2010年12月01日

「六つの手掛り」(乾くるみ著、双葉社刊)

「六つの手掛り」(乾くるみ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

六つの手掛り


雪深い山荘で、宿泊者が死体となって発見された。誰もが知り合ったばかりで、死の真相は不明。だが事件の解明は、その山荘ならではの情景の、些細な変化によってもたらされた(「六つの玉」)。探偵役と一緒に、鮮やかな謎解きを追えるミステリー六編。
(双葉社公式HPより)


<感想>
タイトル「六つの手掛かり」の通り6篇からなる短編集。

それぞれ
「六つの玉」
「五つのプレゼント」
「四枚のカード」
「三通の手紙」
「二枚舌の掛け軸」
「一巻の終わり」
と、数字が使われているのも特徴的。
ちなみに「六つの玉」が巻頭、「一巻の終わり」が巻末に収録されている。

特に「一巻の終わり」は泡坂妻夫先生のヨギ・ガンジーシリーズ「しあわせの書」を彷彿とさせるある仕掛けがあり、非常に面白い。

「しあわせの書〜迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術〜」(泡坂妻夫著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「一巻の終わり」が好きな方は上記「しあわせの書」や「生者と死者」を読む事をオススメする。

それと、「一巻の終わり」はさりげなく「後期クイーン問題」にも挑戦している意欲作でもある。

「後期クイーン問題」と言えば「作中の探偵が、同じく作中の犯人の仕掛けた偽の手掛かりをどうして偽と見破ることが出来るのか?」ということから「作中で探偵が犯人指摘のロジックで根拠として挙げた事柄自体が犯人の作為的な偽証拠である可能性がある限り犯人を指摘出来ないし、誤誘導され犯人を間違う可能性もある事実」に触れたモノ。

「一巻の終わり」では犯人があるトリックにより誤誘導を目論むものの、探偵にある理由で看破されることになる。
この解決方法が面白い。

犯人の仕掛けたトリックが「作中内での事実によるもの」に対し、探偵が持ちだした事実は「読者たちの存在する現実世界の常識」なのだ。
もちろん、この「現実世界の常識」は「虚構であれ人としての役割を振られた作中内人物にとっても常識」として通用するわけで非常に興味深いものとなっている。

さらに、「一巻の終わり」というタイトルのトリプルミーニングにも脱帽。

この「六つの手掛かり」という作品の「一巻の終わり」。
追い詰められた犯人の「一巻の終わり」。
そして、ネタバレあらすじを読めば分かる「一巻の終わり」。

これに気付くと「相当、捻ってるなぁ……」と感嘆すると思う。
是非、どうぞ!!

◆「乾くるみ先生」関連過去記事
「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(1)小麦色の誘惑(文蔵2010年11月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)

<ネタバレあらすじ>

「一巻の終わり」をネタバレ書評(レビュー)。

・「一巻の終わり」

とある作家の家で殺人事件が発生。
死体の傍には読みかけと思われる文庫本が数十ページほどを残し伏せられていた。
被害者は生前「1時間で1冊読める」と豪語しており、そこから死亡推定時刻が割り出されるが……。

たまたまその場に呼ばれていた林茶父がこの事件に挑む。

林によれば“ある明確な理由”によりこの読みかけの文庫本は犯人の工作であると言う。
犯人は被害者の「1時間で1冊」という特技を活かし殺害時刻を周囲に誤認させようとしていたのだ。
トリックを見破った林のロジックにより犯人は指摘される。

では、林が語る“ある明確な理由”とは何か?
それは次のようなことだった―――。

工作だったために、犯人は指紋をつけないよう手では無くボールペンでページをめくっていた。
だからこそ、犯人自身はどのページで伏せているか理解できていなかった。
林はそのページを見た時にこれが工作であると確信したのだ。
それは、犯人自身もそのページを見ることが出来れば絶対にそのページで伏せはしなかったであろう大きなミス。

林は呟く。
「文庫本には既刊案内が数十ページにわたって載せられていることもあります」

犯人はおそるおそるそのページを確認する。
そのページはまさに「一巻の終わり」。
次ページからは既刊案内が続く、物語の終わり。
しかも、そこにはただ一字のみが掲載されていた。
「〜〜〜している。」の最後の一文字……「る。」が。

(この「る。」のオチが実際の単行本と同調しています。
ラストページは「る。」だけです。
本作の文庫化の際にはこれに既刊の宣伝を入れより完成度を高めて欲しいなぁ)

「六つの手掛り」です!!
六つの手掛り





「生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術 (新潮文庫)」です!!
生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術 (新潮文庫)



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