ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
松本清張賞選考会で熱い議論になった問題作
メジャーリーグを代表する韓国系スラッガーの正体が日本人かもしれない。調査を命じられた新聞記者が辿り着いた驚愕の真実とは
メジャーリーグで活躍する韓国系アメリカ人のホームラン王は、実は日本人が韓国人に成りすましている。その証拠を掴み彼を脅して日本でプレーさせろという密命を受けた新聞記者の修平だが……。今年度の松本清張賞で惜しくも受賞は逃しましたが、奇想天外な設定の妙と、豊富な取材体験を生かした描写で選考委員のあつい関心を集めたスポーツ・ミステリーの王道をいく傑作です。(AH)
(文藝春秋社公式HPより)
<感想>
本作は第1回「サムライジャパン野球文学賞」の受賞作に選ばれています。
◆関連過去記事
・第1回「サムライジャパン野球文学賞」受賞作発表!!「ノーバディノウズ」に!!
作者の本城雅人さんはスポーツ紙記者の経験を活かして本作を書いたとのことだけあって確かな筆致が力強いです。
割とトンデモ系の内容をリアリティがあるように見せているのはそれに負うものが大きいのでは。
ただし、スポーツ記者としての経験が仇になったのか、キャラクターについては平板で画一的。
スポーツ新聞に掲載された人物伝を読んでいるような気がします。
まさにストーリー性に欠けるドキュメンタリーそのもの。
なので、あまり物語には没入しづらいかも。
キングはダークヒーロー的な立ち位置の筈が右往左往して「あれれ……」と読者を混乱させます。
後にラストの「実は……」に繋げたかった為だと分かるのですが、余り効果を発揮しておらず、人物像にブレを感じる原因となっています。
逆にマイナス面が多いように見受けられました。
いろいろな面で勿体ないです。
物語として面白くはないが、トンデモでさえリアルに描ける力量―――どちらかというと作者はノンフィクションのドキュメンタリーものに力を発揮されそうな方の気がします。
今後に注目したいです。
<ネタバレあらすじ>
キングと呼ばれる男がアメリカ球界で猛威を奮っていた。
新聞記者の脩平はこのキングが実は日本人・仲村ではないかとの疑惑を抱き調査に乗り出す。
仲村は過去にヒョンスという同級生と共に暴行事件を起こし、相手の3人を死に至らしめ逃亡していた。
アメリカにて薬物使用で球界を追われた香川と共に仲村の真相に迫る脩平。
ヒョンスを発見する。
ヒョンスはかなりのワル。
薬物を取り扱い、今も人を殺害した疑いをかけられていた。
闇社会にもそれなりに顔がきくらしい。
キングの試合を香川と共に観察し、キングの癖が日本球界によくあるそれと同じ(追い込まれてからは見逃しをしない)と知った脩平はボールの握り方もあり、キング=仲村だと確信。
だが、物証に乏しい。
ヒョンスを見張る二人だったが、当のヒョンスが殺した男の関係者に刺されてしまう。
命は取り留めたもののヒョンスが繋がる組織を追っていた捜査当局にヒョンスの身柄を抑えられてしまうことに。
キングの自宅に忍びこむ脩平と香川。
そこでキング=仲村と会う。
仲村にある提案を持ちかける脩平。
ヒョンスが捕まった今、仲村の身にも累が及ぶのは時間の問題。
そこで手が届かないうちにキングとして日本の球団に移籍し帰国してしまえばというのだ。
そこで多少なりともプレーした上で3人に怪我を負わせた罪で自首すると云うのがそのプランだった。
これは、過去に3人を殺した本当の犯人はヒョンスだろうと考えた脩平にとって、仲村に故郷に錦を飾らせたい苦肉の策だったのである。
仲村はその提案に乗ることに。
帰国した仲村はキングとして活躍。
落ち着いてきたある日の試合中、ヒョンスが訪ねて来る。
それはヒョンスをよく知る仲村にとっては当たり前の結果だった。
そのまま球場を後にする仲村。
彼は思う、あの新聞記者の云うように自分が人を殺していなければ……と。
彼の耳に甦るのは3人の断末魔と命乞いの声。
そして今では……。
「何処へ行きたい?どこででも俺たちはやっていけるぜ」
ヒョンスの声が仲村を思索から引き戻す。
以降、日本で仲村とヒョンスの姿を見た者はいない―――エンド。
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