2010年09月04日

「雪冤」(大門剛明著、角川書店刊)

「雪冤」(大門剛明著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

雪冤1


死刑囚となった息子の冤罪を主張する父の元に、メロスと名乗る謎の人物から時効寸前に自首をしたいと連絡が入り、真犯人は別にいると告白され…。緊迫と衝撃のラスト!死刑制度と冤罪に真正面から挑んだ社会派推理。
(角川書店公式HPより)


<感想>

「雪冤」は「ディオニス死すべし」を改題したタイトル。
「ディオニス」といえば「走れメロス」のあの王様の名前。
この意味するところは……あんまり無さそうかなぁ。
ラストのあの意外な結末を語る上での一要素としてしか機能していない印象。
あくまでギミックとしてのみ存在している感じ。

とはいえ、それを含んでも本作のレベルは相当に高い。
流石は「横溝正史ミステリ大賞」受賞作。
しかも、受賞作の中でもなかなかのレベルだと思われる。
第28回「横溝正史ミステリ大賞」テレビ東京賞受賞作「テネシーワルツ」と比較してもそれは明らか。
管理人が人に勧めるならばこちら(雪冤)を推す。

タイトル「雪冤」も、上に書いたとおり「ディオニス」の使われ方がギミックでしかない以上「ディオニス死すべし」よりも良いと思われる。
何より「冤罪を雪ぐ」と言う意味でつけられたこのタイトルこそが本作を最も上手く表現しているからだ。
このタイトルにより本作の奥行きが一段と広がったと言っても過言ではない。

ラスト付近の相次ぐどんでん返しも管理人にとっては好ましく思えた。
きちんと伏線も張られているので自然に納得できる。

2010年9月にテレビ東京系列にてドラマ放送が決定しているがこの原作ならばそちらの期待も高まるというものだ。
楽しみ。
ドラマ化詳細については過去記事よりどうぞ!!

2010年9月29日追記:「水曜シアター9 第29回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞 ダブル受賞作品 雪冤「あなたの息子は無実です〜死刑確定した息子の父に突然の告白電話 再審奔走する父の涙(ドラマスペシャル〜死刑囚の息子は無実だ冤罪を訴える父に届く密告電話!沈黙の15年に秘められた衝撃の真実!)」(9月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)」追加しました。リンクよりどうぞ。

そうそう、「横溝正史ミステリ大賞」公式HPでは既に第31回の応募要項が公表され募集を開始しています。
チャレンジするのもアリかも!!

◆関連過去記事
2月17日(水)の水曜シアター9は原作・望月武さんによる“第28回横溝正史ミステリ大賞 テレビ東京賞受賞作品”「テネシー・ワルツ(テネシーワルツ)」!!

第28回横溝正史ミステリ大賞 テレビ東京賞受賞作「テネシー・ワルツ」(望月武著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

水曜シアター9 横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞受賞作「テネシーワルツ〜甦る昭和の名曲に隠された愛と憎しみの殺意!二つの戦争に翻弄された母と子の驚愕真実」(2月17日放送)ネタバレ批評(レビュー)

第30回横溝正史ミステリ大賞発表!!受賞作は「お台場アイランドベイビー」に!!

第29回「横溝正史ミステリ大賞」受賞作「雪冤」が9月の「水曜シアター9」で放送予定!!

◆関連外部リンク(外部サイトに繋がります)
・横溝正史ミステリ大賞公式HP(第31回応募要項)
http://www.kadokawa.co.jp/contest/yokomizo/

・橋爪功が息子の冤罪を晴らすために奔走する父親を熱演! スペシャルドラマ「雪冤」が放送決定!(WEBザテレビジョンさんより)
http://blog.television.co.jp/entertainment/entnews/2010/08/20100817_10.html

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
八木沼悦史:主人公の元弁護士。息子・慎一の無罪を信じ訴え続ける。
八木沼慎一:悦史の息子。長尾靖之と沢井恵美殺害の罪で死刑が確定した死刑囚。
沢井恵美:慎一の手により殺害されたとされる被害者のひとり、長尾と違い百箇所以上の刺し傷を受けていた。
長尾靖之:慎一の手により殺害されたとされる被害者のひとり。
沢井菜摘:恵美の妹。悦史とは別に姉・恵美殺害の真相を追う。
石和弁護士:慎一の弁護士。悦史と思考法が似ている。
秋山鉄蔵:真実の鍵を握る人物。

平成5年初夏―――京都で残虐な殺人事件が発生。
被害者はあおぞら合唱団に所属する長尾靖之と沢井恵美。
二人は刃物で刺され、特に恵美には百箇所以上もの傷跡が残されていた…。
容疑者として逮捕されたのは合唱団の指揮者・八木沼慎一だった。
慎一は一貫して容疑を否認するも死刑が確定してしまう。

だが事件発生から15年後、慎一の手記が公開された直後に事態が急展開する。
息子の無実を訴える父、八木沼悦史のもとに、「メロス」と名乗る人物から自首したいと連絡が入り、自分は共犯で真犯人は「ディオニス」だと告白される。
同じく、恵美の妹・菜摘のもとにもその連絡は届いていた。

悦史と菜摘はそれぞれが真実を追い求めるべく調査を始める。
だが、調査が遅々として進まぬ中、慎一の弁護士・石和の奮闘も虚しく慎一の刑が執行されてしまう。
しかも、「メロス」だと思われた秋山鉄蔵という男性が駅のホームから転落して死亡する事件まで発生。

「ディオニス」の存在を感じ取った悦史は真犯人「ディオニス」を炙り出す為に一芝居打つことに。
あえて全く別の人物を「ディオニス」だとした上で、慎一の仇として処刑すると大々的に宣言したのだ。
悦史は「ディオニス」を名乗る人物の理性的な反応にかけた。
案の定、「ディオニス」から「悦史が『ディオニス』だと糾弾した人物は『ディオニス』ではない」との連絡が入る。
これにより「ディオニス」が身近にいると確信した悦史は「ディオニス」と対決する覚悟を決める。
悦史の中で「ディオニス」と呼べる人物は一人しかいなかった―――。

その人物、石和弁護士と向き合う悦史。
石和弁護士はこれから自首すると悦史に語る。
すべては石和、慎一、恵美、靖之による狂言だったと説明する石和弁護士。
彼らは冤罪による死刑執行に義憤を感じており、それを廃止するべくあえて世間への問題提起の為に今回の事件を起こしたと語る。
つまり、恵美と靖之は殺される覚悟を決めて石和弁護士の手により殺害され、当の慎一もまた冤罪を承知で刑に服したと云うのだ。
この事実を石和が自首し世間に公開すれば死刑は廃止されるに違いないと石和は主張する。

だが、悦史はそれを否定。
石和が犯人ではないと断言する。
そして、悦史が挙げた真犯人「ディオニス」の正体は―――秋山鉄蔵だった。
実は、慎一、恵美、靖之の3人は、過去に鉄蔵の愚直な兄を騙して死に追いやっていた。
殺意はなく、単純な悪戯のつもりだったと云う。
このことに慎一と恵美は心から反省し鉄蔵に謝罪を申し出た。
だが、同席した靖之には反省が無く、鉄蔵を侮辱してしまう。
慎一が席を外していたこともあり、怒りに駆られた鉄蔵は靖之と恵美を殺害。
戻って来た慎一が目にしたものは血に濡れた鉄蔵だった。
鉄蔵を犯罪に追い詰めてしまったことを後悔した慎一は自らが罪を被るべく鉄蔵を逃がし逮捕されたのだった。
その際にもし鉄蔵を庇う慎一の心が折れた時の為に凶器を隠した。
慎一から連絡があれば鉄蔵は凶器と共に素直に罪を認めるつもりだったのだ。
だが、鉄蔵は痴呆症を患い記憶が曖昧になってしまう。
凶器の隠し場所も忘れてしまった鉄蔵は罪の意識に苦しむ事に。
今更、自首したところで凶器が無ければ戯言として一蹴されてしまうからだ。
こうして仕方なく「メロス」と「ディオニス」として悦史と菜摘に連絡を入れた鉄蔵。
だが、それでも罪の意識が和らぐことはなく、遂には駅で自殺するまでに至ってしまった。
それが、悦史の推理だった。
石和はこの事実に悦史よりも先に辿り着いており、鉄蔵の当時の心理を分析し凶器の隠し場所を突き止めることに成功。
凶器を回収した上で、慎一を救えなかった罪悪感から先のシナリオを持ちだしたのだった。
「生きて事態解決を図るべきだ!!」悦史に説得された石和は偽の自首を思いとどまる。

後日、悦史を中心に再開された「あおぞら合唱団」。
そこには石和と菜摘もいた。
菜摘に聞こえないように相談する悦史と石和。
実は真相にはもう一幕あった。

鉄蔵がなぜ、「メロス」と「ディオニス」という2つの名前を名乗り、主犯ではなく自分は共犯だと告げたか?
恵美がなぜ、百箇所にも及ぶ刺し傷をつけられていたか?鉄蔵が犯人ならば靖之こそ憎むべき仇の筈だ。

この点で疑問を抱いた悦史と石和がさらに調べた結果、意外な事実が浮かび上がったのだ。
真相は鉄蔵が遺した「ディオニス死すべし」の脚本に記されていた。

「ディオニス死すべし」によれば、ディオニスという女王は大変な賢王であり皆に慕われていた。
だが、それだけに彼女に邪な心を抱く者も絶えなかった。
ある日、彼女は乱暴されそうになり誤って相手の男を殺してしまう。
賢王だった彼女は責任をとりそのまま自殺してしまった。
事実を知ったセリヌンティウスは愛していたディオニスの名誉の為に自らが罪を被り、メロスにも協力を依頼したのだった。

この「ディオニス死すべし」のディオニスこそ恵美。
恵美を襲ったのが、恵美に以前から邪な感情を抱いていた靖之。
セリヌンティウスが慎一。
メロスが鉄蔵。

つまり、靖之に襲われた恵美が自己防衛の為に靖之を殺害してしまい、ショックで自殺。
それを庇う為に慎一が罪を被り、恵美の死体を自殺と分からないように傷つけたのだ。
鉄蔵はそれに協力しただけだった。
だからこそ、鉄蔵は「メロス」を名乗り「ディオニス」こそが真犯人だと告発したのだ。

こうしてすべてが明らかになった。
菜摘に真相を告げるべきか悩む石和に「真実こそがすべてを救う」と助言する悦史。
だが、悦史は息子・慎一の意志を重んじ世間にはこの真相を公開しないことにしていた。
悦史の言葉を受け菜摘に真実を明かすことを決意した石和―――エンド。

「雪冤(ディオニス死すべし改題)」です!!
雪冤





「雪冤」著者である大門剛明先生の「罪火」です!!
罪火





同じく「確信犯」です!!
確信犯





2010年9月24日発売予定。
第30回横溝正史大賞受賞作「お台場アイランドベイビー」(伊与原新著、角川書店刊)です!!
お台場アイランドベイビー




【関連する記事】
posted by 俺 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック