2010年10月12日

「目線」(天野節子著、幻冬舎刊)

「目線」(天野節子著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

目線
「画像は文庫版」


同族会社社長の誕生祝い。だが、主役である新之助が死亡し、華やかな宴は一転して次々と人が死ぬ惨劇の場へと変わっていく。ベストセラー『氷の華』の著者が描く、愛憎渦巻く一族の悲劇。
(幻冬舎さん公式HPより)


<感想>

「氷の華」で知られる天野節子先生の2作目。

本作の凄い点は「あえて近年チープなトリックを用いることにより犯人の精神性やその閉塞感を表現した」こと。

後述のネタバレあらすじをご覧いただければお分かりになるかと思いますが、本作のトリック自体はそれほどでもありません。むしろチープです。
ですが、こんなトリックを用意しなければならなかったところに犯人の狭い世界観がよく現われています。
犯人にはとある制限があり自由に行動出来ません、それは肉体的にでもあり精神的でもある。
これを文章や言葉ではなく、ストーリーとトリックで表現した点がこの作品のすべて。

以前、ご紹介したドラマ「QUIZ」も犯人の精神性を出題されたクイズやトリックを用いて窺わせることにチャレンジしていたように思いますが、その発展形がこちらと言えるのではないでしょうか?

「QUIZ」(TBS系、2000年)

何よりタイトルの「目線」。
これはかなり深い意味合いがありますね。
それも含めてなかなか良い作品だと思います。

ドラマで天野節子先生といえばデビュー作「氷の華」がテレビ朝日にてドラマ化されたことは記憶に新しいかと思います。
ドラマ自体は2008年9月に米倉涼子さん主演で2回にわたり放送されました。

そ・し・て、本作「目線」もまた仲間由紀恵さんによりドラマ化されるそうです。

天野節子原作「目線」が金曜プレステージにてドラマ化!!主演は仲間由紀恵さん!!

これによると、仲間さんはあかり役の模様。
ということは……ここから先はネタバレあらすじをご覧になって判断ください。
ちなみにネタバレあらすじは多少端折ってます、ご了承ください。

2010年12月17日追記金曜プレステージ 傑作ミステリー小説・待望の完全ドラマ化!「目線〜華麗なる一族の晩餐が血の惨劇に!犯人はこの中にいる!?幸せな家族に一体何がショパンの調べに乗せ悲劇の連鎖いま開幕」(12月17日放送)ネタバレ批評(レビュー)追加しました。リンクよりどうぞ!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
あかり:過去のある事故により車椅子を余儀なくされた女性
貴和子:あかりの姉。第二の被害者
新之助:貴和子とあかりの父。第一の被害者
拓真:あかり、貴和子の幼馴染み
小枝子:堂島家のお手伝い
松浦:堂島家の運転手
宮本:来客の一人、第三の被害者
3人の刑事:堂島家の事件の真相を追う3人。

大会社の社長である堂島新之助には貴和子とあかりという娘がいた。
あかりは過去のある事故により半身不随になっており車椅子を余儀なくされていた。

ある日、堂島邸にて新之助の誕生祝いが行われる。
集まったのは家族や友人11人。
「めでたい発表がある」と語っていた新之助だったが自室のベランダから飛び降り亡くなってしまう。
新之助には死の直前、“非通知”で電話がかかって来ていた。
新之助はその電話により自殺したと考えられた。

初七日を迎えた堂島邸にて新たな事件が。
貴和子がピアノの練習中に絞殺死体で発見されると共に、来客のひとりである宮本が殺害されてしまったのだ。

3人の刑事が捜査に乗り出す中、宮本を殺害したのは運転手の松浦であると判明。
松浦は自殺してしまう。貴和子殺害も彼の仕業と思われた。
「もしや、新之助の死にも謎があるのでは」と考えた刑事たちはかかって来た電話が子機のトリックによるものと看破することに成功。
新之助の死も他殺だったと結論付ける。
そんな中、3人の刑事の前に拓真が訪ねて来る。
彼はある決定的な情報を持ち込んで来ていた―――。

数時間後、車椅子のあかりの前に現れた拓真はあかりこそが真犯人だと指摘する。
だが、あかりには鉄壁のアリバイがあった。
それを盾にするあかり、それでも動じない拓真。

新之助殺害時の子機を運ぶトリックがあかりにのみ実行可能だったことを立証する拓真。
しかも、新之助転落のどさくさに紛れてこけしで止めを刺したことも指摘。
貴和子殺害時のアリバイも貴和子がピアノの練習中に殺害されたのではなく、自室で殺害されたとすれば崩れ去ると指摘する。
貴和子のピアノの音はカセットテープによる録音を再生したものだった。
貴和子の部屋で殺害後、車椅子であかりが運んだのだ。

実は貴和子とあかりは異母姉妹だった。
新之助は外に子供を作っておきながらあかりの実母からあかりを取り上げ、失意のうちにあかりの実母を自殺に追いやっていた。

そして、松浦はあかりの母の兄弟―――つまり、実の伯父だったのだ。
あかりを心配した伯父はこっそり見守るべく堂島家に運転手として潜り込んでいた。
新之助を殺害した折、あかりは宮本に目撃されてしまった。
そこであかりを庇うべく松浦が宮本を殺害し、命を絶ったのだ。

拓真から推理を聞かされたあかりは犯行を認める。
どのみち自首するつもりだったらしい。

「なぜ、こんなことを?」
動機を気にかける拓真に自身が半身不随になった原因を語るあかり。
拓真は貴和子による偶然の事故だと思っていたが、実は貴和子が仕掛けた意図的なものだった。
幼いあかりが階段を上る最中に蝶のズボンを履いた貴和子に足をかけられ転倒させられたことが原因だったのだである。
以降、あかりの中で蝶はある種のモチーフとなった。

「でも、それが何故今頃?」
重ねて問う拓真に頭を振るあかり。

実は新之助は自身の誕生日に貴和子と拓真の婚約発表を行おうとしていた。
それもすべてあかりのためだとあかりに説明した上で。
もし、自分に何かあっても気心のしれた姉夫婦と一緒ならば大丈夫だろうとの判断だった。

しかし、新之助は知らなかった。
あかりが拓真を愛していたことに。

一生、貴和子と共にある拓真の姿を見せつけられると思ったあかりはそれまでに堪り続けていた不満が爆発。
実母を死に追いやったこと、伯父を運転手という立場でこき使っていることなどすべてが許せなくなり、新之助殺害を企てることに。
それがそのまま貴和子殺害に繋がったのだ。

あかりは今なら自首扱いにしてもらえると告げる拓真と共に出頭する。
最中、拓真ひとりでこれだけの情報を集められる筈がないことから拓真がお手伝いの小枝子と恋仲にあることを悟る。
しかも、貴和子も留学を決意しており拓真と添い遂げることはあり得なかったのだ。
そう、新之助は何も知らずコンプレックスとワンマンらしい采配で、本人たちの意思確認もせず自分勝手に盛り上がっていただけだった。

事件は終わりを迎えた。
3人の刑事たちは居酒屋で打ち上げを行う。
あかりは動機について詳細を語らないらしい。
あくまで新之助と貴和子が憎かったの一点張りだった。

ふと考える刑事たち。
あかりは拓真を愛していたのでは?
半身不随となったあかりにとっては車椅子で動ける狭い世界がそのすべて。
そんな中で拓真こそが唯一の異性だったのだろう―――エンド。

「目線 (幻冬舎文庫 あ 31-2)」です!!
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