2010年10月04日

「天使が消えていく」(夏樹静子著、光文社刊)

「天使が消えていく」(夏樹静子著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

天使が消えていく


月の台風の夜、ホテル玄海で泊り客の男が殺され、あいついでホテルの経営者蟻川国光も不審な死をとげる。そして、重症心臓疾患児ゆみ子の母、神崎志保の凄惨な死。婦人記者砂見亜紀子は、ゆみ子への愛にひかれて事件の真相を探る。3人の死をつなぐ鍵は?福岡を舞台のサスペンスに満ちた長編推理。
(アマゾンドットコムさんより)


<感想>
森村誠一先生の「高層の死角」と第15回(1969年)江戸川乱歩賞を競った作品。
つまりは夏樹静子先生の公式発表作品としては初=処女作となります(但し「すれ違った死」を除く)。
しかし、残念ながら受賞は「高層の死角」に譲ることとなりました。

第15回江戸川乱歩賞について、管理人はこれ以上の知識を持ってないので「ウィキペディア」で調べてみたところ次のようなことが判明しました。

ここから「ウィキペディア」情報。

「高層の死角」巻末には、江戸川乱歩賞の選考経過報告が記載されている。応募総数は110篇で、第二次予選通過作品は10篇となり、最終的に、

森村誠一『高層の死角』
永井ばく『鮮血のバプテスマ』
大谷羊太郎『虚妄の残影』
愛里収『明かりのない部屋』
夏樹静子『天使が消えていく』
の五編が候補作となった。

選考委員は角田喜久雄、中島河太郎、高木彬光、仁木悦子、横溝正史(松本清張は所用のため欠席)の5人であった。
(「ウィキペディア」より)


第15回江戸川乱歩賞は激戦だったんですね。
森村誠一先生と夏樹静子先生に加え大谷羊太郎先生まで参戦していたとは……。

それでは感想。
正直、激戦を潜り抜けた作品の割には楽しめませんでした。
2時間ドラマを活字化したものをそのまま見せられているように感じたのです。
つまりは、どこかで見たことのある展開がそれだけ多かったということ。

ですがそれもその筈、本書が1969年に書かれた以上、2時間ドラマよりこちらが先。
本書こそが2時間ドラマの元祖と言ってもよいでしょう。
ある意味、雛型となった作品ではないでしょうか。
現代だからこそ古く感じるが当時にすれば革新的だった筈―――その観点でみると感慨深いものがありますね。

ただそれを考慮しても矛盾点が多いんだよなぁ。

例えば楠。
逮捕後、楠が真相を明かさなかったことが謎。
志保のことなど、すべてを暴露しなかった理由が不明。
ここら辺が納得いかない。
他にも投げっぱなしの点は多い。

ラストが真犯人からの手紙と言うのも難点。
何故なら、著者がそれ以外に真相を明かす方法を見つけ出すことが出来なかったようなモノだから。
このラストが効果的になってる場合もあるけど、そんなのは滅多にないことで殆どの場合は本作のように余りスッキリしない……「十角館の殺人」もコレだけが難点だと思うぐらい。
ある意味、コレは最終手段だと思うので、作家さんにはおいそれと使ってほしくない。
まぁ、個人的な意見だけれども。

それらも含めて、良くも悪くも2時間ドラマっぽいのかなぁ……。

2010年10月31日追記土曜ワイド劇場「夏樹静子作家40年記念 天使が消えていく〜小さな命を守れ!欲望の街を走る女性記者!死者からの手紙!驚愕の結末とは!?」(10月30日放送)ネタバレなし感想追加しました。リンクよりどうぞ!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧
砂見亜紀子:主人公、記者   
神崎志保:ゆみ子の母、ホステスをしている
ゆみ子:志保の娘、重傷心臓疾患を抱える
楠:ホテル玄海の支配人
蟻川:ホテル玄海の経営者
谷口:ホテル玄海で発見された第一の被害者
坂元:志保のアリバイ証人

ホテル玄海にて谷口という男性が絞殺死体で発見され、容疑がホステスの神崎志保にかかる。
志保は売春をしており、谷口が志保の客だった可能性があると考えられたのだ。
だが、当の志保には坂元との間にその夜のアリバイが成立していた。

捜査が行き詰まりを見せる中、今度はホテル玄海の経営者・蟻川が牛乳に混入された青酸で死亡する事件が発生。
警察は谷口殺害と関連付けて捜査を行うが……。

一方、砂見亜紀子は記者としてゆみ子という重傷心臓疾患の少女を記事にする。
それは、ゆみ子の手術費用にかかる寄付金を求めるものだった。
そのゆみ子の母親こそが神崎志保。
ゆみ子を介して志保に興味を持った亜紀子は彼女を調べることに。
亜紀子には現在付き合っている男性がおり、その男性との間の子供ではないゆみ子を憎んでいると言う。
そんな志保に反撥を感じる亜紀子だったが、その矢先、匿名の男性からゆみ子あての寄付金を受け取る。
ゆみ子の手術は無事成功。

ところが、その直後に志保が死亡してしまう。
警察は自殺と断定するが亜紀子はその結論を疑問視し独自の調査を開始。
結果、志保の語っていた現在付き合っている男性がホテル玄海の支配人・楠ではと思い定める。
もしや、志保は楠に殺害されたのでは……?

他方、警察の捜査で明らかになる事実。
蟻川の死亡当日、牛乳を運び込んだのが志保だったと判明。
しかも、蟻川の妻・梨枝と楠が不倫関係にあったのだ。
楠には蟻川を殺害する動機があった!!
そして志保のアリバイを証言した坂元は楠の手下だった……。

警察は楠が志保に命じて谷口と蟻川殺害を実行し、邪魔になった志保を殺害したと結論付ける。
志保殺害当日、楠にはアリバイが無かった。

こうして楠が逮捕された。
だが、楠は病気を患っておりそのまま入院。
梨枝の指示による蟻川殺害のみを認めると病死する。

一年後、志保が保険に加入しておりゆみ子が受け取ったことを知った亜紀子。
匿名の寄付金の主が志保の義父であったと突き止める。
しかも、当時の志保に特定の男性は存在せず楠との交際も虚偽だったと判明。

亜紀子は志保の義父を訪ねる。
義父は志保から亜紀子あての手紙を預かっていた。

そこには事件の真相が記されていた―――。

谷口を客にした志保。
当時、志保はゆみ子の手術費用を捻出するべく焦っていた。
ふとした拍子に谷口が三十万円を所持していることに気付き、隙を見て盗んだ。
だが、その現場を谷口に目撃され脅迫されてしまう。
「警察に突き出す前に」と谷口に好き放題される志保だったが、一瞬の隙を見出すと手近な灰皿で反撃。
気絶した谷口を絞殺しトドメを刺した。

ホテルから逃げ出そうとしたところを楠に目撃され、それをネタに蟻川宅へ青酸入り牛乳を運ぶよう依頼される。
その代わり、楠の手配で坂元によるアリバイ証言を用意された。
同時に盗んだ三十万円を警察に疑われないよう義父の手を借り寄付金という形で亜紀子に託した。

蟻川が死亡。
運ぶ際に目撃されたと気付いた志穂は警察の手が遠からず自分に伸びると判断。
ゆみ子の手術費用がまだ足りないこともあって自らの保険金で充填しようとする。
楠を自分を殺した犯人とすべく工作した後、志保は自殺する。

結果、楠は殺害犯として逮捕されたのだった……。

真相を知った亜紀子だが、ゆみ子の笑顔を眺めているうちにすべてを黙認することに決める。
「この娘の未来を奪えはしない」そう考えたのだった―――エンド。

「天使が消えていく (光文社文庫)」です!!
天使が消えていく (光文社文庫)



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