ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>

2009年の精華18編を収める。今回はマンガ2編を収録。さらに巻末には、編者二人に加え山田正紀氏を選考委員に迎え、612の応募作から選ばれた第1回創元SF短編賞受賞作を掲載した。
「収録作の著者は、過去最大の19人。まったくの新人から作家歴40年の大ベテランまで、多士済々の著者たちによるバリエーション豊かなSFが揃った。「ガチガチのSFは得意じゃないんだけど……」と不安に思う人も、「SFはバカ話にかぎる」と考える人も、「宇宙に出なきゃSFじゃない」と主張する人も、それぞれ、なにかしら気に入る作品が見つかるはずだ。」――大森望(序文より)
「創元SF文庫版《年刊日本SF傑作選》も、いよいよこの『量子回廊』で3冊目となり、年鑑としての最低ラインと考えていた巻数を、何とかクリア出来たようだ。第1集『虚構機関』の解説で、単発のSF短篇の少なさを嘆いたが、2008年、09年と発表される作品は大幅に増えてきた。特に09年は07年に比べると倍増――とまではいかないが、5割増ぐらいの収穫があった。そのため、本書も既刊よりかなりの増ページとなり、定価も上がってしまったが、その分、密度は濃いものになっていると思うのでお許しいただきたい。」――日下三蔵(後記より)
序文=大森望/収録作品紹介=大森望・日下三蔵/2009年の日本SF界概況=大森望/後記=日下三蔵/初出一覧/2009日本SF短編推薦作リスト
目次
上田早夕里「夢見る葦笛」
高野史緒「ひな菊」
森奈津子「ナルキッソスたち」
皆川博子「夕陽が沈む」
小池昌代「箱」
最果タヒ「スパークした」
市川春子「日下兄妹」
田中哲弥「夜なのに」
北野勇作「はじめての駅で 観覧車」
綾辻行人「心の闇」
三崎亜記「確認済飛行物体」
倉田タカシ「紙片50」
木下古栗「ラビアコントロール」
八木ナガハル「無限登山」
新城カズマ「雨ふりマージ」
瀬名秀明「For a breath I tarry」
円城 塔「バナナ剥きには最適の日々」
谷 甲州「星界転生」
松崎有理「あがり」(第1回創元SF短編賞受賞作)
(公式HPより)
<感想>
濃い!!
内容が濃い!!
SF的シチュエーションのオンパレード。
内容が濃いのでSFに恋している人は必携。
ミステリ的には森奈津子先生や綾辻行人先生の名が並んでいるのが印象的。
「となり町戦争」の三崎亜記先生の作品も収録している。
これを全部紹介するのは相当な労力を要するので中の一作、特に心に残った市川春子先生の漫画「日下兄妹」をご紹介したい。
マウンドに戻らず新たな道に旅立つラストシーンが小気味よいので書店で見かけたら是非一読を!!
<ネタバレあらすじ>
「日下兄妹」
投手として腕を故障し、二度とマウンドに立てなくなった日下。
チームメイトや後輩たちは彼に手術するよう忠告し、野球部に戻って来るよう勧める。
だが、日下は同意しない。
そんなある日、古い箪笥を触っていた日下は引き出しの取っ手部分を壊してしまう。
慌てる日下の前に奇妙なネジが舞い降りる。
それは意思を持ったネジだった―――。
ネジを追い回す日下だが、ネジはすばしっこく動き回り捕まえられない。
そうこうしているうちに後輩も加わるものの一向に事態は解決しない。
やがてネジは大きく成長していき人間の少女のような姿に。
そのうちに言葉までも発するように。
余りの急成長ぶりに驚く日下だったが、その間にも少女は知識や常識を身につけていく。
ついには料理まで会得する。
せがまれて図書館に少女を連れて通う日々。
いつしか日下は少女を妹のように思い始めていた。
日下は少女に語る。
本当は野球なんてしたくなかった、と。
見捨てられないように周囲の期待に応えて行くうちにいつのまにか抜き差しならなくなっていた日下は腕が壊れるのを承知で投げ続け、早くその世界から抜け出そうとしていたのだ。
その願いはついに叶えられ日下は腕を壊した。
一緒にリセットしないか?
もはや、家族の一員と化した少女を日下は誘う。
そのときだった!!
少女は眩いほどの光を放ったかと思うと宙に浮き始めたのだ。
少女は彗星のかけらだった。
誤って地上に墜落したかけらは加工され箪笥の取っ手のびょうとして捕らえられていたのだ。
少女は日下の願いを叶える為に成長したと日下に告げる。
その力で日下の腕を治療しようというのだ。
そんなものよりお前と一緒に居たい―――日下は心からの願いを口にする。
瞬間、少女は弾け飛び日下の腕は千切れてしまう。
日下はそのまま気絶した―――。
日下の姿は病院のベッドの上にあった。
日下の腕は不思議なことに完治したらしい。
少女が箪笥の取っ手のびょうになっていたように日下の腕の部品になったのだ。
日下は退院すると野球部に退部届を提出する。
惜しまれつつも去る日下。
その心にはひとつの決意があった。
日下は前々から興味のあった天文学の道へ進む事を決めたのだ。
そこに少女の故郷があると信じて―――エンド。
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