ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
春を迎え、奉太郎たち古典部に新入生・大日向友子が仮入部することに。だが彼女は本入部直前、急に辞めると告げてきた。入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は長距離を走りながら新入生の心変わりの真相を推理する!
(角川書店公式HPより)
<感想>
古典部シリーズの5作目。過去作については下記にて書評(レビュー)あり。
今回はあらすじにある通り、奉太郎たちが2年生に進級した状態からスタート。
「新入生を古典部に勧誘すべく奮闘(?)する奉太郎たちだが思わぬ展開が待っていた……そのすべてをマラソン途中に解明する」という凝った内容。
単なる謎解きに留まらず、ストーリー性、リーダビリティが共にあり読ませます。
「やっぱり、読み物はこうでなくちゃ!!」と思わせるだけの力あり。
ラストで奉太郎は己のモットーに反しえるに彼女のことを聞いたのかどうかが気になりますね。
個人的には尋ねたものと考えたいですが、それは考え過ぎかな〜〜〜。
ここらは次作にて明らかになるのかな。
それにしても、米澤穂信先生は読者に作者買いさせる安定性を誇っていますね。
ちなみに「古典部」シリーズ4作目「遠まわりする雛」の文庫版発売が7月に予定されています。
そちらも期待です!!
<ネタバレあらすじ>
神山高校古典部―――そこには4人の部員が居る。
姉&千反田に頭があがらないモラトリアム主人公・折木奉太郎。
桁上がりの四名家(神山市内にある4つの旧名家のこと。苗字に十、百、千、万とつくことから里志が命名)の出身で好奇心の強いお嬢様・千反田える。
歩くデータベースにしてホームジストを自称する男・福部里志。
ダブルスタンダードながら正義を標榜する・伊原摩耶花。
彼らは共に過ごした1年間を通じてさまざまな体験をしてきた。
2年生に進級した奉太郎たち古典部の面々。
当然、新入生が入学してくるワケで……古典部も新入部員確保に動くことに。
ところが、活動内容を魅力的に紹介出来ないのが古典部。
人が一向に集まらない。
そこへ現れた古典部期待の星、新入生の大日向友子。
奉太郎の中学の後輩である彼女は仮入部を希望、行動的な友子は直ぐに古典部に溶け込みメンバーも胸を撫で下ろしていたが……仮入部期間が終わりを告げようとしていたある日、友子が入部辞退を告げてくる。
果たして友子が翻意した理由は?
時間がたてばたつほど関係修復は不可能になってしまうと考えた奉太郎は友子が入部辞退を告げた翌日、マラソン大会の中で真相を突きとめようとすることに。
友子の翻意の理由はこれまでの彼女の行動の中にある筈、思い起こすと共に関係者から話を聞く奉太郎。
友子との出会いは新入生勧誘会にて千反田えるが製菓子研究会のコーナーに違和感を抱いたことが始まりだった。
えるの違和感について、いつものごとく問答を始めるえると奉太郎。
その会話を盗み聞きしていたのが友子だった。
「友達の言葉なんですが、後ろめたい人は名前を名乗らないそうです……」友子の言葉から違和感の正体に気付いたえる。
製菓子研究会には看板が無かったのだ。
そして、用意されたにも関わらず未使用のコンロ。
奉太郎は本来をコンロを使用する筈だった料理研究会と製菓子研究会がコーナーを交換していたことに気付く。
そこから導き出された真相は―――料理研究会が不祥事(食中毒)を起こし実演が出来なくなりそれを隠蔽する為に製菓子研究会と場所を交換したというものだった。
奉太郎の推理を聞いたえるは早速料理研究会を訪ね、入須を巻き込み解決を図る。
感心した友子は古典部に興味を抱き仮入部を希望。
ここに古典部期待の新人が誕生したのだった。
そこまで思い起こした奉太郎。
マラソン中の伊原摩耶花に入部辞退直後の友子の言葉を確認する。
それによると友子は「千反田先輩は菩薩のような人ですね」と云っていたらしい。
そういえば、友子が入部辞退を告げる直前に話をしていた相手はえるだった……。
そういえばこんなこともあった。
古典部のメンバーに誕生日を祝ってもらった奉太郎。
発案者は友子らしい。
実は奉太郎には知られたくないある事情があった。
必死にその話題から話を逸らそうとするのだが……奉太郎の願いがかなうかどうかは、えると卓上の招き猫にかかっていた。
奉太郎の知られたくない事情とはえるが以前に奉太郎宅を訪れていたこと。
シリーズ4作目「遠まわりする雛」のエピソード直後に風邪をひいた奉太郎を責任を感じたえるが見舞ったのだ。
ふたりの間になんらやましいことなど存在しないが一度言いだせなかった手前、他の古典部メンバーに隠し通そうと決意した奉太郎。
えるも同様だった。
奉太郎宅への道をえるが知っていたことを疑問視するメンバー。
えるは奉太郎と同じ学校の卒業生・惣多に卒業文集を見せてもらい住所を突き止めたと言い抜ける。
顔が広いんですねと感心する友子。
コレ以上の証拠を発見されては露見する恐れがあった奉太郎は招き猫を気にかける。
招き猫は置物ではなく赤外線のリモコンだった。
誕生日を祝うからにはケーキが出てくる筈で、雰囲気を重視した結果、一度も奉太郎宅を訪れたことがなく、それがリモコンだと知らない筈(本当は知っている……)のえるが何かの拍子に使うことを恐れたのだ。
結局、皆に気付かれないようごくごく自然な態度でそれを取り除くことに成功する奉太郎。
ほっと胸を撫で下ろすのだった。
奉太郎の誕生日から数日後、友子の旅行土産を食べていた古典部メンバー。
友子は北は東北から南は九州まで行動範囲にしているらしい。
奉太郎たちは両親にアルバイトも許されないと愚痴っていた友子の意外な行動力に唖然とする。
そんな中、またも友子の提案でお出かけをすることに。
今度は友子の叔父がオープンすることになった喫茶店のモニターとしてである。
当日、遅れて合流することになったえるを除き、集合したメンバー。
友子の叔父は当初こそぎこちなかったものの割と気さくな人柄で奉太郎たちもほっとする。
友子の叔父がアユミという妻を持つ愛妻家であることや、ブレンドが自慢であること、ウサギに拘りそれに彩られた店内など話題は尽きない。
ふとした拍子に話題が店内にあった雑誌の件に。
そこには水筒社事件が載っていた。
水筒社事件とは実在する水筒社の名前を騙り、就職を餌に金品を巻き上げる悪質な詐欺事件だった。
時がたち、そろそろえるがやって来ようかという時刻が近付き、代わる代わるトイレに立つメンバー。
一巡した頃にえるがやって来る。
えるは旧家の娘ならではの付き合いで遅くなったのだそうだ。
こうして勢揃いしたメンバー。
友子の叔父と打ち解けたえるは何気なく店名を尋ねる。
そこで友子の叔父は店名を当てたら褒美を出そうと提案。
友子自身の発案で解答は3回と制限することに。
うち2回までを使用するが答えは出ない。
これまでに出たヒントは、
「友子が聞けば笑うような名前」
「喫茶店とすぐにわかる」
「漢字の当て字で3文字」
「友子の叔父の店の特徴を盛り込んである」の4つ。
時間だけが過ぎ、考え疲れ諦めた友子たちは帰宅の途につくことに。
メンバーの飲食代は友子の叔父がごちそうしてくれることになった。
先に店を出た里志たち、残った奉太郎にえるは答えをねだる。
奉太郎は「友子が聞けば笑うような名前」から「愛妻家らしいもの(アユミ)」、「喫茶店とすぐにわかる」から「得意のブレンド」、「友子の叔父の店の特徴を盛り込んである」から「ウサギ」が入った「漢字3文字」と推測。「歩連兎(ブレンド)」という解答を導き出す。
それに対し「おしい」と返す友子の叔父。
正解は「歩恋兎(ブレンド)」だった。
「なるほど、これは恥ずかしい筈だ」と納得する奉太郎だった。
ついに友子が入部辞退を申し出る日にまで記憶を進める。
思えばどこかおかしかった。
例えばあれだ。
里志と摩耶花が交際を始めたと里志の妹から聞かされたと友子が奉太郎に話しかけてきたこと。
里志の妹を友子はなんと呼んだか?
“友達”ではなく“知り合い”と呼んだのだ。
さらに当日の友子の姿を思い浮かべる。
決戦に挑む様な表情で古典部部室前にいた友子。
あのとき、中にいたのはやはりえるだった……。
えるとのこれまでの付き合いからどうしても“えるが友子に悪意をもって接した”と考えられない奉太郎は直接えるから事情を聞くことにする。
えるはなかなか事情を話さない。
仕方なく、奉太郎は自らの推理をえるにぶつける。
えるは友子が辞退した理由は自分にあると思っているようだがそれは違うこと。
えるが責任を感じていたのは「友子の携帯に着信があり、代わりに出てしまった為に友子に嫌われた」ことだった。
だが、それはえるの思い違いだったのだ。
携帯の着信はメールであり、通話ボタンを押したところで影響はなかった。
そう聞かされたえるは奉太郎の推理を認め、友子に謝罪するつもりであったことを伝える。
奉太郎は友子の入部辞退の理由が外部にある以上、えるが謝罪しても問題は解決しないと教えるが、勘の鋭いえるは自分が意図せず友子にとっての脅威となっていたことを悟り、それを解消するよう奉太郎に頼むのだった。
推理から確信にまで至った奉太郎は友子がやって来るのを待つ。
そこで奉太郎が友子にぶつけた言葉……それは「千反田はお前の友達を知らない」だった。
ショックを受けた様子の友子。
「じゃぁ、なんで折木先輩がそれを知っているんですか」と反論する。
奉太郎はひとつひとつ自分がこの結論に至った手掛かりを示すことに。
まずは友子がえるに脅威を感じていたことを証明する。
友子が摩耶花に告げた言葉「千反田先輩は菩薩のような人ですね」。
外面が菩薩といえば内心は夜叉である……友子の言葉は「えるは夜叉のような人間だ」と暗に批難するものだった。
友子はえるを怖れていたのだ。
次に友子が「友達はこう言ってました」と友達の存在を口にしていたにもかかわらずその友達に触れられることを怖れていたこと。
人はやましいことがあると無闇に隠そうとするものだ。
奉太郎が誕生日パーティーで招き猫を注視し、えるの来訪を隠そうとしたように。
そして、里志の妹から兄妹の恋愛話を聞けるほどに信頼されていながら彼女を“友達”と呼ばすあくまで“知り合い”に留めたことからその友達は友子にとって重要な人物であることを証明。
えるの交友関係の広さがたびたび話題になっていたこととあわせて、友子はえるが“友達”の存在を知っており、それをネタに自分を抑えようとしていると考えていたと指摘する。
立証の最後に「千反田はお前の携帯を触ったことが入部辞退の原因だと考えるような人間で、とても悪意をもって人を操れるような人間ではない」ことを伝える奉太郎。
友子は自分の勘違いに気付く。
友子には中学3年時に転校してきた友達が居た。
最初は気付かなかったが、彼女は友達と付き合うことを何よりも優先させる人物でその為には犠牲を厭わない人間だった。
友子があちこち旅行に出かけたのも彼女と遊びに行く為。
少しずつ彼女との距離を見直すようになった友子に対し、彼女はさらに詰め寄る。
旅行費用を理由に付き合いを断ろうとしたが、彼女は彼女の祖父を騙してまで資金を調達してきたと云う。
それは大金だった。
友達の為とはいえ、祖父を平然と騙し大金をせしめる彼女。
彼女にそれをやらさせたのはまぎれもなく自分であるという事実に恐怖を感じた友子は彼女と別の高校へ逃げるように進学した。
奉太郎はソレが友子の傷になり、周囲への壁になっていることも気付いていた。
喫茶「歩恋兎」でのこと。
水筒社事件の掲載されていた雑誌がえるが来店した折には無くなっていた。
交代でトイレに立った際、友子がなんとなく隠してしまったのだ。
つまり、友子が気にかけていたのは“詐欺”というキーワードだったのだ……。
意図的に避けていた話題に踏み込んでしまった奉太郎に友子は「自分が千反田先輩を傷つけてしまった以上、今すぐ古典部に戻ることは出来ない」と語り、入部辞退を撤回しない旨を伝える。
心情的に理解出来るものであり、奉太郎は申し出を了承する。
友子と別れた奉太郎の前に里志が現われる。
その様子から大体の事情を察した里志に尋ねる奉太郎。
「惣多そのこを知っているか」と。
えるが友子の前で口にした「惣多」という苗字。
友子が友達をさして「その子」と言いかけて「あの子」と云い直したこと。
そこから、友子の友達の名を「惣多そのこ」だと推理した奉太郎だったが、学生たる身に学外のことは手に負えないと諦める。
だが、それは本当だろうか。
学生生活は順当にいけば大学卒業までの6年ほど。
その後には社会生活が待っており、常に学外と交渉を持つよう迫られるのだ。
学生にとって学外は決して特別な物ではない。
現に学生でありながら千反田は旧家の娘として学外と接している。
奉太郎は考える―――本当に自分が友子の問題を解決しようとするならば千反田に惣多について尋ねてみるべきなのかもしれない、と―――エンド。
◆関連過去記事【古典部シリーズ】のネタバレ書評(レビュー)はこちら。
・「氷菓」(角川書店)
・「愚者のエンドロール」(角川書店)
・「クドリャフカの順番」(角川書店)
・「遠まわりする雛」(角川書店)
・『鏡には映らない』(米澤穂信著、角川書店刊『野生時代』2012年8月号 vol.105掲載)ネタバレ書評(レビュー)
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