2010年11月15日

「おやすみラフマニノフ」(中山七里著、宝島社刊)

「おやすみラフマニノフ」(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

おやすみラフマニノフ


事件の始まりは、
密室で消えた2億円のストラディバリウス

プロへの切符をつかむため、
練習に励む学生オーケストラの
不安、焦燥、絶望。
音楽に人生を捧げる価値はあるのか。

ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」が響くとき、
衝撃の真実が明らかに!

第8回『このミス』大賞受賞作家の第2作目です。秋の演奏会を控え、第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室の空間で保管されていた、時価2億円のチェロ・ストラディバリウスが盗まれてしまう……。メンバーたちは、果たして無事に演奏会を迎えることができるのか。ラフマニノフやチャイコフスキーなどの名曲が、情熱的に、力強く描かれるなか、天才ピアニストにして臨時講師・岬洋介が鮮やかに事件を解決する!

目次

プレリュード
T Affannoso piangendo アッファンノーソ ピアンジェンド 〜悩ましく嘆きながら〜
U Angoscioso spiegando アンゴショーソ スピエガンド 〜不安がだんだん広がるように〜
V Acciaccato delirante アッチャッカート デリランテ 〜激しく嵐のように〜
W Con calore deciso コン・カローレ デチーゾ 〜情熱をこめて決然と〜
(宝島社公式HPより)


<感想>

待ってました!!
「さよならドビュッシー」に続く岬先生シリーズ2作目です。

小さくまとまっているものの、良作かもしれない。

ミステリ的に見て驚天動地のトリックでも無く、そのトリックも割とチープな類の器械トリックに留まっている。
本来ならこの時点で「う〜〜〜ん?」と首を傾げる筈なのだが……結構楽しめた。

これは本作がフーダニット(誰が?)では無く、ホワイダニット(何故?)をテーマに作られているからだろうと思う。
確かに劇中にて犯人の名が明かされるのは終盤だが、ミステリを読み慣れた層ならば割と早期に犯人を絞り込む事は可能であろう。
しかし、問題は犯人よりも「何故やったか」の方。
こちらが皆目見当つかない。

その点、ラストで明かされる意外な動機には驚かされた。
ただ、ラストの“影の共犯”は蛇足だったと思う。

二転三転する真相、意外な動機など―――ミステリの骨組みは押さえている。
ずば抜けて面白いほどではないが、シリーズモノのひとつとしてみれば充分及第点だろう。
作者の更なる飛躍に期待したい!!

<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧
城戸晶:愛知音楽大学の学生、バイオリニスト
柘植初音:愛知音楽大学の学生、晶の恋人、チェリスト
柘植彰良:愛知音楽大学の学長、初音の祖父で世界的ピアノ演奏家
下諏訪美鈴:『さよならドビュッシー』にも登場した人物、岬の教え子となる
岬:愛知音楽大学の臨時講師、晶と初音を受け持つ

城戸晶は愛知音楽大学の学生。
恋人の初音と共に臨時講師・岬に指導を受ける日々を送っていた。
だが、恋人・初音とは一線を超えることなく関係は停滞気味、母が死に実家からの仕送りも途絶えてからは授業料にも事欠く始末。

折しも、大学では初音の祖父で学長である柘植彰良と楽団でコンサートを開くことに。

そんなある日、コンサートで使う予定だった時価2億円のチェロ・ストラディバリウスが盗まれてしまう。
第一発見者は初音。
ストラディバリウスを守る警備員によれば深夜に巡回した際には確かに其処にあったという。
現場は前夜に初音が退室して以降は完全な密室となっており、誰も盗み出すことが出来ない筈だった……。

犯人が分からないままに今度は柘植彰良お気に入りのピアノが水没させられる事件が発生。
加えて、柘植個人を名指しにした脅迫文まで登場してしまうことに。
さらに海の向こうでは、柘植と個人的に親交のある人物が麻薬所持と輸出の罪で逮捕されるなど事件が重なる。

しかも、初音が遺伝的な病気の為にコンサート出演を断念することに。
下手すると音楽家生命自体が危ぶまれる病気だと言う。
事ここに至り、柘植は自身の出演も辞退することに。

絶望的なムードの中、仲間からピアノ水没事件の犯人として名指しされる晶。
それを認める晶だったが……岬は晶の罪を追求せずコンサートに向き直るよう皆を叱咤する。
唯我独尊的な思考の持ち主・下諏訪美鈴も岬の説得を受け加わることとなり、全員でコンサートへと練習に励む。

岬の指導は的確で実践的。
最初は反発していた美鈴も、1つの目的に向け団結する。

コンサート当日。
晶のバイオリンの弦が切れるなどアクシデントがあったものの、魂の演奏を見せる一同。
晶自身も自分が音楽にどう向き合うべきか再認識する。

コンサートは大成功。
岬に連れられ柘植にすべてを報告に向かうが……そこには真相が待ち構えていた!!

岬に指摘され自身が犯人ではないことを認める晶。
彼は恋人・初音を庇っていた。
いや、初音は恋人ではない。
初音自身は知らないが、晶は柘植の不倫の果てに生まれた息子。
初音と晶は腹違いの姪と叔父の関係だったのだ。
そのために晶はのらりくらりと初音と一線を超えるのを避け続けて来たのだった……。

彼は恋人ではなく親類縁者を見守る目で初音を庇ったのだ。

ストラディバリウス盗難は何のことは無い。
前日から初音が盗み出し、警備員の巡回に対しては偽物を用意した。
翌朝、やって来た初音が偽物を処分し第一発見者に成り済ましたのだ。

では、初音が処分した偽物はどこへ?
そんなものを処分するスペースなど無い筈だが……。

これも答えは簡単だった。
警備員が見たストラディバリウスは初音が用意した精巧なペーパークラフトだったのである。
紙で出来た偽物は事を為した後、容易に破られ処分されてしまったのだった。
水没ピアノの件ももちろん初音の犯行。

晶は自身の病気を知った初音がコンサートの開催自体を阻止するために事件を起こしたと推理。
だが、岬によればそれは間違っていると言う。

実は初音は自身と同じ病気にかかった祖父・彰良の為に名誉を傷付けないようコンサートを阻止しようとしていたのだ。
それは彰良と親交のあった海外の友人が麻薬の輸出で逮捕されたことが示していた。
輸出相手は彰良だったのだ。
病気の進行を妨げる為にモルヒネ代わりに使用したのだった。

すべてが判明し実父・彰良の前に立った晶。
彰良は病魔により衰え、死期が近付いていた。
初めて出会う父に、自身が父の名前と同じ「あきら」と名付けられたことや母の想いを切々と語る晶。
だが、彰良はそれを認めない。

芸術の頂に立つ者はどこか普通ではないんだよ。
そう語る彰良。
とっくに人の情を捨てていると述べる。

それを肯定する岬。
彰良は孫娘・初音の犯行を知りながら率先して支援していた。
“影の共犯”だったのだ。
もちろん、初音はそれを知らない。
すべては彰良のエゴから来ていた―――。

岬の難聴を看破し、自身と同じく音楽に挑む者としての共感を求める彰良。
だが、岬はそんな彼の姿勢を良しとしない。

それでも、あくまで己の業を押し貫く彰良は最期の力でピアノを演奏する。
全身全霊を込めたその演奏は彰良の人生そのものだった。
演奏の終わりが見えて来た頃、彰良の人生もまた本当の終焉を迎えつつあった―――エンド。

◆「中山七里先生」関連過去記事
『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『要介護探偵の事件簿』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『間奏曲(インテルメッツォ)』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2013年版』収録)ネタバレ書評(レビュー)

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「おやすみラフマニノフ (『このミス』大賞シリーズ)」です!!
おやすみラフマニノフ (『このミス』大賞シリーズ)



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posted by 俺 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
中山七里さんは息子さんが音楽関係の学校に通われているみたいで、息子さんからの情報を元に書かれたみたいです。
Posted by ? at 2010年11月15日 22:52
Re:?さん

管理人の“俺”です(^O^)/。

なるほど……それで、あれだけ精緻な文章を書けるんですね。
コンサートの場面などは臨場感があり息を飲みました。
次作の楽しみな作家さんのひとりです。
Posted by 俺 at 2010年11月17日 20:47
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