今回はネタバレなしです、注意!!
<あらすじ>
■第20回鮎川哲也賞・第7回ミステリーズ!新人賞選評■第7回ミステリーズ!新人賞受賞作 美輪和音「強欲な羊」掲載■特別座談会「鮎川先生の思い出」。元〈オール讀物〉編集部・安藤満さんを囲み、北村薫、有栖川有栖、戸川安宣が鮎川哲也の思い出を語る■待望の長編連載。芦辺拓「スチームオペラ 蒸気都市探偵譚」■堂々最終回 皆川博子「双頭のバビロン」、鯨統一郎「日本の七不思議」■追悼 J・P・ホーガン 読切短編「マダム・バタフライ」&追悼文
(東京創元社公式HPより)
<感想>
第7回「ミステリーズ!新人賞」受賞作。
「ミステリーズ! vol.43」に掲載される。
一人称作品。
ちなみに受賞時は大良美波子名義だった。
第7回「ミステリーズ!新人賞」佳作は「オーブランの少女」と「商人の空誓文」の2作。
・「オーブランの少女」(深緑野分著、東京創元社刊「ミステリーズ vol.44」掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「商人の空誓文」(明神しじま著、東京創元社刊「ミステリーズ vol.44」掲載)ネタバレ書評(レビュー)
「強欲な羊」を読んでみて感想。
結末への持って行き方には作者の構成力を感じた。
だが、選評の桜庭一樹先生のご意見が全てだと思う(感想下部に選評の要約あり)。
全面的に同意。
パッと思いつくだけでも、同じ“羊繋がり”で米澤穂信先生「儚い羊たちの祝宴」(新潮社刊)にモチーフが近い。
正直、中の一篇に混ざっていても違和感はない。
それぐらい似ている。
特に「北の館の罪人」と「山荘秘聞」にエッセンスが近い。
・「儚い羊たちの祝宴」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ批評(レビュー)
もっとも、「儚い羊たちの祝宴」自体に既存作が無いわけでもない以上、あくまで“似たイメージ”と表現すべきか。
別に似ているから悪いわけではないが、それがきちんと機能している様に思われないのも痛い。
モチーフが上手く処理できていないような印象を受けた。
自分のものとして消化しきれていないような。
桜庭先生の評にあった借り物というのはそれも指しているのだと思う。
「強欲な羊」を端的に表現すると、湊かなえ先生「告白」の語り口に「儚い羊たちの祝宴」のテーマ(&モチーフ)を添えた物。
ただし、オリジナルよりはわずかに劣る。
これ以上でもこれ以下でも無いと思う。
・「告白」(湊かなえ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
まぁ、逆に言えばデビュー短編でプロ並みの手腕を発揮しているとも言えるので筆力はあると思う。
現在の所、超大作よりは定期的に小品を量産されるタイプの作家さんとの印象。
この印象が覆ることがあるのだろうか……。
それも含めて美輪先生の真価は次作で問われるだろう。
次作に期待したい。
ちなみに選評を読む限りでは本作の受賞は貫井先生が強烈プッシュしたからみたいな印象を受けた。
事実だとしたら残念だ……。
個人的には設定を読んで気になっている「ミステリーズ!vol.44」掲載予定「商人の空誓文」が待ち遠しい。
【各選考委員選評】(管理人による要約)
・桜庭一樹先生
推薦作「商人の空誓文」
「強欲な羊」はどこかで見たモチーフが多く、借り物の印象を受けた。
その点でも「商人の空誓文」の方を推した。
・辻真先先生
推薦作「強欲な羊」ほか
「強欲な羊」は手堅い半面、面白味が無かった。但し、作者はこのレベルの作品を継続的に送り出すことが出来る人だと思う。
「商人の空誓文」、「オーブランの少女」についてはまだまだ改善の余地が残されているものの未知の面白さがあった。
結局、「手堅いが伸びしろが少ない作品」と「今後の可能性を残す作品」どちらを選ぶかで迷い前者を選ばせてもらった。
佳作についても異存はない。
・貫井徳郎先生
推薦作「強欲な羊」
「強欲な羊」はレベルも完成度も高い。
これで決まりだと思った。
佳作の「商人の空誓文」、「オーブランの少女」についてはまだまだ改善の余地があったが、他の推薦もあり、今後伸びようとする芽を摘んでしまわぬようあえて反論する必要性も見出せず同意した。
◆関連過去記事
【第7回「ミステリーズ!」選考状況記事】
・「第7回ミステリーズ!新人賞」第一次選考結果発表!!
・「第7回ミステリーズ!新人賞」第二次選考結果発表!!
・「第7回ミステリーズ!新人賞」決定!!
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