ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
「母さん死ぬな―」へなちょこ25歳がいざ一念発起!?崩壊しかかった家族の再生と「カッコ悪すぎな俺」の成長を描く、勇気と希望の結晶。
(アマゾンドットコム公式HPより)
<感想>
「フリーター、家を買う。」というタイトルから、てっきり「フリーター」が四苦八苦しながらお金を稼ぎ家を買うストーリーかと思いきや、フリーターなのは序盤だけ中盤からは「正社員」になっていました。
家を買うのもニュアンスがちょっと違うし、このタイトルは違う気がしますね。
インパクトのあるタイトルに惹かれて買った人は戸惑うかも。
といっても、有川浩先生の作風を知る者ならある程度予測はついていた筈。
幸い「図書館戦争」を知る管理人は、そんなに戸惑いませんでした。
そう、本書「フリーター、家を買う。」は「図書館戦争」の現代版と言える作品かもしれません。
ちょっとファンタジー入ってますし。
その意味でもタイトルは「正社員戦争」か「就活戦争」でも良かったかも。
とはいえ、そこが味なのでこれを受け入れられるかどうかが本書を楽しむ鍵。
それとは別に、本書からはテーマが複数並行して存在し意外とまとまっていない印象を受けるかもしれません。
これには、初出が「日経ネット丸の内オフィス」で連載されていたものということも影響しているのかも。
そう考えると「正しい就活本」としても成立してる気がするし。
結局、掲載誌から見ても本書は誠治のサクセスストーリーとして読み解くのが正しいのかもしれないなぁ。
ちなみに本作「フリーター、家を買う。」は2010年10月よりドラマ化されるそうです。
キャストはこちら。
武誠治:二宮和也(嵐)
千葉真奈美:香里奈
永田亜矢子:井川遥
豊川哲平:丸山隆平(関ジャニ∞)
手島信二:井上正大
星野あかり:岡本玲
西本和彦:横尾渉(ジャニーズJr.)
島田彰子:玄里
大悦貞夫:大友康平
永田則子:鷲尾真知子
永田智也:橋本智哉
山賀亮介:眞島秀和
北山雅彦:児嶋一哉(アンジャッシュ)
岡野忠志:田中壮太郎
塚本学:山本龍二
真田勝也:嶋大輔
西本幸子:坂口良子
武誠一:竹中直人
武寿美子:浅野温子 ほか
(敬称略、順不同)
真奈美と豊川が最初から出て来るということである程度オリジナルストーリーになるのかな?
そこも期待です。
<ネタバレあらすじ>
武誠治:主人公、25歳のフリーター
武寿美子:誠治の母、とある事情で鬱病にかかってしまった
武誠一:誠治の父、会社では「経理の鬼」と呼ばれる男
亜矢子:誠治の姉、名古屋に嫁いでいる
大悦貞夫:大悦土木会社社長。彼との出会いが誠治の運命を変える
千葉真奈美:大悦土木での誠治の後輩、誠治に特別な感情を抱く
豊川哲平:大悦土木での誠治の後輩、真奈美に特別な感情を!?
主人公・武誠治は大卒25歳のフリーター。
過去に会社勤めの経験があったが3ヶ月で辞めていた。
父・誠一はそんな誠治に不満を持ち、誠治もまた家庭に居心地悪さを感じながらも気ままに生きていた。
そんなある日、母・寿美子が挙動不審な行動を取り始める。
婚家から戻って来た姉・亜矢子によれば、寿美子は鬱病らしい。
以前から兆候があったのだが家族に関心を抱かなかった誠治と都合の悪い部分を見ようとしない誠一が見逃してしまったのだ。
寿美子の鬱病の原因はご近所トラブルにあった。
誠治の家は社宅の払い下げであり、近所の住人よりも格安で入手できていた。
それを近所の住人が面白く思うワケがない。
しかも、引越し早々に酒癖の悪い誠一がトラブルを引き起こしており、以来村八分の状態が続いていたと言う。
それどころか、実に20年に渡り、賞味期限切れのお菓子を子供に与える、誠治の玩具を燃やす、飼い猫の背を斬るなどの陰湿なイジメまで行われていた。
その事実に気付いていたのは寿美子と亜矢子だけだったのだ。
亜矢子が嫁に行き、ひとり残された寿美子は孤独と恐怖心から鬱病にかかったのだ。
亜矢子は残った男どもを批難。
誠治は父・誠一が自分の知る以上に小さい男であると知り一念発起、母を支えると決める。
亜矢子の紹介で通うことになった病院で薬を処方され「今の家に居る限り根本的な解決にならない」と聞かされた誠治は引越しを決意。
費用を得るため、母の面倒を見つつバイトを始め、並行して再就職の為の活動を始める。
バイト先に時給のいい肉体労働を選んだ誠治。
当初は大悦土木の仕事に辟易していたが、そこで働く人々の人柄や社長(現場長)の大悦に魅せられじょじょに打ち解けて行く。
だが、日々の苦労が積み重なり非協力的な誠一の態度もあって苛立つ誠治。
そんな中、こっそり薬を飲まなくなっていた寿美子が自殺未遂を図る。
事態を聞きつけた亜矢子によりコテンパンにやられる誠一。
誠治は自分の非を認めると再度気を入れ直す。
再就職活動ははかばかしくなく、父の手により履歴書の書き方を学ぶなどしてようやく一社、製薬会社に内定を得る。
一方、大悦土木も誠治に注目。
営業も経理もやれる総務的なポジションで誠治を招き入れようとする。
大悦土木の仕事にやりがいを感じた誠治は大悦土木に就職。
テクノロジーに疎かった大悦に代わりPCやインターネットを導入、ある程度の成果を挙げる。
次の仕事はなんと!!誠治と同じような人材を登用すること。
この大仕事に「新卒お断り、第二新卒&フリーター歓迎、ただし半年間の現場研修あり」と求人広告をうった誠治の戦略は大成功。
自らの経験上から来る“半年間の現場研修”という条件である程度のふるいにかけた上で多くの応募を得ることに成功する。
誠治は過去の自堕落な自分と同じやり方をしてきた応募者を落とし、あくまで本当にやる気のある人物のみに絞り面接へと進める。
大悦立ち会いのもと、無口ながら真面目そうな応募者、型破りながら愛嬌があり営業向きな応募者、現場監督を志望する学歴ナンバーワンの実直な女性の3人を選ぶ誠治。
結局、無口ながら真面目そうな応募者は辞退し、型破りながら愛嬌のある豊川と学歴ナンバーワンで現場監督志望の真奈美が後輩として入社する。
以前居た会社の引き継ぎの為に一月入社が遅くなる真奈美に先んじて豊川が現場経験を積む。
その間に自らも煩雑な手続き業務を覚える誠治。
「経理の鬼」誠一の助けを借り、簿記の勉強も順調だ。
しかも、それを通じて父との付き合い方も身につけつつあった。
母も順調に快復を続ける。
だが、それでも完全快復とは言い難かった。
やはり、引っ越す必要があるのだ……。
真奈美が入社。
豊川に真奈美の持つ社会儀礼を身につけさせるためと真奈美自身が現場に溶け込みやすくなるよう二人にコンビを組ませる誠治。
この狙いも当たり、真奈美は持ち前の根性と実直な人柄も評価され現場に馴染む。
豊川も社会常識レベルの礼儀作法を身につけて行く。
そんなある日、事務所の前に捨てられていた二匹の猫がきっかけとなり真奈美と誠治は急接近。
死んでしまった猫の為に泣く真奈美にキスをする誠治。
驚く真奈美に「ノーカン」だと告げる。
傷心から立ち直った真奈美は「私、ノーカンにはしたくありません」と誠治に答える。
だが、誠治は寿美子のことを考え真奈美を避けるように。
一方で真奈美は真剣に誠治の事を想い始めていた。
ただ一匹助かった猫のミケを家に連れ帰った誠治。
寿美子はミケの世話をすることで自分を保つ。
誠治の仕事もある程度軌道に乗り始めた。
遂に誠治は計画を実行に移す。
誠一に2通の通帳を渡す誠治。
ひとつは誠治自身が貯金した200万円。
もうひとつは姉・亜矢子に預かっていたもしもの時の100万円。
合わせて300万円で転居先の頭金として引っ越そうと提案する。
変化を嫌い渋るかに見えた誠一だったが、彼もまたわずかながら変化を迎えていた。
誠治の提案を受け入れた上であくまで自身で完済できるローン物件を選ぶと宣言。
誠治には自由に生きるよう諭す。
適当な物件が見つかり、引越しの日。
助っ人に来た亜矢子を加え、誠一、誠治も協力して引越し先へ移動する。
その日の晩、誠一を訪ねる亜矢子。
寿美子の為に決断した誠一に娘から父へ礼を述べる。
照れる誠一、傍に居た誠治も喜ぶ。
こうして久しぶりに家族が笑い合うことが出来たのだった。
余裕が出て来た誠治。
真奈美との会話は相変わらずだが、少しづつ距離を縮めていた。
真奈美にミケの成長を尋ねられた誠治は「いずれ家へ見に来ないか」と誘う。
真っ赤になる真奈美。
誠治は女友達を家へ連れて行くことも寿美子への親孝行になるのかなと考えるのであった―――エンド。
さて、本編はここまでですが、本書「フリーター、家を買う。」にはもう一篇短編が収録されています。
それが豊川視点の短編です。
こちらは本編の後日談となっています。
では、そちらのネタバレあらすじもどうぞ!!
<アフターストーリーあらすじ>
豊川は自分の気持ちに戸惑っていた。
同僚の千葉真奈美に恋をしてしまったのだ。
彼女は今まで豊川の付き合って来たどのタイプとも違う上に、豊川のストライクゾーンからはかけ離れていた筈だった。
だが、いつの間にやら気になる存在になってしまっていたのだ。
ただ、問題は真奈美が先輩である武誠治に恋している様子であること。
しかも、本人たちは気付いていないようだが武も真奈美に惹かれているようであり両想いだった。
それでも……豊川は思う。
まだ、俺にも勝負の目はある、と。
誠治と真奈美の交流は傍目に見てもやきもきするものだった。
本来、恋敵である筈の誠治に何故かアドバイスしてしまう豊川。
しかも、真奈美自身に誠治との恋を応援するような発言をしてしまう。
自分自身が分からなくなる豊川。
何度となく真奈美へとアタックをかけようとする豊川だったが、何故かいつも真奈美と話すと彼女の恋を応援してしまう。
その内に幸せそうな真奈美の姿に癒される自分が居た。
実力は充分に備えている真奈美だが、女性というだけでなかなか監督業がまわって来ない。
そんな真奈美の為に現場作業をこなし営業活動をする誠治。
そんな誠治の姿に思う所のある豊川は自らも営業活動を行う。
ある日、誠治が真奈美を「いずれ家に見に来ないか」と誘い、真奈美が真っ赤になりながら頷く現場を目撃した豊川は自らの敗北と真奈美への祝福を心に思い浮かべる。
この人たちは自分とは違う。
この人たちの“いずれ”は軽い口約束なんかじゃない。
本当に近い未来の“いずれ”なんだと悟ったからだ。
数ヵ月後、「誠治から『明日、家に来ないか』と誘われた」と慌てふためきながら語る真奈美。
顔色は真っ赤を通り越して鬱血している。
その表情は恋する乙女のものじゃないっすよ〜〜〜と茶化しながら心から「良かった」と思う豊川の姿がそこにはあった―――エンド。
◆有川浩先生のその他の著作はこちら。
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