ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
妻と小学五年生を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだ筈の妻だった──。
妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。解説・広末涼子、皆川博子
(文藝春秋社公式HPより)
<感想>
内容はネタバレあらすじを見てもらえれば分かるようにごくごくシンプル。
ただし、そのシンプルな内容を複数のエピソードを用い、丁寧に非常に丁寧に描いています。
これがスゴイ!!
どうしてスゴイのか?
これからそれを説明しましょう。
読書感想文で400字詰め原稿用紙3枚分を埋めるよう宿題を出されて四苦八苦した記憶ってありませんか。
ない人は幸せです。
ちなみに管理人にはあります。
そんなとき管理人は、対象となる本に書かれた内容をそのまま時系列順に羅列します。
そしてラスト3分の1くらいから感想を記入します。
これである程度は解決(当時担任だった先生、ごめんなさい)。
これと同じで、豊富なエピソードや単なる出来事の羅列を以て文章を埋めるのは、その文章の出来不出来を問わなければ比較的可能。
次々とキャラクターが登場し、別々の事件が起こってそれがひとつずつ解決して物語を進めて行くわけです。
ところが、あるテーマに沿ってひとつひとつそれに関連したエピソードを配して物語を紡いでいくのはもう苦行であり荒行。
これが何か衝撃的な事件(例えば連続殺人)ならともかく、日常の謎に類するモノだと難易度は格段に跳ね上がる。
しかも、それに読み物としての面白さを付加するとなるともう……。
ところが、本作「秘密」はそれに成功しているのがスゴイ!!
最初こそ衝撃的な事件が起きるものの、以降の日常とそれに潜む二人の秘密の描写は緻密にして繊細、にも関わらず淡々と進む。
全体のバランスも絶妙で、適宜エピソードが配されている。
それにあの“ラスト”!!
ミステリと呼べるかと言うと疑問だが、作品の完成度としてはかな〜〜〜り高い。
東野圭吾先生の代表作のひとつと言って過言ではない筈。
ちなみにこの「秘密」。
小林薫さん、広末涼子さんで映画化されています。
そして、2010年秋には佐々木蔵之介さん、志田未来さんでテレビ朝日がドラマ化。
詳細は過去記事よりどうぞ(ネタバレあらすじはその下にあります)。
◆関連過去記事
・東野圭吾先生「秘密」(文藝春秋社刊)がドラマ化!!
【「白夜行」&「幻夜」映像化ニュース】
・東野圭吾先生「白夜行」映画化に続き、「幻夜」がWOWOWにてドラマ化決定!!
・東野圭吾さん原作「白夜行」日本版映画化決定!!
【東野圭吾先生原作ドラマ関連】
・2夜連続ガリレオSP「ドラマレジェンド ガリレオエピソードΦ」(12月28日放送分)ネタバレ批評(レビュー)
・「流星の絆」(TBS系、2008年)
・「新参者」(TBS、2010年)
【東野圭吾先生著作ネタバレ書評(レビュー)】
・容疑者Xの献身(文春文庫版)&映画版
・「新参者」(東野圭吾著、講談社刊)
・「探偵倶楽部」(東野圭吾著、角川書店刊)
・「白夜行」(東野圭吾著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「幻夜」(東野圭吾著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美が事故に遭遇。
この事故で妻を亡くした杉田。
だが、妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった―――。
半信半疑ながら不思議な生活を始める二人。
やがて、杉田は藻奈美の中に直子の精神が宿っていることを確信する。
夫婦であり親娘である杉田と藻奈美の生活は多難を極める。
親娘である以上、夫婦関係は持てない。
そして、愛する妻の意識がそこにある以上、新たな恋は許されない。
やがて、妻であり娘である藻奈美に対しどう接するべきか悩み苦しんだ杉田はその心情を吐露。
彼女に娘・藻奈美として接していくことを決める。
翌日、藻奈美は「藻奈美の中から直子が消えた」と杉田に告げる。
それ以来、藻奈美から直子の気配は完全に消え去る。
やがて、藻奈美は文也という男性と結婚を決める。
花嫁の父として、また一時は妻であった娘を盗られる身として複雑な杉田。
そんな杉田を更なる衝撃が襲う。
直子の形見である指輪―――それがテディベアの中にしまわれていることを藻奈美は知らない―――を藻奈美が修理に出していた。
それはつまり、現在も藻奈美の精神は直子のモノであることを意味していた。
直子は消えていなかったのだ。
その事実を知った杉田は藻奈美に真実を確認しようとするが……ウエディング姿の藻奈美を見てその真意に気付く。
藻奈美、いや直子は杉田と藻奈美のために自分を殺し藻奈美として生きようとしているのだ。
そして、直子はその事実を杉田に隠し通そうとしている。
杉田は花婿・文也を呼び出し「全部チャラにしてやるから、二発殴らせろ」と詰め寄る。
その二発とは……“娘・藻奈美を奪われる父”としての一発と“妻・直子を奪われる夫”としての一発だった―――エンド。
【関連する記事】
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