ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
探偵は、犯人を知ろうとするものなのです−−それが誰であったとしても
名探偵はなるのではない、存在であり意志である−−名探偵巫弓彦に出会った姫宮あゆみは、彼の記録者になった。そして猛暑の下町、雨の上野、雪の京都で二人は、哀しくも残酷な三つの事件に遭遇する・・・。
(角川書店公式HPより)
<感想>
管理人が本書を読んでの第一声。
「巫弓彦は大胆にかつ繊細なまでに名探偵としての生き方しか出来ないのだろうなぁ」
それほど名探偵としての能力を持って生きる事の難しさが本作主人公・巫弓彦からは伝わって来る。
まず、物理的に生活が不安定。
探偵事務所には常に閑古鳥が居つき、バイト無しでは生計が成り立たない。
そして名探偵であるがゆえに他者に受け容れられない。
ここが同作者によるシリーズ探偵・円紫さんと違う点だ。
その点、あゆみは“特別”だな。
さらに表題作でもある「冬のオペラ」で犯人を告発すること。
これもやはり名探偵ゆえの業か。
巫が名探偵なのではなく、名探偵としての概念自体が巫自身なのだ。
と、格好つけて書いてみたものの本作の魅力についてどれだけ伝えられるか甚だ疑問。
これはネタバレあらすじも同じで、下にあるのですがたぶん本作の主旨を三割も伝えきれていないと思われます。
本作はトリックよりも記録者である“姫宮あゆみ”及び“犯人”の心情こそがキモ。
それを理解し伝える為にはやはり本作と同程度の文字量を必要とするでしょう。
はっきり言ってネタバレあらすじを読んでちょっとでも興味を持ったならば“本作を読むべき”とも言える。
少なくとも読んで損は無い。
実はコミック版も出ています。
下にアマゾンさんへのリンクを用意したので興味のある方はそちらへどうぞ。
<ネタバレあらすじ>
1話「三角の水」
わたしこと姫宮あゆみは先輩が巻き込まれた事件解決の為に名探偵・巫弓彦の出馬を願う。
彼は持てる科学知識を駆使し、犯人が発火装置を利用したと看破。
ライターではなく、消火用の水にこそトリックがあったと指摘。
水に濡れると発火する仕掛けを利用した犯人に謝罪を迫る。
こうして事件は解決したが、巫自身は誰からも感謝されないのだった。
そんな巫を見てわたしはせめて記録者になろうと決める。
2話「蘭と韋駄天」
東京で鉢植えが盗まれた。
しかし、容疑者と思われる女性には鉄壁のアリバイが。
アリバイ証人である京都在住の椿という女性から証言を聞いた巫はトリックを見抜く。
それは京都人である椿に東京の建物を誤認させ、誤った地理を信じ込ませて距離を縮めるというトンデモナイものだった……。
3話「冬のオペラ」
登場人物一覧:
巫弓彦:名探偵
姫宮あゆみ:記録者
椿:講師
水木:教授
神屋:准教授
京都へ向かったわたしこと姫宮あゆみ。
「蘭と韋駄天」事件で知り合った椿と共に彼女の勤務先の大学を訪れたわたしだったがそこで不可思議な殺人事件に遭遇する。
被害者は椿の上司で水木教授。
不思議だったのは死体発見時の水木教授が下着姿だった事と脱いだものとみられる衣服が廊下に散乱していた事。
そして、教授の死体が抱いていた二冊の本(それぞれ著者がゴーティエとヴァレリー)。
果たして水木教授を殺害した犯人は誰か?
容疑者として神屋准教授が浮上するが証拠が出ない。
事態は混迷の度を深めることになる。
こうして名探偵・巫弓彦が出馬、事件は電光石火で解決することに。
巫によれば二冊の本が犯人を指し示していると言うが……。
巫の呼び出した犯人は椿だった。
椿は水木教授を尊敬しやがて男女の仲になった。
だが、椿に見せる水木の姿はそのどれもが椿が敬愛した教授とは思えぬ優柔不断なもの。
椿は教授に別れ話を切り出すことに。
これに教授は激昂し、事もあろうに大学構内という公共の場で椿から服を奪い裸にすると一晩放置した。
人気のない場所とはいえ椿の不安と恐怖は如何ばかりであっただろうか。
しかも、教授は面白がって人を呼ぶ始末。
なんとか隠れてその場をやり過ごしたが、かつて愛した教授のこの仕打ちに怒りを覚えた椿は戻って来た教授を殺害してしまう。
しかし、自分は全裸。
脱出法が無く困っていた所で衣服を身につけた教授の死体が目に入る。
そこで教授の服を奪い校舎を脱出。
隠されていた自分の服を取り戻し身につけると、今度は教授の衣服を隠し持ち元の場所へ。
そこで教授の衣服をばら撒いたのだった。
こうして不可思議な事件現場が形成された。
椿の罪を告発する巫。
そんな巫の姿を怖れるわたし。
そして巫の名探偵としての意志を目にし儚く笑う椿。
椿はそんな“名探偵・巫”に惹かれていた。
彼女に「探偵は、犯人を知ろうとするものなのです―――それが誰であったとしても」と語る巫。
その言葉を受け椿は頬を赤く染め、自身の罪を受け容れる。
何故、椿が犯人だと分かったのか問うわたし。
巫は答える。
小説版でマルグリット・ゴーティエ、オペラ版でヴィオレッタ・ヴァレリーと名付けられた人物。
その正体は“椿姫”である……と。
教授は死の間際に椿の目を盗んで彼女を告発すべくダイイングメッセージを残したのだった―――エンド。
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