ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
前代未聞の籠城事件が発生。犯行現場は警視庁十一階会議室。定例会議に出席していた警視庁幹部総勢十二名が人質となった。密室の会議室から犯人の要求はまったく伝えられないまま、現場は機動隊とSITが完全包囲。そしてまさに強行突入しようとした瞬間、室内で一発の銃声が轟く――。この強行突入にいち早く懸念を示していた警視庁特命係の杉下右京は神戸尊とともに、事件の真相を追う。だが人質となった十二名の幹部による証言はどれも曖昧で、本当はいったい誰が引き金を引いたのかわからないまま、犯人射殺は正当防衛として片づけられようとしている。籠城犯の犯行動機を探る右京と尊は、やがて犯人の意外な過去を突き止める。警視庁始まって以来の籠城事件の背後には、7年前に真相が揉み消された事件が横たわっていた。警視庁内の人間模様や隣接する警察庁までも巻き込んだ衝撃の真実に迫る右京と尊だったが――。水谷豊、及川光博出演のドラマ「相棒」が再び劇場へ。2010年12月23日より全国ロードショーされる映画「相棒−劇場版2−」を、劇場公開前に小説化! スクリーンとは異なる驚愕の結末に映画を観る前でも、観た後でも楽しめる究極のノベライズ。
(小学館公式HPより)
<感想>
読んで損なし。
物語に没入するとあっという間に読み終えてしまうほど面白い。
ただ、立て籠もり事件自体は1章で解決してしまうのでそこを期待した人には肩透かしかも。
それと、“カルシウムの不足した右京”(怒りの描写が多い……内容上仕方ないんだけど)に違和感を覚える方は注意。
まぁ、それでも是非読んで欲しいくらいイイ出来だった。
“絶対的正義”と“大局的正義”のイデオロギー対決が面白い。
内容についてはネタバレあらすじに詳しいので抵抗の無い方はそちらをどうぞ!!
ただし、素人の書いたネタバレを読むのは損かもよ。
本作を読んだ方が楽しめること請け合い。
ネタバレあらすじはまとめやすいように登場キャラ削ってるし、一部に改変ある(大筋や内容は押さえたと思うけど)のでそこらも込みで本作を読んだ方がイイと思う。
この通りの劇場版なら相当期待できるな。
ただ、映画版と異なる驚愕の結末とのことなので映画版はまた別の展開なのかも……。
ひとつだけ難があるとすれば、モールス信号のロジックかな。
この証拠は音声のみの筈だからモールス信号を解明しても二人の関与を証明できても、あの人の関与は証明できない筈(一人称である私で信号を送った筈なので主体が誰かは信号からは判別できない)。
そこを考えて、一応、本作中で音の出所について内村に確認を取ることにしていたんだけど、事情が事情だけに公式の事件になった場合は内村は話してくれ無さそうだし、結局摘発出来ないんじゃないかなぁとか思う。
まぁ、これも蛇足。
ファンなら読むべし!!
2010年12月22日追記:劇場版(「相棒 -劇場版U- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜」)での異なるラストについて情報入手。
すぐ下に書き込むので知りたくない人は注意!!
シーズン9に小野田が登場しないのも伏線とのことで、どうも小野田が殉職するらしい。
殉職シーンはノベルス版ラスト小野田と右京の決裂直後にあるとのこと。
これについては「粋ダネ 相棒」で検索すると詳細が分かる。
(「粋ダネ」とはBS11にて放送の「柳家喬太郎の粋ダネ!」のこと。
番組中、あるゲストが内容に関わるネタバレをしたらしく噂になっていた)
2012年4月29日追記:
上記、「相棒 -劇場版U- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜」のラストについて、詳細をネタバレあらすじ後に追加しました。
興味のある方はどうぞ!!
追記終わり
◆ノベライズ版の著者・大石直紀先生関連過去記事
・「交渉人 THE MOVIE」(大石直紀著、小学館刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「映画ノベライズ版 十三人の刺客」(大石直紀著、小学館刊)ネタバレ書評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
オススメ!!
登場人物等については「相棒 劇場版2」公式HPのキャストを見ながら楽しむと面白いと思う。
理解が深まる筈!!
では、ネタバレスタートォォォォォ!!
警視庁総務部装備課主任・朝比奈圭子は顔を強張らせた。
警視庁舎に幼馴染みで元同期の八重樫が自分を訪ねて来た為だ。
八重樫と圭子にはある重い過去があった。
圭子に八重樫、それに故人で圭子の婚約者だった磯村を加えた3人は幼馴染みで警視庁の同期と進む道も同じくした仲間だったが、とある事件で拘束された八重樫を救出に向かったことで磯村が死亡してしまったのだ。
それを機に八重樫は警視庁を退職。
以来、二人の間には常に磯村の死が影を落としていた……。
その頃、道場では神戸尊が大河内と剣道の試合に臨んでいた。
この試合は落とせない―――神戸の表情は真剣にならざるを得ない。
何故なら大河内の提案により貴重なワインがかかっていたのだ。
その気合が功を奏したのかどうか、神戸は大河内を破り約束をモノにした。
上機嫌の神戸であったが彼は知らなかった……この直後にそんな約束など吹き飛ばすほどの大事件が起こることを。
庁舎内特命への帰り道、備え付けのエレベーターに乗り込んだ神戸の前には争う二人の男女の姿があった。
呆気にとられる神戸の目に男の懐から覗いた銃が飛び込んで来る。
慌てて女性を助けたものの、男には逃げられてしまう神戸。
ところが、男が逃げ込んだ先は警視庁の幹部12人が出席する幹部会が行われている会議室だった。
室内に響き渡る銃声―――こうして、史上初となる幹部12人を人質にした籠城事件が発生してしまう……。
上司である内村も幹部会に出席していたことで指揮を執ることになった中園だが、状況把握も出来ず困惑する。
そこへ現れたのは連絡を受けた右京と米沢。
いつも通りの右京は中園の指示を仰がず独自の捜査を展開。
立て籠もり犯が元警視庁職員・八重樫であることを突き止め、事態の収拾を図ろうと動く。
だが、右京を敵視する中園はあくまで右京の捜査への干渉を排除し強行突入を実行。
その最中、立て籠もり犯・八重樫は突入の混乱に乗じた何者かの手で射殺されてしまうのだった……。
事態は終息を迎え、射殺犯は人質12人のいずれかであると思われた。
だが、それが誰か分からない。
そんな中、人質のひとりである副総監・長谷川が「自分が撃ったかもしれない」と述べる。
強行突入直前に幹部連で八重樫を取り押さえようとした際に銃にあたったかもしれないと言うのだ。
「いえ、撃ったのは私です」そんな長谷川を庇う幹部の一人・鈴木。
結局、八重樫を撃ったのは鈴木ということになり、正当防衛であるとの結論に至る。
しかし、この結論に疑問を抱く男が居た―――誰あろう杉下右京その人である。
右京は犯人・八重樫が立て籠もり中に何らの要求も為さなかったと聞き、それを疑問視。
神戸から籠城直前の八重樫の行動を聞くと更に疑念を膨らませる。
「何らかの真相を突き止めようとし立て籠もりという非常手段をとった八重樫を、真相を知られては不都合のある人物が正当防衛に見せかけ抹殺したのではないか」と推理したのだ。
こうして八重樫が退職することになった発端の事件を調べ始める右京と神戸。
それは、あるテロ事件の情報を得た八重樫が捜査の途中でそのテロ組織に捕まってしまったことが始まりだった。
事態を重く見た当時の本部は組織の包囲殲滅策をとる。
だが、それが実行されれば八重樫が殺されると考えた磯村と圭子は仲間であった八重樫を救うために独自で突入。
直後、爆発が起こった。
結果、八重樫は助かったものの磯村が死亡。
犯人グループのメンバーもすべて死亡という陰惨な結末に終わってしまう。
二度とこのような事件が起こらぬよう対策として組織が強化される契機となった事件だったのだ。
右京はこの事件に裏があると看破。
更に深く捜査を続ける。
そこへちらつく第三者の影。そして介入する小野田。
事態は混迷を極め始め、やがて“曹”という名前の人物が浮上する。
曹こそは八重樫を拘束したテロ組織のメンバーとみられる男だった。
だが、事件の公式記録にその名は無い。
これに突破口を見出した右京は八重樫の隠れ家から曹の死体を発見する。
曹は例の爆破事件の際に逃げ遅れて負傷、意識不明の重体のまま警察病院に収容されたが改善の兆しがないと分かるや放置されていた。
それを八重樫が引き取って世話をしていたらしい。
だが、思いの外に傷が重くそれが原因で死亡していたのだ。
鑑識の米沢に後を任せた右京だったが、想定外の出来事が。
米沢が襲われ、曹の死体が奪われてしまう。
幸い米沢は軽傷で済んだものの、事件に潜む大きな存在を感じ取る右京。
謎のテロ計画、記録に残らない男、放置された犯人、それを看護していた八重樫、奪われた死体。
右京の中である仮説が芽生え形を伴っていく。
それは「過去のテロ事件自体が自作自演」というものだった。
圭子を問い質す右京。
実は圭子と八重樫は磯村の仇を討とうとした同志だったのである。
今回の籠城事件の手引も圭子が行ったことだったのだ。
すべては磯村が死亡することになったあのテロ事件の真相を明らかにするため。
八重樫が生前圭子に語ったことによれば、「すべてが影の管理官に仕組まれていたこと」らしい。
影の管理官の狙いはありもしないテロ事件をでっち上げ、世論に危機感を与え、それを以て対テロ組織を強化することだった。
その為に曹を通じてテロ組織を作り上げ、わざと情報をリークし八重樫を誘き出し拘束、事件を表面化させ爆破によりすべての痕跡を消し去った。
わざわざ拘束される対象に八重樫が選ばれたのも磯村と圭子を煽って突入させ、曹の脱出機会を作る為だった。
だが、曹は脱出に失敗。
意識不明の重体に陥り監視されていたものの回復の兆しがないと分かるや放置されたのだった……。
そして圭子によれば、事の黒幕―――影の管理官は幹部12人のうちの誰かだと言う。
それを確認すべく八重樫は今回の決起に及んだのだ。
悲嘆に暮れる圭子に事件の真相解明を約束する右京と神戸だったが、その前に小野田が立ち塞がる。
小野田は“絶対的正義”と“大局的正義”を持ち出し、右京は“絶対的正義”であるがそれでは物事は進まないと論難する。
小野田には警視庁を省に格上げするプランがあり、今回の八重樫の籠城事件の真実を取引材料に反対派である田丸や長谷川を抑え込むつもりだったのだ。
もともと、今回の事件の現場となった幹部会も小野田の構想に反対する決起集会だったらしい。
皮肉なことに小野田はそれを利用して自身の“大局的正義”を押し切ろうとしていた。
だが、それでも右京の掲げる“絶対的正義”は折れることは無かった。
右京は小野田の行動から小野田が幹部会に盗聴器を仕掛けていたことを推理。
事の一部始終が収められたそれを小野田が握っていると指摘する。
「丸山君という有能な部下が居てね、彼がやってくれたんだ」
悪びれず認める小野田だが、盗聴の内容については明かさない。
物別れに終わる小野田と右京。
一方、大河内は小野田の命により圭子と取引を行う。
彼らの仇である影の管理官の正体を教える代わりに今回の事件を穏便に済ませようと言うのだ。
こうして、圭子は八重樫との痴情のもつれが籠城事件に繋がったと偽証することに。
これを伝え聞いた神戸は憤慨。
感情のままに大河内に詰め寄る。
「あなたの正義はコレですか?」
そんな神戸の姿に自身を恥じた大河内は小野田より渡された籠城事件の盗聴内容が録音されたSDメモリを神戸に託す。
数日後、影の管理官の正体が長谷川だと知った圭子は彼を襲撃しようとして右京と神戸に止められる。
圭子に「絶対に真実を白日の下に曝して見せる」と堅く約束する右京と神戸。
右京はSDメモリの中身に注目、籠城事件の音声を繰り返し聞くことで遂にある発見をする。
そこにはモールス信号が隠されていた……。
クルーザーを楽しむ長谷川をアポ無しで訪ねる右京たち。
そこには松下と鈴木も居た。
彼らの前でモールス信号の内容を明かす右京。
顔色の変る長谷川たち。
モールス信号の内容は恐るべきものだった。
信号の主は長谷川。
八重樫殺害の密談がそこには残されていたのである。
八重樫に拘束された長谷川は長期化を望まず、早期解決と口封じも兼ね八重樫殺害を決意。
そこで、松下が八重樫の気を引く間に鈴木が八重樫に飛びかかり、そこを長谷川が射殺すると信号で二人に伝えたのだ。
長谷川が八重樫射殺直前に音を立てていたことについても、右京は内村から確認を取っていた。
これが動かぬ証拠となり、右京と同じく八重樫殺害が正当防衛であるとの結論に満足していなかった伊丹たちの手で長谷川たちは逮捕される。
こうして事件は解決したかに思われたが……数日後、思わぬ展開に。
なんと、小野田の部下・丸山が盗聴で自首してきたのだ。
これによりSDメモリが犯罪により得た不正な証拠として証拠能力を喪失したため、長谷川を追及出来なくなってしまう。
解放された長谷川はクルーザーに乗り行方不明に。
状況から自殺と思われた。
事態を知った神戸は右京をそっと眺めやる。
右京は静かな怒りをその表情に湛えていた。
右京の“絶対的正義”と小野田の“大局的正義”の闘争は今後も続くのだろうか―――エンド。
2012年4月29日追記:
ここから劇場版のラストについてあらすじを記載しておきます。
ノベライズ版と比較すると興味深いですね。
<「相棒 -劇場版U- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜」ラスト>
丸山が盗聴で自首して来た時点まではノベライズ版と共通。
丸山の行動により、長谷川の追及が出来なくなった右京と神戸。
すべては小野田の暗躍であった。
小野田は警視庁に恩を売るべく、今回の追及を途中で取り止めたのだ。
その代わりに、自身の思い描く人事案を押し通すことに。
これにより、長谷川は一時的に閑職へ。
さらに、“ノンキャリアの星”とされた生活安全部長の三宅がスケープゴートに選ばれ懲戒免職処分となる。
三宅はこれを小野田の差し金と知り、恨みを募らせるのだった……。
数日後、地下駐車場―――そこに小野田と右京の姿があった。
小野田は今回の対処について右京に明かす。
反発する右京だが、小野田はそのまま歩み去る。
そんな小野田に駆け寄る黒い影、三宅である。
腰だめに構えた三宅はそのまま小野田へと激しく衝突する。
慌てて三宅を小野田から引きはがす右京たち。
三宅は手にナイフを握りしめていた。
「殺されるのならば、お前にだと思っていたよ」
右京にそう告げると、小野田はそのまま殉職してしまうのだった。
後日、小野田の葬儀が行われた。
小野田には小野田の正義があった、その果ての死である。
1人の傑物の死に、右京は複雑な思いを抱えながらも敬礼し見送るのだった―――劇場版エンド。
◆関連過去記事
・作中時系列上、劇場版直前のエピソードがこちら。
「相棒season9」第9話「予兆」(12月22日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・作中時系列上、劇場版直後のエピソードがこちら。
「相棒season9」最終回(最終話、第18話)「亡霊」(3月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)