれが起承転結の役目が振られているような気がする。
起・千反田(姉が裏にいる場合あり)
承・伊原(福部の場合あり)
転・姉か福部(伊原の場合あり)
結・折木
千反田が発端となり折木が出馬。伊原か福部が情報(推理の叩き台)を持ち込み折木が一応の推理を出す。後に伊原か福部が折木の推理を否定し、最終的に折木が結論に辿り着くといった感じ。
本作は「古典部」シリーズ初の多視点作品。
テーマは「理想」と「現実」かな。
青春期の挫折といってもいいかも。
「理想」の自分が才能と云う「現実」の前に屈せざるを得なくなる。
福部と伊原、千反田にはそれぞれほろ苦い経験が用意されている。
福原には推理力で奉太郎への憧憬が。
伊原には漫画の創作力で才能ある先輩へのそれ。
えるには「人を使う」という点で入須(力の無い自分)へのそれ。
そして、犯人「十文字」にも―――。
ちなみに、えるの挫折は「遠まわりする雛」のエピソードに受け継がれている。
反面、主人公・奉太郎にはそれがないのは何故だろう?
あるいはいずれ来るその日を予感させることが目的なのだろうか?
ここら辺は「小市民」と被るのかな。
ともかく「古典部」シリーズのある意味、ターニングポイント的な作品。
少なくとも「カンヤ祭」三部作(氷菓三部作)の締めになる作品と云える。
シリーズファンは必読!!
米澤先生版「ABC殺人事件」だよ!!
<ネタバレあらすじ>
神山高校古典部―――そこには4人の部員が居る。
姉&千反田に頭があがらないモラトリアム主人公・折木奉太郎。
桁上がりの四名家(神山市内にある4つの旧名家のこと。苗字に十、百、千、万とつくことから里志が命名)の出身で好奇心の強いお嬢様・千反田える。
歩くデータベースにしてホームジストを自称する男・福部里志。
ダブルスタンダードながら正義を標榜する・伊原摩耶花。
全員一年生だ。
“カンヤ祭”がいよいよ近づいたものの、相変わらずな古典部の面々。
そんな中、古典部の文集“氷菓”を200部も印刷してしまうという事件が発生。
このままでは余ってしまう……これを何とか売り切らなければ!!
丁度その頃、学内では奇妙な事件が発生していた。
十文字を名乗る犯人がグリーディングカードの犯行声明と「カンヤ祭の歩き方」という冊子を犯行現場に残し、盗難を繰り返していたのだ。
今までに盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。
「謎の犯人十文字の正体は?」盛りあがるカンヤ祭。
文集「氷菓」完売の為には「古典部」の知名度アップが不可欠。
こうして十文字の正体を推理することになった奉太郎。
だが、嘲笑うかのように十文字は「古典部」をも標的に。
物見高い見物客が集まり「氷菓」はある程度売れて行く。
伊原の警戒も厳重。誰もが十文字の犯行はここで潰えると思ったが……ついに衆人環視の中、氷菓の原稿が燃え「原稿を頂いた」という犯行声明が残されることに―――。
愕然とする伊原とえる。
だが、これには裏があった。説明には時間を遡る―――。
売り子として留まっていた奉太郎。
姉から貰った文集などから推理を進めついに犯人を突き止める。
犯人を呼び出す奉太郎。
現われたのは総務委員長の田名辺。
彼こそが十文字だった。
彼がしたかったこと、それはとある人物にメッセージを送ること。
その人物にだけわかるように「カンヤ祭の歩き方」を現場に残した。
ポイントは「カンヤ祭の歩き方」のあるページに掲載された部と個人が狙われていることだった。
そして、メッセージとは「『クドリャフカの順番』は既にない」というもの。
これにより再度、漫画を描いてもらおうとしたのだ。
だが、結局その相手にはメッセージも届かなかったらしい。
届かぬ才能に払うものは嫉妬ではなく憧憬―――田名部はそう奉太郎に語る。
十文字の正体と引き換えに取引を持ちかける奉太郎。
その内容は残りの「氷菓」のうち30部を総務委員会において引き取らせること。
田名部は総務委員長として取引に応じることに。
その際、話題作りの為、古典部の「氷菓」原稿を十文字に奪わせることも取り決めた。
つまり、奉太郎と田名部の間で出来レースが行われたのだ。
結果、「氷菓」は飛ぶように売れる。
原稿は奉太郎の手引きにより発火する。
こうして前述の取引により総務委員会に30部を引き取らせる。
残りは5冊。
古典部のメンバーに1人ずつと奉太郎が姉用に一冊購入し完売!!
こうして「氷菓」問題は解決した。
だが、福原は同じ情報を得ていたにも関わらず奉太郎と同じ結論を導き出せなかったことに苦い思いを抱き、えるも校内放送による呼びかけを通じて自分が人を動かす能力に欠けることを自覚、伊原もまた才能のない人間とある人間の葛藤を垣間見ることにより、自らの才能に限界を感じるのだった―――エンド。
◆米澤穂信先生のその他の著作に対するレビューはこちら。
・「インシテミル」(文藝春秋社)
・「儚い羊たちの祝宴」(新潮社)
・「追想五断章」(集英社)
[小市民シリーズ]
・「夏期限定トロピカルパフェ事件」(東京創元社)
[古典部シリーズ]
・「氷菓」(角川書店)
・「愚者のエンドロール」(角川書店)
・「遠まわりする雛」(角川書店)
・「ふたりの距離の概算」(角川書店)
・『鏡には映らない』(米澤穂信著、角川書店刊『野生時代』2012年8月号 vol.105掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【関連する記事】
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- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)