2010年10月18日

「ボディ・メッセージ」(安萬純一著、東京創元社刊)

「ボディ・メッセージ」(安萬純一著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

本作以外に「シャム双子の謎」(エラリー・クイーン著、東京創元社刊)と「押入れのちよ」(荻原浩著、新潮社刊)のネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

ボディ・メッセージ


アメリカはメイン州・ベックフォード、ディー・デクスター探偵社に一本の電話が入る。探偵二名をある家によこしてほしい、そこで一晩泊まってくれればいいという、簡単だが奇妙な依頼。訝しみながらもその家に向かったスタンリーとケンウッドに、家人は何も説明せず、二人は酒を飲んで寝てしまう。しかし、未明に大きな物音で目覚めた二人は、一面の血の海に切断死体が転がっているのを発見。罠なのか? 急ぎディーの家に行って指示を仰ぎ、警察とともに現場に戻ると、何と血の海も死体も跡形もなくが消え去っていた──。事件を追う探偵社の面々の前に、日本人探偵・被砥功児(ピート・コージ)が颯爽と登場! 選考委員各氏絶賛! 期待の新人のデビュー作。
(東京創元社公式HPより)


<感想>

第20回「鮎川哲也賞」受賞作。
「太陽が死んだ夜」とのダブル受賞であった。

「太陽が死んだ夜」(月原渉著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

改題前は「ボディ・メタ」。
選評については感想末尾を参照。

まず、第20回「鮎川哲也賞」自体の感想を述べると、受賞作が“陰”と“陽”でまるきり反対の属性を持つ2作になった印象。
これにより、どの層にもアピール出来るため良い結果だったと思う。

「ボディ・メッセージ」が本格としてプロやマニアに理解される作品である反面、「太陽が死んだ夜」は一般やライト層に支持され易い作品である。

「ボディ・メッセージ」のトリックが作品と切っても切れない関係の反面、「太陽が死んだ夜」はストーリー上、トリックが特に必要とされていない。

「ボディ・メッセージ」がその独特な世界観と言い回しにより読みづらい反面、「太陽が死んだ夜」は文章が平易で読みやすく好感が持てる。

「ボディ・メッセージ」が本格として純粋さを誇っている反面、「太陽が死んだ夜」は高いエンターテイメント性を誇っている。

「ボディ・メッセージ」が小説としてのメッセージ性が低い反面、「太陽が死んだ夜」はメッセージ性が高い。

濃いミステリが好きならば「ボディ・メッセージ」、ライトなミステリが好きならば「太陽が死んだ夜」がオススメ。
対照的な2作が受賞したことにより読者のニーズを大きくフォロー出来ていることが第20回の特徴かな。

2作を比較すると、個人的には「太陽が死んだ夜」が面白かった!!
内容的に「ボディ・メッセージ」も負けてはいないが疲れた時には読みづらい。
「太陽が死んだ夜」が、どことなく「少女たちの羅針盤」にイメージが近いのもその理由かも。
しかし、大量に殺人が発生しているのにあの爽やかな語り口はもの凄い武器だな。
月原先生は今後が気になる作家さんだ。

ちなみに、北村先生が「太陽が死んだ夜」の犯人の動機についてデリケートな問題を雑に扱っていると指摘されていたが、「ボディー・メッセージ」の犯人の動機やトリック自体も同じ位デリケートな問題なのに割とフォロー入ってないけどいいのかなぁと思ったのは秘密だ。
寧ろ北村先生のあの発言には何らかの意味があると考えてたりする。

では、本題の「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」について感想を述べる。

本作全体の構成が大きなあるトリックとなっており、あの事実に気付かない限り楽しめると思う。
しかし、気付いてしまうとそれが一大テーマなだけに一気に面白くなくなってしまうのが珠に傷。
しかも、割と中盤で気付き易い。
これはひとえに本格として誠実であろうとした結果だと思う。

そう、本作は本格愛に満ちている。
本当に本格が好きなんだろうな〜〜〜ということが作品全体から伝わって来るのだ。
このモチーフ選択然り、トリック然り。

だからこそ本格ミステリのルールに基づいた縛りがきつい。
当然、ルールに沿った伏線の張り方も慎重かつ独特なものになる。
こうして、伏線だけが本筋に上手く埋没せず浮かびあがってしまう。
それを回避するために独特な設定を加え目立たせないようにしたのだと思うが、余り奏功していない。
逆に設定が加わった分だけ、より重くなった。
結果、独特な文章展開が続き、慣れていないと読み進めるのが辛くなる。
その分、本格としてはハイレベルなのだが……。

読者がこの本を選ぶのでは無く、この本が読者を選ぶ感じかなぁ。
その分、ニーズに当たれば大きい。
確実に好きな人は嵌まれる。
だが、嵌まれる人はトリックに気付きかねないのだ……。
二律背反だな、これも本格の宿命だろうか。

他にモチーフとしては「シャム双子の謎」(下部にアマゾンリンクあり)が扱われているが、難題をきちんと処理している。
車とクイズのヒントも良い。
ここらも高評価。

今気付いた。
このトリックをモチーフ以外にどこかで読んだことがあると思ったが、荻原浩先生「押入れのちよ」に収録された「お母さまのロシアのスープ」(下部にアマゾンリンクあり)だ。
あれを読んでいたから本作のトリックに気付けたのかもしれない。

とすれば、メインテーマ「お母さまのロシアのスープ」に本格テイストを肉付けした作品が本作と言えるのだろうか。

【各選考委員選評】(管理人による意訳)
・笠井潔先生
推薦作「太陽が死んだ夜」

「太陽が死んだ夜」は欠点があるがコゴロウなどのセンスを評価したい。
「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」も意欲作であり評価したい。だがタイトルの「メタ」が何を指すのか不明である。

・北村薫先生
推薦作「太陽が死んだ夜」

「太陽が死んだ夜」は欠点が多かったが、具体的な欠点ばかりであり大幅な改善の余地がある。
ただし、犯人の動機をデリケートなものに設定しているにも関わらずその扱いが雑。
しかも、この手の動機は最近多く見られているが、そのどれもが上手く消化できていない。
この点はマイナス。
「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」は本格の宿命とでもいうべき決定的な欠点があり、これは改善できない。
結果、「太陽が死んだ夜」を推す。

・島田荘司先生
推薦作「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」

「太陽が死んだ夜」はミステリ部分が弱く、一般作と変わらない。
その点、「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」はミステリとして成立している。
こちらを推したい。

・山田正紀先生
推薦作「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」&「太陽が死んだ夜」

「太陽が死んだ夜」は歴史的事実に基づいたものとのことで勉強になった。コゴロウという名前もありそう。
「ボディ・メッセージ(ボディ・メタ改題)」も良く出来ていた。設定がよい。
他に比べてこの2作ならばどちらが受賞してもよいと思えたので、ダブル受賞は喜ばしい。

<ネタバレあらすじ>

元警官であるディー・デクスターが営む探偵社に依頼の電話が入る。
内容は探偵二人を一晩貸してほしいとのものだった。
しかし、依頼主の家は相当な遠方。
わざわざなんでウチなのだろうと訝しむディー。
とはいえ、無視するわけにもいかない。

早速、依頼主の家にスタンリーとケンウッドを向かわせる。
長距離移動の疲れから酒を飲むと寝てしまう二人。
未明に大きな物音で目覚めてみると、辺り一面の血の海に4人と思われる女性の切断死体が転がっていた。
武器を持たない主義のディーに従っていた二人は丸腰。
慌てて指示を求めてディーのもとへ引き返す。

ディーの通報で急ぎ警察とともに現場に戻ってみると、血の海も死体も跡形もなく消え去っていた。
これは一体!?

こうして「夢でも見たのでは」と警察からも相手にされないディーたちは独自の調査を開始する。
依頼主との関係から浮かび上がる二組の兄弟。
そのいずれもが行方をくらましている。

果たして何が起こっているのか?
戸惑う探偵社メンバーの前に、日本人探偵・被砥功児(ピート・コージ)が登場。
事件を解決する。

彼によれば行方不明の二組も既に殺害されていた。
実は被害者は全員シャム双生児だった。
過去に比較的軽度だった犯人の兄二人を自分たちに比べて異質なものとして施設で殺害しており、その復讐に殺されていたのだ。

わざわざ遠方から探偵者のメンバーを呼んだのもすべて計画の一環。
発見後、現場から立ち去らせるように仕組む為だった。
ディー探偵社の特徴を事前に知っていた故の犯行だったのだ。

その目的は殺人事件としてニュースにして欲しいが警察の介入を避けるためだった。
つまり、兄が殺された施設の運営者に施設の子供たちが殺されたと知らしめることが目的だったのである。
それでいて犯人たちは逃げ切る。
その為だけに都合9人(双生児が3組含まれる)もの命が奪われた。

しかし、犯人たちは相手を侮っていた為に大きなミスを犯しており結局それがもとで逮捕されてしまうのだった―――エンド。

◆関連過去記事

【第20回「鮎川哲也賞」選考状況記事】
「第20回鮎川哲也賞」一次選考結果発表!!

第20回鮎川哲也賞2次選考結果発表!!

第20回鮎川哲也賞発表&第7回ミステリーズ!新人賞締切!!

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