ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>

祝!10周年トリック大感謝祭
ミステリー作家 はやみねかおるのオリジナル書きおろし!
山田奈緒子と上田次郎は青春時代に出会っていた!?
「奈緒子は、帰天城が消えたことは知ってるの?」
「うん。先生から聞いた。」
「お父さんはね、新しいマジックの参考にしようとして、帰天城のことを調べたの。」
「あと、お姫様の妖術も調べてたわね。『あれは、妖術じゃない。すべて、手品で再現できる』――お父さんは、そういってたわ。」
超常現象は、全てトリックで説明できる――それが、父の口癖だった。――<本文より>
(文藝春秋社公式HPより)
<感想>
「TRICK(以下、トリック)」らしくない作品。
もともと「トリック」はストーリーよりも映像に秘められた小ネタやパロディ、掛け合いのノリを楽しむ作品だと思うのでノベライズ化しにくいではなかろうか。
つまり、「トリック」は“活字であるミステリ小説”を“映像化”したパロディなのである(因習のある村で起こる殺人というテンプレを踏むのもこのためだろう)。
それを逆輸入するのはかなりの大技だと思うのだが……。
余程の「アッと驚かせられる何か」がないと雰囲気だけ真似して終わってしまう。
いや、雰囲気を模倣できるだけでも上出来かも知れない。
それを踏まえると「トリック」の特徴を盛り込むという点でこれは外している。
本作は山田と上田が以前に会っていたという箇所しか売りがない。
そこに後の作品群との整合性を論理的に与えている点は流石だが、肝心の山田と上田の掛け合いがどうも上滑っていたように思える。
ファンならばクスリとさせられる部分もあるにはあるが違和感を覚える箇所の方が多いだろう。
「トリック」を活字化するのはかくも難しいのかと考えさせられた。
はやみねかおる先生は「虹北恭助シリーズ」で存知あげており、ジュブナイルの名手との認識だったのですが……その名手をもってしても難しかったのか……。
はやみね先生版「トリック」と割りきれるかどうかが本書を楽しめるかどうかの境目だろう。
ただ、鶴田謙二先生の絵には惹かれるものがあった。
あのほんわかした絵が表現する山田と上田には映像化された本編とはまた別の一面が垣間見れたような気がして好感が持てた。
あれは良かった。
「帰天城の謎」本編の内容はそのままにコミック化の方が「トリック」としての持ち味を活かせたのではなかろうか。
とりあえず内容的にネタバレもなにも無い気がするので、本書を読む上でのポイントを下記にピックアップしておきます。
ご参考下さい。
【本作品を楽しむ上でのポイント】
・ジロ&YOU
・城の場所は?
・天狗の名前 以上
◆関連過去記事
・TRICK 新作スペシャル2「村祭りに響く死を呼ぶ子守唄!!歌詞になぞらえ殺されていく若い娘!?女霊能者に秘められた哀しい過去…」(5月15日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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