<あらすじ>
第44回メフィスト賞受賞作
「前例がない!」「読後感爽快!」――田中芳樹氏絶賛!!
痛快中国歴史ミステリー誕生!!
始皇帝時代の中国、商家の家宝盗難をきっかけに、港町・琅邪で奇妙な事件が続発する!
「甦って走る死体」/「美少女の怪死」/「連続する不可解な自死」/「一夜にして消失する屋敷」/「棺の中で成長する美女」
――琅邪に跳梁する正体不明の鬼たち!!!
治安を取り戻すべく、伝説の方士・徐福の弟子たちが、医術、易占、剣術、推理……各々の能力を駆使して真相に迫る。多彩な登場人物、手に汗握る攻防、緻密な謎解き、そして情報力!
面白さ極めた、圧倒的興奮の痛快歴史ミステリー!
「始皇帝が何だってんだ おれたちゃ市井(しせい)の民だ」
『琅邪の鬼』への期待 田中芳樹
メフィスト賞は過去に多くの傑作名作を世に出してきたが、そこにあらたな秀作が加わった。喜ばしいことだ。とくに、庶民の視点で始皇帝の時代を描き、しかも読後感爽快なミステリーにしたてあげた作品は前例がない。作者である丸山さんの情熱と創意に敬服するとともに、今後のたゆまぬ御活躍を期待している。
(講談社公式HPより)
<感想>
あくまで個人的な感想と前置きした上で。
期待し過ぎたのかもしれない。
正直、あまり評価できない。
読み進めるのが辛かった。
よくいう「リーダビリティに欠ける」という奴か。
他にも難がある。
まず、既存作が無いわけでもない。
陳舜臣先生や他ならぬ田中芳樹先生に似た作品がある。
それらとの差異を問われれば、エンタメ系のキーワードを多めに盛り込んだ点が挙げられるだろうが、歴史ミステリの重厚感にエンタメ系のキーワードを放りこんだ結果、必要以上に軽くなってしまった印象。
作者が中国史に造詣が深いのは理解できたが、それがミステリに繋がっていないのも痛い。
“両性具有”とか必要だったか甚だ疑問。
“壁”というアイテムを中心にカルマがひとりの人間に集中するストーリーも蛇足の感を免れ得ない。
これで広大な話が小さくまとまってしまった。
始皇帝の死の真相を匂わすような形で、三傑のひとり張良が出てくるがそれもこの手の話に詳しい読者ならばサプライズには成り得ない。
中国史に疎い読者にとっても「ふ〜〜〜ん、へ〜〜〜」で留まり、驚きよりも感心で終わるのが何より痛い。
つまり、ミステリの肝であるトリックが活きていない。
「おっ」と思った点は、張良と関連してタイトルの「琅邪の鬼」が犯人ではなく別人を指していたこと。
これは意外性があった。
でもこれ本筋じゃないよな。
同じ「メフィスト賞」ならば前回(43回)受賞作「キョウカンカク」を推す。
・「キョウカンカク」(天祢涼著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
う〜〜〜ん、全否定っぽく見えるけど人によってはこういうのが好きな人もいると思う。
管理人に合わなかっただけなので読まず嫌いは惜しいかも。
作者の次作に期待。
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管理人の“俺”です!!
ご指摘ありがとうございます。
ご指摘の箇所については、誤解を招くような文章だったかと反省しています。
弁明させていただくと、上記の「陳舜臣先生や他ならぬ田中芳樹先生に似た作品がある」とは、「前例がない」との宣伝文に対し、あくまで「中国史を舞台にしたミステリー」として類型的に似た作品があることを指したに過ぎません。
例えば陳舜臣先生では「玉嶺よ ふたたび」や「炎に絵を」などに代表される中国史に関わるミステリを指したつもりでした。
ニュアンス的には、浅田次郎先生の「珍妃の井戸」のような作品が近いかと思います。
さらに、「琅邪の鬼」についての管理人の解釈は「武侠小説」に「ミステリ」要素を加えたものとの認識なので、その点でもあくまで「武侠小説の延長線上に存在するような作品である」と述べたつもりでした。
「武侠小説」で提示された謎やその解明部分が大幅に拡大されているのが本作との認識だったのです。
ただ、肝心なその部分について記載オチがあったのは「アンフェア」だったかもしれません。
本作について管理人の意図が其処にあることを理解して頂けると幸いです。
「既存〜〜」以外の点については本記事記載の通りです。