ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
ひとりの幼児を死に追いやった、裁けぬ殺人。街路樹伐採の反対運動を起こす主婦、職務怠慢なアルバイト医、救急外来の常習者、事なかれ主義の市役所職員、尊大な定年退職者……複雑に絡み合ったエゴイズムの果てに、悲劇は起こった。残された父が辿り着いた真相は、罪さえ問えない人災の連鎖だった。遺族は、ただ慟哭するしかないのか? モラルなき現代日本を暴き出す、新時代の社会派エンターテインメント!
(朝日新聞出版公式HPより)
<感想>
光が反射して多方向から一点に収束する。
光は事後、拡散していく。
拡散していく様子により物事が見えるようになる。
たしか、これが乱反射の意味だった筈です。
つまり、乱反射することにより発光しない物体が見えるようになる。
最初はそれぞれの普段の日常が描かれます。
それがあんな結果に繋がるなんて。
それぞれはどこにでも居そうな等身大の人物です。
それだけに怖い。
淡々としているだけに余計怖い。
そこら辺の匙加減が貫井先生は上手いです。
一応、ラストにわずかな救いが与えられますが、本当にわずかです。
その前の加山の慟哭に比べれば微々たるもの。
胸をつく迫力ってこのことでしょうか。
ひとりひとりの何気ない行動がひとりの子供を死に追いやった……。
恐ろしいことです。
自分だけは違うと思っているそこのあなた!!
気が付いてないだけなのかもしれません……。
読後にいろいろ考えさせられます。
これは日本推理作家協会賞長編部門を受賞するわけだわ。
納得の出来。
◆関連過去記事
・「慟哭」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「光と影の誘惑」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・その他の受賞作などはこちら。
第63回日本推理作家協会賞発表!!
・選考課程はこちらから。
「第63回日本推理作家協会賞」選考課程が明かされる!!
<ネタバレあらすじ>
日常……それぞれの些細な日常が営まれている。
それは、どこにでもあるありふれた光景……。
そんな中、事件は起こる―――。
新聞記者・加山の息子健太が事故死した。
突然、倒れ込んだ街路樹に巻き込まれたのだ。
治療も間に合わず死んでしまった。
突然のことに呆然としていた加山のもとに事故が人災によるものであるとの情報が届く。
健太を襲った一本だけ、街路樹の検査が行われていなかったのだ。
職務怠慢を問い詰める加山。
担当者によれば、理由は街路樹の下の犬の糞。
彼は「病的な潔癖症でどうしてもそれに近付けなかった」と云う。
しかも、あの街路樹は本来伐採される予定だった。
犬の糞さえ除去されていれば……悔やむ加山。
だが、犬の糞は過去に問題化されており市の職員が清掃にやって来ていたと云う。
今度は職員を問い詰める加山。
市役所職員は「清掃作業中に子供に馬鹿にされたのが嫌でやめてしまった」と云う。
「そんなもののために難度の高い公務員試験を合格したわけじゃない」吐き捨てる職員。
「第一、犬の糞で人が死んだわけじゃない」と開き直る。
加山には彼を論理的に批難する術は残されていなかった。
トボトボと帰る加山の背中に、職員は「俺は悪くない」と呟いた。
そんな職員には同僚の批難の眼が辛かった。
健太が運び込まれたものの受け入れを断った病院があった。
問い詰める加山。
答える医師は「普段、軽い症状でも大げさに夜間に叩き起こす患者が居るのが悪い」と主張。
具体例としてある学生の名前を挙げる。
学生が風邪でも夜間に診察してくれる便利な病院があると噂を流したのが原因だと云うのだ。
学生を問い詰める加山。
答える学生。
だが、加山の求める謝罪の言葉は出てこない。
今度は街路樹の伐採予定に反対していた主婦宅へ。
彼女も加山の求める答えを与えてはくれなかった。
主婦は娘に冷ややかな視線を投げかけられたものの家族を守る為だと割り切った。
そもそも犬の糞が悪いのでは?
犬の飼い主を捜す加山、今度は妻も一緒だ。
飼い主は老人だった。
老人は答える「お前らみたいな若い者にはわからん。犬の糞を始末するには屈まねばならないが自分は腰が痛くて出来ないのだ」と。
「人殺し!!」加山の妻が叫ぶ。
老人は足早にその場を去った。
帰宅後、老人は妻にその話をした。
自分に同意してくれると思っていた。
妻は一言、「晩節を汚しましたね」と答えた。
加山はHPを開設し、自分の心情を綴った。
自分たちは悪くない―――そう主張したかった。
だが、同情よりもそんな加山の態度に批難が集中した。
「何様だ!!」と悪しざまに罵られた。
加山は裏切られた。
たまにくる同情のメールが救いだった。
ある日、そのメールで匿名情報が届いた。
健太の乗った救急車が15分ほど渋滞に巻き込まれたというのだ。
原因は一台の乗り捨てられた車の所為らしい。
自宅への車庫入れが上手く出来なかった運転手がそのまま逃げたのだ。
それさえなければ助かったかもしれない。
加山は運転手を捜した。
運転手は若い娘だった。
新聞記者と聞いた当初、娘は怖ろしい剣幕で加山を罵った。
だが、加山が被害者の父であると知ると謝罪を始めた。
しかし、その謝罪は健太の死に責任を負うものではなかった。
彼女は自分一人の為に家族を巻き込む事は出来なかったから。
ここでも加山は望む答えを得られなかった。
その日の晩、娘は健太の事故現場に花を手向けた。
彼女は自分の免許証を引き裂いた。
加山は日に日に追い詰められていった。
誰が健太を殺したんだ?いったい誰が?
会社は加山のHP閉鎖を迫った。
話題になったためらしい。
閉鎖かさもなくば辞職か。
加山は生活の為に閉鎖を選んだ……ひどく辛かった。
加山は仕事中、一軒のコンビニに立ち寄った。
おむすびとペットボトルのお茶を購入した。
ふと健太を連れた家族旅行を思い出した。
たしかあのとき、「家庭ゴミを捨てるな」と書かれたサービスエリアにこんなおむすびの袋を捨てなかっただろうか。
そう考えたとき、加山は絶叫した。
自分だったのだ。
自分のような人間の行いだったのだ。
誰でもない、健太を殺したのは自分だったのだ。
加山はとめどなく涙を流し続けた……。
何もかもに疲れた加山と妻は絵ハガキを見ていた。
そこにある写真の島に憧れた二人はその島を捜して旅行に出かけた。
どこか南国だと思った。
沖縄に向かった。
景色はなかなか見つからなかった。
やっと、現地の案内人から「与那国島だ」と教えられた。
そこは悠然たる光景だった。
加山は息をのんだ。
健太が生きて大人になってここにいればどんな言葉を口にしたのだろうか?
想像してみた。
風景はただそこにあって人々の営みを黙ってのみこんでいた―――エンド。
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