2010年08月09日

「闇ツキチルドレン」(天祢涼著、講談社刊)

「闇ツキチルドレン」(天祢涼著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります!!注意!!

<あらすじ>

闇ツキチルドレン1

最強最悪な容疑者――捜査の裏を知り尽くした元エリート警察官僚!!
“音を見る”共感覚美少女探偵・音宮美夜が凶悪事件に挑む!

殺意の矛先は犬や猫、そして人間へ――。
小さな地方都市を震撼させる事件の容疑者は、県警本部長も務めた元警察官僚・最上倉太朗!“共感覚”美少女探偵・音宮美夜は妙な出会い方をした高校生・城之内愛澄とともに捜査を開始する。だが最上は「私は音宮くんを殺したい」と宣戦布告!狙われた探偵は、裏を知り尽くした男を追い詰められるか?
(講談社公式HPより)


<感想>
「キョウカンカク」に続く音宮美夜シリーズ2作目。

前作「キョウカンカク」についてはこちら。
「キョウカンカク」(天祢涼著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

今回も音宮美夜の「共感覚」と「超推理」が炸裂。
特に「共感覚」の使い方は今回も秀逸。
二転、三転する展開も良し。
ストーリーも面白く、期待を裏切らない出来でした!!

とはいえ、勝手ながら個人的に多少残念な点が。
実は、あらすじから予測した内容に本作が近かったことがそれ。
特に犯人はそのままでした。
あらすじには主人公以外に2人しか登場人物が出ないので犯人を予測できるのは当然と云えば当然なのですが、それでも一度意識してしまうと伏線が読めてきて結末が想像できたのが残念でした。
ミスリードを「ああ、ミスリードだな」と思いながら読むのはちょっと……。

あらすじから適当に予測した内容はこちら。
講談社2010年7月発売予定リスト

これは裏を返せば、あらすじ上に犯人が登場しており、しかも拾える以上きちんと伏線が張られていることに他ならず、フェアという点で非常にフェアで好感が持てるのですが、それでももう少しあらすじに配慮して欲しかったというのが正直な気持ちです。

それと、このシリーズに危惧する点が出てきました。

このシリーズは本来あり得ないだろう極端な犯行動機や犯行方法が採用されがち。
結果、逆説的に“あり得ないだろう”方法や動機を考えて行くことで犯人や結末がある程度予測出来てしまうというもの。
加えて前半から後半にかけての登場人物の変貌ぶりが本作の魅力とは云え、逆に変貌することがパターン化したきらいがあるのも気にかかります。
パターンとして、前半、善人とされている人物(主人公の身近な人物)がほぼ確実に犯行に関わっているということになりかねないのです。
次回作にてこのパターンが崩れることを祈りますが……。

まぁ、それでもレベルが高いことは確かです。
物語に没入できれば充分に楽しめるでしょう。

で、「闇ツキチルドレン」の注目ポイント。

@美夜が後天的に作られた「共感覚者」である可能性が出てきたこと。
A謎の姉の存在
B美夜の父の謎
C矢萩の陰謀の行方

まずは、@を示すかもしれない「共感覚者になれた」との姉の発言。
これはコンタクトで能力を調整できることを示すのか、あるいは美夜が「後天的に共感覚者として作られた」ことを示唆するものか?
いずれかによって大きく物語の根幹に関わりそうです。

C矢萩の真意も不明ですが、「音宮美夜抹殺」発言が出ました。
でも、これ、どうも本気で殺すのとは違うような気がする。
もし、美夜が後天的に共感覚者になったのだとしたら「(共感覚者としての)音宮美夜」を“抹殺”するんじゃないかなぁ。
つまり普通の人間に戻す際に吉野ヶ里君を使うつもりとか。
あるいは形式上抹殺する芝居を打つ必要があり、その際に本気で美夜を嫌い殺意を抱いている吉野ヶ里君を使うのか。

どの道、この作者ならば額面通りにはいかない筈……既に3作目に取りかかっているらしいので次回作にも期待大。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
音宮美夜:特殊な共感覚を持つ主人公
城之内愛澄:美夜が出会った少女、今回の助手、複雑な家庭環境に育つ
町子:愛澄の祖母
最上倉太朗:自ら「チャイルド」を名乗る元エリート
津希子:倉太郎の孫娘、愛澄の先輩
三吉:津希子の彼氏、美夜曰く「ナンパ男」
甲橋:かな〜〜〜り自分本意な男、愛澄の先輩で愛澄をストーキングしている
矢萩:美夜の雇い主、腹に一物抱えたタイプ、油断できない
吉野ヶ里:矢萩の忠実な部下、仲間には温厚で後輩たちからの信頼も厚いが美夜を蛇蝎のごとく嫌う
音宮美陽:美夜の姉

甲橋に痴漢されたことから小柄で愛嬌のある少女・城之内愛澄と出会った我らが音宮美夜。
矢萩の意向もあり、そのまま「チャイルド」事件に巻き込まれてしまう。
「チャイルド」とは動物が次々と斬殺される事件の犯人。
前作の「フレイム」同様メディアがつけた名前だ。

その「チャイルド」の有力候補と目されるのは引退したものの未だ大きな権力を持つエリート・最上倉太朗。
倉太朗は美夜に挑戦状を叩きつけてくる。

その直後、1人目の被害者が発生。
美夜も会ったことのある三吉というナンパ男だった。
彼は足を斬られた上に首を斬りつけられ殺害されていた。
ついに「チャイルド」による殺人が行われたことに驚きを隠せない美夜。
本当に「チャイルド」の犯行なのか?それとも……。

愛澄より三吉が津希子の恋人であり、その津希子が倉太郎の孫であることを教えられる美夜。
津希子は愛澄の祖母・町子が愛澄に手本とするよう何かにつけ比較するほどの女性。
そして、被害者・三吉は美夜が感じたとおりの不誠実なナンパ男。
津希子には三吉を殺害する動機が存在するが……。
愛澄によれば津希子は愛澄や三吉を斬りつける夢を見たことがあるらしい。

どんどん津希子への容疑が深まっていく中、当の津希子が階段から転落する事件が発生。
その場には祖父の倉太郎もいたらしいが、何より驚くべきことに津希子は転落し怪我を負ったにもかかわらず笑顔を浮かべていたということだった。

事件が津希子を中心としていることに気付いた美夜は彼女が子供時代に倉太郎と生活していた街へ調査に出かける。
そこで津希子が倉太郎公認で占い師から何らかのまじないを受けていたとの情報を得る。

甲橋の再登場、愛澄と町子の相克、不安定な状態の津希子、美夜の視る家族の夢―――。
様々な事柄を経て徐々に埋まり始めたピース。

真相に近付く美夜を疎ましく思った倉太郎は矢萩の部下である吉野ヶ里を使って美夜を排除しようとする。
「(倉太郎の)圧力に従う」と述べながら嬉々として美夜を殴りつける吉野ヶ里。
美夜によればその声には純粋な殺意が含まれていたと云う。
吉野ヶ里によりタイムリミットが設けられた美夜たちは急ぎ真相を追う。

チャイルドが襲う直前に「いいものを見せようか」と云っていたことが判明。
しかも、被害に遭った生き物はそれぞれ何らかの苦しみを抱えていた状態であったことも分かる。

「チャイルド」の正体を津希子だとほぼ断定した美夜。
「女性の生理周期に起因する猟奇的衝動説」を唱える愛澄にそれは迷信だと否定する。
ならば、津希子の動機は一体―――?

タイムリミット直前、倉太郎宅を訪ねた美夜は「チャイルド」による動物虐待の真相を述べる。
「チャイルド」は津希子。
そして―――津希子は“痛みの視える”共感覚者だったのだ……。
津希子の視る痛みは極彩色のそれは綺麗な色をしており、その綺麗ないいものを苦しんでいる人や動物に見せ苦しみを和らげてあげようとしたのが津希子の動機。
つまり津希子は好きな人や動物を苦しみから解放しようとして襲うのだ。
津希子自身が階段から転落したのもこの痛みを自身で視る為、だから笑顔を浮かべていた。
津希子が共感覚者であると知った倉太郎はその力を封じるべく懇意の占い師に依頼。
占い師は催眠術を得意としており津希子の共感覚を催眠で封じた。
だが、この催眠は月をキーにしたものだった為に津希子が月を認識した際に脆くなるとの弱点をはらんでいた。
この為、津希子は月を見ると「チャイルド」に豹変してしまったのだ。
倉太郎は孫娘が三吉を殺害したと思い津希子を助けるべく美夜を妨害したのだった。

美夜の推理を否定する倉太郎だったが、隠れて聞いていた津希子自身がそれを認めた為に心が折れる。
実は、過去に倉太郎自身も津希子と同じく“痛みが視える”共感覚者だったことがあった。
だが、それにより家族はおろか自身も周囲の奇異の目に曝されてしまう。
直後、倉太郎は事故により共感覚能力を喪失。
以後は共感覚を忌み嫌うようになっていたのだ。
結局、倉太郎は矢萩と取引することで津希子の犯罪を隠蔽する道を選ぶ。

事件が解決し、倉太郎宅からの帰り道。
津希子は三吉を好きだと思っていたがそれは後付けだったと主張する美夜。
津希子の犯行の対象は好きなものに限られる為、三吉を殺害したのは津希子ではないと云う。

美夜は意外な言葉を口にする。
「三吉を殺したのはあなたね、愛澄」と。

美夜は愛澄が持つ祖母・町子に対する反撥と支配欲を見抜いていた。
愛澄は町子を否定するべく町子が孫に理想として押しつけた津希子像を粉々に粉砕する為、津希子の犯行に見せかけ三吉を殺害したのだ。
その後、あなたが理想とした人間は殺人犯だったと嘲り、貶め、支配するつもりだった。
倉太郎に三吉殺害を津希子の犯行に思わせたのも愛澄。
美夜に近付き誘導したのもそれが目的だった。

もともと愛澄は町子に生活のことごとくを支配され苛立っていた。
しかも、それが愛情に起因するものでないと長年の経験で知っていた愛澄はいつの間にか町子のように人を支配したいとの欲望に囚われるようになっていったのだ。

三吉が足と首を斬られていたのは小柄な愛澄がまず足を狙い体勢が崩れたところで首に止めを刺したためだった。

すべてを美夜に見透かされていた愛澄は態度を豹変。
捕まえるならば早く捕まえるがいいと叫ぶ。
愛澄は新たな支配方法を見出したのだ。
それは殺人犯となった孫娘が祖母を告発するという筋書きだった。

そんな愛澄に美夜は町子が自分に会いに来たこと、その際に愛澄の意思に沿うよう助言したことを告げる。
途端、顔色を変える愛澄。
彼女には今朝方の町子の態度に思い当たる節があったのだ。
まさか、今更、変わろうと云うのでは―――そこまで考えた愛澄の目にコンタクトを外した美夜の裸眼が映った―――。

殺人容疑者である愛澄は川から身を投げ死んでしまった。
矢萩は前回に引き続き勝手な行動をとった美夜を警戒する。
傍らには吉野ヶ里の姿もあった。
倉太郎に従う振りをして美夜の調査の時間を稼いだ吉野ヶ里だったが、わけもなく本気で美夜を殺したいほど憎んでいるらしい。
退出した吉野ヶ里の背中に向けひとり呟く矢萩。
「彼も使えるな、音宮美夜抹殺の折には―――」と。

津希子は倉太郎を説得、「チャイルド」として自身の関与していない三吉殺害以外の罪すべてを自首する道を選ぶ。
倉太郎は過去の自分の記憶を思い出し、共感覚に抱いていた負のイメージを払拭した。
矢萩に自分の持っている情報を譲渡した後、津希子と共に前向きに生きて行くらしい。

美夜は思う。
愛澄が最後にどう思ったのか知らないが、町子は最後まで町子だったと。
町子は愛澄の死を知った後も態度を変えることなく自らの世界に耽溺し続けていた。
愛澄は町子の中に幻とはいえ愛情を見出せたのだろうか?
そして、美夜自身はと云えば―――。
ふと、脳裏に甦る姉の声。
「良かったわね、コンタクトで調整できる共感覚者になれて」
そこまで考えて何かに囚われそうになった美夜は思考を止めた。
それは、もしかして愛澄と同じ感情なのかもしれなかった―――エンド。

「闇ツキチルドレン (講談社ノベルス)」です!!
闇ツキチルドレン (講談社ノベルス)



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