ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
〈ハヤカワ・ミステリワールド〉ベストセラー『告白』の著者が放つ、書き下ろし長篇。
高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。彼女はかつて親友の自殺を目にしたというのだ。その告白に魅せられた二人の胸にある思いが浮かぶ――「人が死ぬ瞬間を見たい」。由紀は病院へボランティアに行き、重病の少年の死を、敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとする。少女たちの無垢な好奇心から始まった夏が、複雑な因果の果てにむかえた衝撃の結末とは?
(早川書房公式HPより)
<感想>
一人称多視点で綴られた本作。
正直、功を奏しているとは言いづらい。
むしろ、読みながら今が誰の視点なのか混乱することもしばしば。
どうも作者は一章ごとの手記形式の文章の方が向いてると思う。
「最後の一撃(フイニッシング・ストローク)」も効果的とは思えない。
ミステリ性を高めるより、ただ意外性を追求した結果に過ぎない感じ。
人と人の意外な繋がりに関するラストならば、伊坂幸太郎先生の「ラッシュライフ」の方が上だろう(あちらはラストにもうひとつトリックがありそれが重要だった)。
書きたいテーマが見えてこないのも痛い。
当初は少女たちの生態を描きたいのかとも思ったが、どうも違う。
少女たちを通じてみた社会でもなく、大人に振り回される少女の視点とも言い難い。
あえて絞り込むと「若者特有の自意識の在り方」なのかなとも思うがこれも成功しているとはどうも……。
良くも悪くも作者の放つ“毒”が本作では弱いのもマイナス。
仮にテーマを若者特有の自意識を描いた作品だとしてみても既存作の方が優れているように感じた。
毒を含んだ青春ミステリ的には映画化される水生大海先生「少女たちの羅針盤」や東野圭吾先生「放課後」、小峰元先生「アルキメデスは手を汚さない」の方に分があるか。
「少女」には「告白」や「贖罪」ほどの後をひく読後感はない。
作者はエゴとエゴのぶつかり合いを描くべき?
・「少女たちの羅針盤」(水生大海著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
宮部みゆき先生の「模倣犯」を湊先生にリメイクしてもらえれば毒が充分に発揮されて相当面白い話になりそうだが……。
蛇足:高尾の無実が明らかにされていない以上、「東洋ハウス」の社員はそっち系の人ばかりと噂されないのだろうか?
余計なお世話だろうが心配してしまう。
<ネタバレあらすじ>
一部、分かりやすいように改変してあります。注意!!
どこがどう違うのか「少女」を読んで確認してみては?
登場人物一覧:
敦子:由紀の親友、元剣道部員。
由紀:敦子の親友、「ヨルの綱渡り」の作者。
紫織:敦子、由紀と共通の友人。黎明館高校からの転校生。
小倉:敦子と由紀の担任教師。
星羅:故人、紫織の親友。
昴:由紀が出会った入院中の少年、不治の病らしい。
肉まん:昴の友達でよく太った少年。
高尾:敦子がボランティアに出かけた福祉施設の男性職員、通称おっさん。
牧瀬:由紀の彼氏、“死”に対して異常な興味を持つ。
三条:滝沢の偽名。
滝沢:東洋ハウスの社員。
敦子と由紀は親友同士。
だが、最近はどことなく気まずい。
敦子は快活な少女。
元剣道部員だったが試合中に足首を怪我したために敗退。他の部員から学校裏サイトでイジメを受け、推薦で黎明館に進学できた筈だったが責任を感じ辞退することに。だが、敦子の代わりにイジメを行ったメンバーが進学したことが原因でトラウマになっていた。
一方、由紀はどこか陰のある少女。
祖母から虐待を受けて育っており、“死”について興味を持っていた。
互いが抱えるこの秘密を互いに知ってしまった為にどこかギクシャクするように。
「親友同士だったのに水臭い、どうして私に教えてくれなかったの―――?」
そう一言、口にできれば良かったのだろうが一度言えないとなかなか言い出せないもので微妙な関係が続いていた。
そんなある日、由紀はふと思いついて親友・敦子への思いを小説「ヨルの綱渡り」に記すことに。
だが、完成した直後に敦子と由紀の担任・小倉に盗作されてしまい、敦子はその存在を知るものの手に届かずじまいとなってしまう。
敦子と由紀は小倉への復讐を決意。
小倉のノートPCを奪うとそこに保存されていた小倉が受け持つ生徒たちの成績表をばらまいてしまう。
流石にまずいのでは……と冷や汗を流す敦子だが、由紀は平気なもの。
小倉が黎明館の女子高生と交際しているデータはばらさなかったのだから配慮した方だと嘯くのだった。
数か月が過ぎ―――あの後、敦子は小倉が黎明館を褒め称えていたことを思い出し黎明館高校の裏サイトに小倉の悪口と彼の付き合っていた女子生徒についても書き添えた。
それが原因ではなかろうが、小倉はデータ流出を理由に退職させられる。
そんな中、黎明館から紫織という少女が敦子と由紀の高校に転校してきた。
紫織によれば彼女に親しい人物が彼女の目の前で自殺してしまったと云う。
その言葉に嫉妬と興味を覚えた由紀は自分も死を目撃したいと志望するようになり、より若く絶望の深いだろう不治の病気を抱える幼い子供を捜し出そうと読み聞かせのボランティアに応募する。
敦子は由紀の興味を知り、より由紀を理解するべく、こちらは老人福祉施設のボランティアに応募する。
由紀はボランティア先で昴と肉まん(由紀が名付けた)という少年に出会う。昴は不治の病で余命幾許も無いらしい。母親と離婚後、別れて暮らしている父親に会いたいと語る昴とそんな昴の願いを土下座してまで叶えて欲しいと訴える肉まんの友情にうたれた由紀は昴の父親捜しを引き受ける。その父親の名前は高尾といった―――。
その頃、敦子はといえばボランティア先で奇妙なおっさんと出会う。
おっさんは過去に女子高生に痴漢を働き仕事と家族を失ったと噂されていた。
だが、敦子はどこか儚げなおっさんの姿にどうしても噂が信じられない。
日々を過ごし、由紀を虐待していた祖母が命を落としそうになりそれを敦子とおっさんが助けたり……と交流していく二人。
そのうちに敦子はおっさんからとある文芸誌を借り受ける。
それはおっさんのお気に入りの作品が収録された雑誌。
作者の名は小倉。作品名は「ヨルの綱渡り」。
由紀の作品だった。
当の由紀は高尾を捜した。
由紀と同じく、いや由紀よりも死に拘る彼氏・牧瀬と共に高尾の現住所を知る手がかりを求め元の職場とされる“東洋ハウス”を訪ねる由紀たち。
個人情報として一度は突っぱねられたが、三条という社員が「夜中に指定する場所に来てくれれば」と交換条件を提示する。
仕方なく了承する由紀。
敦子は「ヨルの綱渡り」を読んで由紀の気持ちを知り感動する。
そんな敦子をおっさんは「いい友達をもったな」と励ます。
到底、噂が信じられずその真偽を問い質した敦子は非情な真実を知る。
おっさんの痴漢は冤罪だったのだ。
どうも、お金儲けを企んだ女子高生が被害者を装いおっさんを嵌めたらしい。
おっさんは無実を訴えたものの聞き入れられず、仕事と家族を失っていた。
「そういえば、おっさんの本名は?」
何気なく聞く敦子におっさんは名を告げる―――高尾だ、と。
三条に呼び出された由紀は用心の為、牧瀬と共に訪れる。
案の定、自分の目的が妨害された三条は逆上。
情報を切り札に傍若無人な要求を次々と由紀に提示する。
行為はエスカレートしていくか―――と思われたがここで一部始終を録画・録音していた牧瀬が逆襲。
三条が偽名であり、滝沢という本名を知るに及んで逆に情報提供を要求する。
渋々、高尾の現職場を明かす滝沢。
そんな滝沢の姿に自分の父親だけはこうなって欲しくないと由紀は思うのだった。
由紀はそれと知らず敦子のボランティア先を訪問。
互いを見つけて驚く、敦子と由紀。
おっさんこと高尾に事情を説明した由紀は昴と会えるようセッティングする。
時を同じくして、牧瀬が運営する“殺人予告サイト”に高尾殺害が予告される。
まさか、由紀の祖母を助けたことへの由紀の復讐では?と疑う敦子。
約束の日は近付き、敦子は命がけでおっさんを守る決意を固める。
約束当日。
おっさんと連れ立ってやってきた敦子に驚く由紀。
ついにその時が訪れ、おっさんが「昴……」と息子の名前を呼ぶ。
だが、おっさんが名前を呼んだ相手はなんと「肉まん」。
混乱する由紀の前で肉まんはナイフを手におっさんに襲いかかる。
間一髪、肉まんの不審な様子に気付いた敦子が割って入り、おっさんは背中を刺されたものの軽傷に終わる。
目の前で人の命が奪われかける現場を見た由紀はパニックに。
敦子は由紀の手を取りその場を逃げ出す。
二人きりになり、互いの気持ちをぶつけあう敦子と由紀。
理解し合えた二人にはより強固な友情が芽生えていた。
後日、偽物の昴よりメールが届く。
それによれば、肉まんこそが本物の昴。
太って元気そうな肉まんが余命を口にして依頼するよりも儚げな偽物の方が引き受けてもらいやすいだろうと見越して入替っていたらしい。
肉まんが土下座したのも他人事ではなく自分に関わっていたからだ。
本物の昴は家庭を壊し、母を苦しめた父親を恨んでおり復讐しようとしていたのだと云う。
だが、幸い敦子の活躍で高尾の傷は軽く、誤解も解けた。
父親に付き添われ最期に笑顔でこの世を去ったという。
最期……そう、本物の昴は本当に余命が短かったのだ。
命をかけ復讐しようとした彼だったが、父の真意を知り安らかに旅だったのだそうだ。
由紀は今回の経験を経て“死”への興味を失った。
由紀、敦子、紫織が寛いでいる。
そんな中で、ふと何気なく紫織が過去を口にする。
例の自殺した大事な人の話だ。
それは彼女の親友の物語だった。
紫織によれば親友の自殺は「恋人が大変なことになっている」と騒いでいた直後だったらしい。
その親友とはお金目当てに偽の痴漢を仕立てる犯罪まがいのことまでやったと語る紫織。
それがきっかけでその恋人とも出会ったのだそうだ。
親友のことを語る紫織を自己陶酔しているとシラけながら眺める由紀。
映画でも行こうか―――そう口にする由紀に賛成する敦子だったが、ひとり紫織だけは断わりを入れる。
「今日は親友だった星羅の命日だから」
紫織の呟いた親友の名前に由紀はどこかで目にした覚えがあるとひっかかりを覚えるのだった……。
紫織には親友はいない。
親友は自殺してしまったから。
親友・星羅は小倉と付き合っていた。
そんなある日、小倉はデータ流出の責任を問われた。
学校裏サイトに星羅に関する書き込みがなされたのもその頃だ。
噂は直ぐに広がり星羅はイジメの対象になった。
紫織には星羅から毎日メールが届くようになった。
今、思えばあれはSOSのメッセージだったのかもしれない。
だが、紫織はそれを黙殺した。
99通まで届き、いよいよ100通目のそのとき星羅は自殺した。
星羅からの100通目のメールは携帯の未送信に分類されており、最期まで出されることは無かった……。
あれは悲鳴だったのだ……紫織は思う。私はそれを無視してしまったと。
助ければ良かったのだろうかとも思う。
だが、そうすれば今度は自分の番だ。
そのとき星羅は同じように助けてくれただろうか?
第一、後悔しても遅い。
現に罰は与えられたのだ。
父が自分と同い年ぐらいの女子高生と援助交際をしていたという事実。
そして、お金を払うのを渋ったばかりに警察に通報されてしまった事実。
直に校内でも噂になるだろう。
そうすれば私も星羅のように追い詰められてしまう。
それならいっそその前に。
事態が知られてしまう前に。
紫織は決断し、実行に移すべく立ち上がる。
まずは遺書だ―――“滝沢”紫織はペンと紙を手に机に向かうのだった―――エンド。
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