ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
ホラー映画のロケ中に、主演女優が起こした過去の殺人が、「誰か」によって追及される。女優はとことん追い詰められ、そして、舞台となった女子高生による伝説の演劇ユニット「羅針盤」の真実が語られていく。胸焦がす青春ミステリーの傑作!
(あらすじ・写真共に原書房公式HPより)
<感想>
青春ミステリ。
トリック自体は小粒……とはいえ、その構成力は特筆に値する。
過去と現代が錯綜し暴きだされる真相が見事。
映画化されるとのことだが、映画化されるだけの内容は充分に伴っておりレベルは高い。
映画版が楽しみ。
2010年7月19日追記:「少女たちの羅針盤」の続編「かいぶつのまち」ネタバレ書評(レビュー)追加しました。
リンクよりどうぞ!!
・「かいぶつのまち」(水生大海著、原書房刊)
◆関連過去記事
・「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」第1回優秀作「少女たちの羅針盤」映画化決定!!
・映画「少女たちの羅針盤」出演者募集!!
・映画「少女たちの羅針盤」キャスト発表される!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
【現在】
マリア:売り出し中の女優、過去に「羅針盤」メンバーのひとりを殺している
芽咲:映画監督
小笠原:撮影スタッフのひとり、男性
【過去】
かなめ:「羅針盤」のメンバー、なつめの妹
瑠美:「羅針盤」のメンバー
蘭:「羅針盤」のメンバー、妾腹の子、親が資産家
バタ:「羅針盤」のメンバー
なつめ:かなめの姉
マリアはとあるインターネット映画の主演女優として招かれた。
現場には監督の芽咲、男性スタッフの小笠原など準備万端整っていた。
撮影に参加したマリアだったが、監督の芽咲に「君、昔羅針盤のメンバーだったよね」と声をかけられる。
驚き警戒するマリア。
それもその筈、彼女は羅針盤のメンバーの1人をその手にかけて殺害していたからだ。
マリアは思う―――あの子がいる限り邪魔をし続けられるだけだったんだもの―――。
過去(4年前)―――4人の女子高生がそれぞれの名字に含まれた「東西南北」にちなみ「羅針盤」という劇団を立ち上げた。
メンバーは瑠美、蘭、バタ、かなめの4人。
瑠美は思った事をすぐ口に出す直情径行タイプ。
かなめは姉・なつめに憧れて女優を目指していた。
蘭は妾腹の娘。
バタはボーイッシュな女の子。
それぞれがそれぞれの個性を抱え、時にぶつかり合いながらも互いに親友として認めあっていた。
そんなある日、「羅針盤」の活動を知った同級生からかなめがイジメを受ける。
挫けなかったかなめは女優として大きなチャンスを得るが、直後、何者かにより凌辱されてしまう。
精神的ショックを負ったかなめ。
なつめからそれを知らされた瑠美、蘭、バタは犯人捜しに奔走する。
そんな中、蘭不在の羅針盤になつめが現われる。
なつめはケーキを差し入れとして持って来ていた。
借りた毛布を膝にかけメンバーと暫し談笑するなつめ。
そこへかなめらしき電話がかかってくる。
電話口からは「くちゃ、くちゃ」とガムを噛む音が響く。
ガムを噛むのはかなめの癖だ。無言のかなめに不安に駆られる一同。
そこへ改めてかなめから自殺を仄めかすメールが送りつけられて来る。
だが、咄嗟のことにかなめの居場所がわからない。
そうこうしているうちに蘭が戻り、彼女から「練習場では」と聞かされる。
駆け付けたメンバーを待っていたのは屋上から転落死したかなめの姿だった。
かなめの死をもって羅針盤は解散した。
瑠美、蘭、バタ、それぞれの心に苦い想い出を残して。
現在―――マリアはプロデューサーに呼び出され待ち合わせ場所へ向かう。
そこには小笠原が待っていた。
「あなたがかなめを殺したんだよね」
冷徹につめよる小笠原。
シラをきるマリアだったが小笠原には証拠があると云う。
その手には保冷剤が握られていた―――。
「どういうこと?」
小笠原に尋ねるマリアはあることに気付く―――。
小笠原の正体はバタだったのだ。
実は性同一性障害に悩んでいたバタ。
バタはホルモン剤を注射し、性別を変えていた。
慌てるマリア。
小笠原の後ろにもうひとり人影が現われた―――瑠美だ。
瑠美はバタと共にマリアの罪を責め立てる。
この危地を切り抜けようと知恵を巡らせるマリアに後ろから声がかかる。
蘭である。
遂に蘭はマリアの名前を告げる―――なつめ、と。
瑠美、蘭、バタはかなめを殺したのがなつめだと気がついた。
かなめの死を受け気まずくなり解散した3人だったが、ひょんなことからそれぞれがそれぞれの持つ情報をすり合わせた結果が犯人を突き止めた。
瑠美は当初、ケーキに保冷剤が無かったことを知っていた。
そして、大学の小劇団で効果音を教わった。
バタは事後、ケーキに保冷剤が添えられていたことを知っていた。
蘭はそれらの情報からある事実を導き出した。
瑠美が教わった効果音は「ガムを噛む音」だった。
溶けかけの保冷剤を手で揉むと似たような音が出る。
なつめが持ち込んだケーキには最初、保冷剤が添えられていなかった。
しかし、事件後、バタが喪失感に苛まれながら覗き込んだケーキの箱の中には保冷剤が残されていた。
つまり、かなめのものと思われた「ガムを噛んでいる人間からの電話」はなつめによる効果音でしかなかった。
蘭たちの推理はこうだ。
なつめは「羅針盤」へ立ち寄る前にかなめを練習場で殺害し、携帯を奪った。
ケーキを手に「羅針盤」へ到着。
もちろん、事前に保冷剤を抜き取っておく。
毛布を借り手元を隠し、保冷剤を揉みながらかなめの携帯で電話。
ガムを噛む音を聞かせ、自身のアリバイを作る。
直後、既に作成しておいたメールをかなめの携帯から発信、騒ぎ出す。
かなめを捜すふりをして殺害現場に携帯を戻す。
これがなつめのトリックだった。
なつめはかなめへの優位性を頼りに生きてきた。
それがかなめの評価が高まるにつれ妹を憎み、下級生をけしかけいじめさせた上、自らかなめを拉致し凌辱されたようにみせかけたのだ。
そして遂には殺害してしまった。
かなめ殺害犯がなつめだと察した瑠美、蘭、バタは復讐を決意。
蘭は父親が映画配給会社の大物だったこともあり、あえてマリア(なつめ)主演の企画を通した。
プロデューサーは蘭だったのだ。
バタは実力派の脚本家になっており、それと知られないよう芽咲を誘導しマリアを追い詰めるためにスタッフに紛れ込んだ。
芽咲はマリアの目を引き付ける為のミスリード要員、本人は事情を知らない。
芽咲がなつめを「羅針盤」メンバーと間違えたのも無理はない。
なつめとかなめは姉妹だったのだから。
瑠美もバタ同様ばれないようにスタッフに混ざり、サポートしていた。
あくまで罪を認めず、かなめを批難するなつめを取り囲む3人。
3人はなつめを“有罪”と認定し、少しずつ壁際へと追い込んでいく。
その先には大きく開いた口がひとつ―――転落死が待っている。
混乱したなつめは自らバランスを崩し、転落していった……。
数日後、蘭は父の拘束から逃れる為に何もかも捨て海外へ役者修業の旅に出ることを決めていた。
瑠美、バタもそれぞれの生活へと戻っていった。
なつめはといえば事前に仕掛けておいた網に命を救われた。
蘭たちにはなつめを殺す意志は無かった。
いや、計画の当初は殺害するつもりだったがかなめの意志を汲み思いとどまった。
代わりに告発する様子をテープに録画し、また、告発によりなつめに猛省を促すことで自首するように導いた。
どんな心の変化があったのかなつめは自首した。
芽咲の映画は蘭が事前に用意していた別の主役に差し替えて進行した。
問題はない。むしろ、マリアよりも評判がよい。
これから蘭、瑠美、バタ達の前には未来という先の見えない大海原が広がっている。だが、「羅針盤」での経験、そこで生まれた友情がある限り乗り越えて行くのだろう。まさに道を指し示す羅針盤のごとく―――エンド。
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