2010年07月18日

「白骨の語り部 作家六波羅一輝の推理」(鯨統一郎著、中央公論新社刊)

「白骨の語り部 作家六波羅一輝の推理」(鯨統一郎著、中央公論新社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります!!注意!!

<あらすじ>

白骨の語り部1

死後一年が経過した女性の白骨死体が発見された。だが昨日、彼女は生きていた!? 民話の郷・遠野で起こる忌まわしき事件の謎に作家・六波羅一輝が挑む!
(中央公論新社公式HPより)


<感想>
個人的には“まあまあ”の印象。
鯨先生は「邪馬台国はどこですか」以降、コレという作品がない……本作もその例に連なる。

良い点、悪い点があり相殺しているのが大きな原因か。

まず悪い点。
ストーリーの進め方が特異過ぎて問題あり。

普通のミステリだと「何らかの手掛かり発見」→「手掛かりをもとに推理」→「推理により得られた仮設から新しい容疑者に迫る」→「容疑者から新たな手掛かりを得る」→「それをもとに新たな推理」というサイクルを経て真相に至るわけですが、本作「白骨の語り部」では話を転換させる際に「主人公・六波羅が自動筆記する」→「コンピュータに容疑者の名前が表示される」→「その容疑者に会いに行く」→「自動筆記」→「会いに行く」で進む。

おそらく作者としては「自動筆記にて容疑者の名前を唐突に提示すること」で読者へのサプライズと謎を提示したかったのだと思うが、功を奏したとは言い難い。
自動筆記部分を普通の探偵の推理部分と置き換えられなくもないが、そこがあっさり過ぎて根拠らしい根拠もなく作中における事実の羅列のみが続くので展開が急で、些か苦痛に感じることもしばしば。
折角の工夫が、単に話を進めやすくする為の手抜きとも取られかねなくなってしまっている。
これが映像作品だと視聴者として受け身なので問題点が気にならないが、読者として能動的に取り組むと顕著だ。

次に良い点。
内容に工夫を凝らし、設定が練られていること。
モチーフもよく見かける物で馴染みやすいので読者がすんなり物語世界に入っていける……というか、主人公を民俗学者に置き換えるとモチーフの扱い方は北森鴻先生の“蓮丈那智シリーズ”そっくり。
本作を読み進めれば“蓮丈那智シリーズ”など必ずどこかで既存作を目にした感覚に襲われるだろう。つまり、本作を読むにあたってのハードルが低い。

したがって―――ん、待てよ!?
あれれれれ……本作におけるオリジナルの点が悪い点で、良い点は他の作品でもよく見かけるということは……無理に本作を読む必要もない……のか……。

おっとっと、え〜〜〜。ゴホンゴホン……。
本作の特徴を良い方向で活かすには映像作品にすべきだろうと思う。
うん、それしかない!!

<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧

六波羅一輝:主人公、ミステリ作家、自動筆記(トランス状態)を特技とする
みなみ:編集者、六波羅の助手

昆家の人々(猿村の名家)

嘉男:故人。昆家の当主
松子:嘉男の妻。四姉妹の母
市子:四姉妹の長女
有希子:四姉妹の次女。白骨で発見された第一の被害者?
千明:四姉妹の三女
はるひ:四姉妹の末娘
高坂順子:昆家のお手伝い

その他

咲子:ある秘密を抱える女性、第三の被害者
タツ:猿村に住む産婆、第二の被害者
佐分利:有希子の婚約者

では、ネタバレあらすじを……

六波羅一輝はミステリ作家。
彼にはある特技があった。
それは、作品をモノにする際にある種のトランス状態に入るという、傍から見ると“ヤバい人”認定間違いない「自動筆記」。
この特技によりデータを入力すると本人も気付かないうちに答えが出るのだ!!

今日も今日とて彼は担当編集者にして助手のみなみを連れて作品のインスピレーションを求めて深い山へと分け入っていた。
そこで見つけた一体の白骨。
それは死後一年が経過していた……。

やがて遺体の身元が判明。
それは猿村にある旧家昆家の次女・有希子のものだった。
ところが当の有希子は殺害されたと思われる一年前以降も健在であり、遺体の主が彼女だとは思えない。
遺体の主は誰か?
遺体が有希子だとして、どうやって有希子は白骨化したのか?
この謎に興味を覚えた六波羅は猿村へ。

昆家には故人である当主・嘉男を筆頭に、その妻・松子や、嘉男と松子の娘である市子、有希子、千明、はるひの四姉妹、14歳から住み込みで仕えているお手伝いの高坂順子が存在していた。
昆家では最近不審なことが相次いでいたという。
有希子が一年前に事故にあって以降、有希子の可愛がっていた愛馬が死亡したりしたらしい。
今回の事件もその延長線上にあるのか―――。

六波羅は“自動筆記”モードで情報を整理。
「有希子が殺害された後、急速に腐敗化を促進する薬剤を使用されたのでは?」や、「有希子は双子で、遺体で発見されたのはその双子の片割れなのでは?」と幾つか仮説をたて謎に挑む。

仮説を証明する為に猿村の産婆・タツを訪ねる六波羅たちだったが当のタツは何者かに襲われ虫の息に。
最期に「オシラサマ、続石」と言い残し息絶える。

その後の六波羅たちの調査により、有希子には双子の姉妹が居たことが判明。
嘉男は猿村にて暴君と呼ぶに相応しいほどの絶対君主であり、有希子たちが生まれた際に双子の片割れを自分の愛人に実の娘として押しつけていたことが分かる。
その双子の片割れである咲子も死体で発見され、やはり白骨は有希子ではないかとの疑惑が再浮上。

これに対し、六波羅は双子ではなく3つ子の可能性を検討するが流石にそれは無かった……。

データが集まり煮詰まったと感じた六波羅は“自動筆記”モードを発動。
意識を取り戻した六波羅の目の前には有希子の婚約者・佐分利の名前があった。
佐分利が犯人なのか?
ついに真犯人を突きとめた六波羅は関係者全員のもとへ急ぐ―――。

まずは白骨化した遺体の真相を。
遺体は有希子。有希子は一年前に既に殺害されていたのだ。
では、有希子殺害後に昆家で生活していた有希子は一体?
実はそれこそ棄てられた咲子の復讐だった。
一年前、咲子は有希子殺害後、有希子として入替り昆家に潜入。
やがて昆家の財産を奪うつもりだった。
有希子の愛馬を殺害したのも動物は騙しきれないと判断したからだった。

では、その咲子とタツを殺害した犯人は誰か?

真犯人は千明。
千明は松子に疎まれており、姉妹の中で孤立しがちだったが、有希子だけは千明に優しかった。
千明は唯一の理解者である有希子のことを大切に想っていた。
だからこそ咲子と有希子の入替りに気付き、有希子を殺害した咲子を憎み復讐した。
タツについては有希子が殺害される原因……嘉男の命令で有希子に双子がいることを隠していた……ことに怒りを覚えたことと、咲子殺害の動機が判明することを恐れての犯行だった。

暴君だった昆嘉男。
実は千明は嘉男が松子以外の女性との間に産ませた子供だった。
母親は昆家のお手伝い・高坂順子。
当時14歳だった順子に関係を迫り妊娠させた嘉男は血液型が合致していたことを理由に子供を引き取り松子の子供として育てた。
咲子を外に出したにも関わらず。
松子は自分と血の繋がらない千明を憎み疎んじた。
それが姉妹にも伝わり千明が孤立することになったのだ。

佐分利の名前は犯人の罠だった。
六波羅が“自動筆記”モードになったのを見計らい書かれていた千明の名前を佐分利に書き換えたのだ。
これは千明の実母である順子の仕業だった。
だが、この行為が逆に六波羅に確信を抱かせることになったのは皮肉だった。

こうして事件は解決。
六波羅は猿村を後にする。
タツの最期の言葉を気にかけるみなみ。
六波羅はその意味を教える。
「続石」は有希子と咲子が密会していた場所。
「オシラサマ」は双子を意味していたのだ、と。

その頃、松子と市子は会話を交わしていた。

松子は事件の影に市子の存在を嗅ぎ取っていた。
咲子と有希子を引き合わせ、咲子の復讐心をコントロールした人物がいる。
有希子と咲子の出産時、病気を患っていた市子はそのまま失明した。
市子の中で有希子は恨まれていたのでは……。

だが、松子の疑念を市子は否定する。
真実はわからない……松子は疑いを拭いきれないものの、千明への贖罪も込めて財産相続の際には市子、千明、はるひを相続人に指名すること、千明が罪を償い猿村へ帰って来るまで昆家を守ることを市子に伝えるのだった……エンド。

「白骨の語り部 - 作家六波羅一輝の推理 (中公文庫)」です!!
白骨の語り部 - 作家六波羅一輝の推理 (中公文庫)





シリーズ続編「ニライカナイの語り部―作家六波羅一輝の推理 (中公文庫)」です!!
ニライカナイの語り部―作家六波羅一輝の推理 (中公文庫)





さらに続編「京都・陰陽師殺人―作家六波羅一輝の推理 (C・NOVELS)」です!!
京都・陰陽師殺人―作家六波羅一輝の推理 (C・NOVELS)



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posted by 俺 at 00:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
再放送でたまたま今日ドラマを途中まで見たのですが、結末が分からないまま出かけてしまって、気になったので検索してみました。
お陰様でゆっくり寝れそうです^^
Posted by at 2011年06月20日 22:49
Re:さん

コメントありがとうございます(^O^)/。
管理人の“俺”です!!

お役に立てたようで幸いです。

たしか、ドラマ版も原作とほぼ結論は同だった筈です。
異なっていたのは主人公である六波羅の自動筆記設定がドラマ版では削除されていたことと、産婆のタツさんが殺されなかったことぐらいだったと思います。
ドラマ版はその点で原作よりも優れていたように思います。

シリーズ続編の噂もあるようなので楽しみですね(^O^)/。
Posted by 俺 at 2011年06月21日 00:16
20日の金曜日にドラマの再放送がやっていました。

ドラマでは、産婆のタツさんは殺害されませんでした。六波羅とみなみに、28年前の出来事を話していました。

原作での千明が咲子を殺害した動機は「復讐」のようですが、ドラマは異なります。

咲子は、アリバイトリックを用いて自分の正体に疑いを持った千明を殺害しようとしたのです。

トリックはこうです。
咲子は、仙台市内のホテルに昆有希子の名前で宿泊し、その日の夜に水枕を借ります。そして、明日は起こさないでほしいと頼み、この時間を利用して、今度は本名でレンタカーを借ります。このレンタカーで遠野に戻り、自分の正体に疑いを持った千明を殺そうとして、もみ合った末に自分にナイフを刺してしまい、その結果死んだのです。

実母にあたる高坂順子は、千明をかばって咲子の遺体を遺棄し、自分に犯人の疑いがかかるように偽装工作を施しました。


千明の行為は、「殺人」にはならず、「正当防衛」、あるいは「緊急避難」となる可能性があります。

おそらく、たいした罪にはならないかもしれません。
Posted by Me at 2012年04月22日 19:29
Re:Meさん

コメントありがとうございます(^O^)/!!
管理人の“俺”です!!

なるほど。
ドラマ版の千明は「殺意がない」設定になっているのですね。

確かに咲子殺害も正当防衛になりそうですね。
そして、タツも殺害されていないとなれば、千明の罪は原作に比べると大きく変わって来そうです。
そちらの方が救いのある物語になっていますね。

ドラマ版と原作の差異を教えて頂き助かりました。
感謝です(^O^)/!!
Posted by 俺 at 2012年04月24日 00:50
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